フランス発 芸術家のレシピを再現するレストラン 後編

フランスでは画家が残したレシピが静かなブーム。19世紀末の画家、ロートレックもレシピを残した1人で、フランス南西部の世界遺産の街アルビで味わえ、その人気は日本でも注目を浴びている。‐海外トレンドリポート

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Vol.30

前編では、印象派の画家クロード・モネのレシピを使った料理と、そこから巻き起こったムーブメントを紹介した。後編で取り上げるのは、画家として19世紀末のパリで一世を風靡した、トゥールーズ=ロートレック。彼もまた、自ら料理の腕をふるい、後世にレシピを残した芸術家だ。現在、この“ロートレック・メニュー”は、100年の時を経て、故郷であるフランス南西部の世界遺産の街、アルビで「もうひとつの世界遺産」と呼ばれ、観光客を魅了している。そして、日本のロートレック・ファンにまで飛び火した、このムーブメントをリポートする。

幼少の頃、大怪我をしたために両足の成長が止まるというコンプレックスを抱えていたロートレックは、やがて絵、そして料理に活路を見出した
ロートレックの絵にはカフェ、レストラン、居酒屋など食のシーンが多く登場。食に対するこだわりの強さが伺える
20歳まで過ごしたボスク城には、今も母方の子孫が暮らす。あらゆる食材がそろったこの場所で、ロートレックの食に対する感覚が形成された

世界遺産ブームで人気が出すぎた!? ロートレックが残したレシピ

2010年、フランス南西部のアルビ市が、中世から続くレンガ作りの旧市街の普遍的価値が認められ、世界遺産に認定された。アルビは、19世紀末のパリでポスター画家として活躍したトゥールーズ=ロートレックが生まれた街でもあり、世界遺産に認定されたことをきっかけに、ロートレックが残したレシピに注目が集まり、その料理を再現するレストランがブームとなった。

ロートレックがもっとも好きだった料理のひとつ、「ヤマバトのオリーブ添え」。狩猟の盛んな土地で育ったのでジビエは欠かせない食材だった

ロートレックが生まれ育ったのは、裕福な貴族の家系だった。野菜や穀物からフォアグラ、トリュフ、ジビエまで、自家生産するという豊かな食材に囲まれながら育った彼は、料理に対する鋭敏な感覚を備えた美食家に成長。20代になると、パリで画家として活躍し始め、その一方で料理にも力を入れ、食材を取り寄せては、友人たちに料理をふるまう日々を送った。

その後、ロートレックは1901年、37歳の若さで他界するが、彼が作ったメニューやソースなどの200以上ものレシピが、旧友ジョワイヤンの手により、1930年『独身モモ氏の料理法』として出版される。

それから60年以上を経た1996年、アルビ市が世界遺産の暫定リストに登録され、観光地として注目を集め始めたことをきっかけに、この『独身モモ氏の料理法』にもスポットライトが当たり、街の多くのレストランで、ロートレックのレシピを使った料理を提供するようになる。人口約5万6000人の決して大きな街ではないアルビで、数十件ものレストランで提供され、“ロートレック・メニュー”は大流行。狩猟好きだった一族の影響からシカ肉、ヤマバトなどのジビエを多く使い、この地方の特産であるフォアグラ、トリュフなどのぜいたくな素材をふんだんに用いた“ロートレック・メニュー”は、歴史ある街並みや彼の作品とともに観光客を大いに魅了した。

彼のレシピによる料理を目当てに、さらに多くの人がアルビに訪れるようになったが、あまりのブームに、どの店も同じ料理を出すようになり、徐々にシェフたちはオリジナルレシピに自分のアレンジを加えるようになってしまう。そこに、オリジナルを守ろうとする抑制力が働き、ブームはいったん収束。詳しくは後述するが、そのブームは日本に流れ、アルビでも今年になって再度注目を集め始めている。

ロートレックのレシピをまとめた『独身モモ氏の料理法』(1930年刊。日本ではこの本をもとにしたレシピ集『ロートレックの食卓』が2009年に出版されている)。モモはロートレックがペンネームとして使っていた名前

ブームは飛び火し日本へ。現地でも復活の兆し

遠く離れた日本では、2009年ごろより“ロートレック・メニュー”への注目が高まり始めた。浮世絵からイメージを得たといわれるロートレックのポスターや絵画は、もともと日本でも人気が高く、毎年のようにロートレック展が開催されており、近年、展覧会のイベントのひとつとして必ずといっていいほど、ロートレックのレシピによる料理が登場している。

「mikuni MARUNOUCHI」で供されたコース「美食家ロートレックへのオマージュ」(2011年展覧会会期中の限定メニュー。10,000円)。メインの肉料理は丹波鹿のポワレ

2009年東京・渋谷にある渋谷東急Bunkamuraで開催された「ロートレック・コネクション」では同施設内のレストランで。その後、同展覧会は2010年に広島市・中区にある、ひろしま美術館で巡回展示され、ここでも美術館のカフェで、“ロートレック・メニュー”が提供された。

さらに2011年には、三菱一号館美術館で開催された「トゥールーズ=ロートレック」展にて、三國清三シェフとのコラボレーションが実現。三國シェフは「mikuni MARUNOUCHI」で、「美食家ロートレックへのオマージュ」と題し、ロートレックのレシピをもとに、彼がこよなく愛したオマール海老やナツメグ、エストラゴン(香草)などを駆使したメニューを提供。ロートレックの作品によく登場する黄色を散りばめるなど、美食と芸術を見事に融合したコース料理は、ロートレックのファンからも好評を得た。

そして現在、一度はブームが収束したアルビ市でも、再度“ロートレック・メニュー”への注目が高まっている。2012年4月、アルビの世界遺産の象徴であるベルビ宮殿の建物を使ったロートレック美術館が、長年の修復工事と休館の時期を終えて再オープン。これを機に、アルビの中心部に位置するメルキュールホテル(Mercure Albi Bastides)が、「ロートレック・メニュー」を復活させたのだ。もちろん今度はアレンジを一切加えない、完全なオリジナルメニューの再現である。

メルキュールホテルの支配人ティエリー・ラフォン氏は「私たちの街にとって、ロートレックの料理も“世界遺産”のひとつだと考えています。今後、“ロートレック・メニュー”を出すレストランはまた増えていくでしょう」と話す。これから再燃するであろう“ロートレック・メニュー”。今、観光業界、各国のレストランからの熱い視線が集まっている。

ベルビ宮殿の建物を利用したトゥールーズ=ロートレック美術館。大規模な修復工事を終え、それを機にロートレック・メニューも復活
アルビのメルキュールホテル「ロートレック・メニュー」よりウサギもどきのパテ。コースは食前酒、地元産のワイン、コーヒー込みで30ユーロ(約3,060円)
mikuni MARUNOUCHI
東京都千代田区丸の内2-6-1丸の内ブリックスクエア アネックス2F
http://www.mikuni-marunouchi.jp/
※写真は同店で提供されたロートレック・メニューのひとつ。彼の作品によく登場する黄色を使った料理が多く見られた
Mercure Albi Bastides
41 bis rue Porta 81000 – ALBI FRANCE

取材・文/栗原伸介

取材協力/
フランス観光開発機構
http://jp.rendezvousenfrance.com/
タルン県観光局
http://jp.tourisme-tarn.com/

※通貨レート 1ユーロ=102円

※価格、営業時間は取材時のものです。予告なく変更される場合がありますのでご注意ください。