ハラル・レストランでイスラム市場を獲得せよ! 前編

イスラム圏の旅行者が増加し、中東や東南アジアの飲食店では「ハラル」に対応することが急務となっている。今回はイスラムツーリストを取り込むマレーシアのハラル・レストランをリポート。

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Vol.37

世界人口の約23%、約16億人の信者がいるイスラム教徒の市場が、今大きく動き出している。中東やインドネシア、マレーシアなどのイスラム諸国では、経済成長によって多くの富裕層、中間層が生まれ、海外への旅行者が増加。食事に対して独自の厳しい制限を持つイスラム教徒たちを迎えるにあたって、各国の飲食店側も彼らに合わせた環境作りが急務となっている。

今回は、国民のほとんどがイスラム教徒であり、また、巨大なイスラム教徒の外食への対応で一歩抜きん出て、“イスラムツーリスト”にもっとも人気が高いマレーシアのイスラム教に対応しているレストラン、「ハラル・レストラン」の最新事情をリポートする。

イスラム教徒の旅行者が増え、ブルカ(イスラム教の女性が着けるヴェール)をまとった裕福そうな女性の姿を空港で見かけることも多くなった
Photo by scalino via Flickr
全世界で16億人といわれるイスラム教徒は地域によって規律なども多様。中にはブルカを被らない国もある
ハラルビジネスは世界的に大きな産業になっている。写真はイスラム教徒が多い都市には必ずある、ハラル肉を売る店

イスラム教徒を受け入れる「ハラル・レストラン」が増加

今、自国の経済成長によって、海外へ旅行に出かけるイスラム教徒が急増している。2011年、イスラム圏47カ国の旅行者が海外で使ったお金は約10兆円だったが、これが2020年には20兆円になると見込まれている。

ハラル認証を取得したマクドナルドの店舗。ハラル・レストランには牛肉や鶏肉を主な食材とするところが多い
photo by imrizzle via Flickr

旅行の楽しみのひとつといえば食事。しかし、イスラム教徒が旅行先で食事をする際には、様々な問題が立ちふさがっている。彼らは、「ハラル」と呼ばれる、イスラム教徒が生活するうえで厳守すべき基準に従って食事をとっている。例えばハラルでは、豚とアルコールが禁止されている。そのため、彼らは普段、アラブ系料理やマレー料理、インドネシア料理などの、ハラルで許された料理を食べている。しかし、制限されているからこそ外国の料理に対する興味は強く、ハラルを守りながらも、まだ食べたことのない各国の料理を試したいと考えている。

そこで今、イスラムツーリストも来店できる「ハラル・レストラン」がアジア諸国を中心に増えているのだ。なかでもマレーシアは、早くから観光立国を目指し、世界のハラル・ビジネスをけん引してきた。そもそもマレーシアは、人口の約60%をイスラム教徒が占めるといわれるが、ハラル・レストランを名乗るには、イスラム教の認証機関の審査に合格しなければならず、当初はそのハードルの高さから、ハラル認証を受けないまま営業している店が多かった。そのため、現地のイスラム教徒たちは、行き慣れた店以外での外食がしにくい環境だったようだ。

しかし、海外からのイスラムツーリストの増加によって飲食店の状況も変わり、ハラル認証を取得し始めた。マレー料理などのレストランばかりでなく、外国料理のレストランや食品会社、化粧品会社などもこぞって認証を取得し、ハラル認証を受けた企業は現在約4,000社に上る。

マレーシアに進出している大手レストランチェーンもこの動きに素早く対応。マクドナルド(139店舗)、バーガー・キング(22店舗)、ケンタッキーフライドチキン(KFC、640店舗)、KFCが経営するピザハット(158店舗)など、いずれもマレーシア国内の全店舗でハラル認証を得て、「ハラル・レストラン」として展開している。

これら「ハラル・レストラン」の店舗には、ハラルを満たしている証拠として、認証ロゴを店外・店内に掲げており、イスラム教徒のための祈りのスペースを店内に用意しているところもある。

料理においては、イスラム教では血を口にしてはならないため、牛肉や鶏肉などは頸動脈をカットして放血処理されたハラル専用の肉を使用。そのほか、あらゆる食材に豚の脂を含んでいない、食器や手の消毒用にもアルコールを使っていないなど、ハラルの基準をすべてクリアし、検査機関による抜き打ちの検査にも対応しながら「ハラル・レストラン」を維持している。

ハラルは食品、化粧品、歯磨き粉など体にふれるもの、口にするものなど多くに適用される。写真は、ハラル認証を得た日用品を売る店
祈りのためのスペースの天井には、祈りの方角を指す矢印が。レストランなどでは1畳ほどのスペースを設けるところもある

メニューの豊富さで人気の「ハラル・レストラン」

ハラルという厳しい制限があるなか、メニューの豊富さで成功している「ハラル・レストラン」もある。1997年に首都クアラルンプールに1号店を出した「シークレット・レシピ」は、今では国内に50店舗以上を展開するマレーシア最大のカフェチェーンだ。特に、ここ最近の5年間で売上は2倍になり、またここ7年間でイスラム圏を中心に世界に100店舗を出店するなど、ハラルブームの追い風に乗っている。

海外からのイスラム教徒の旅行者にも、マレーシア国内のイスラム教徒たちにも人気のシークレット・レシピ

料理は前菜メニューのほか、パスタ、ナシゴレンやフォーなどのアジアンクラシック料理、チキン料理、魚料理とラム肉料理、ベジタリアン料理、キッズ・メニューのように分類されており、それぞれ5~10種類のメニューを提供している。

ハラルは守りつつも、外国料理を思い切り食べたい若い層には、名物の子羊のすね肉のシチューやミートボールのパスタのようなボリューム感ある料理が、ベジタリアンにはスパゲティ・アラビアータなどが人気だ。また、子供向けの料理やスイーツ好きの女性を意識したデザートメニューも好評だ。ハラルという制限がある中でも多様な選択肢を用意し、味の面でも満足できる料理を提供していることが成功の理由だ。

「ハラル・レストラン」の認証を得るのは簡単なことではなく、認証を得ても約3カ月ごとの検査を受け続け、維持管理をしなければならない。それでも認証を受けようとするレストランが後をたたないのは、ハラルの認証ロゴを取得すれば、格付け会社クレセント・レイティングによるハラル・フレンドリーなレストラン検索サイトや、イスラムツーリズムの案内に特化したzabihah.comのような口コミサイトに掲載されるからだ。

海外からのイスラムツーリストも、マレーシア国内にいる約60%のイスラム教徒も、上記のようなメディアを経由して店を訪れることが多い。認証を得て「ハラル・レストラン」の看板を出すことは、イスラム市場が巨大化する今、大きな優位性を得ることになるのだ。

次回の後編では、日本からマレーシアに進出し、ハラル認証を得たレストランを紹介したい。

シークレット・レシピの「子羊のすね肉のシチュー」は一番人気のメニュー(26.5リンギット=約800円)
スイーツの充実もシークレット・レシピ成功の大きな要因のひとつ。写真はバタースコッチケーキ(6.3リンギット=約190円)
シークレット・レシピ(Secret Recipe)
http://www.secretrecipe.com.my/

取材・文/栗原伸介

※通貨レート 1RM(マレーシア・リンギット)=30.2円

※価格、営業時間は取材時のものです。予告なく変更される場合がありますのでご注意ください。