英国発 ミートフリーマンデーで飲食店はどう変わる 後編

温室効果ガス削減や健康のために、週1回は肉を食べないという運動「ミート・フリー・マンデー」。アメリカでは「ミート・レス・マンデー」として自治体が採用し、公的な運動になっている。

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Vol.40

温室効果ガス削減や健康のために、週1回は肉を食べないという運動「ミート・フリー・マンデー」。イギリスでミュージシャンのポール・マッカートニーが提唱したことによって広まったこの運動は、アメリカでは「ミート・レス・マンデー」という呼び方で浸透。自治体が積極的に採用するなど、公的な運動になっている。アメリカ、そして世界に広がるミート・フリーと飲食ビジネスの動向をお伝えする。

ニューヨークのビストロ「アーモンド」のミート・レス・マンデーのメニューよりゴートチーズのラビオリ
アメリカでは、親しみやすいロゴやイラストでミート・レス・マンデーのキャンペーンを打ち出す
ミート・フリー、ミート・レス運動の波は世界中にも次第に浸透しつつある。2012年にミートレス・マンデーの推進団体を立ち上げたイスラエルにて

市がミートレスを推奨。鉄人シェフも参加するブームに

アメリカでも、「ミート・レス」の動きが広まり、市などの自治体では、地域の健康促進(特にがんや心臓病などのリスク削減)のために推奨。その流れを受け、学校やレストラン、食料雑貨店などにも広まっている。

ロサンゼルスのマーク・トウェイン・ミドルスクールのブッフェでの「ミート・レス・マンデー」の光景。ボランティアの女性がサラダをサーブする

例えば、アメリカ東海岸にあるボルチモア、ニューヨーク市のマンハッタン区、西海岸にあるサンフランシスコ、ロサンゼルスなどでは2009年からミート・レス・マンデーの推奨を開始。法的な強制力などはないものの、月曜日をベジタリアンの日と定めている。

このような動きは、メディアでも報道されて盛り上がりを見せており、テレビ番組「アイアンシェフ・アメリカ」(日本の「料理の鉄人」のアメリカ版)にイタリアンの鉄人シェフとして出演しているマリオ・バターリ氏が2010年5月、ラスベガスをはじめアメリカ国内に14店舗ある自身の店すべてでミート・レス・マンデーのメニューを提供すると宣言し、話題を集めた。

ラスベガスにある、氏のレストラン「B&Bリストランテ」のミート・レス・マンデーには、イタリア北部のロンバルディア地方で生産されるストラッキーノ・チーズを使ったり、イタリアで古くからチーズの生産を手がけていることで有名なルイジ・グファンティ社の手作りクリームバターでじっくり煮込んだ料理など、こだわりのチーズ料理が並ぶ。肉を使わずタンパク質を補うために、チーズが重要な役割を果たしているのだ。系列店でも、ピッツァやパスタ、フォッカッチャに、モッツァレラやペコリーノなどのチーズを合わせたメニューが並ぶことが多いという。

バターリ氏は、ミート・レス・マンデーを自店に取り入れた理由について、次のように語っている。「アメリカの子供はタンパク質を必要量の3倍も摂取しており、この運動が学校に導入されたことが、考えるきっかけになりました。来店客の健康についてもっと深く考えるべきだと思い、この運動に賛同したのです。私自身、肉を減らしたことで、20キロダイエットできたこともあり、これからは料理全体の中で肉のバランスを少し変えていこうと考えています」。バターリ氏はまた、ラスベガスとニューヨークに展開するピッツェリア「オット・エノテカ・ピッツェリア」のミート・レス・メニューのレシピをまとめ、料理本『Molto Gusto』として出版するなど、ミート・レス・マンデーを広げようと、積極的に展開している。

マリオ・バターリ氏は実は肉好きだが、「ミート・レス・マンデー」を推進。「ベジタリアンになることを強要しないのがこの運動のいいところだ」と話す
ラスべガスのB&Bリストランテのイタリア・ロンバルディア地方で採れるチーズ、ストラッキーノを使ったミート・レス・メニュー。食べごたえもしっかりある
B&Bリストランテ(B&B Ristorante)
http://www.bandbristorante.com/
アンティパスト(12~21ドル=約1,132~1,982円)、プリモ・ピアット(22~36ドル=約2,077~3,398円)、セコンド・ピアット(35~120ドル=約3,304~11,328円)。毎月曜にミート・レスのメインディッシュを提供

全米で浸透し、世界でも静かなブームに

ミート・レス・マンデーは、アメリカ全土に浸透しつつあり、都市部のニューヨークとカリフォルニア州だけでも100店舗近いレストランがミート・レス・マンデー・メニューを導入。今後さらにその数は増えることが予想される。

健康志向のタコスが人気の「ブルックリン・タコ」はテイクアウトにも対応しており、キッチンはフル回転の忙しさ

ニューヨークでタコスなどの手作りのメキシカン・ストリートフードを出す「ブルックリン・タコ」もミート・レス・マンデーのメニューを導入した店だ。同レストラン共同経営者のジェシー・クラマー氏は、「このムーブメントをきっかけに、食品のバランスを大事にしようと思うようになりました。当店には週に3、4回ランチを食べに来てくれる常連のお客様がいますが、そのうちの1回はベジタリアンフードを食べられるお手伝いができればと思って始めました」と語る。

同店は小さな店ではあるが、CBSニュースやTime Outマガジンなど様々なメディアで、“ニューヨーク最高のタコス店”に選ばれている人気店。ミート・レス・マンデーにはグァコという中南米の貴重なハーブを使ったタコスや、青汁の原料になるケール(野菜の種類)とポテトを合わせたタコス、大豆とチーズのタマーレ(コーンミールで作った生地にチーズや野菜などの具を混ぜてからトウモロコシの葉に包んで蒸したもの)など、ユニークで健康にもよいメニューが並び、月曜を楽しみにしているファンもいるという。

さらに、「このムーブメントはいいことづくめで、乗らない手はない」と話すのは、ニューヨークのビストロ「アーモンド」のシェフ、ジェイソン・ウェイナー氏だ。同店では来店客にミート・レス・マンデーが浸透していることを感じ、3皿から成るミート・レス・マンデー用プリフィックス・コース(28ドル)を提供するようになった。

コースメニューはクロスティーニ(トーストしたパンの上に具をのせた前菜)にはじまり、「ロースト野菜のテリーヌ」「ゴートチーズ(ノルウェーの山羊のチーズ)のラビオリ」など、ワインによく合う正統派ビストロ料理がヘルシーにアレンジされ、普段肉食の人でも満足できるミート・レス・コースに仕上げている。

ジェイソン・ウェイナー氏は、「このコースを目当てに来店している方も多く、確実にお客様が増えました。また、肉抜きでおいしいコースメニューを考えるのはシェフとして挑戦的な体験。野菜の使用量が増え、近郊農家にも貢献できていることもプラスに感じています」と話す。

今、健康食志向は世界的な傾向だ。ミート・フリー・マンデーの推進団体がある国は、ヨーロッパから北米、南米まで、現在世界で24カ国(下記参照)。日本でもNPO法人日本ベジタリアン協会が「ミートフリーマンデー・ジャパン」として活動している。イギリス、アメリカに浸透するミート・フリー・マンデーの波は今、世界中でゆっくりと広がっている。

■ミート・レスまたはミート・フリー・マンデーの団体がある国
アメリカ、イスラエル、オーストラリア、ドイツ、フィリピン、ベルギー、ジャマイカ、ブラジル、日本、スロベニア、カナダ、韓国、南アフリカ共和国、クロアチア、マレーシア、スペイン、フランス、ノルウェー、スウェーデン、オランダ、パナマ、台湾、インドネシア、イギリス(順不同)

「ブルックリン・タコ」のミート・レス・マンデーのメニュー、ケールとポテトのタコス(3.85ドル=約363円)
「アーモンド」のコースメニュー。第2、第3の皿は3種の料理から選べるようになっている
ブルックリン・タコ(Brooklyn Taco)
http://www.brooklyntaco.com/
タコスをはじめとするメキシコ系ストリートフードを提供し、ニューヨークの人気店となる
アーモンド(Almond)
http://www.almondnyc.com/
ミート・レス・マンデーのプリフィックス・コース(39ドル=約3,681円)

取材・文/栗原伸介

取材協力 The Monday Campaigns Inc,,ミートフリーマンデー・ジャパン

※通貨レート 1ドル=94.4円

※価格、営業時間は取材時のものです。予告なく変更される場合がありますのでご注意ください。