和心蕎花(わしんそか)
Key Point
- 栃木・鹿沼産の氷温熟成そばを導入
- そば店らしい酒肴や季節の料理で魅了
- 豊富な酒類で居酒屋利用に対応
飲食企業勤務中に携わったそばダイニングから発想
東京・新宿御苑からほど近い場所に2017年7月にオープンした「和心蕎花」は、日本酒と酒肴を楽しみ、最後にそばで締めるという、日本独特の“粋”の表現を目指すそば居酒屋である。ビルの地階にある29坪26席のゆったりした店内は、大人がくつろいだ時間を過ごすのにふさわしい、落ち着いた雰囲気を醸し出している。
オーナーの高木秀一氏は、1977年神奈川生まれで、19歳のときから飲食業に携わるようになった。当初は学生アルバイトだったが、大学卒業後は大手飲食企業に新卒で入社し、プライムリブ専門店、和食店を経て、バー業態の統括、スーパーバイザーなどを経験した。バー業態のリニューアルに関わった際、うち1店をそばダイニングに転換したことがあり、そばを有効に取り入れた居酒屋に関心を持つようになった。
独立・開業を目指して2012年に退社すると、1年かけて準備し、まずラクレットチーズ専門店を翌年オープン。「2店舗目は、そば居酒屋を出店したい」と考えた高木氏は、慎重に物件を探すとともに、将来的な多店舗展開も考慮し、手打ちそばではなく、製麺された高品質なそばの導入を目指した。
現在、料理長を務める富永貴也氏は、高木氏の以前の勤務先の店舗のアルバイトスタッフで、その後、有名割烹で修業を積んでいた。修業中に、期間限定でそばを提供した経験もあり、その際に使用したのが、栃木・鹿沼産の玄ソバ(殻がついた状態のそばの実)を、60日間氷温熟成させ、旨みと甘みが増してから製麺した「氷温寒熟鹿沼そば」だった。氷温域(0℃からそれぞれの食材が凍り始めるまでの温度域)で食材の貯蔵や加工を行うと、食材そのものの旨みをさらに際立たせることができるという。
「お客様の興味を引くような、個性のあるそばを探していたので、氷温熟成という技術は魅力的だと思い、サンプルを取り寄せて食べてみたら、すごくおいしかったのです。そのときに、そばつゆより、まず塩で食べさせたいという発想に至り、そこから一気に形が見えました」と、高木氏はこのそばと出合った経緯を語る。ネット販売はされているものの、東京の飲食店への卸販売は可能か、直接製造工場を訪ねて交渉し、快諾を得た。さらに、同店用の仕様として1人前150gで包装した生麺を、品質を保持するために冷凍し、必要分をほぼ毎日配送してもらう体制を整えた。なお高木氏は、同店を出店して2年弱は2店舗を経営していたが、2019年4月に創業店舗は閉店し、現在は同店の経営に専念している。
産地とのつながりを強化し柔軟な多店舗化を目指す
「もともとは、そば店で飲む粋なスタイルや、大人のたしなみに憧れを持つ、30代後半~40代の客層を想定していたのですが、オープンしてしばらくすると、50代がメインになってきました。私どもとしてはうれしい誤算だったのですが、その客層のおかげで今の形があります」と高木氏は分析する。昼はそば単品と、そばとご飯もののセットをメインとし、客単価1300~1400円で、1日平均約40名を集客している。同店では、「そば前」と呼ばれる酒肴を、職人の花を添えるという意味から「蕎麦花(そばはな)」と呼ぶ。夜は、富永料理長が腕を振るう粋な蕎麦花や季節料理を楽しみ、最後にそばで締めるという利用が中心で、客単価は4500円、1日に20~25名が来店している。高木氏の知識を活かしてアルコール類も幅広くそろえるが、なかでも上質な純米酒に力を入れ、定番商品は1合1000円、90ミリリットル500円均一とし、数種の飲み比べもしやすいように工夫している。また、夜でもそばだけという利用もあれば、逆に酒肴だけでそばを注文しない人もいるが、いずれの利用も歓迎しており、フードとドリンクの売上比は6対4となっている。
同店がそば居酒屋として50代を中心とする客層に支持されている要因は、以下のようになるだろう。
- 栃木・鹿沼産の氷温熟成そばを導入し、差別化を実現している。
- 夜はそば店らしい酒肴や季節の一品料理で魅了している。
- 上質な純米酒に力を入れた酒類の品ぞろえで居酒屋利用に応えている。
鹿沼市は、その北に位置する日光市とともに、栃木を代表するそばの産地である。そこで近年は、日光東照宮に供え物を納める勅使(日光例幣使(れいへいし))が通った「日光例幣使街道」にちなんで「日光例幣使そば街道」と名付け、そば祭りやイベントなどで地域の活性化に取り組んでいる。「我々は東京で、日光や鹿沼のそばを広めるという役割を担っています」と高木氏は自負する。2019年1月には、日光東照宮から湧き出る水を使った神事にも参加し、産地とのつながりをさらに強めている。今後は、店名と氷温熟成の鹿沼そばをメインとするところは変えず、酒肴や料理は立地に合わせて柔軟に対応しながら、多店舗化を進めていく考えだ。
住所
東京都新宿区新宿1-6-5 シガラキビルB1F
TEL 03-6273-0784
営業時間
11:30~15:00(LO. 14:00)、17:00~23:00(LO. 22:00)
定休日
月曜日(祝日の場合は営業、翌火曜日休業)