2019/05/09 繁盛の法則

本場で修業し、日本初出店を果たした蘭州ラーメン店とは

東京・神保町にある「馬子禄 牛肉面」は、蘭州ラーメンの専門店。中国・蘭州市の本店で修業し、料理を踏襲。中国系のSNSで話題となり、来店客は日本人が5割、在日、および訪日中国人が約4割を占めている。

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馬子禄(マーズールー) 牛肉面

Key Point

  1. 中国・蘭州の人気店である本店の味を踏襲
  2. 落ち着いた雰囲気の店舗で差別化
  3. ハラル認証の取得で信頼を獲得

北京留学時代に親しんだ蘭州ラーメンを日本に紹介

 「蘭州ラーメン」というと日本ではまだ馴染みが少ないが、中国全土には5万軒もの店舗があるといわれ、中国人のソウルフードといった存在であるという。発祥地は中国西北部に位置する甘粛省(かんしゅくしょう)の省都、蘭州市で、イスラム教徒の回族が多く住む地方である。そのため、イスラム教で禁じられている豚肉は使わず、牛肉や牛骨で炊いた澄んだ清湯(ちんたん)スープのあっさりした「牛肉面」が基本となっている。

 蘭州市に本店がある「馬子禄 牛肉面」は、100年以上の歴史を持つ老舗で、朝は6時半から営業し、14時過ぎには売り切れて閉店するほどの人気を誇る。2017年8月22日、東京・神保町にオープンした「馬子禄 牛肉面」は、本店の店名、および商品を踏襲した日本での1号店で、オープン前から中国系のSNSなどで話題となり、当初から店の外に100人以上が並ぶほどだった。お客の半数以上は日本人だが、在日、および訪日中国人が約4割を占め、またイスラム法において合法であるというハラル認証を取得しているため、遠方からファミリーで訪れるイスラム教徒のお客も多い。

 経営元は、2006年設立の株式会社サプラス(本社/東京・赤坂 社長・進藤 圭一郎氏)で、通信販売業を本業とし、中国・北京へも進出している。飲食店の経営は「馬子禄」のみで、飲食事業部マネージャーで同店の店長を務める清野烈(せいのたける)氏と、社長の進藤氏が北京の大学に留学していたときの同級生であり、大学の近くにあった蘭州ラーメン店によく食べに行っていたことが、発端となった。清野氏は1978年生まれで、高校卒業後、中国の将来性に期待し、1997年から北京の大学に留学した。帰国後は新進の飲食企業に入社し、その後、中国から進出した火鍋専門店の店長を経験した。留学後は別々の道に進んでいた進藤氏と清野氏だったが、北京で親しんだ蘭州ラーメンが東京にないなら、自分たちでやってみようと企画し、清野氏が2011年にサプラスに入社して準備を開始した。

メニューは「蘭州牛肉面」(880円)のみ。麺は写真の細麺のほか、平麺、三角麺の3種から選ぶことができ、オーダーごとにその太さに手で延ばし、茹で上げる。具材は牛肉、ダイコン、パクチー、葉ニンニク、手作りラー油。「牛肉大盛」(200円)、「パクチー大盛」(120円)を追加できるほか、パクチー抜き、ラー油抜きの調整も可能。好みで黒酢を加えて食べてもいい。客単価は1,000円前後

本場で一番おいしいと感じた老舗店と粘り強く交渉

 まずは現地視察、市場調査を行い、その中で一番おいしかった蘭州市の「馬子禄本店」に狙いを定めた。その場で「社長に会わせてほしい」と頼んだが門前払いに終わり、メールを送っても返信すら来なかった。帰国後、「馬子禄」の味をまねて試作を重ねたが、そう簡単に出せる味ではなかった。いろいろな人に相談するなかで、駐日中国大使館を通じて日本に滞在している甘粛省の同郷会を紹介され、ようやく「馬子禄」の三代目で社長である馬氏とのアポイントを取りつけた。しかし、最初の面会では馬氏は一切語らず、隣に座った弁護士だけが話をするほど警戒された。それでもあきらめず、何度も訪問して交渉を重ね、ついに東京出店の許可が下りた。そこで、清野氏が本店に何回も足を運んで修業し、中核となる麺打ち、スープ、ラー油作りを徹底的に学んだ。その味を日本の食材でどう再現するかを試行錯誤し、また日本独自の運営方法を工夫して、2017年8月オープンにこぎつけた。

 スープは、牛肉、牛骨に、十数種の薬膳スパイスを加えてとったもので、さっぱりしながらも独特の風味を持つ。また蘭州ラーメンは手打ち麺が多く、同店では細麺、平麺、三角麺の3種を提供することにした。包丁は使わず、生地を両手で引き延ばして麺にする手延べ式で、延ばし始める際に生地を筒状にすると丸く細い麺に、平たい長方体に整形して延ばすと平麺に、三角柱にすると三角麺になる。具材は牛肉、ダイコン、パクチー、葉ニンニク、手作りラー油で、彩りも美しい。商品としては「蘭州牛肉面」(880円)のみで、注文する際は、まず麺の形状を選び、牛肉やパクチーを増量するか(別料金)、ラー油やパクチーを抜くかの調整ができる。当初は食券式だったが、現在はスタッフと対話しながらの前払い制としている。スタッフが注文内容をタブレットに入力すると、すぐにデータが厨房に送られ、調理にとりかかる。オーダーごとに麺を延ばすが、生麺なので茹で時間は10秒以内と短く、お客が席に着くころには商品ができ上がるほど提供が早い。また中国ではセルフサービス式の店舗が多いが、28坪45席の同店では女性を意識してテーブル席を多くし、商品もスタッフが運ぶ。現在の男女比は約半々で、年齢層も幅広い。

 同店が蘭州ラーメンという新ジャンルの専門店として、存在感を高めている要因は以下のようになるだろう。

  1. 本場蘭州の人気店である本店の味を踏襲している。
  2. 女性を意識した、落ち着いた雰囲気の店舗で差別化している。
  3. ハラル認証を取得し、イスラム教徒のお客の信頼を得ている。

 「私たちが好きなこの蘭州ラーメンを、将来的には全国展開したいですが、直近では東京近郊に出店していきます」と語る清野氏。2号店は6月中旬のオープンを予定している。

馬子禄 牛肉面
住所
東京都千代田区神田神保町1-3-18
TEL 03-6811-7992
営業時間
11:00~15:00、17:00~20:30(スープがなくなり次第終了)
定休日
無休