2026/04/16 コラボ企画

大阪・生野区の居酒屋「旬菜和酒 宣(せん)」常連客の情報で決めた新天地は元の店舗の斜向かい

大阪市生野区の居酒屋「旬菜和酒 宣(せん)」は、大家とのトラブルによる閉店危機を、常連客の支えで乗り越え再出発を果たした。新たな移転先は、なんと元の店の斜向かい。手作りの看板や器を贈るほど店主を慕う常連客との深い絆や、修業時代の教訓を胸に「笑顔で帰れる店」を目指す店主・高松 宣良 氏の挑戦に迫る。顧客の8割が常連という、地域に愛される店の再建物語。

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※スマイラー119号(2026年2月)より転載

店主・高松氏の原点。17歳で飛び込んだ飲食の道と親方の教訓

店主の高松 宣良 氏。移転前の斜向かいに再オープンした

大阪市生野区の住宅街に店舗を構える「旬菜和酒 宣」は、特別な仕掛けがある店ではない。店主の高松 宣良 氏が、地元の常連客を相手にワンオペで切り盛りするごく普通の居酒屋だ。

ただ、お店に入ると、どこかほっとした表情になる人が多いのがこのお店の特徴。料理を食べ、酒を飲み、会話をして、時間が過ぎていく。そして、帰る頃には来店時と少し違う表情で席を立つ人も少なくない。

高松氏が「宣」を経営する上で、何よりも大切にしているのがそうした小さな変化。「お店に入ってこられる時は、疲れた顔をされているお客様も多いです。でも帰る時には、笑顔で帰ってもらえたらいいなと思っています」。その考え方は若い頃、料理人としての修行時代に親方から教わった教訓であるという。

高松氏が飲食の道に入ったのは高校時代。17歳の頃、居酒屋でアルバイトを始めたことがきっかけだった。最初は小遣い稼ぎのつもりだったが、次第に料理人の仕事の魅力にのめり込んでいった。「もう、そっちの方が楽しくなってしまって」と高松氏。高校を辞め、そのまま飲食の世界に飛び込んだ。

その後、知人の紹介で割烹の現場でも経験を積み、そして居酒屋、小料理店、奈良で旅館を営む店の出店、北新地のおでん割烹など、さまざまな店を転々とした。「いろんな店で経験を積みたかったんです」。理由はシンプルだが、その言葉通り、料理だけでなく、店のつくり方、お客様と接する距離感などを現場で学んできた。

やがて居酒屋の店長を任されるようになり、独立への思いが現実味を帯びてくる。そして2013年9月、高松氏は独立し、「旬菜和酒 宣」を開業した。場所は、現在の店の斜向かいにあたる元寿司店の跡地だった。

開業当初の「宣」は、割烹での経験を土台にした和食中心の店だった。海鮮を軸に、丁寧に仕上げた料理を出す。その積み重ねによって、少しずつ常連客が増えていった。オープン当初から通い続けている客も多く、10年以上の付き合いになる人もいる。

しかし2025年、店は大きな転機を迎える。大家とのトラブルにより、退去を余儀なくされたのだ。異常に高額な光熱費、夏場に空調が効かなくなるといった問題も重なり、営業を続けることが難しくなった。弁護士を入れてのやり取りは約1年におよび、その間、高松氏はお店の将来について悩み続けた。

そしてやむなく2025年2月に一旦閉店することに。短期間で働ける飲食店は見つからず、次の場所を探しながら約5ヵカ月間、親戚が経営する会社の現場仕事を手伝いながら生活をつないだ。時間ができるたびに新しい場所を探して歩いたが、なかなか決め手になる場所に巡り合うことはできなかった。

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常連客が導いた再出発。閉店から5ヵ月、目の前の空き店舗で再開

移転前より狭くなった分、お客様との距離が近くなったという店内

再出発のきっかけは、常連の1人からもたらされた。「ここ、もうすぐ閉まるみたいですよ」。元の店の斜向かいにある定食屋が、お店を閉めるとの情報を常連客が教えてくれたのである。「それなら、この場所でやろうとすぐに決めました」。そして2025年7月、現在の場所で「宣」は営業を再開。移転後は、ほとんどの常連客が戻って来てくれた。

店舗の面積は以前よりもコンパクトになったが、席数はほぼ同じの20数席。逆にその分、カウンター越しの距離は近くなり、1人でもお店全体を見渡せるようになった。「お客様の様子がよく見えるようになったので、ワンオペでもきめ細かなサービスができるようになりました」と高松氏。

移転を機に、店のスタイルも少しずつ変わった。以前の場所では和食専門であったが、現在は料理の枠を決めすぎない。「お客様からの要望があれば、食材がある限り、何でも作るようにしています」。パスタや中華料理、韓国料理などを出すこともあるという。また、常連客が戻ってきただけでなく、新しくオープンしたことで新しい常連客もつかむことができた。

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お客様から頂いた手作りの看板や器。8割が常連客という“絆”

常連客に作ってもらったという盛り付け台を手にする高松さん

新たに開業する場所に困っていた高松さんに貴重な情報を提供してくれた常連客がいることからも、「宣」がいかに常連客に愛されていたかをうかがうことができるが、もう一つ、なかなかないと思わされるエピソードがあるので紹介する。

お店の看板も常連客に作ってもらった

お店を再オープンした後、別の常連客が、お刺身などの料理を盛るための手作りの「盛り付け皿」
をプレゼントしてくれたのだ。さらに、その人は店の看板まで制作してくれた。今、店の入口に掲げられている看板は、その常連客の手によるものだ。「本当に、ありがたいと思っています」と言う、高松さんにとってこの器や看板は、単なる道具ではない。高松さんと常連客との長い時間をかけて築いてきた関係が、目に見える形として残ったものであり、まさに「応援の証」と言えそうだ。

刺身などの盛り付けに活用している

そんな「宣」の常連客は全体の約8割。定休日を水曜日から現在の木曜日に変えたのも、常連客からの一言がきっかけだった。「水曜日が定休日だとお店に来れないから、別の日を休みにしてくれたらいいのに」と言われて変更したが、「変えた途端、その人はあまり来なくなったんですけどね」と、高松氏は苦笑する。さまざまな常連客がいるが、それも人との付き合いだと受け止めているという。「とにかく料理の仕事が好き」という高松氏は、休日は家族サービスをしつつも、時間があれば市場に足を運ぶ。「魚を見るのが好きで、1時間でも2時間でも見てられます」。

仕事で疲れた顔で入ってきた人が、笑顔で帰っていく店に――その積み重ねが、新しいお客様を呼び、そのお客様が「宣」を支えてくれている。

文:KAZUN
1973年東京生まれ、大阪市在住。某業界で25年以上の取材経験。食べること、アルコールが大好きで、飲食店経営の取材に魅力を感じて「Smiler」のライターとして活動を開始。マイブームは「Chat GPT」。
取材協力:旬菜和酒「宣」
住所:大阪府大阪市生野区巽北3-13-1
https://r.gnavi.co.jp/59s6stzx0000/map/

■飲食業界誌「スマイラー」

“飲食店の笑顔を届ける”をコンセプトに、人物取材を通して飲食店運営の魅力を発信。全国の繁盛店の紹介から、最新の販促情報、旬な食材情報まで、様々な情報を届けている。毎月15,000部発行。飲食店の開業支援を行う「 テンポスバスターズ 」にて配布中!

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