2017/05/16 特集

「現場」を見ることが繁盛への直観を養う! 繁盛店視察 虎の巻

様々な店がしのぎを削る飲食業界で、他店を視察して繁盛のヒントをつかむことは大切な作業。だが、表面的な模倣になっていたり、忙しくて足が遠のいてしまうことも。あらためて視察の意味とポイントを考える。

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様々な店がしのぎを削る飲食業界。他店を視察して、自店の強みや弱点を認識し、繁盛へのヒントをつかむことは欠かせない取り組みだ。だが、表面的な模倣に終わっていたり、ともすると忙しさを理由に足が遠のいていないだろうか。あらためて視察の意味とポイントを押さえておこう。

今回話を伺ったのは…株式会社 船井総合研究所フードビジネス支援部 部長 上席コンサルタント 二杉 明宏 氏
飲食業専門コンサルタント。株式会社船井総合研究所に入社以来、10以上の業種でコンサルティング活動に従事。特に、業態開発、新規出店、多店舗展開などのテーマでのコンサルティングが得意。ローカルチェーンからナショナルチェーン、中国外食企業に至るまで、幅広いクライアントをサポートしている。

Introductionそもそも視察とは?

「視察」は筋トレ! 基礎体力の向上に不可欠

「飲食業に携わる人にとって他店を視察することは、筋トレのようなもの」と語るのは、船井総合研究所の二杉明宏氏。筋トレ(筋肉トレーニング)とは、基礎体力の維持と向上のために不可欠な、地道な鍛錬。同じように、飲食店にとっての基礎体力づくりに当たるのが、「視察」だ。なぜなら、「店を繁盛させるための“キーワード”は、現場での体験を積み重ねる以外にはつかめない」(二杉氏)からだ。

氏は続けて、「当社には『100行脚』という言葉があります。100の事例を見れば、その分野の核心部分が直感的につかめるようになる、という教えです」と言う。例えば寿司店を100店視察すれば、繁盛する店の共通の要素がわかるようになる。もっとも好まれるネタの大きさや、どの価格帯の商品が多い店が繁盛しやすいといった「繁盛のルール化」が、誰でも自然にできてくる、というのだ。「店の間口に立った瞬間に、その店のおおよその売上や営業利益がわかるようになることも珍しくはありません」と言う。

だからこそ、船井総合研究所では視察の位置付けが高い。「視察クリニック」と呼ばれる、ツアーを定期的に企画しているほどで、視察を積めば積むほど学習効果が高まり、「繁盛店のルール化」の精度が上がるという。

「押さえてほしいのは、視察の工程をきちんと踏めば、誰でも成功の確率が上がるということ」と二杉氏は強調する。天才的なアイデアマンではない“普通の人”が、店や事業を成功に導くことを可能にするのが「視察」なのだ。

Webや活字だけでは不足。現場で得る一次情報が重要

もちろん、テレビや雑誌、インターネットやSNSから情報を入手することも大切ではある。世の中にはグルメに関する情報があふれているし、検索サイトの情報も非常に充実している。トレンドはすぐさまSNSで拡散し、あっという間に消費されてしまう時代だ。わざわざ時間とお金をかけて現地に行かなくても、情報を得る手段に困らないのが、現代の特徴の1つでもある。

だが、二杉氏は「本物が持つ“発信力”は、現場に行かないとわからない」と断言。「Webや雑誌で、店や商品の写真がどのような見え方をしているのか、お客様を引っ張る力があるのはどんな写真なのかをチェックする必要はあります。しかし、そうした情報と、現実の商品ズレていることもよくあること」と指摘する。例えば、肉ブームに乗って生まれた人気メニューの1つに「ローストビーフ丼」がある。様々な店がラインナップに加え、Webや雑誌の写真や、口コミを見る限りでは、どの店も一見、同じように見える。だが、繁盛している店とそうでない店では、ビジュアル、ボリューム感、ソースの香り、味、食べた人の表情などが大きく違うはず。

「ブームを牽引したローストビーフと、手法だけ真似したそれとはどこが違うのかは、現場での臨場感を体験しなければわからない」(二杉氏)のだ。

まさに「百聞は一見にしかず」。情報が洪水のように溢れている現代だからこそ、現場で“一次情報”を確認すること、メディアの露出の仕方と現実とのズレの度合いを認識することは欠かせない。「自分自身で体験する」という視察の価値は、ますます高まっている。

百聞は一見にしかず。一次情報と事実とのギャップをチェック

同じ料理を出す店を視察しても、ビジュアルやボリュームなど、Web・雑誌・口コミだけではわからない違いを視察の現場では感じ取ることができる

条件に合わせルーチンに! 生活サイクルに取り入れる

では、実際にはどのくらいのペースで、何店くらい視察するべきだろうか。

一人ひとり、働き方や労働時間、条件が違うので、具体的な数字はあまり意味がないが、「いずれにしても、ルーチンにすることが重要」と二杉氏。視察とは「時間がないなら、やらなくていい」というものではなく、生活サイクルの中に取り入れてでも行うべきものなのだ。幸い、人間には1日3回食事をする機会がある。この中に、視察をルーチンとして組み入れるのは有効な方法。「外食チェーン企業の開発担当者は、年間数百店舗を視察するといいますし、私自身も1週間で十数店舗を訪れることもあリます」(二杉氏)。これらは、生活としての食事に意識的に視察を組み入れて、初めて達成できる数字だ。もちろん、そんな頻度で視察できる人はまれだろう。普段は店からなかなか出られず、物理的に視察に行く時間がない人も多いだろうが、その場合には、例えば休みの日の家族サービスの外食を視察と位置付けることも一案。スタッフとの交流や慰労を兼ねた食事会や宴会なども含め、あらゆる機会を視察として意識する貪欲さが求められている。

実際、店長やオーナーが忙しさに紛れて視察をおろそかにし、「現場を見ずにモノを言うようになると、店の全体像がブレてくる」(二杉氏)ことは珍しくない。飲食に限らずマーケットというのは、時事刻々と変化するもの。絶え間ないウオッチングは不可欠だ。

視察の目的を設定し、成果の共有を追求

ただし、他店で飲食をしただけでは、視察とはいえない。「視察には目的の設定が大切」と二杉氏も釘をさす。自店より単価の高い店を視察する場合は、どんな付加価値が来店客に受けているのか、低価格帯の店の場合は、どのコストを削減しているのか、それに客はどう反応しているのかを知ることが目的になる。二杉氏は「その店がどんな“価値”を伝えようとしているのかをつかむことが大切です。その価値を“キーワード”として認識し、どう表現し、成功しているのかを観察することが視察の重点」と述べる。

さらに、フィードバックも大切。だが、「視察店の手法を自店にそのまま“移植”するのではなく、環境や立地、客層の違いを踏まえたトランスレーション(変換)が肝要」と二杉氏。経営者が視察して目についた手法を、客層も立地も考慮せずにそのまま導入した結果、思うような成果が出ず、かえって現場が混乱してスタッフのモチベーションが下がり、顧客満足度を落とすという悪循環は、よく陥りがちなだけに注意が必要だ。

以上のことを踏まえ、次ページから、具体的に視察店の選び方、見るべきポイントなどを紹介しよう。

視察を続けることで、“法則”が見えてくる

視察を続けて経験を積むことで、「繁盛のルール化」をする直感が身についてくる。ぜひ視察を日常生活のルーチンに取り込みたい

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