2019/08/20 特集

万全ですか?コスト管理~食材費&人件費の高騰、消費増税・・・飲食店が今あらためて考えたい経費のマネジメント術~

食材原価や人件費が高騰するなかで、コストをどう管理して、経営を安定させていけばいいのか。“お金の悩み”を解決するプロに話を聞くとともに、コスト意識を高めつつ、満足度を下げない運営をしている店を取材した。

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更新日:2022.7.24

コンサルタントに聞くCOST MANAGEMENTのポイント

 食材原価や人件費が高騰するなかで、飲食店はコストをどう管理して、経営を安定させていけばいいのか。“お金の悩み”を解決するプロである、Credo 税理士法人の代表で税理士の水野 剛志氏と部長で税理士の吉野 一也 氏に話を聞いた。

Credo 税理士法人(右)代表/税理士 水野 剛志 氏 (左)部長/税理士 吉野 一也 氏
水野氏は慶應大学卒業後、いくつかの税理士法人を経て、2015年にCredo税理士法人/Credoコンサルティング事務所を設立。著書に「飲食店専門税理士が教える飲食店経営で成功するための『お金』のことがわかる本」(日本実業出版社)がある。吉野氏は千葉県最大規模の税理士法人で、20代でマネージャーに就任。その後、Credo税理士法人に参画し、飲食チェーンで働いた経験を活かしながら、開業・成長支援を行う。

コンサルタントに聞くCOST MANAGEMENTのポイント
COST MANAGEMENT① 正しい数字を把握する
COST MANAGEMENT② 原価を見直す
COST MANAGEMENT③ 人件費を見直す
COST MANAGEMENT④ 消費増税に備える
【アンケート調査】飲食店のコスト管理の実態

COST MANAGEMENT① 正しい数字を把握する

FLRコストは70%以内に。現状を知ることが重要

 飲食店経営において、コスト管理は避けて通れない大命題。それゆえ、常にコスト意識を持つことが、持続的な店舗運営に欠かせないのは、言うまでもないだろう。だが、Credo税理士法人・代表の水野剛志は、「自店舗のコストを考えるための大前提である、正しい数字を把握できてないケースが非常に多い」と指摘する。

 「とりわけ3店舗以上を展開している場合、コストに関して各店舗で正しい数字が見えていなければ、経営は成り立ちません。それにも関わらず、売上の数字だけを意識している、“どんぶり勘定”の経営者も多いのが現実です。そうなると、経営が危うくなる可能性は極めて高いと言えるでしょう」。財務を中心に数多くの飲食店をサポートしてきた水野氏の経験上、個店、特に歴史の長い店などで、コスト意識が低いケースが見られるという。

 飲食店の場合、きちんと利益を上げられるかどうかは、三大コストである「FLRコスト」をいかにコントロールできるかに大きく左右される。FLRコストとは、変動費の「Food」(食材原価)と「Labor」(人件費)、そして、固定費の「Rent」(家賃)のことを指す(下囲み参照)。

FLR構成比率が70%であれば、おおよそ売上の10%ほどの利益を残すことが可能。FLR構成比率が80%を超えてしまうと、利益はほぼ残らない経営状況になる。

 水野氏は、「FLRコストの売上に対する構成比率の適正水準は70%以内」だと語る。「FLRコストが売上の約70%であれば、利益はおおむね10%程度残ります。75%であれば、利益は5%程度となり、FLRがそれ以上になってしまうと、ほとんど利益は残りません。これはどんな業態にも共通した数値です」(水野氏)。

 FLRコストを売上の70%以内に保つには、変動費であるFLコストの管理が重要。一般的にFLともに30%が目安と言われるが、それぞれを正確に把握するにはどうすればよいのか。

 人件費は給与や賞与のほか、社会保険料や通勤費などを足して算出する。一方、食材原価については、毎月の棚卸しが大事になってくる。棚卸しをして食材やドリンクなどの在庫数を出し、仕入れた数と売り上げた数を照らし合わせることで、正確な原価率が算出できる。「そもそも棚卸しをしておらず、毎月の材料費がどれだけかかっているのか、把握できていない店も多い」と水野氏。ただ、経営者が日々の営業に追われる個店では、毎月棚卸しをする余裕がないということも少なくない。「その場合は、2カ月平均の原価率を算定することから始めてください。単月の仕入れ金額だけを見ていると、月をまたぐ在庫などの兼ね合いから、正確な原価率を見誤ることもあります。2カ月平均で見ると、おおむね正確な原価率を把握することができるはずです」(水野氏)とアドバイスする。

 また、FLコスト(特に棚卸し)は、店長など責任者を決めてやるようにすれば、計算の誤差も生じにくい。「とにかく、正しい数字を出すことがコスト管理のスタートラインです」(水野氏)。

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COST MANAGEMENT② 原価を見直す

仕入れ価格の値上げには業者の変更も視野に交渉を

 原価の管理は、飲食店が利益を確保するための生命線。なぜなら、先述のように食材やドリンクにかかる仕入れコストは、家賃などの固定費とは違い、売上が増えた分、ともに増えていく変動費だからだ。原価率が高くなると、たとえ売上が増えても手元に残る利益は少なくなり、徐々に経営を圧迫することになる。また、近年は食材費の高騰が続いており、消費増税も重なることで、さらなる値上がりが予想されている。

 「消費増税のタイミングで、様々な業者が値上げに踏み切ると考えた方がいいでしょう。物流業界をはじめ、人手不足の影響もあって人件費が上がっており、その分を価格に転嫁せざるを得ないからです。食材だけでなく、電気やガスなどの光熱費、ゴミ回収の費用に至るまで一斉に値上げされるはずですから、相当な注意が必要と肝に銘じておくべきです」(水野氏)。

 今後は、これまで以上に原価の管理が重要になる。それでは、原価率が高くなってしまう原因はどこにあるのか。水野氏は「仕入れ、調理、販売の3つの工程のいずれかに原因があります」と語る。どの工程に原因があるかによって取るべき対策は異なるため、まずは原因を見極めることが大切だ。

 飲食店で勤務経験のあるCredo税理士法人・部長の吉野一也氏は、「例えば、仕入れの工程に問題がある場合としては、仕入れ業者がいつの間にか価格を上げており、知らない間に原価率が高くなっているということが考えられます」と話す。そんなときには、あらためて仕入れ値をチェックして、業者と交渉するなど、原価率を低く抑える努力が必要だ。実際、同法人がコンサルティングを行う居酒屋では、5年前には地域で一番安い業者だった仕入れ先が、半年前に値上げをしていたことに気づかず、同地域のほかの業者と比べて、かなり高い価格で仕入れていたということがあったという。

 また、「消費増税の前後、半年くらいは特に仕入れ価格を注視するようにしてください」と水野氏。もし値上がりするようであれば、そのタイミングで相見積もりを取って、ほかの業者と比較検討する必要がある。さらに、「新たに業者を探したい時におすすめなのが、飲食店関連の展示会へ参加することです。展示会場には食材や調味料、調理器具などの業者がたくさん出展しており、効率よく情報を収集することができます。常にアンテナを張り、“情報弱者”にならないことが大切です」(水野氏)とアドバイスする。

 また、調理の工程においても、見直すべきポイントはある。「調理工程では、1つのメニューに使用する食材の分量が定まっておらず、オーバーポーションになっていることや、在庫管理ができていないために先入れ先出しが守られず、ロスが発生するなどの問題が生じているケースが多い」と吉野氏。

 また、販売工程においては、「メニューの値付けが安すぎることや、原価率の高い商品ばかり売れているといったことが考えられます」(吉野氏)。これらを改善するためには、まずメニュー一品ごとの原価率を点検することが肝心だ。そして、ABC分析をしたうえでメニューブックなどをリニューアルし、オーダーをコントロールする。さらに、出数を増やしたいメニューを提案するための有効なツールとして、POPなどの活用も重要。原価率を見直し、改善するための対策を取ることは、同時に販売戦略の強化にもつながる。

原価率が高くなる3つの原因と対策

1 仕入れ工程
業者から仕入れる価格が、いつの間にか高くなっている、また、必要以上の量の食材・ドリンクなどを仕入れているのが原因。業者の見直しや値下げ交渉、売上予測を立て、適正量を仕入れるようにするなどの対策を。

2 調理工程
「先入れ・先出し」が守られておらず、仕入れた食材をきちんと使い切れていない、また、必要以上に食材を使い過ぎていることなどが原因。在庫管理を徹底することやメニューごとのレシピ作り、見直しなどが必要。

3 販売工程
原因は、メニューの値付けが低すぎることや、原価率の高いメニューばかりオーダーされていることなど。対策としては、値付けの見直しに加え、メニューブックやPOPを改訂し、注文の流れを変えることが重要。

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COST MANAGEMENT③ 人件費を見直す

人件費削減に関する指示は具体的にわかりやすく

 人手不足に伴う人件費の高騰が続いている近年、定休日を設けたり、営業時間を短縮したりする企業・店舗も増えている。人材の採用に苦戦する経営者も少なくないが、あくまで飲食店の売上を作るのは「人」。「人が足りず、お客様の満足度が低下して、売上が下がるのであれば、躊躇なく採用にお金をかけるべき」と水野氏は話す。「営業時間の短縮などにより、確かに人件費は抑えられるかもしれませんが、当然ながら売上は下がります。家賃などの固定費は支払い続けるわけで、きちんと店舗を稼働させるためにも、計画的な人材採用が重要です」(水野氏)。

 採用と同時に注力すべきなのが、人が辞めない環境づくり。店舗運営のためはもちろん、新たな人材を採用するためのコストが発生してしまうからだ。アルバイトスタッフが、勤務日数を増やしたくなるような店舗にすることが大切だが、「最近は、コンプライアンスに対する見方が厳しさを増しており、実際に店とアルバイトの間の労務トラブルも増えています。こうした事態を未然に防ぐ意味でも、スタッフの働きやすさを意識して、職場や待遇の改善を図るべきです」と吉野氏は話す。

 では、人件費が高くなっている店舗は、どのような改善を図るべきなのか。水野氏によれば、人件費率が高くなってしまう理由としては、①シフトを組む段階で人数を入れ過ぎてしまった場合、②その日の売上が目標売上を大きく下回ってしまった場合の、大きく2つが挙げられるという。

 人件費率は、人件費を売上で割った比率になるため、売上の好不調に大きく左右される。人件費が高くならないようにするためには、まずシフトを組む際、必要以上に人数を入れないようにすることが重要だ。ただし、人件費率は売上の要因によっても数値が変動するため、人件費を的確に把握するには、人件費率だけでなく、社員・アルバイトごとの「人件費額」と「労働時間」(総労働時間や深夜残業時間など)にも注目し、どこに問題があるのかを詳しく探っていくことが重要だ。

 そして、経営者が店長や現場のスタッフに人件費のことを伝える場合、「人件費率を○%落として」や、「人件費をあと○万円下げて」と言ってもなかなか伝わらない。そこで水野氏は、「1日当たり、1人の労働時間をどのくらい削減すればよいかを伝えると理解できるはず」とアドバイス。「例えば人件費を5000円減らす場合、時給1000円のアルバイトが5人いるなら、『1人当たり1日のシフトを1時間減らしてほしい』と言えばわかりやすいでしょう」(水野氏)。これくらい具体的に説明すれば、店長も人件費を意識しながら、シフトを組むことができるようになる。

 さらに、人件費を分析するうえで有効なのが、「人時売上高」。これは、1人のスタッフが1時間当たりにどれだけ売上を上げているのかを示すもので、「その日の売上」÷「その日の全スタッフの総労働時間の合計」で算出することができる。水野氏によると、「中小規模の飲食店の場合、確保したい人時売上高は4000円台です」と解説。これも1つの目安にして、人件費の見直しを図っていくのがよいだろう。

COST MANAGEMENT④ 消費増税に備える

満足度を下げないまま健全な財務状況を目指す

 最後に、消費増税への備えはどうしたらよいのか。コストを再点検する必要はあるが、水野氏は、「CS(顧客満足)やES(従業員満足)が下がらないよう、注意を払わなくてはいけません」と警鐘を鳴らす。「CSやESを無視してFLを削減すれば、店の魅力低下に直結し、売上減という結果を招きます。まず、CSやESに影響が出ないコストに目を向けることが大切です」(水野氏)。具体的には、水道光熱費や消耗品などのムダ使いがないか、同時にロスをなくすうえで、過剰発注がないかも今一度チェックしてほしい。

 そして、水野氏が「消費増税のタイミングで検討すべき」と強調するのが、メニューの値上げ。「このタイミングを逃すと、値上げのチャンスはしばらくないでしょう。最終的に値上げするかどうかはそれぞれの考え方ですが、『検討してみる』ことが大事です」(水野氏)。

 また、経営を総点検するうえでは、本部費もチェックしたい。本部費とは店舗以外でかかる経費のことで、経営者の給料や交際費なども含まれる。「ありがちなのは、経営者の交際費や私的な経費が膨らんでしまうケース。税金対策などの場合もありますが、お金が出ていることには変わりがないので、運転資金がショートしてしまう原因にもなりかねない」と、吉野氏は注意を促す。飲食店の利益率は売上の10%前後であり、本部費が売上の10%を超えてしまうと危険な状態と言える。

 健全な経営を続けるためには、キャッシュ(現金)も意識すべきだ。水野氏によると、2カ月分の売上高が目安で、「月商1カ月分より少ない現金しかない場合は、いわゆる自転車操業の状態。2カ月分を超えれば、資金繰りはだいぶ楽になり、3カ月分あれば、財務的に優秀と言えるでしょう」(水野氏)。

 さらに、消費増税で気をつけたいのは、消費税の納税金額が大きく増えるということだ。「預かった消費税(売上)」ー「支払った消費税(仕入れ・経費)」を納税することになるが、軽減税率制度により売上(テイクアウト以外)の消費税は10%、仕入れ(酒以外)の消費税は8%になるため、手元に残る資金は一時的に多くなるが、納税金額も増えるため、納税用の現金を残しておかないと資金繰りが苦しくなる。「消費税の課税対象の基準は、2年前の売上が1000万円を超えていること。創業2年目までは判断基準となる2年前の売上がないことから、納税が免除されます。そのため、創業から3年が経過し、初めて消費税が課税される店は要注意です」と吉野氏。

 会計処理が簡単にできるアプリなどITも上手に活用しながら、店のお金の流れを「見える化」しておけば、資金繰りへの心配も軽減されるはずだ。

 近年、全国的に食材費、人件費ともに上がり、コスト高が続く外食業界。では、実際に2019年上半期、その状況は飲食店にどんな影響を与えたのか。コスト削減、安定経営のために行った施策、また、消費増税対策などをぐるなび加盟店に聞いた。

アンケート調査~ぐるなび加盟店に聞きました~

 Q1は、全国のぐるなび加盟店に上半期の食材費・人件費について聞いたデータ。その結果、食材費は50.7%、人件費は45.3%が「増加(上昇)の傾向」と答え、ともに「減少(低下)の傾向」を大きく上回った。

 上半期の業績に影響を及ぼしたマイナス要因を聞いたQ2では、「食材の値上がり」が34.9%と最多。次いで、「人材不足・採用難」(32.9%)、「人件費の上昇」(30.3%)という結果に。ここでもやはり、食材費と人件費の高騰に頭を悩ます店が多いことがわかる。

 Q3では、そんな状況のなか、コスト削減のために行った施策を聞いた。1位は「食材ロスの削減」(24.6%)、次いで、「水道光熱費の節約」(20.4%)となり、まずはムダやロスを減らすことに力を入れている店が多いという結果に。また、人件費を抑えるために「配置人数の削減・勤務シフトの見直し」(16.8%)をしたり、食材や仕入れ値、仕入れ先を再検討したりするなど、それぞれの店が様々な方法で、コストコントロールをしているようだ。

 では、消費増税へ向けてどんな対策を予定しているのか? Q4では、(アラカルト)メニュー・コース価格の「値上げ」と、量や品数を減らすなどの「実質値上げ」、それぞれについて聞いた。価格の「値上げ」を予定している店は計57.5%で、「実質値上げ」を予定している店(計42.3%)よりも多いという結果に。いずれにしても、メニューブックの改訂などを含め、消費増税は経営に大きな影響を与えそうだ。

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成功事例に見るコスト管理術

 ここからは、コスト意識を高めつつ、満足度を下げない運営をしている店を取材。「仕入台帳」で原価を徹底管理し、ムダを省いてコスト削減に成功した「大名やぶれかぶれ 西中洲店」(福岡)や、健康志向を捉えた業態でビジネス層を中心に集客している「トリ&ハイ 本店」(東京)の取り組みを紹介する。

成功事例に見るコスト管理術
CASE①「仕入台帳」で原価を徹底管理。ムダを省いてコスト削減に成功
 「大名やぶれかぶれ 西中洲店」(福岡・中洲)

CASE②健康志向を捉えた業態でビジネス層を中心に集客
 「トリ&ハイ 本店」(東京・三田)

CASE①「仕入台帳」で原価を徹底管理。ムダを省いてコスト削減に成功

大名やぶれかぶれ 西中洲店
福岡県福岡市中央区西中洲2-5
https://r.gnavi.co.jp/f179700/
地下鉄天神南駅より徒歩3分の路地裏に立地。広々とした店内には、カウンター席や大小の個室を備える。カウンター内に食材だけでなく、消耗は生け簀があり、注文を受けてからさばく鮮魚が人気。

原価率はトータルで考え人件費は効率化で抑制

 福岡随一の歓楽街である中洲と、若者が集まる繁華街・天神の中間、奥まった一角にある「大名やぶれかぶれ西中洲店」は、鮮魚をはじめ、九州の名物料理をそろえた居酒屋。店内には100名ほどが収容可能な掘りごたつの座敷席のほか、多くの個室があり、仲間同士の飲み会、接待、大人数の宴会など、様々なシーンで利用されている。

 1、2階合わせて全140席の大箱のため、使用する食材や消耗品の量は膨大。そこで、すべての仕入れ値を「仕入台帳」で細かく管理。商品名、価格、仕入れ先業者などを記入し、見積書もすべてファイルしている。「同じ商品、同じ質なら安い方がいい。比較検討して一番安い業者から仕入れ、価格が上がれば仕入れ先を再検討します」と、オーナーの古賀友継氏。その際も、必ず複数の業者から見積りを取るという。

 また、2年前から賞味期限が長い調味料などは、業者がセールで売る際にまとめ買いしている。油、みりん、料理酒などを大量購入し、動線がよくないため使っていない店内の個室で保管。「そのときの支払いは大変ですが、通常の2~3割安いので、コスト全体としては大きいですね」と古賀氏は話す。

【仕入れ価格を徹底管理】食材だけでなく、消耗品などもすべて「仕入台帳」に記入。商品名や価格が一目瞭然で、値上げがあれば、仕入れ先を再検討している
【低価格のときに大量購入】油などは業者のセール時に大量購入。「個室に置いていますが、もともと動線のよくない個室だったので、保管できるメリットの方が大きいです」(古賀氏)

 さらに、生鮮食品もコスト管理を徹底。現在、魚は3社と取引があり、仲卸業者には毎朝電話をし、その日の目玉の魚を確認して仕入れ内容を決める。その後、昼過ぎには市場で売れ残った魚介を格安で購入し、日替わりのおすすめとして活用することも。「業者とコミュニケーションを取ることで、ほしい魚を安くしてもらうこともあれば、その日に市場で残った魚を買うこともあります」(古賀氏)。一方、数量限定の「呼子直送ヤリイカ活き造り」は仕入れ値に関係なく、1杯1080円と安価で提供。「原価率はほぼ100%ですが、看板料理なので利益は度外視しています。その分、メニュー全体でバランスを取っています」(古賀氏)。

【メニューブックで注文をコントロール】メニューブックの最初の見開きページでは、看板の「呼子直送ヤリイカ活き造り」のほか、オーダー数を増やしたい和牛を使ったメニューをアピールする
佐賀・呼子から仕入れるヤリイカは、グラム単位の定額で契約。仕入れ値が原価率100%を超える価格でも常に1080円の破格で提供する
ヤリイカのほか、仕入れた活魚は生け簀に。注文が入ってから魚を取り出し、カウンターに座った客の目の前で調理している

 そのほか肉は、2年前からコストを抑えるため、和牛のウデなどを塊で仕入れる。それを精肉店が「ミスジ」「トウガラシ」「クリ」などの部位別に切り分けて保管。必要に応じて配達してもらう。合わせて、肉メニューを増やし、メニューブックの最初の見開きページで、売りの「ヤリイカ」とともに掲載。オーダーを促進している。

 仕入れ値を抑える一方、ロスの削減にも注力する。例えば、肉を調理する際に出る切れ端などは「肉ジャガ」にして、おすすめメニューに。また、大根の皮も捨てずに干しておき、「切り干し大根」にして、お通しで提供する。

 2018年の忘年会シーズンでは、コースのメインの鍋「和牛しゃぶしゃぶ」に、「もつ鍋」「豚しゃぶ」なども加え、選べるようにした。「お客様の選択肢を増やしつつ、原価率が低い鍋も入れることでコストダウンにつながりました」と古賀氏。引き続き夏の宴会コースでも、「寿司」を「もつ鍋」などに変更できるようにして好評だ。

【コースには選べる鍋を!】「博多もつ鍋」(1人前1296円)は、プリプリの和牛もつと野菜がたっぷり入った人気メニュー。昨冬、コースの中に選べる鍋の1つとして加えたことで、コストダウンにつながった

 「人件費については、むやみに減らそうとは考えていません」と話す古賀氏。しかし、店内の効率化を図ることで、結果としてコスト削減に成功している。以前、厨房は6名体制だったが、冷蔵庫の位置やキッチン全体のレイアウトを、効率よく作業ができるよう変更。現在は古賀氏と料理長の藤野浩氏など、3名の料理人で回すことが可能になった。また、ホールのオペレーションもひと工夫。宴会などの際、2階のスタッフからは厨房に内線電話で指示や連絡が入っていたが、忙しくて電話を取ることが難しく、時間のロスにつながることもあった。そこで、スタッフが使うハンディに、「刺身待ち」「予約料理ゴー」など、よく使うコメントを打ち込めるように設定。これで、厨房は注文とともに送られてくるコメントを見て、すぐ対応できるように。ホールスタッフもその都度電話をしたり、1~2階を行き来する必要がなくなり、スムーズなサービスが実現できている。

 「効率化を図りながら、少しずつコストを削減してきました。その分をお客様と従業員に還元していきたいですね」と、古賀氏は笑顔で語ってくれた。

2階には掘りごたつ席の完全個室が9部屋あり、仕切りを外せば最大100名まで収容可能。大人数の宴会に利用されている
(右)オーナー 古賀 友継 氏 (左)料理長 藤野 浩氏
古賀氏は板長を経て、2016年に店を買い取りオーナーに。藤野氏はオープン当初から勤務し、古賀氏と2人3脚で店を運営。古賀氏が魚と酒、藤野氏がそのほかの仕入れを担当。

CASE②健康志向を捉えた業態でビジネス層を中心に集客

トリ&ハイ 本店
東京都港区芝5-14-17 白蘭ビル1F
地下鉄三田駅から徒歩約6分の場所に立地。落ち着いた雰囲気の店内には、各テーブルに炭酸サーバーとロースターを設置。店舗の広さは20坪、席数は32席で、ランチ、ディナーともにキッチン1名、ホール1~2名のスタッフで運営している。

 2019年1月、東京・田町にオープンした「トリ&ハイ本店」。メニューはタブレットで注文し、会計はキャッシュレス、ドリンクは30分単位の飲み放題で、売りのハイボールはセルフで作るスタイルと、徹底的にオペレーションの効率化を図った業態で、人件費を抑えた運営に成功している。

 「オーナーがジムで体を鍛え始めたのが出店のきっかけ。ダイエットや健康を気にしていても、思いきり食べたい、飲みたい人のための店をと考えました」と語るのは、代表取締役兼店長の村田春菜氏。「楽しく飲んで、楽しく生きる」をコンセプトに、低糖質なハイボールとヘルシーな鶏焼肉を前面に打ち出した。健康への関心が高い30代後半~50代のサラリーマンをターゲットに据え、ビジネス街である田町の物件を即決。「大通りの路面店なので賃料は決して安くはありませんが、狙いどおりの客層の方々に来店いただいています」と村田氏。現在、来店客の8割は男性で、客単価は3500円。仕事帰りに訪れる少人数のグループが多いという。

 自分で作るハイボールは、各テーブルに炭酸サーバーを設置。月替わりでセレクトするおすすめのウイスキー5種類と氷を卓上に用意し、来店客が好きな銘柄を選んで、自由に濃さを調節できる。自分好みにハイボールを作る過程が楽しいと好評で、店側にとってはスタッフの手間が省けるメリットがある。

卓上の炭酸サーバーとウイスキーで、来店客が自由にハイボールを作ることが できる。ランチタイムは炭酸水を使ったソフトドリンクが飲み放題
【自分で作る楽しさもある“セルフハイボール”】
氷をグラスに入れ、好きなウイスキーを注ぐ。一度に注げるのはシングルの量(30ml)までなので、初心者でも安心
サーバーから強炭酸を注ぐ。「『グラスにある店のロゴの中間くらいまで注ぐとちょうどいいですよ』と説明しています」(村田氏)
マドラーでステアして完成。ドリンクを作るスタッフの手間が省けるほか、客にとっては待ち時間がないというメリットもある
最初の1杯はスタッフが作り方を実演し、以降は完全セルフ。「一度説明すれば、誰でも簡単に作れるようになります」(村田氏)

 また、グラス交換は不要という人も多く、洗い物を減らすことにもつながっている。「グループで賑やかにハイボールを作っている姿をよく見かけます。お酒が飲めない人も、炭酸サーバーを使ってみたいという声が多いですね」と村田氏。ウイスキーが苦手な人向けには、フルーツを漬け込んで苦味を抑えた「漬け込みハイボール」や、炭酸水で割るノンアルコールの「飲むお酢」なども用意し、幅広い層が楽しめるよう工夫している。ドリンクは基本的に飲み放題制。注文は60分からで、60分1160円、90分1680円、120分2180円で、30分単位(580円)で延長もできる。今後は“ちょい飲み”需要に対応するため、単品でも注文ができるようにする予定だが、その際も炭酸水を注ぐのはセルフのままにして、「自分でハイボールなどを作る楽しさを、たくさんの人に体験してもらいたい」(村田氏)という。

ウイスキーの味の特徴をチャートで説明。そのシートを各テーブルに置いている。飲み放題に含まれないウイスキーもあり、様々な種類を用意してリピーターを飽きさせない
5大産地であるスコットランド、アメリカ、カナダ、アイルランド、日本のウイスキーをそろえる。リーフレットで紹介し、スタッフが説明する手間を省いている
入口付近の棚にウイスキーボトルをずらりと並べ、ハイボールが売りであることをアピール。25~30種の銘柄を用意している

 もう1つの売りである鶏焼肉は国産の銘柄鶏にこだわり、9種ほどの部位がセットになった「国産銘柄鶏盛り合わせ」(980円)が一番人気。タブレットから注文を受けたら鶏肉を提供し、卓上のロースターを使って来店客が自ら焼くので、スタッフの手間が少ない。また、鶏肉はカットされたものを毎朝仕入れ、ロスが出ないよう予測・計算をして、余分な在庫を置かないことにも気を配る。そのほか、一品料理などもサラダやアヒージョなどシンプルなものが多く、調理オペレーションを考慮した構成になっている。

売りの鶏焼肉は、「総州古白鶏」などの国産銘柄にこだわる。卓上のロースターで来店客自身が焼くため、調理オペレーションは最小限で済む
【オーダーはタブレットで!】各テーブルに置かれたタブレットを来店客が操作して料理をオーダー。注文履歴を押すと、それまでの注文金額も確認できる

 さらに、キャッシュレスであることも店の“省人化”に大きく貢献している。レジ締め作業が不要なため、閉店から30分以内に全スタッフが退勤できており、売上のデータもクラウドですぐにオーナーと共有可能だ。「できるだけオペレーションを少なくするためにキャッシュレスにしました。盗難のリスクを回避する目的もありますし、飲食業界の労働環境をよくすることにもつながると考えています」(村田氏)。

 7月からはランチ営業も開始し、国産銘柄鶏の「チキンカレー」「チキン南蛮」(ともに800円)などを提供。認知度アップを目指している。「今後は、より細かくFLコストなどを管理していきたい」と話す村田氏。2023年までに同ブランド15店舗の出店が目標で、FC展開も視野に入れている。

【会計はキャッシュレス】会計はキャッシュレスで、クレジットカードや電子マネー、QRコード決済が利用可能。トラブルを防ぐため、キャッシュレスであることを入店時に説明している
黒を基調としたスタイリッシュな店構えで、ランチタイムは女性の来店も多い。店頭でキャッシュレスであることを掲示している
代表取締役兼店長 村田 春菜 氏
同店を運営するエルライ株式会社・代表取締役。学生時代のアルバイトで、飲食業のおもしろさに目覚める。2018年の夏より開業準備に着手し、半年でオープンにこぎつけた。

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