株式会社物語コーポレーション 代表取締役社長 加藤 央之 氏

主力業態「焼肉きんぐ」がコロナ禍でも好調の株式会社物語コーポレーション。昨年、34歳の若さで社長に就任した加藤央之氏は、どんな経歴を経てトップに立ち、この1年、何に注力してきたのか。今後の展望も含めて話を聞いた。

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誰よりも考え、表現する。それが自分と会社、社会の幸せにつながる

――株式会社物語コーポレーションには、新卒で入社されました。そもそも、なぜ飲食企業を選んだのですか?

 就職活動中、ある面接官から「なりたい自分はどんな人間か?」を聞かれたことがきっかけで、その後、何日もその答えを考え続けました。そこで見えてきた理想像が、高校時代にアルバイトをしたうどん店のオーナーだったんです。料理の腕1本で生きるプロフェッショナルな部分や生き生きとした自己表現がかっこよく、周りの人間を元気にする力もあり、彼の姿に“なりたい自分”が重なりました。

 そして、「そんな人が勤めていた会社はどんな会社なのだろう?」とたどり着いたのが物語コーポレーションでした。先ほど言ったうどん店のオーナーが以前、物語コーポレーションで専務まで務めた人物だったんです。ただ、飲食の現場に立つことのほかに、飲食系のコンサルタント企業への就職も考えていました。そんな中、最終的に物語コーポレーションを選んだのは、企業説明会で小林佳雄社長(当時)が語った、美しく正々堂々と自分を表現し行動する「Smile & Sexy」という経営理念に共感したことと、「他者の意見や世間の目を気にするのではなく、本心から生まれる本物の意思決定を常にすべき」という一言があったから。「やはり自分は飲食業が楽しくて好きだ」との思いに改めて気づき、コンサルティング会社への就職という外聞の良い選択肢を捨てきれていなかった私を、突き崩してくれました。

1986年愛知県生まれ。2009年4月入社後、「お好み焼本舗」の佐野店(栃木)へ配属。店長に昇格した後、本社で開発企画部、丸源事業部、人財開発部を経て「源氏総本店」の支配人に。お好み焼事業部事業部長、業態開発本部本部長兼デジタルマーケティング部部長を歴任し、2020年7月、副社長執行役員を経て、同年9月代表取締役社長に就任した。

――入社後、さまざまな部署で活躍されていますね。

 まず、「お好み焼本舗で4年余り、現場の業務に励みました。店長に昇格後、最優秀店長にも選ばれたこともあり、自信たっぷりでした。ところが、次に配属された開発企画部で、初めて通用しない自分を経験します。メニューや業態の開発と販売促進を行う部署で、徹底的に開発力を磨こうと、終業の18時から終電までの6時間、毎日、業態開発などのアイデアを考え続けました。しかし、日々の業務に追われるばかりで、8カ月後には「丸源ラーメン」の事業部に異動することに。役職上は昇進でしたが、「開発部では使えない」と戦力外通告を受けたように感じました。

 ただ、元来、負けず嫌いなので「今に見ていろ」と奮起。本来は参加する必要のない開発企画部の会議にも参加させてもらい、新しい企画やメニューなどについてどんどん意見をぶつけました。これを愚直に続けた数カ月が、その後、さまざまな部署に配属された際に生きたと感じています。

 例えば、人財開発部では、就活学生に向けて新たに「バックステージツアー」を開始しました。調理や接客という表の顔だけでなく、その裏でどんな仕事が現場を支えているのかを紹介し、フードビジネスの構造や魅力を知ってもらうことが狙いです。和食割烹の「源氏総本店」で支配人を務めたときは、しゃぶしゃぶとカニを看板に据えたメニュー開発や法事懐石の単価を最適化するなどして、年間3,000万円の赤字を1年で900万円の黒字に転換することに成功しました。

 こうした成果は、もともと私に開発のセンスがあったからではなく、誰にも負けないように多く深く考え、表現し、議論をするということを続けていたから。そして、それを受け入れてくれる土壌がこの会社にあったからだと思います。

加藤氏が支配人を務めた「しゃぶとかに 源氏総本店向山店」。看板メニューの刷新や懐石の単価変更などにより、わずか1年で黒字への転換を実現した

――1年前、34歳で社長に就任。コロナ禍でも「焼肉きんぐ」を中心に好調を維持しています。

 就任に迷いはなく、プレッシャーも感じませんでした。1店舗1店舗をもっといい店にする自信と、看板ブランドに成長した「焼肉きんぐ」をさらに磨ける自信がありましたから。「焼肉きんぐ」は、郊外立地でターゲットがファミリー、焼き肉へのニーズという、コロナ禍で顕在化した優位性を兼ね備えた業態です。とはいえ、外食機会が激減する中で選ばれ続けるには、地域一番店になることが必要。そのために、大きく2つの差別化に力を入れています。

 1つ目は、回転寿司が生まれたときのように、それまでの収益構造を変革し、圧倒的な価格破壊を起こす方法。ただし、これは真似されやすく、時間とともに類似の競合店が増えていくのが難点です。そこで重要だと考えているもう1つの差別化が、「小さな差別化」を積み上げて大きな差を生み出すこと。「焼肉きんぐ」が好調の要因を、タッチパネルなどによるDX化や、2,980円(税込3,278円)の食べ放題だと考える方も多いと思いますが、本質的な差別化のポイントはその中身にあります。1皿の肉を何gにすると顧客満足と収益性がベストなバランスになるのかを緻密に計算するなど、細部にわたって小さな差別化を無数に詰め込んでいることが好調の要因だと考えています。

 こうした小さな差別化を生むには、社員が既存のサービスや商品に異を唱える必要がありますが、それは決して簡単ではありません。会社や上司の方針を気にしてしまったり、仕事が増えるのを嫌がったり、「めんどくさい人」と思われたくないという思いが働いてしまうからです。しかし、そこに挑戦することが、自分の成長であり喜びであると実感できる環境づくりが重要。私自身もそうして成長してきましたし、当社の経営理念である「Smile & Sexy」が目指しているのも同じ場所です。

 社長に就任してから1年、配膳ロボットの導入やDX化、店舗の改装など、さまざまなことに着手しましたが、その中の1つが新業態の開発です。今年、新たに「焼肉 かるびとはらみ」と「焼きたてのかるび」を開業しました。前者は、焼肉マーケットの中で「焼肉きんぐ」がカバーできていない部分を狙う、アラカルトがメインのリーズナブルな焼肉店。後者は、当社初のファストカジュアル業態で、カルビ丼とユッケジャンスープの専門店。焼肉店が作る「カルビ丼」を490円(税込)で提供します。どちらも好調ですが、特に「焼きたてのかるび」は、焼肉マーケットで新たな顧客ニーズの掘り起こしが期待できると考えています。

主力ブランドの「焼肉きんぐ」。1皿のポーションにも緻密にこだわる「小さな差別化」の積み重ねが好調を支えている
  • 今年オープンした「焼肉 かるびとはらみ」では、1皿390円(税込429円)~という低価格でアラカルトを中心に焼肉を提供
  • 同じく今年オープンした「焼きたてのかるび」では、「カルビ丼」(写真)を490円(税込)で提供

――人事評価制度や長期経営ビジョンの刷新にも着手されました。

 根本にあるのは、「Smile & Sexy」の理念経営に立ち戻ることです。人事評価制度は、社員が日々の行動目標を達成することが成果や評価につながり、それが会社のビジョンとも一致するような仕組みづくりに注力しました。さらに、「個の尊厳を組織の尊厳の上位に置き、とびっきりの笑顔と心からの元気で世の中をイキイキさせる」という長期経営ビジョンを掲げました。会社の論理より個人の意思や思いを尊重することが議論を巻き起こし、イノベーションを生み、ひいては自分や世の中に笑顔と元気を与えるという考えからです。

 このほか、会議の改革も行いました。例えば、将来起こりうる課題について議論する「危険予測会議」は、ネタが出なくなるなど形骸化していたので、いくつかルールを刷新しました。その中で特に重要なのが「当たり前に領空侵犯すること」、つまり、他部署の事案にも遠慮なく切り込むことです。自分の部署が外から何も言われないように、自分も他部署の案件に口を出さない、といった風土は成長の妨げにしかなりません。このルールを設けることで、説明責任が発生するのでリーダーが自然と強くなるというメリットもあります。

――今後の戦略・展望について、聞かせてください。

 コロナ禍によって戦略が大きく変わることはありません。「焼肉きんぐ」の出店が増えているのも、意識して増やしているわけではなく、いい物件が空いた結果、自然と増えている状況です。

 一方、少子高齢化が進む中で国内の外食マーケットは今後大きくはならないので、会社の成長のために海外での店舗展開は必要だと考えています。ただ、日本のビジネスモデルをそのまま持って行ってうまくいくほど甘いものではありません。まずは中国・上海で実績やノウハウを積み上げていきたいと考えています。

 長期的に見据える目標は、数字ではなく、会社の存在意義。自分が会社の未来と社会の発展にどう結び付いているのかがわからないと、成長意欲が起こりません。トップの役割の1つは、会社が右肩上がりに発展する姿を見せ続けること。そこに1人ひとりが自分の生き方を重ねられる組織を作り上げたいです。

リーダー×一問一答

■経営者として一番大切にしていること
未来を右肩上がりにする理由を毎日作ること。健康管理。

■愛読の雑誌や書籍、Webサイト
山ほどありすぎて、いつも読まないといけない本が一杯の状態。

■日課、習慣
意味のある外食。

■今一番興味があること
自社の新業態。子どもの成長。

■座右の銘
Smile&Sexyとプロフェッショナルが自分物語、会社物語を創る。

■尊敬している人
小林佳雄(創業者)

■最近、注目している店舗・業態
スシローさん、マクドナルドさん、スターバックスさん。DX、ブランディング、CSRの取り組みなど、常に先を行っているから。

■COMPANY DATA
株式会社物語コーポレーション
愛知県豊橋市西岩田5-7-11
https://www.monogatari.co.jp/
設立:1969年
ブランド・店舗数:16業態・576店舗(国内外含む)
従業員数:約2万人(社員1,244人)

GON MEETING 2021 × 収益力向上セミナーに、加藤氏が登場!

 11月17日(水)、オンラインで開催される「GON MEETING 2021 × 収益力向上セミナー」に、加藤央之氏が登場予定。「これからの時代を生き抜く差別化戦略」をテーマに、コロナ禍でも結果を出し続ける企業戦略についてお話しいただく。

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※本記事の情報は記事作成時点のものであり、情報の正確性を保証するものではございません。最新の情報はご自身でご確認ください。

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