株式会社ワンダーテーブル 代表取締役社長 秋元 巳智雄 氏

今年10月にアメリカ・ニューヨークの人気店「ピーター・ルーガー・ステーキハウス」を出店した株式会社ワンダーテーブル。得意分野に特化したブランドの強化で会社を成長させてきた代表の秋元巳智雄氏に話を聞いた。

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得意分野に特化した戦略で、大切な人とつながる“豊かな食卓”を広げたい

――ご実家は15代続く地主とのこと。飲食業界へ入るきっかけは?

 私の両親は、先祖代々の土地でライフワークのように米や野菜を作っていました。大家族の食卓に並ぶのは、自家製の野菜を使った田舎料理。子どものころはその良さが分かりませんでしたが、今思えば、採れたての旬が並ぶぜいたくな食卓でした。野菜を卸す父に連れられ、市場にもよく行きました。生活の真ん中に食材があったことが、私の飲食人としての原点の一つかもしれません。

 大学生のとき、とにかく東京の銀座で働きたくて「プロント」1号店でアルバイトを開始。ちょうど、チェーン展開を始めた時期で、アルバイトながらフランチャイズの研修や新人トレーニングなどを任されていました。目標を達成するための戦術を真剣に考える中で、「経営者でなくてもリアルに商売を感じられる」という飲食業の面白さに魅了されていき、自分の天職だと確信しました。

 就職先は飲食店のプロデュースなどを手掛ける株式会社ミュープランニングアンドオペレーターズ。クライアント先の飲食事業のコンサルティングやブランディングを担当しました。一方で、独立願望が強かったこともあり、副業のようなかたちで友人と起業し、飲食店を数店舗経営しました。ところが、このプチ独立によって、自分には経営者としての力量が足りないことを実感。本当の実力を付けるために、スケールの大きな仕事ができる会社への転職を考えるようになりました。

1969年埼玉県生まれ。大学時代に東京・銀座の「プロント」1号店でアルバイトとして働き、大学卒業後、株式会社ミュープランニングアンドオペレーターズ(現・株式会社MYU)に入社。日本全国で飲食店のプロデュースやコンサルティングを手掛け、1997年株式会社ワンダーテーブルの前身である富士汽船株式会社に転職。飲食事業の拡大・成長に尽力し、2012年より現職。

――そこで、転職先に選んだのが富士汽船株式会社(現・株式会社ワンダーテーブル)だったんですね。

 はい。富士汽船の歴史は古く、もともとは海運業の上場企業でしたが、1990年中ごろに飲食業に参入。ミュープランニングのクライアントだったため、私も当時部長だった林祥隆氏(現会長)らによる事業をサポートし、ブラジルからのシュラスコ専門店「バルバッコア」の開業研修や「ベリーニカフェ」の業態開発などに携わってきました。その過程で、「この会社にはポテンシャルがある」と感じ、会社を大きくすることで自分も成長したいと転職を決めたんです。転職したのが1997年で、2000年にワンダーテーブルに社名を変更し、完全に飲食企業になりました。その後、2002年には林が社長に就任し、私は取締役として組織の中枢に立つことに。入社当時は、自分に実力がついたら数年で独立するつもりだったのですが、次第に考えが変わり、この会社を飲食業界のリーディングカンパニーにすることが、独立に勝る私の夢になりました。

 2000年代前半はイタリアン「ベリーニ」、和食店「すみか」やバー業態「月の兎」などの自社業態が好調で、2007年には年商113億円を達成。ところが翌年のリーマンショックで逆風に遭い、2010年には非上場化を断行せざるを得ませんでした。そんな中、再生とさらなる成長を託されるかたちで、2012年に社長に就任。まず、得意分野に特化する戦略に転換するため、ブランドの整理、絞り込みを行いました。私たちの得意分野とは、「高い専門性」「ユニークな体験」「高水準のホスピタリティー」です。これらが発揮できる場所や客層に特化し、20以上あったブランドを半分くらいまで絞り込むとともに、海外からも得意分野に合ったブランドを誘致。また、東日本大震災をきっかけに、リスクヘッジの一環としてしゃぶしゃぶ・すき焼きの専門店「モーモーパラダイス」などの海外出店にも注力し、10年間で9エリア83店舗を展開。国内外で増収増益を重ねて、2019年までは絶好調でした。

秋元氏が、当時コンサルタントとして開業研修に携わったシュラスコ専門店「バルバッコア」

――そんな中でのコロナ禍。この2年間をどう乗り越えたのでしょう。

 政府のコロナ対策は中堅以上の飲食企業が救われない構造になっているので、当社も赤字は避けられませんでした。ただし、海外事情には敏感だったので、いち早くパンデミックを予想し、先読みしてテイクアウトやデリバリー、ECなどに力を入れ、億単位を売り上げました。年商規模からすれば焼け石に水ですが、グループ組織には体力があったので、融資を活用しつつ自粛要請に応じながらもさまざまなチャレンジをスピーディーに行いました。

 有事のときこそ現場が自主的に動くことが大事。最も警戒すべきは、指示待ちになることです。何が正解かは誰にもわからないので、スタッフには私の決済をいちいち取らず、できること、やるべきことにどんどん取り組んでほしいと伝えました。ある店では自転車を買い、スタッフ自らデリバリーを始めました。シェフたちはおせち料理のテイクアウトを始めて好評を博し、今年はおせちのEC化を実現し全国に販売。こうした経験が必ず次の成長につながると考えています。

 今年10月、コロナ禍でオープンを延期していた「ピーター・ルーガー・ステーキハウス 東京」(恵比寿)の開業がようやく実現しました。アメリカ・ニューヨークの老舗ブランドである高級ステーキ店で、まさに当社の得意分野が凝縮された業態です。コロナへの対応として、1階の個室の一つをブティックに変更し、テイクアウトとデリバリーの拠点にしました。11月までは、サービスの水準を維持するために、206席のうち約7割で営業していますが、オペレーションの成熟度を上げ12月には全フロアで営業する予定です。お客様からの期待も高く、3カ月先まで予約で埋まっている状態なので、この期待値を上回るホスピタリティーで満足度を高めることが、今一番重要なことだと考えています。

コロナ禍でオープンを延期していた「ピーター・ルーガー・ステーキハウス 東京」。約500坪に200席以上を備えている。3カ月先まで予約で埋まる人気ぶりだ
  • 看板料理は「Tボーン・ステーキ」。代々受け継がれる目利き技術により厳選した牛肉を、手間暇かけて最適な状態でドライエイジし、こだわりの提供方法で仕上げる
  • コロナ禍でのニーズを考慮して、個室の数を減らし、生肉やステーキ、ハンバーガー、オリジナル商品などを購入できるようにしている

――人材の育成と組織づくりで重視していることは?

 この2年は、コロナの影響でなかなか十分に実行できていませんが、私が社員たちと昼食を取る「トップランチ」や、社員が集まって成功事例を共有する「ワンダーテーブルフォーラム」など、さまざまな取り組みを行ってきました。

 また、育成の入口である採用では、学歴・経歴や前職での実績よりも「ホスピタリティーのタネ」、つまり、おもてなしの精神を持っているかを重視。「感謝し・親切で・好奇心があり・飲食が好き」の頭文字を取って「か・し・こ・い」人を採用するようにしています。そこに、当社の企業理念や現場での経験、ブランド価値が浸透することで主体的に考え行動する人材に育つと考えています。実際、経営的な判断は私が行いますが、現場やブランドについては担当者が判断することも多くあります。失敗もありますが、試行錯誤を重ねてこそ人は成長するもの。社長が強いリーダーシップで細かく指示すると、短期的な売上にはなるかもしれませんが、人が育たず、未来につながりません。次世代のリーダーたちがしっかりと活躍できる組織づくりに力を入れています。

――今後の展開と展望について、教えてください。

 短期的には、既存店舗を早期に復活させると共にオープンしたばかりの「ピーター・ルーガー・ステーキハウス 東京」を大きく育てて、店舗単独で年商30億円を達成したい。同時にデリバリーブランド専門のキッチンを東京・元赤坂エリアにオープンし、当社のブランドを愛するお客様に自宅でも楽しんでいただくことに力を入れます。

 また、海外の店舗は国ごとの状況によって差がありますが、米国とアジアの一部では徐々に売上も回復してきています。今後も鍋料理の食文化があるアジア圏と、アジアンコミュニティーがある北米エリアへの出店を強化して、アジアの外食産業を牽引していきたいです。

 今年10月からが、飲食業界にとってウイズコロナのセカンドステージと捉えています。一方的に打撃を受けたファーストステージに対し、セカンドステージでは、コロナ感染の対策をしつつ経済活動が再開していく期間であり、しっかりと売上を回復させながら新たなビジネスモデルの構築が飲食企業にとっては必須となります。その次のステージとして、マスクのない生活や世界中の人が自由に行動できるアフターコロナと呼ばれるような状況になるのは、早くても1年後、長ければ3年くらいかかると考えています。

 そこで、現在、6年間の中期計画を立案中です。最初の3年間で復活と再生を果たし、次の3年間で飲食業界のリーディングカンパニーを目指します。私たちのミッションは「豊かな食卓を広げて、大切な人とつながりたくなる社会」を築くこと。レストランだけでなく「おうち時間」の食卓も豊かにできる企業に成長し、得意分野である「アッパーミドル層のプライベートニーズ」をしっかりと集めていきたいです。

リーダー×一問一答

■経営者として一番大切にしていること
会社成長や未来のために「新しい価値を創造する」ことと、社員を中心にステークホルダーに対する「説明責任」の2つ。

■愛読の雑誌や書籍、Webサイト
「日経新聞」「日経ビジネス」「ゲーテ」「プロフェッショナルマネージャー」「7つの習慣」。ジェフリー・アーチャーの著書。

■日課、習慣
毎朝の犬の散歩。朝と夜の長めの入浴。

■今一番興味があること
早く世界中を飛び回りたい。まだ行ったことのない国に行きたい。

■座右の銘
「疾風に勁草を知る」と「志のみ持参せよ」

■尊敬している人
両親。経営者では、佐治敬三氏(元サントリー会長)。

■最近、注目している店舗・業態
トレンド店舗はこまめにチェックしますが、当社の戦略は「トレンド」より「長く続く店」なので、「ピーター・ルーガー・ステーキハウス 東京」をもっと素晴らしい店、すごい店にして100年続く店にしたい。

■COMPANY DATA
株式会社ワンダーテーブル
東京都新宿区西新宿3-20-2 東京オペラシティタワー22階
https://wondertable.com/
設立:1946年
ブランド・店舗数:12ブランド・126店舗(国内44店舗・海外82店舗)
従業員数:約1,800人(社員259人)
※2021年9月末現在

※本記事の情報は記事作成時点のものであり、情報の正確性を保証するものではございません。最新の情報はご自身でご確認ください。

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