2022/02/15 特別企画

集客につながる!飲食店のマーケティング必勝法~吉野家CMOが語る成功ノウハウ~

マーケティングと聞くと難しいイメージを持つ人もいるかもしれないが、実は飲食店の集客を高める本質的な考え方だ。吉野家でマーケティングの最高責任者を務める田中安人氏に、今生きるマーケティング戦略を聞いた。

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目次
マーケティングとは「人の思考を変えて、行動を変えていくこと」
マーケティングの第一歩は、「パーパス」を削り出すこと
企画・メニュー開発のポイントは、①「Who?」を意識し、②「パーパス」を盛り込む
情報発信では“ナラティブ”がポイント。SNSを積極的に活用して拡散を
リサーチと課題の分析は、統計データと『N1』をバランスよく活用するのが◎
コロナ禍でのマーケティング戦略のポイントは、「競争から共創へ」「ファンとともに生きる」

コロナ禍でもマーケティング戦略の本質は同じ。自店が「なぜ」存在し、「誰を」ターゲットにしているかを明確にすれば、課題と解決策が見えてくる!

 マーケティングとは、何も難しいデータ分析だけを指す言葉ではない。企画や商品開発、情報発信など、あらゆる分野において「消費者の思考を変え、行動を変えるために行うこと」がマーケティング戦略の本質だ。その実現のためには、自分たちの店や企業の存在意義と、誰を相手にビジネスをしているかを明確にする必要がある。こうした方法論について、株式会社吉野家でマーケティングの最高責任者であるCMO(チーフ・マーケティング・オフィサー)を務める田中安人氏に話を聞き、チェーンだけでなく個店でも実践できるマーケティングのノウハウや考え方について語ってもらった。

株式会社吉野家 CMO(チーフ・マーケティング・オフィサー) 田中安人(たなか やすひと)氏
大学卒業後、1989年ヤオハン・ジャパンに入社し、経営企画を担当。ヤオハン倒産後、1998年~広告制作会社(マーケティングディレクター)を経て、2009年に吉野家グループのはなまるへ。同年株式会社グリッド設立。2016年から吉野家CMOに。株式会社グリッドCEO、公益財団法人日本スポーツ協会ブランド戦略委員会委員。フェアプレイ委員会選考委員長。帝京大学ラグビー部OB会初代幹事長として大学選手権9連覇の強さの秘密を解き明かした書籍「常勝集団のプリンシプル ~自ら学び成長する人材が育つ心のマネジメント~」を企画・編集。

マーケティングとは「人の思考を変えて、行動を変えていくこと」

 マーケティングというと、専門知識がなければ難しい、と考えてしまう飲食店経営者も少なくないはず。しかし、田中氏は、「難しく考える必要はありません」と断言する。

 「私が考えるマーケティングは、『人の思考を変えて、行動を変えていくこと』。そして、それが売上につながることです。例えば、おいしいラーメンを作っているのに、お客様が来ないと嘆いているラーメン店があったとしましょう。なぜ、お客様が来ないかというと、その店においしいラーメンがあることが知られていないから。そこで、消費者の思考を変えて来店という行動につなげるために必要なのが、マーケティングといえます」(田中氏)。しかし、店や商品のプロモーションを行っていても、来店につながらないという店も多いはず。その理由は、誰に伝えたいかがあいまいだったり、消費者心理を無視した独りよがりなプロモーションになっていて、伝えるべき人に伝えるべき情報が届いていないからだ。

 では、プロモーションも含めて効果的にマーケティングを行うには、何が重要になるのだろうか。そのポイントについて、田中氏は以下の4つのステップを提示する。

①「Why?=なぜ経営しているか」を明確にする。
②「Who?=誰に向けて訴求しているのか」を考えて企画立案や商品開発を行う。
③受け手の心に響き思わず誰かに伝えたくなるようなストーリーとともに情報発信をする。
④統計データ分析とお客様とのリアルなコミュニケーションの両方から課題を探り、トライ&エラーで課題を改善していく。

「この4つは、吉野家でも実際に取り組んでいることで、個人の飲食店さんでも実施できるマーケティングの方法だと思います」(田中氏)。では、具体的にそれぞれのステップを行う上でのポイントを見ていこう。

■まとめ(1)
・マーケティング=「人の思考を変えて、行動を変えていくこと」

・マーケティングの4つのステップ
①「Why?=なぜ経営しているか」を明確にする。
②「Who?=誰に向けて訴求しているのか」を考えて企画立案や商品開発を行う。
③受け手の心に響き、思わず誰かに伝えたくなるようなストーリーとともに情報発信をする。
④統計データ分析とお客様とのリアルなコミュニケーションの両方から課題を探り、トライ&エラーで課題を改善していく。

マーケティングの第一歩は、「パーパス」を削り出すこと

 まず、最初のステップが「Why?=なぜ経営しているか」を明確にすること。それはつまり、自分の会社や店は、何のために存在するのかを考えるということだ。「企業や店舗の存在意義のことを『パーパス(Purpose)』と言いますが、これがマーケティングにおいて最も重要な要素だと考えています」と田中氏は語る。

 パーパスを明確にし、それを軸にマーケティングを行うことでブランディングにつながり、消費者への訴求力も高まっていく。「パーパスは作るものではなく、経営者や創業者の内面に眠っているものを削り出す、というイメージを大切にしていただきたいです。成功している人の真似をしたり、誰かのアドバイスを受けて作り上げるのではなく、経営者が自分自身と向き合って、なぜ飲食業をしているのかについて考え抜いた先に見えてくるもの、ということです」(田中氏)。

 パーパスを考える場合、まず自社や自店を見つめ直し、自分たちの唯一無二のものは何かを考えるのがポイント。「おいしさ、サービス、立地、オーナーの考え方など、何でもよいので掘り下げていくと、自分たちの提供価値やブランドポジションが明確になり、その先に、理念や企業姿勢が浮かび上がってくるはずです」と、田中氏は語る。

 吉野家の場合、「For the People=すべての人々のために」という企業理念と、「牛丼を生み出した会社」という企業の成り立ちの中にパーパスがあるという。田中氏がCMOとして吉野家に入った2016年当時、吉野家のパーパスを明確に感じ取ったエピソードがあるという。「吉野家は大きな災害があると、いの一番に無料で牛丼を配りに被災地に駆けつけます。その理由を社員に聞いて回ったところ、多くの人から返ってきたのが『日常食を途絶えさせてはいけないから』という言葉でした。その言葉を聞いたとき、普段から24時間営業で牛丼を提供し、災害のような非常事態には、“日常の食”として牛丼を届けに行くのだと腑に落ち、そこにパーパスがあると感じたんです」(田中氏)。

 このように、経営者自身や会社・社員の内側を見つめることで、“自社・自店の存在意義”が見えてくるはず。こうして誕生したパーパスが、マーケティングにおけるあらゆる施策の軸になっていくのだ。

■まとめ(2)
経営者が自分自身の中からパーパス(企業や店舗の存在意義)を削り出すことが重要

「Why?=なぜ経営しているか」が明確になり、それがマーケティング施策の軸になる

企画・メニュー開発のポイントは、「Who?」を意識し、「パーパス」を盛り込むこと

 パーパスが明確になったら、それを幹にマーケティングの(=人の思考を変え、行動を変えるための)施策を具体的に進めていこう。飲食店にとって、消費者に「あの店に行きたい」と思わせるマーケティング施策の1つが、来店の動機になる販促イベントなどの企画や、看板メニュー・新メニューなどの商品開発だ。田中氏は、こういった施策において2つのポイントが重要だと語る。

 「一番大事なのは、その企画や商品が『Who?=誰』に向けたものなのかです。性別や年代、ターゲット層(ファミリー、ビジネス層など)、既存顧客か新規顧客か、どのエリアに住んでいる(または勤めている)人かなど、具体的にしておくことが重要。それによって、企画や商品の内容はもちろん、情報発信に使うツールやアピールするポイントも変わってくるからです」(田中氏)。一方で、よくある間違った進め方が、「Who?」を意識せずに、「What?=何を」ばかりに気を取られて、企画や商品を作ってしまうことだという。「例えばラーメン店で、いくら店主が食材にこだわって『おいしい』と思って提供していても、ターゲットが明確でなかったり、メインの客層を意識していないと、実際の客層が求めているものとミスマッチが起こって、満足度は上がらず、再来店にもつながりにくいです」(田中氏)。加えて、もう1つ重要なのが、パーパスを企画や商品に盛り込むこと。このポイントを忘れて、自分たちの強みや理念に合致しない企画やメニューを提案しても、店のブランドイメージに合わず、来店客の心に響きにくいものになってしまうという。

 実際に田中氏も、吉野家におけるマーケティング施策の中で、「Who?」や「パーパス」の大切さを実感したという。「ライザップさんとのコラボで、サラダの開発を進めていたときのことです。ヘルシー感を前面に打ち出した『ライザップサラダ』というネーミングの商品開発を進めていたのですが、ふと『お客様は吉野家に何を求めて来店されるのか』と、立ち止まって考えたんです。そして『牛肉をお腹いっぱい食べるため』という答えが出たことから、牛肉を加えて『ライザップ牛サラダ』として打ち出したことで、ヒットを記録しました。ライザップの厳しい基準をクリアしたサラダ、というだけでは、吉野家が出す意味がありません。そこに吉野家の牛肉が食べられるという価値(パーパス)が加わることで、消費者の行動を変えることができる商品になったと思います。もし、『ライザップサラダ』のままだったら、それほどヒットはしなかったでしょう」と田中氏は振り返る。

 また、以前、吉野家の会長や社長が好む吉野家の牛丼のこだわりの食べ方をメニュー化した「俺の吉野家」という企画を打ち出したが、あまり盛り上がらずに終わったという。「これは今思えば『Who?』の意識が足りていなかったためだと分析しています。吉野家に来るお客様の多くが、それぞれに自分が好きな食べ方を確立しているため、ほかの人の食べ方を提案されることに、そこまでの魅力を感じなかったのだと思います」(田中氏)。

■まとめ(3)
・企画やメニュー開発をする際のポイント
①「Who?」を意識することで、自店の客層とのミスマッチを防ぐ
②「パーパス」を盛り込むことで、ブランディングの軸をぶらさない

情報発信では“ナラティブ”がポイント。SNSを積極的に活用して拡散を

 こうして開発した企画やメニューも、正しく効果的に情報発信ができなければ消費者の行動変容にはつながらない。ここでマーケティング戦略としてポイントとなるのが、「ナラティブ(narrative)」というアプローチを取り入れること。「ナラティブ」とは、消費者が共感しやすいストーリーにのせて発信することで、消費者に自分ごととして捉えてもらい、行動変容につなげるというもの。企業が自分たちの伝えたい情報だけを、自社の商品を主語にして発信しても消費者の行動変容にはつながりにくい、という考え方から生まれたアプローチだ。

 「『人の思考を変えて、人の行動を変える』ためには、共感を生むことが大切。例えば、自店のラーメンの情報を発信する際、食材や作り方のこだわりを説明しても、『すごいですね』で終わってしまいかねません。しかし、例えば、『僕は子供の頃は貧乏だったけれど、お母さんがお金がないなかでも健康に気を配って作ってくれた料理で大きくなれた。だから、人の体に害のない健康的なものを作ろうと素材を吟味して作っています』と伝えたら、共感や感動を覚える人もいると思います。そして、ほかの人にも伝えたくなる。これがナラティブです」と田中氏。ただし、ナラティブはパーパスが根源にあることが重要。「取り繕ったうわべだけのストーリーでは共感は得にくい」と、田中氏はくぎを刺す。

 また田中氏は、「今は、SNSという強い媒体があるので、感動したお客様は情報を拡散してくれます」と、SNSの積極的な活用を推奨する。「パーパスを理解している従業員に、自分自身で感じたことやおすすめメニューの写真などを、SNSで発信してもらう、というのも一案です。あるいは、SNSへのお客様の投稿に、こまめに返信するのも効果的。吉野家でも、SNSとテレビCMを組み合わせることで、持続性のある集客効果が得られるという結果が出ており、SNSはコストをあまりかけなくてもできるマーケティングツールとして今後も重要だと考えています」(田中氏)。

■まとめ(4)
・情報発信のポイント
①消費者が共感しやすいストーリーにのせて発信する“ナラティブ”を意識
②消費者が共感や感動を拡散しやすいSNSを最大限活用すべし

リサーチと課題の分析は、統計データと『N1』をバランスよく活用するのが◎

 実際に企画や商品を打ち出し、情報発信をしたら、リサーチをして現状を知り、効果や課題を分析して改善につなげることが重要だ。田中氏はデータ分析と並行して、顧客のリアルな声を聞く「N1」(特定の1人の顧客の価値観を徹底的に分析する手法)に重きを置いている。

 「顧客データの集計やABC分析なども重要ですが、それ以上にN1を重視しています。吉野家は全国に店舗があり、地域や立地による差もあるので、数値を平均化したデータからは読み取れないニーズも多く、リアルなお客様1人の声が課題解決のヒントを与えてくれることが少なくないからです」(田中氏)。田中氏がN1の意義を実感したエピソードとして、スターバックスコーヒーを利用する女子高生の例をあげてくれた。「よく女子高生がInstagramにスターバックスの商品写真を投稿していますが、『彼女たちは、単価の高いスターバックスに頻繁に行けるほどお金を持っているのか」と以前から疑問に思っていたんです。そこで、直接、お店に行って女子高生たちに話を聞いてみると、スターバックスには週1回だけ、Instagramに写真をアップするために来ており、普段は安いカフェを利用しているとのことでした。こういったお客様の来店状況や実態は、データでは読み取りにくく、N1で直接話を聞いたからこそ得られた情報だと思います」(田中氏)。

 N1は個人店でも簡単に実施できるという。手当たり次第に話を聞く必要はなく、意見を集めたいターゲットは主に以下の3つの層。

1.常連顧客
2.新規顧客
3.離反顧客

 この3パターンに分類し、それぞれが自店に対してどんな意見を持っていたかを集めるのがポイントだという。「そうすると、自店の価値や課題、売れる理由、売れない理由が見えてきて、競合や自店の立ち位置も明確になり、解決策も見えてくるはずです」と田中氏は言う。

■まとめ(5)
・リサーチと課題の分析のポイント
顧客データなどの分析と合わせて、N1(特定の1人の顧客の価値観を徹底的に分析する手法)を使い、
1.常連顧客
2.新規顧客
3.離反顧客
による自店に対する意見から課題や解決策を探る。

コロナ禍でのマーケティング戦略のポイントは、「競争から共創へ」「ファンとともに生きる」

 コロナ禍で人の価値観も生活様式も大きく変わった。「アフターコロナにおいても、変容した価値観や生活は継続され、それに合わせた戦略が必要になる」と、田中氏は話す。

 「今までは『競争』の時代でしたが、今後は『共創』が社会的キーワードになると考えています。吉野家でも昨年、『#外食はチカラになる』という外食企業横断プロジェクトを実施しました。苦しい時だからこそ、外食が一致団結しようとお声掛けしたら、約2万店が集まってくださった。ここまで大がかりでなくても、似たようなパーパスを掲げる企業とコラボする、あるいは地域や商店街で同業者のほか、業種の垣根を越えてコラボするなど、いろいろな方法が考えられます」(田中氏)。また、コロナ禍で明確になったのがファンの重要性だ。吉野家では、これまで真摯に来店客に接してきた結果、コロナ禍でその信頼が、テイクアウトや通販の売上を生み出した。

 こうしたコロナ禍を生き抜くためのポイントを踏まえつつ、田中氏が掲げるマーケティング戦略のキモである、
①「なぜ経営しているのか」
②「誰に向けて訴求するのか」
③「人の心に響くストーリーは何か」
④「来店客一人ひとりがどんな意見を持っているか」
を意識してさまざまな施策を実践することで、集客アップの糸口が見えてくるかもしれない。