2022/05/06 繁盛の法則

一品料理と酒類、シメのそばで固定客を増やすそば居酒屋とは

東京・代々木上原にあるそば居酒屋「手打ち蕎麦と和食 楽」は、自家製粉による手打ちそばや、多彩な料理と酒が売り。コロナ禍での状況の変化にも柔軟に対応して集客に成功している。

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手打ち蕎麦と和食 楽

Key Point

  1. 自家製粉を用いた手打ちそばを提供
  2. 多彩な料理と酒類で居酒屋利用を誘引
  3. コロナ禍での状況に柔軟に対応

人気そば店で店長を経験し、高級住宅街に近いエリアで開業

 東京・池尻大橋の人気そば店「東京土山人(どさんじん)」の店長を13年間務めていた長濱大(ひろし)氏が、2019年3月末に退社して独立開業の準備を進め、2020年5月から東京・代々木上原で「手打ち蕎麦と和食 楽(らく)」の営業を開始した。退社時には予想もしなかったコロナ禍に見舞われ、2020年春の緊急事態宣言下でのオープンとなってしまったが、落ち着いた雰囲気の中で和食とそばを楽しめる店として、地元の熟年夫婦を中心にリピーターを増やしている。

 当初は15~24時で営業し、料理とアルコールの後にそばでシメてもらう、という利用シーンを想定していた。しかし、感染状況に応じて要請される営業時間の短縮や酒類提供の規制などを遵守するために、ランチタイムからの通し営業を続けている。

 長濱氏は1981年神戸出身で、もともと車やバイクが好きだったことから、整備士養成の専門学校に進学。しかし、好きなことでも仕事となると思い通りには行かないこともあるというギャップに気付き、卒業後は整備士の職には就かず、2001年から神戸市内の飲食店でアルバイトを始めた。その店舗が程なく遠方に移転することになったため、長濱氏は知人の紹介を得て兵庫・夙川(しゅくがわ)の「馳走侘助(ちそう わびすけ)」に入った。「馳走侘助」は芦屋に本店があるそばと和食の「土山人」のグループ店で、長濱氏はこの店で料理の基礎から、そば打ち、そば粉の製粉まで一から学んだ。また、スタッフの自主性や創造力を尊重する土山人グループの企業風土も性に合い、新メニューを考案して採用してもらえることも多く、飲食業に面白さややりがいを見出していった。グループ内での評価も上がり、2007年の東京進出時にはオープニング店長に抜擢されるまでになった。

右が「つまみ盛り合わせ」(1,650円)で、手前中央がローストビーフ、以下時計回りに、鯛の卵、蒸し鶏とキュウリの山椒風味のバンバンジー、ウニのソースをかけたポテトサラダ、菜の花と子持ち昆布のお浸し。左が「自家製カラスミそば」(1,980円)で、冷たいそばの上に、削った自家製カラスミをたっぷりとかけたもの。10~12月に入手できるボラの卵巣を塩漬けにし、干し固めて作るカラスミは、この時期に30kgほどを仕込み、なくなり次第販売を終了する。酒肴としても、最後のシメとしても楽しめる

季節感のある料理に合わせ、日本酒、自然派ワインに注力

 その後、独立開業を決めた長濱氏は、飲食業の先輩や知人のアドバイスを聞きながら、慎重に物件探しを開始。紆余曲折の末に見つけたのが、小田急線代々木上原駅から徒歩2分ほどのビル3階にある25坪の現物件で、2020年1月初めに契約した。その数週間後から新型コロナウイルスのニュースが出始め、改装工事にも遅れが生じ、3月上旬に予定していたオープンが5月中旬にずれ込んでしまった。外出自粛が強く求められていた時期だったため、知人にだけ開店を知らせ、6月末まではひっそりと営業し、7月からようやく一般客の受け入れも開始した。

 内装は、入居前に営業していたスペインバルの雰囲気から一新し、オープンキッチン前にしつらえたアフリカ原産のアサメラの一枚板のカウンターに9席、4人掛けテーブル2卓、半個室に6人掛けテーブル2卓を設け、計29席をゆったりと配した。

 そばは、北海道から九州まで約20都道府県の生産者や製粉会社から良質なそばを丸抜き(玄そばを割らず、殻だけを取り除いた状態)で仕入れ、店内の石臼で製粉し、小麦粉1割を加えて手打ちする。ランチ限定の「昼御膳」(2,750円)、夜限定の「おまかせ」(4,400円)などのコースもあるが、それ以外の単品メニューは昼も夜も共通で、客単価は昼1,800円、夜6,000円。酒類は3カ所の酒販店から吟味して仕入れており、主力の日本酒は常時約20種をそろえている。最近はワインの出数も増えており、自然派ワイン約10種を選んでいる。従来は赤2種、白8種としてきたが、今年は黒ブドウを白ワインのように醸造するロゼと、白ブドウを赤ワインのように醸造するオレンジワインのラインナップに力を入れる考えだ。

 「手打ちそばを前面に押し出すというより、居酒屋的に料理とお酒を楽しんでもらい、最後にそばでシメたり、2軒目、3軒目に寄っていただけるような店にしたいというのが当初からのコンセプト。そこは今も変わってはいないのですが、コロナ禍で生活リズムそのものが前倒しになっているので、2軒目、3軒目使いはなかなか難しい状況です。とはいえ、近隣からのお客様がほとんどで、週に2~3回来てくださる方も多いので、旬の素材を使った料理や、季節の土鍋ご飯など、そば以外のシメのメニューも試作しています」と長濱氏。

 同店がコロナ禍でのさまざまな制約を受けながらも、着実に地元での存在感を高めている要因は、以下のようになるだろう。

  1. 自家製粉による手打ちそばという核となる商品を持っている。
  2. 季節感のある一品料理と吟味した酒類で居酒屋利用を誘引している。
  3. コロナ禍での状況に対応しながら柔軟に工夫を重ねている。

 コロナ禍に加えて長濱氏が直面したのは、築60年ほどのビルで起きた、厨房エリアから階下への原因不明の水漏れだった。2021年5月ごろから断続的かつ不規則に起きるようになった水漏れに対し、家主や2階のテナントのオーナーとともに対応策を検討した。長濱氏は縁あって入居した物件であり、良好な人間関係、信頼関係を保ちたいという思いから、2021年10~12月に厨房の床をはがし、防水層から作り直すという補修工事を行い、費用も全額負担した。できる限りのことはしたという思いと、12月中旬から営業を再開すると、すぐに常連客が戻ってきてくれたことも、今後の営業への自負につながっている。

 「営業時間など、当初の予定とは違ってしまっている部分もありますが、コロナ禍だから良くないと言い訳するのは違うのかなと思います。そういう意味では、今は力を付けていくにはいい時期ではないかと思っています」と、長濱氏は前向きな姿勢を貫いている。
(Text and photo by Food Biz

手打ち蕎麦と和食 楽
住所
東京都渋谷区西原3-2-4 フロンティア代々木上原3F
TEL 070-7781-8950
営業時間
11:30~23:00(LO. 22:00)(変更の場合あり)
定休日
月曜日、第2・4火曜日

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