「丸亀製麺」の価値“手づくり、できたてを目の前で”を世界に!~株式会社トリドールホールディングス 代表取締役社長 兼 CEO 粟田 貴也 氏

兵庫・加古川で焼き鳥居酒屋を創業した株式会社トリドールホールディングス 代表取締役社長 兼 CEO 粟田 貴也 氏。「丸亀製麺」の開発ストーリーから、コロナ禍での戦略、海外事業を含めた今後の展望などを聞いた。

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目次
大学時代の喫茶店でのアルバイトがきっかけで飲食の道へ
焼き鳥居酒屋で独立。競合が取れていないニーズを獲得し徐々に経営が安定
父親の郷里・香川で見た衝撃の光景が「丸亀製麺」誕生のきっかけに
コロナ禍で「うどん弁当」がヒット。海外の外食企業との提携も着々と形に
夢は外食のグローバルカンパニーとして世界のトップに立つこと
「リーダー×一問一答」&「COMPANY DATA」

世界5,500店を2028年3月期に達成し、外食のグローバルカンパニーになる!

 兵庫・加古川で焼き鳥居酒屋「トリドール三番館」を創業した株式会社トリドールホールディングス 代表取締役社長 兼 CEO 粟田 貴也 氏。その後、父親の郷里である香川で見たうどん製麺所の行列に衝撃を受け、“手づくり、できたてを目の前で”というブランド価値にこだわった「丸亀製麺」を2000年に初出店。これが大ヒットし、一躍大手外食企業の仲間入りを果たした。そんな粟田氏に、これまでの歩みと、コロナ禍で打ち出した「うどん弁当」の戦略、2022年3月に米麺の専門店として日本初上陸を果たした「譚仔三哥(タムジャイ サムゴー)」をはじめとした、海外ブランドとの提携を含め、今後の展望を聞いた。

――大学を中退して経営者を目指されたそうですが、飲食業を選んだ理由を教えてください。

 経営者になりたいと思ったのは、10代前半で父親を亡くしていたこともあり、シンプルに裕福な生活への憧れが強かったからです。大学では夜間に籍を置いて、昼間はいろいろなアルバイトをしました。その一つが喫茶店で、ここが私にとって飲食業を目指すきっかけとなる場所になりました。

 それまでの私は、「働く」ということは自分の時間を切り売りすることで、しんどい思いを我慢する対価として給料をもらうという考えでした。ところが、喫茶店ではお客様に「ありがとう」と言われ、自分が工夫すると、お客様が喜び、ファンが増えていく。そういう体験を日々重ねる中で、初めて働くことが楽しくなり、「飲食業は天職かもしれない」と思うようになりました。

 その後は、「早く自分の店を持ちたい」という思いから、開業資金を貯めるために大学も喫茶店も辞めて、給料の高い運送トラックの運転手として働きました。このとき、会社の独身寮で暮らしていたのですが、寮の近くに毎晩、屋台の居酒屋が来ており、毎日のように通っていました。屋台を営む夫婦と話をしながら、「こんなふうに来る人に安らぎを与えられる店、カウンター越しにスタッフとお客さんが会話できる居酒屋がいいな」と思うようになりました。

1961年、兵庫・神戸生まれ。神戸市外国語大学を中退し、1985年に焼き鳥居酒屋「トリドール三番館」を創業。2000年には父親の故郷・香川県の讃岐うどんの人気をヒントに、「丸亀製麺」を開業。その後も多業態を展開し、海外にも進出。M&Aなどで事業規模を拡大している。

【居酒屋の独立・開業をお考えの方はこちらをチェック!】
居酒屋を開業するには? 開業までの流れと、成功と失敗のポイントを解説!

――1985年、23歳のときに独立されますが、創業1号店はどんな店だったのでしょうか。

 兵庫・加古川市内の路地裏に妻と2人で、焼き鳥がメインの居酒屋「トリドール三番館」をオープンしました。焼き鳥をメインにしたのは、トラック運転手時代に通っていた屋台が焼き鳥をメインにしていたから。焼き鳥の調理は開業前の1年間、焼き鳥店で働いて学びました。ただ、業態のコンセプトや出店する立地など、深く戦略を練っていたわけでもなかったこともあり、最初は全くお客様が来ませんでした。そこで「集客力を上げるためには、他の店と同じことをやっていてもだめだ」と、周囲の競合店がやっていなかった深夜営業を始めたんです。すると、仕事帰りの同業者などが入れ代わり立ち代わり来店するように。客単価は低かったですが、閑古鳥が鳴いているよりははるかに幸せでした。

 このころは何とか食いつないでいる状況で、いろいろな店に出かけては集客の方法を探っていました。そんな中で注目したのが女性の取り込みです。当時の居酒屋は来店客の多くが男性でしたが、一部のチェーン店では女性をターゲットにした取り組みを始めていました。そこで、店に来る同業者に相談して、バーテンダーをやっている人にカクテルの作り方を教わったり、洋食の料理人からオムレツの巻き方を教わるなどして、女性が好むメニューを増やしたところ、徐々に女性の来店も増えていきました。

 今、振り返ると、他店に先んじて新しいニーズを取り入れることで事業が少しずつ軌道に乗ったような気がします。ただ、決して戦略的な経営というわけではなく、当時は生きるためにどうするかを必死に考えて実行していただけ。元気と勢いだけの焼き鳥店の“あんちゃん”でした。

創業店は焼き鳥居酒屋の「トリドール三番館」。創業当時の看板が本社に飾ってある

――その後、居酒屋業態を中心に店舗展開を進めていく中で、2000年に1号店を出した「丸亀製麺」が大ヒットします。出店の経緯を教えてください。

 1990年代の半ばごろには経営が安定してきたこともあり、徐々に上場の準備を始めていました。そんな中、父の郷里である香川県を訪れたのですが、そこでうどんの製麺所に長い行列ができているのを見て、衝撃を受けたんです。決して人口の多くない地方都市の民家の軒先のような場所に、うどんを食べるために全国から人が集まってきている。一方で私たちは人口の多い都市部で、空間や接客などにこだわり、いろいろな努力をしていても、ここまでの行列を作ることはできていない。その事実にショックを受けると同時に、この製麺所の何がこんなに人を引き付けるのかを考えました。行列を作っている製麺所は、打ち立てのうどんを目の前でゆがいて、熱々で提供しているだけ。この「打ち立て」「できたて」を「目の前」で提供するというシンプルなスタイルこそ、お客様が求めているものなのではないかと仮説を立てたんです。

 この仮説を実証するために、上場に向かっていた会社の路線はそのまま継続し、兵庫・加古川に実験的に出店したのが「丸亀製麺」1号店でした。香川で見た製麺所と同様に、店内で製麺するスタイルで、お客様が注文してから商品を受け取るまでに調理の過程が見られるように、調理場をぐるっと囲むような動線を作りました。「手づくりであること、できたてであること、それを目の前で体感できること」という、香川で見つけた“繁盛のセオリー”が正しいかどうかを確かめることが出店の目的で、全国に店舗展開するような業態に成長するとは夢にも思っていませんでした。

 結果的に「丸亀製麺」は1号店で予想以上の成功を収め、現在も着実に店舗展開を進めていますが、その時から今に至るまで変わらないのが、「手づくりであること、できたてであること、それを目の前で体感できること」というブランド価値。この非効率な価値を信じて、ついて来てくれた社員には本当に感謝しています。その後、偶然ハワイで見つけた物件に一目ぼれして海外出店を即断し、2011年に出店しました。もともと海外進出など考えてもいませんでしたが、物件を見た瞬間に、そこでうどんを打ち、ゆでるスタッフの姿と、行列を作る外国人の姿がイメージできたからです。実際に出店後は日本の店以上の盛況ぶりで、現在も行列ができる繁盛店です。ハワイ店の成功によって、「丸亀製麺」の価値が世界でも通用することが証明されたと感じました。

 こうして海外にも徐々に出店するようになったことで、海外の外食市場への可能性を強く感じるようになっていきました。日本の外食市場はすでにピークアウトしていますが、世界はこれからもっと大きくなります。そこで、2015年ごろから海外企業とのM&Aを本格化させていきました。中国や欧米などに「丸亀製麺」を出店すると同時に、現地で行列を作っている店を見つけると、すかさず飛び込んで、業務提携の可能性を探りました。うどんに限らず、並んでまで食べたいと思われている料理には必ずお客様を引き付ける何かがある。その価値を日本はもちろん、さまざまな国に広めることで、当社もさらに成長できると考えたんです。

香川県で大行列を作っていたうどん製麺所をヒントに、“打ち立て”“できたて”を“目の前で”提供するスタイルを追求したセルフうどん業態「丸亀製麺」を出店。これが大ヒットし、会社の主力業態に成長した

――着実に事業規模を拡大する中で直面したコロナ禍には、どのように対応したのでしょうか。

 2020年4月に国内の売上が半減したときは、さすがに不安も募りました。その中で光明となったのが、2021年4月に販売を開始した「うどん弁当」です。テイクアウトは実績も経験値もほとんどありませんでしたが、イートインと同じく、お客様の目の前で詰め、できたてをお渡しするスタイルがニーズを捉え、1年間で2,000万食を売りました。

コロナ禍では「うどん弁当」(390円~)をテイクアウト向けに販売したところ、1年間で2,000万食を売り上げた

 一方、海外の店舗は、何カ国も拠点があったことでリスクが分散され、どこかの売上が落ちても、どこかがカバーしてくれ、特別な対策を取らなくても持ちこたえることができました。同時に、店舗展開も進めており、今年3月、東京・新宿にオープンした「譚仔三哥(タムジャイ サムゴー)」もその一つです。これは香港で人気の米麺の店で、運営会社の「Tam Jai International.Co.Limited.」が2021年10月に香港市場で上場を果たすなど、少しずつ準備を進め、日本へも出店しました。今後は日本のみならず世界各国への店舗展開も予定しています。ほかにも、シンガポールの人気カレー店「MONSTER CURRY」など、ハラル認証を取得したブランドもあり世界展開を計画しています。

今年3月、東京・新宿にオープンした「譚仔三哥(タムジャイ サムゴー)」。「まだ日本語に訳せないウマさ。」をキーワードに、香港で絶大な人気を誇る米線「ミーシェン」を提供。大きな話題を呼んでいる
さまざまな素材やスパイスを調合した 6種類のオリジナルスープと10段階の辛さ、 新鮮な肉や野菜など、好きな具材を組み合わせて自分だけの味を作ることができる。写真は、「マーラースープ」(610円)に「油揚げ」(90円)、「牛赤身肉」(190円)、「ベビーホタテ」(110円)、「えのきだけ」(90円)、「にら」(110円)、「もやし」(90円)、「鶏むね肉」(150円)をトッピングしたもの(計1,440円)

――今後の目標と展望を教えてください。

 目標はグループ全体で2028年3月期までに国内1,500店、海外4,000店、合わせて5,500店を達成すること。基盤となる国内事業も大事ですが、これからは海外、特にアジア圏やイスラム圏に伸び代があると考えています。そして成長の先には、外食のグローバルカンパニーとして世界のトップに立つ、という大きな夢もあります。

 ただし、当然この夢は私1人の力ではかなえられません。常に総力戦ですし、M&Aによって他社との連携も重要になってきます。多くの人と企業の力を借りて成長を続け、次の世代の人たちに「飲食業は面白いビジネスだ」と思ってもらえるよう、力を尽くしていきたいです。

リーダー×一問一答

■経営者として一番大切にしていること
創業より一貫して「飽くなき成長」を信条として、小成に甘んじることなく突き進んできた

■日課、習慣
早朝のジョギング

■今一番興味があること
自社の業績

■座右の銘
念ずれば花開く

■尊敬している人
世の成功者は全て尊敬している

■最近、注目している店舗・業態
業務スーパー。「食のSPA」として、独自の分野を切り開いている。“衣“のユニクロ、“住“のニトリに次ぐ存在に見える

■COMPANY DATA
株式会社トリドールホールディングス
東京都渋谷区道玄坂1-21-1渋谷ソラスタ 19階
https://www.toridoll.com/
設立:1990年
ブランド・店舗数:約20業態 1,725店舗(国内外含む)※2022年5月末時点
従業員数:13,463人(社員4,928人)※2022年3月時点

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