目次
・ゼットンを創業する稲本健一氏と学生時代に出会い、飲食の道へ
・店長としてぶつかった壁と、突破口となったマネジメントの極意
・社長の座を意識するきっかけとなった稲本氏の一言
・飲食業のノウハウを生かした「公園再生プロジェクト」
・株式会社アダストリアのグループに入り、新たなシナジー創出へ
・「リーダー×一問一答」&「COMPANY DATA」
飲食が持つ潜在力を駆使し、枠に捉われない新しいビジネスモデルを!
90年代後半からマルチブランド戦略で注目を集めた株式会社ゼットン。2016年に創業者の稲本健一氏から代表を引き継いだ鈴木 伸典 氏。飲食事業のノウハウを活かし、公園プロデュース事業を進める彼に、今後の展望などを聞いた。
――岐阜の縫製工場の3代目としてお生まれです。なぜ飲食業界に入ったのでしょうか。
子どもの頃から「経営者になる」と漠然と思っていました。商売人の一家なので、夕食の食卓が会社の会議のようでした。財務や人員配置について、家族が話し合っているのを聞きながら育ったことが、ベースにあったと思います。
飲食業との出合いは、大学時代に通っていた名古屋のバー。そこのバーテンダーが、後に株式会社ゼットンを創業する稲本健一で、彼に誘われてバーテンダーのアルバイトを始めました。お客様にはアッパーな方が多く、とても刺激的な毎日で、人脈が広がるのもうれしかったですね。
ただ、卒業後に飲食業界に進む気はなく、当初は司法書士を目指していました。しかし、勉強に身が入らず、ほかに目標もないまま、就職浪人の2年目を迎えていました。そんな中、すでにゼットンの社長として1号店のレストランバー「ZETTON」(愛知・名古屋)を出店していた稲本から「うちに来い」と言われたんです。バーテンダー時代の楽しい記憶もあったのでうれしかったですが、一方で飲食業で身を立てる気はなかったので、腰掛けのつもりでアルバイトとしてゼットンに入社しました。まもなく社員になり、2年後には2号店「ゼットン オデオン」(愛知・名古屋)の店長を任されたのですが、このときでさえ、飲食業を続ける気は1ミリもなく、いつ辞めようかと考えていました。それでも辞めずに続けられたのは、人の縁を切りたくなかったからです。バーテンダー時代からの人脈、ゼットンの上司や部下とのつながりが、自分の唯一の財産だと思っていました。
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――腰掛けのつもりで入社されたとのことでしたが、すぐに辞めることはなく、着実に実績を積んでいきます。どこかでマインドに変化があったのでしょうか。
2号店は、1~4階まである大箱でスタッフは50人以上、年商2億円以上の繁盛店でした。しかし、私が店長になってから売上が3割ほど落ちてしまったんです。稲本からの目も厳しく精神的にも追い込まれた私は、「上司ではなくスタッフを見て仕事をしよう。自分を頼ってくれる彼らと日々楽しく仕事ができれば、それでいいじゃないか」と開き直ったんです。すると、不思議なもので店全体がチームとして急に一つにまとまって、日々の仕事が円滑に回りだしたんです。なぜそうなったのかを考えたとき、自分がプレーヤーとしてあらゆる業務に入るのではなく、オペレーションをどう組み立てるとスタッフが効率よく気持ちよく働けるのかを考え、指示を出すことが、チームを機能させることにつながっていると気付いたんです。「これがマネジメントか!」と目から鱗が落ちる思いでした。
マネジメントの面白さに気付いてから、「どういう予約の取り方で席を埋めていけば売上を最大化できるか」をシミュレーションし、その通りに予約を受けるようにした結果、売上が1.5倍くらいに増え、前任者の時代も含めて過去最高の売上・収益を叩き出しました。箱が大きいので、手応えも大きく、初めて飲食業が面白いと感じた瞬間でもありました。特に私が面白いと感じたのは、運用効率を上げることで、売上という分かりやすい部分に成果が出ることでした。オペレーションの効率化を考える上では、子どもの頃に聞いていた家族の夕食会議も役に立ったのかもしれません。
その頃のゼットンは、同一ブランドを展開するのではなく、それぞれの土地や街に必要な店を一つ一つ丁寧に作るマルチブランド戦略を取っていました。その中で私が実践したオペレーションの成功ノウハウを横展開して各ブランドに応用することで、会社全体の業績も上がっていきました。
そのほか、飲食業を軸に公共施設をリノベーションする再生事業も展開し、2005年にはハワイ業態「アロハテーブル」がブレイク、2008年には海外進出も果たしました。中には失敗した店舗もありましたが、ゼットンの業態開発の能力と、徹底して効率化したオペレーションが、成長の原動力になっていたと思います。
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――その後、2004年には副社長、2016年には社長に就任されますね。社長就任の経緯と就任後の取り組みを教えてください。
いずれ、何らかのかたちで経営者になりたいという思いは変わらず持っていましたが、飲食業へのこだわりはありませんでした。そんな中でゼットンの社長のポジションを意識するようになったのは、何気ない稲本との会話がきっかけでした。
2号店の成功以降、私は自分の中にストックされていくノウハウを活用することに前のめりでした。そんな姿を見ていたからか、周囲では「鈴木は独立したがっているんじゃないか」という噂が広がるようになりました。それが稲本の耳に入ったのか、ある日、「独立したいの?」と聞かれたんです。「独立したいわけではなく、自分の力をもっと活かして、チャレンジしたい」と答えた私に、彼は「もし今後、『独立したい』という話をお前から聞くくらいなら、『ゼットンを乗っ取ります』と言われたほうが納得できる」と言われたんです。それを聞いて、「よし! じゃあ、やってやろうじゃないか」と明確に社長を意識するようになりました。「独立の道を選ばず、ゼットンの社長になれば、これまで苦楽をともにした仲間と別れずに、自分の力を活かせるフィールドを広げられる」という思いも強くありました。
実際に社長に就任したのは2016年ですが、実はこの時期、ゼットンの業績はガタガタで、どう再生するのかが問われていました。また、当時の外食マーケットは飽和状態で、業態の入れ替わり速度はどんどん早くなりつつあり、新しい業態が次々に生まれては消えていく時代に突入していました。「飲食店は業態に頼るのはやめるべき。経営、ビジネスモデルの視点で考えないといけない」と考えるようになりました。
そこで立ち返ったのが、「店づくりは人づくり、店づくりは街づくり」という創業以来の理念です。店づくりというのはあくまでも手段であり、私たちの最大の武器。ですが、店を作って終わりではなく街や地域を活性化していかないと事業は拡張しないし、会社も成長しないという考えです。ゼットンには、2006年から始まった、公共施設再生事業というビジネスモデルがありました。これは、上場するときの成長エンジンにもなったものですが、当初は公園をはじめとする公共施設は“出店場所”としてしか見ていませんでした。しかし、それがサステナビリティの考え方と結びつき、今は公園を作ろう、活性化しようという考えになっています。公園というのは街のシンボルです。極端な話、公園が盛り上がり、街に人が集まり、商いが成立するなら、飲食店ではなくてもいいのではないかとすら思っています。その流れを受け、2019年からスタートした公園再生プロジェクトでは、ゼットンが飲食店事業で培ったプロデュース力、デザイン力、オペレーション力を生かし「この公園の近くに住みたい」と思うような街を作ることを目指しています。
――その一つが、都立葛西臨海公園(東京・葛西)の公園再生プロジェクトですね。
そうです。葛西臨海公園のプロジェクトで言うと、この中には、レンタル事業、イベントプロデュース、グラフィックデザイン、ウエディングのプロデュース、飲食店(プロデュースとオペレーション)の5つの要素が入っています。大切なのは、どうやってその公園の魅力を最大化して人を集め、集まった人をマネタイズしていくか、という視点です。公園というのは公共性が高いがゆえに無個性で無味無臭なものになりがち。そこにどのような意思を持たせて特色づけ、人を集めるのか。そのうえで、公園そのものを楽しみたいという要望に応えるために色々な仕掛けをします。例えば、ピクニックセット(レジャーシートのレンタル付き)を売り出す、コミュニケーションの場としてのカフェを作る、森と海に囲まれた結婚式ができるようにするなどしてマネタイズしていきます。
さらに、この事業を「サスティナブル戦略」と紐付けたことによって、これまでとはまったく違うビジネスモデルが立ち上がってきました。東京海洋大学の研究者と共同で東京湾の水質浄化に取り組むとともに、葛西海浜公園のなぎさの海水浴場としての事業化にチャレンジしています。また、公園に農園を併設することで脱炭素・カーボンニュートラルを推進することも可能です。ゼットンが仕事をすればするほど地球にやさしい街が増え、その街が地域の人々の誇りにつながる――。そんな事業をこれからの成長エンジンにしていこうと思います。
――今後の取り組みと長期的な展望は?
現在、事業の柱はダイニング、アロハテーブル、レストランブライダル、アウトドア、海外での飲食事業の5つで、それぞれの事業のノウハウを結集する場所として公園再生プロジェクトがあります。コロナ禍で少し足踏みしましたが、この2年間は態勢固めに注力し、資本関係を見直して、新しい事業のフィールドで活躍できる人材育成にも力を入れてきました。
2016年にすでに不採算店舗を整理していたことも奏功し、コロナ禍でも1店舗も閉めることなく、業績も着実に回復しています。実際、2022年6月の既存店売上は、前年同月比360.7%。コロナ禍前の2019年比でも103.3%で、海外の店舗は大変好調です。コロナ禍を経てアウトドア業態と海外事業が強いことも顕在化しました。今後は、国内・海外とも出店に力を入れ、特に海外は、既存のハワイだけでなくアメリカ本土、そして中国、香港、台湾、アセアン(東南アジア諸国連合)へも広げていきます。
2022年3月には、「GLOBAL WORK」や「niko and ...」などのアパレルブランドを展開する株式会社アダストリアと資本業務提携を結びました。アダストリアはすでに中国・香港・台湾で事業をすでに成功させており、アセアンには生産拠点を持っています。国内でも、アダストリアのECサイトには1,400万人の会員がいます。その会員をどのようにシェアしていくかも今後考えていきます。両社とも、飲食、アパレルの枠にとらわれることなく、グッドコミュニティや街づくりをかかげ、文化を表現していくことを大切にする会社です。このコラボレーションは想像以上のシナジーにつながると期待しています。
また、同じく2022年3月からは、横浜の山下公園のPark-PFIにて選定された、山下公園再生プロジェクトグループの代表法人も務めています。公園のあるべき姿、すべての人に豊かな時間を過ごしていただく場所であること、そしてその公園の持つ歴史、風景など本来持っている素材を活かすことが大切であると考えて、それを具現化していきます。
飲食業界は、コロナ禍によって大きな打撃を受けました。しかし、我々は飲食企業から飛躍し、飲食を武器に街づくりを行う会社です。飲食業で培ったノウハウと、サステナビリティの思想を生かして、街づくりに貢献していけば、さらなる成長を遂げていけるはずだと確信しています。
リーダー×一問一答
■経営者として一番大切にしていること
仲間の能力を最大に発揮させること
■愛読の雑誌やWebサイト
その時々でいろいろなものを読むため愛読というものは特にありません
■日課、習慣
月間10~15kmのスイミング、月間100kmのランニング
■今一番興味があること
街づくり
■座右の銘
最高に優しい人が、最高に強い人
■尊敬している人
惜しみない努力を積み重ね結果を出している全ての人
■最近、注目している店舗・業態
ZETTONの公園再生プロジェクトの手法。弊社公園再生プロジェクトの事業モデル、地域社会の活性化のみならず、脱炭素社会の実現や資源有効利用など、サステナビリティ戦略をビジネスモデル化した設計を行っているため、今後の伸びしろが楽しみです。
■COMPANY DATA
株式会社ゼットン
東京都渋谷区神南1丁目20-5 VORT 渋谷 briller 9階
https://www.zetton.co.jp/
設立:1995年
店舗数:78店舗
従業員数:1,947人(社員433人)
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