2023/01/17 特集

2023年、飲食企業トップの戦略(1)~株式会社鳥貴族ホールディングス 大倉忠司氏~

飲食業界の注目の経営者5人にインタビュー。第1回は、株式会社鳥貴族ホールディングスの代表取締役社長・大倉忠司氏。コロナ禍での新業態「TORIKI BURGER」の出店や2023年以降の戦略、飲食業界のこれからを聞いた。

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【目次】
大倉忠司氏プロフィール/株式会社鳥貴族ホールディングス企業情報
新業態「TORIKI BURGER」とアメーバ経営による採算管理の強化がコロナ禍で奏功
海外市場に本格的に参入しつつ、日本の外食業界の価値・地位向上を図る

 2023年の年明けは、過去2年とは違って社会全体がアフターコロナに向けて動いており、出入国などの規制も緩和されてきている。とはいえ、飲食業界は決して楽観視できる状況ではなく、集客に苦戦している店も少なくない。こうした状況の中、経営者たちはどんな戦略を描いているのか。コロナ禍以降の取り組みを振り返ってもらいつつ、2023年の出店・事業計画や人材不足・食材高騰といった課題への対応、インバウンド対策などについて5人の経営者に話を聞く。

【2023年、飲食企業トップの戦略】
(2)~有限会社たるたるジャパン 齊藤崇氏~
(3)~株式会社ミナデイン 大久保伸隆氏~
(4)~株式会社マックスフーズジャパン 西田 勇貴 氏~
(5)~株式会社浜倉的商店製作所 浜倉 好宣 氏~

 第1回は、株式会社鳥貴族ホールディングスの代表取締役社長・大倉忠司氏が登場。コロナ禍で主力ブランド「鳥貴族」の強みを生かしつつ、新業態「TORIKI BURGER」の開発、「やきとり大吉」の買収など新たな手を打ってきた大倉氏に、2023年以降の戦略と飲食業界のこれからを聞いた。

東名阪以外にも「鳥貴族」を積極的に出店し、「TORIKI BURGER」を含めて海外での店舗展開の地固めを行います。

大倉忠司/1960年、大阪府生まれ。辻調理師専門学校卒業後、ホテルや焼き鳥店に勤務し、25歳で焼き鳥居酒屋「鳥貴族」1号店を出店。1986年に株式会社イターナルサービス(現株式会社鳥貴族ホールディングス)を設立する。

■企業情報
株式会社鳥貴族ホールディングス/「鳥貴族」1号店出店の翌年(1986年)に、株式会社イターナルサービスとして設立。1995年から「鳥貴族」に業態を絞り、東京・名古屋・大阪を中心に店舗を展開。2021年に持ち株会社化し、現在の社名に変更。同年、新ブランド「TORIKI BURGER」を出店。

準備を進めていた、新業態「TORIKI BURGER」とアメーバ経営による採算管理の強化がコロナ禍で奏功

――「鳥貴族」はいち早く回復基調を示し、直近の決算でも営業黒字です。コロナ禍の影響は?

 当初は、売上が大きく落ち込んで危機感が募りました。それでも、最初に通常営業に戻ったときは、過去最高益を上げた2019年比で93%まで回復しました。同業他社より10~20%ほど高い数字だったので、「コロナの流行期さえ乗り切れば、必ず復活できる」と確信できました。

 この3年間で数店の閉店はありましたが、これはコロナの影響ではなく、2019年の時点でさまざまな理由から閉店が決まっていたもの。現在、東京・名古屋・大阪を中心に600店舗以上の出店を果たし、今後は47都道府県に拡大して、2023年は沖縄、福岡、岡山などへの出店が決まっています。そういう意味ではコロナの影響は限定的だったと言えます。

 この背景には、いくつかの要因がありますが、もともと少人数グループが中心で、団体の宴会を狙っていなかったこと、顧客年齢層の85%がコロナ禍でも活動的な20~30代の若者だったことなどがあると思います。また、平均客単価が同じ居酒屋チェーンのボトムラインで、気軽に来店していただけることも大きかったと思います。価格に関しては、2022年の春に一律327円から350円への値上げを行いましたが、ほかの飲食企業も同様に値上げをしていましたし、影響はありませんでした。

主力ブランドの「鳥貴族」は、コロナ禍で大きな打撃を受けたものの、回復も早かった。少人数グループ中心の利用シーンやメインの客層が若かったこと、リーズナブルな価格設定など、これまで培ったブランド力が生きた
「鳥貴族」では、2017年以来5年ぶりのメニューの価格改定を行い、一律327円から350円へ値上げを行った。これは食材高騰によるものではなく、あくまで目的は給与のベースアップ。「これは飲食業界全体が取り組んでほしい課題」と大倉氏は語る

――「鳥貴族」のブランド力が生きたということですね。一方で、国産チキンバーガー専門店「TORIKI BURGER」の出店も話題になりました。

 当社は1995年以来、「鳥貴族」の単一業態に絞って出店してきましたが、アメリカでのチキンバーガーの人気を知り、「鳥貴族」の強みを生かした国産チキンバーガー専門店に構想を練っていました。「鳥貴族」はいずれ国内で飽和状態になり、国外でもある程度は展開できますが、世界的に店舗数が多いのはなんと言ってもファストフード。世界に進出する未来を描いたとき、どこかのタイミングでファストフード業態の開発に着手したいと考えていたんです。

 そこにコロナ禍が襲来して、1年かけて業態開発を進め、2021年8月に「TORIKI BURGER」を出店しました。今後もコロナウイルスのような感染症が定期的に蔓延する可能性があり、アルコール業態だけを多店舗展開していると経営基盤が安定しないという考えもありました。

2021年8月にオープンした「TORIKI BURGER」(写真は渋谷井の頭通り店)。国産鶏の使用や、一律の価格設定(単品400円)など、「鳥貴族」の強みと特徴を生かした業態で、着実に業績を上げている
ポテトSサイズとドリンクMサイズとのセット(写真)は一律700円

 その過程で、より柔軟な経営ができるように2021年にホールディング化し、2023年1月には「やきとり大吉」をフランチャイズ展開するダイキチシステム株式会社を買収しました。「やきとり大吉」は住宅地に多くの店舗を持っており、ターゲットとする年齢層も異なります。我々の焼鳥飲食店の運営に係るあらゆるノウハウをより生かすことができると考えての買収でした。こうした取り組みもアフターコロナを見据えての戦略です。

【飲食店の経営戦略のヒントはこちら】
飲食店経営を成功させるポイント~不振の原因から解決策を解説!~

2023年1月に「やきとり大吉」を買収。「鳥貴族」同様、焼き鳥を売りにした居酒屋だが、客層と価格帯が異なることから、「鳥貴族」とは違うターゲットを獲得できると期待している

 もう一つ、この3年間で強化されたと感じるのが採算管理です。売上が取れない状況下でいかにコストを抑制するかという命題に、社員一人一人が本気で取り組んで成果を上げてくれました。実はこれも、2019年に導入した「アメーバ経営」がコロナ禍で威力を発揮したのです。アメーバ経営とは、企業の人員を小集団(アメーバ)に組織し、アメーバごとに採算管理を徹底する取り組みです。これによって、FLはもちろん勘定科目に至るまで数字を社員と共有することができるようになったのが、ちょうどコロナ禍が始まる時期。大幅な売上減の一方で、社員への給与と賞与は100%支給しましたから、社員の多くは「本当に大丈夫なの?」と危機感を強めて採算管理への意識を強く持ってくれるようになったのです。店長同士で議論し合い、細かい数字をしっかり見るようになりました。こうした社員の意識の変化がなかったら、ここまでの黒字化はできなかったかもしれません。

海外市場に本格的に参入しつつ、日本の外食業界の価値と地位の向上を図る

――2023年以降の見通しと目標は?

 外食市場は徐々にもとに戻っていくと考えています。居酒屋は400年も前からあり、これまでもさまざまな社会の変化の中で生き残ってきました。消費者の生活様式やニーズに合わせて変えるべき部分もあると思いますが、厳しいと言われたオフィス街や繁華街も戻ってきています。居酒屋そのものが大きな変更は必要ないのではないかと見ています。

 今後は、「グローバルチキンフードカンパニー」というビジョンをさらに高く掲げて、世界を目指します。まずは「鳥貴族」をアメリカで展開する準備を本格化させ、早ければ2023年中に実現させます。国内での出店は東名阪中心でしたが、沖縄や福岡(博多)にも初出店し、今後は北海道(札幌)、石川(金沢)、広島、岡山など、ほかの都道府県にも拡大していく予定。店舗数としては、2030年までに国内1,000店舗を目標に掲げています。また、「TORIKI BURGER」は東京と大阪を中心に出店して地固めを行い、ブラッシュアップを重ねてからアジアに展開していきたいと考えています。

 また「グローバルチキンフードカンパニー」としての当社の個性をさらに発揮するための新事業構想もあります。焼き鳥はさまざまな展開が可能な商材で、特にアメリカの外食シーンなどを見ているとテーブルサービス以外の可能性、例えばフードコートやテイクアウトでの展開が見えてきます。これも以前から構想していたことの一つですが、実現に向けて動き出したいところです。

 合わせて、インバウンド対策にも力を入れていきます。これまでも来店される外国人の方もいらっしゃいましたが、そこまで積極的に対策はしていませんでしたが、コロナ禍を経て、今後は狙っていきたいと考えるようになりました。

――今後の飲食業界に必要なことは何でしょうか。

 一つは価格改定です。世界から見るとよく分かるのですが、日本の外食価格は安すぎます。したがって賃金も上がりません。このままでは人材が他業界や海外に流出し、日本の外食産業は世界から置いていかれてしまいます。

 当社が2022年4月に4年半ぶりに価格改定を行ったのも、このためです。食材も高騰していましたが、目的はあくまで給与のベースアップ。これによって社員平均3%のベースアップを実現しました。我々は飲食業界の中でボトムの価格帯ですが、その位置を守りながら、今後もタイミングを見て価格改定を行い、給与のベースアップと労働環境の整備に取り組みます。ただし、大切なのは業界全体でこの流れを作ることだと思います。安易な値下げはやめて、外食産業全体の価値の向上につなげる必要があります。

 食は人間にとって絶対に必要であるとともに、世界に目を向けるとこれだけ将来性のある業界はありません。今後も食に携わることのすばらしさを伝えて、業界全体で前進していきたいと考えています。

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