2023/01/10 繁盛の法則

「無添加チャイナ」を実践する体に優しい中国料理店とは

東京・神田小川町にある中国料理店「みこころ 無添加チャイナ935」は、店内で取るだしや自家製調味料で素材の味を引き出した料理が特徴。夜も予約でほとんどの席が埋まるほどの支持を得ている。

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みこころ 無添加チャイナ935

Key Point

  1. 化学調味料不使用というポリシーを貫く
  2. 昼はランチセット、夜はコースで目的客を誘引
  3. 市場で食材などの最新情報に触れ、独自の料理を創出

中国料理を幅広く学んだ後、次のステージを目指して独立

 東京・神田小川町の「みこころ 無添加チャイナ935」は、店名に「無添加」と謳うように、化学調味料を使わずに、店内で取るだしや自家製調味料で素材の味を引き出した中華料理を特徴とする。オープンは2019年11月、ビルの2階にある15.5坪18席という小ぢんまりした店舗ながら、ランチタイムは1日平均45~50人が来店し、夜も予約でほとんどの席が埋まるほどの支持を得ている。店名には、体に優しい料理で「身も心も豊かになってほしい」という思いが込められている。

 オーナーシェフの井上貴士氏は1979年に広島に生まれで、地元の調理師学校修了後、講師の勧めもあって20歳から中国料理店に勤務するようになった。その中で、料理のトレンドや新たな食材などの最新情報を得るには、地方都市より東京のほうがずっと早いと実感し、23歳のときに先輩が勤務していた縁もあったことから、東京・赤坂の中国料理の名店「トゥーランドット 游仙境 赤坂」(現在、移転し「トゥーランドット臥龍居」にリニューアル)に移り、3年間勤務した。その後は中国料理を幅広く学びたいと、2年半ほどの間隔でホテルや会員制クラブも含め、広東、四川、上海料理などさまざまな店舗で修業した。料理長を任されるようにもなってきたが、やはり雇用されている立場だと自身がやりたいことを何でもやれるわけではなかったため、そろそろ次のステージにチャレンジしようと、独立開業に向けて準備を開始した。

 勤務しながら物件を見つけるのは難しいことから、いったん職場を離れて都内の神楽坂、青山、麻布、乃木坂などを中心に探したが、なかなか希望や条件に合う物件が見つからず、半年ほどしてほぼ諦めかけていたところで情報を得たのが現物件だった。以前は1~2階を一つのテナントが使用していたが、1階と2階に分けて貸し出されることになった2階の部分である。新たに通りから直接入店できる階段を作らなくてはならなかったが、その分、店の入り口が分かりやすくなった。店内は、中国料理店というより和食店のような趣きで、明るく、清潔感のあるシンプルな内装に仕上げ、4人用の個室も設けた。

「前菜の盛り合わせ」(2,200円)は、手前右よりプチトマトのアンズ酒漬け、茹でたタコにネギとサンショウのソースをかけたもの、自家製チャーシュー、低温調理した牛タンにネギソースをかけたもの。奥右から、毛ガニの身をほぐしてみそと和え、カブのペーストをのせたもの、北海道産の無添加の塩水ウニ、よだれ鶏(蒸し鶏の麻辣ソース)、クラゲの甘酢漬け。手前が東京産シマアジにワサビを加えた甜醤油(テンジャンユ、甘みを加えたしょう油)をかけたもの。「金目鯛の蒸し物、魚醤ソース」(2,200円)は、千葉・銚子産の金目鯛を蒸し、九条ネギに熱したピーナッツオイルをかけたものをのせ、石川・輪島産の魚醤をスープで薄めたソースをかけている

昼はお値打ちなランチセット、夜はコース料理をメインに提供

 独立に当たり、井上氏はまず化学調味料を使わないというポリシーを打ち出した。化学調味料は中国料理では当たり前のように使っている店も少なくないが、「修業中からずっと、化学調味料は要らないのではないかと思っていました。実際に自分がスタッフ用の賄いを作るときに、化学調味料を入れなくても何も言われなかったですし」と井上氏は苦笑する。しかし、いざ自店で始めてみると、それぞれの料理の味に厚みや深さを出すためには、多様なだしを取る必要があり、細かな作業が多くなっている。井上氏は、「コストもかかりますが、無添加でやる以上は仕方ないです。きちんとやっていれば、お客様の評価として返って来るかなと思います」と述べる。

 平日のランチタイムは原価率45%の前菜3種、スープ、デザート付きのセットメニュー(1,100~1,300円)が人気で、20~30代が多く来店し、女性が約7割を占めている。麻婆豆腐や担担麺(汁あり、汁なし)などの定番メニューのほか、週替わりの海鮮料理と肉料理を用意し、毎週来ても飽きないようにしている。ランチコース(3,850円、5,500円)以外は予約を受けず、できるだけ多くの人に気軽に来店してほしいという考えだ。ランチの客単価は1,150~1,200円で推移する。

 夜は、最大5組、1回転のみの営業とし、厳選した素材を丁寧に仕上げた料理をじっくり味わってもらうスタイルである。接待や近くの病院の医師の利用なども多く、年齢層としては40~50代が中心で、客単価は1万円。7品目で構成するコース料理(7,700円、11,000円、14,300円)が人気だが、前日までの予約が必要で、当日に来店を決めた場合はアラカルトでのオーダーになる。井上氏自身が毎週木曜日の早朝に東京・豊洲市場に出向き、食材の最新状況を把握しながら仲卸業者との信頼関係を深めている。その中で吟味して選んだ食材を、自身の経験と創造力を生かした料理に仕上げている。

 同店が新感覚の中国料理店として顧客を増やしている要因は、以下のようになるだろう。

  1. 化学調味料は使わないというポリシーを貫いている。
  2. 昼はランチセット、夜はコース料理でそれぞれの目的客を誘引している。
  3. 市場で食材などの最新情報に触れ、独自の料理を創り出している。

 開業時に予想もしなかったのは、わずか数カ月後から始まったコロナ禍だった。2020年4~5月の緊急事態宣言のときは休業したが、以降は時短営業などそのときどきの要請を遵守し、感染防止策を取りながら、少なくともランチ営業だけは継続。添加物を使わない繊細な料理の劣化を危惧し、テイクアウトやデリバリーは手掛けなかった。ようやくほとんどの規制が解除された2022年4月からは、コンスタントに客数を増やしている。

 井上氏は、現在のスタイルを守りつつ、今後は別の業態での展開に意欲を見せている。2号店は点心を中心に、3号店はイートインもできるがテイクアウトやデリバリーを主体とする店舗を構想している。

(Text and photo by Food Biz

みこころ 無添加チャイナ935
住所
東京都千代田区神田小川町3-22細野ビル2F
TEL 03-5577-2822
営業時間
11:00〜14:30(LO.14:00)、17:00~22:00(LO.21:00 )
定休日
日曜日・祝日
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