2023/03/03 繁盛の法則

卵でとじない新潟発祥のかつ丼を着実に広めている専門店とは

東京・水道橋にある「新潟カツ丼タレカツ 本店」は、カウンター席主体の客席構成ながら平均月商は400万円。二等立地に出店することで固定費を抑え、じわじわとリピーターをつかんで売上を伸ばす戦略に徹している。

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新潟カツ丼タレカツ 本店

Key Point

  1. 新潟のかつ丼を基に、クセになる味わいの商品を開発
  2. 裏通りの小型店で無理なく経営を継続
  3. バリエーションを徐々に増やし、定番商品もレベルアップ

故郷の味を懐かしむ思いが飲食業への参入に発展

 かつ丼というと、通常はとんかつを甘辛いたれでさっと煮て、卵でとじてご飯の上に盛るスタイルが多いが、新潟市には卵でとじない新潟生まれのかつ丼がある。

 「新潟は、江戸時代末期から明治にかけて開かれた函館、横浜、神戸、長崎と並ぶ五港の一つで、早くから西洋人が入植し、洋食店も増えて行ったのです。ポークカツレツを提供する店もあり、いつしかそのポークカツレツをすき焼きの割り下のようなたれにくぐらせて丼に盛った、新潟独自のかつ丼が生まれたようです」と、「新潟カツ丼タレカツ」11店舗(のれん分け店2店を含む)を経営する株式会社ラグーンインターナショナル代表取締役の阿部信明氏は説明する。同店の「かつ丼」(940円)は、新潟産「和豚もちぶた」の肉をたたいて薄く成形し、細かいパン粉を付けてラード100%の油で揚げ、甘辛のしょうゆだれにサッとくぐらせ、新潟産米「こしいぶき」100%のご飯の上に乗せたものだ。サクッとしたかつの食感と、甘辛いが甘過ぎないたれのバランスが絶妙で、また食べたくなるようなクセになる味わいを持つ。2007年6月オープンの東京・水道橋の本店など都内に9店舗あるほか、2018年7月に京都本店、2021年6月に大阪・心斎橋店を出店し、関西進出も果たしている。

 1966年新潟市生まれの阿部氏は、新潟大学教育学部を卒業後、地元のシンクタンクの研究員などを経験し、東京に移って1997年に北米型ツーバイフォー住宅の技能者養成事業で起業した。同事業を売却後、2000年から大手IT関連企業の新規事業に携わっていた。東京で生活する中で時折、新潟の卵なしのかつ丼を懐かしく思うようになった阿部氏だが、そのようなかつ丼を出す店は新潟市内でも当時は数店しかなく、もとより都内には1店もなかったことから、自分で店をやってみようと考えるようになった。飲食業の経験は学生時代のアルバイトくらいしかなかったため、せいぜい副業でと思っていたところ、両親が新潟出身という大手飲食企業の商品開発の責任者との出会いをきっかけに、かつ丼店の出店に向け大きく動き出していった。

左が基本形の「かつ丼」(940円)で、揚げたてのとんかつ4枚を、サッと特製だれにくぐらせ、ご飯225gの上に盛り付けたもの。とんかつ用の豚肉は新潟産「和豚もちぶた」を使い、1枚25gを店内でたたいて薄く成形し、ラード100%の揚げ油でカラリと揚げる。右は「野菜ヒレかつ丼」(1,080円)で、ヒレかつ2枚と 5種類の揚げ野菜を盛り合わせた人気メニュー。卓上に用意されたからしやサンショウなどで風味を変えて楽しむこともできる。丼ものを、みそ汁、香の物付きで、30㎝角の角盆に乗せて提供するのは、茶道をたしなむ阿部氏ならでは発想で、茶懐石の基本に倣ったもの

ある出会いをきっかけに約半年の試行錯誤で商品が完成

 その出会いから約1カ月後に「試作品ができたから、テストキッチンに来てほしい」と連絡を受け、阿部氏が訪ねて試食してみたところ、いま一つの味わいだった。そこからさらに試行錯誤し、半年ほどしてようやく、「これならば」というかつ丼ができ上がった。その開発担当者からは、「商品開発費などは要らないが、この精肉業者とたれの製造業者から仕入れてほしい」と依頼された。阿部氏は並行して都内各所で物件探しも始め、JR水道橋駅からは近いが、裏通りにある10坪の物件に決め、「新潟カツ丼タレカツ 本店」をオープンした。店名は分かりやすいようにと、料理名としての「新潟カツ丼」と、屋号としての「タレカツ」をつなげたものだったが、次第にタレカツという商品として認知されるようになっていった。

 幸運だったのは、創業時はいわゆる「ご当地B級グルメ」がブームで、開業早々テレビ番組で取り上げられ、放映後は店前に長蛇の列ができるようになったことだった。そこで阿部氏はIT企業を辞し、2007年7月に株式会社ラグーンインターナショナルを設立して同店の展開に専念することにした。

 「ネット業界でも、その前の住宅業界でも、標準化、システム化したら、すぐに多店舗化、FC展開とやってきたので、飲食業でも同じようにできるのではないかと単純に思っていたのです」という阿部氏。1年後には2号店を東京・神田に出店し、FC店も2店舗出店したが、テーブル席を主体にした神田店は回転率が悪く、FC店は勝手に夜は居酒屋営業をしてしまうなどの問題に直面し、いったんはそれらの店舗を閉店し、その後は直営およびのれん分けでの着実な店舗展開に切り替えた。新店の出店リスクを最小限にするため、二等立地の小規模店でカウンター席主体の客席構成とし、家賃や人件費を抑えながら、じわじわとリピーターをつかんで売上を伸ばす、地道な戦略に徹している。

 また、開業から3年ほどは依頼された精肉業者からパン粉付けした状態で豚肉を仕入れていたが、諸事情の変化により品質が落ちてきたため、新潟からの直送に切り替え、店内で肉をたたき、パン粉付けする調理方法に切り替えた。これにより、いつでもカラッとした揚げ上がりのかつを提供できるようになり、同時に原価率も下げることができた。味の決め手のたれは、千葉のしょうゆメーカーに依頼し、有機栽培大豆と天然酵母で醸造したしょうゆをベースに、砂糖や特製スープを加えて作ってもらっているが、随時味を見直し、常に進化させている。創業時はかつ丼4品目でのスタートだったが、揚げ野菜やエビフライなど、バリエーションも増えている。客単価は昼950円、夜1,050円で、本店は10坪12席で平均月商400万円となり、うちデリバリー、テイクアウトが約3分の1を占めている。

 同店が新潟カツ丼という商品に着目し、堅実な展開を続けている要因は、以下のようになるだろう。

  1. 新潟独特の卵でとじないかつ丼を基に、クセになるおいしさの商品として開発している。
  2. 裏通りにある小型の店舗で固定費を抑え、損益分岐点を低くして経営を継続しやすくしている。
  3. バリエーション商品を増やしながら、定番商品のレベルアップも継続している。

 今では新潟市および周辺でも卵でとじないかつ丼を導入する飲食店が急増しており、100店以上あるのではないかと推測される。阿部氏は今後も、急速な多店舗化ではなく、1店1店をしっかりと地元に根付かせていく戦略を続ける考えだ。

(Text and photo by Food Biz

新潟カツ丼タレカツ 本店
住所
東京都千代田区西神田2-8-9 立川Bビル 1F
TEL 03-5215-1950
営業時間
11:00~22:00(LO.21:30)
定休日
無休(年末年始のみ休業日あり)
https://r.gnavi.co.jp/76cw71vg0000/map/

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