2023/05/09 繁盛の法則

料理人の家系の三代目が創業した地元密着型の中国料理店とは

東京・世田谷の小田急線祖師ヶ谷大蔵駅にある「胡同三㐂(フートンサンキ)」は、住宅街にある手頃な価格帯の中国料理店として、地元顧客の獲得に成功。夜の客単価は6,000円で1日平均30~40人が来店する。

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胡同三㐂(フートンサンキ)

Key Point

  1. 中華の料理人の三代目というルーツと修業を基に創業
  2. 住宅立地のアットホームな店として地元の顧客を獲得
  3. コロナ禍での弁当販売で認知度を高める

高校時代の進路選択時に、料理の道に進もうと決意

 祖父、父親に続く中華の料理人の三代目である大城昌宏氏が、2019年にオープンした「胡同三㐂(フートンサンキ)」は、コロナ禍での試行錯誤を経て、着実に売上を伸ばしている。東京・世田谷の小田急線祖師ヶ谷大蔵駅から徒歩3分ほど、昭和の面影を残す飲食店街「まるよし横丁」の入り口にあり、1~2階計23.5坪の規模で、1階にホール14席と半個室4席、2階に個室約10席と、計28席を設けている。高級住宅街を控える立地ながら、気軽に立ち寄れる価格帯で、大城家のルーツである独特のアイテムも採り入れ、個性を出している。

 昌宏氏の祖父の大城宏喜氏は、1930年に中国・蘇州生まれ、10代で上海に出て料理界に入り、第二次大戦中の1943年に大阪に渡り、その後東京に移った。中華の一流店に勤務するかたわら、日本における中国料理の発展、料理技術の向上に努め、公益社団法人日本中国料理協会の設立に尽力し、初代会長(現終身名誉会長)を務めた。帰化した際に旧姓の王から大城姓となり、1994年に黄綬褒章を、2007年に旭日小綬章を受章している。父親の康雄氏も、東京・水天宮前と仙台のロイヤルパークホテルで中華の料理長を務め、2018年「現代の名工」に選ばれ、2020年に黄綬褒章を受章している。

 昌宏氏は1991年3月、東京・北区生まれで、高校時代に進路についてあれこれ迷う中、宏喜氏の受勲というタイミングもあり、大城家の料理人としてのルーツを継承したいと考えるようになった。東京農業大学短期大学部の栄養士課程で学んだ後、六本木のグランドハイアット東京内の「チャイナルーム」で3年半、その後は広尾に本店がある「中華香彩JASMINE(ジャスミン)」に移って5年勤務し、日本橋店、中目黒店などの立ち上げにも携わった。また、ジャスミン勤務中に出会った楓(かえで)さんと2018年に結婚、5月には長女が生まれ、8月に昌宏氏の母方の祖父母に孫を見せに八丈島に行ってきた帰りの空港で、父親の康雄氏から現物件が空くという電話を受けた。いつかは独立開業したいと思っていた昌宏氏は、このタイミングを生かしてチャンスをつかみたいと考えたが、当初は父親から時期尚早と反対された。そこで昌宏氏は、店舗情報、必要器材の詳細リスト、運営計画、返済計画などの資料をそろえ、金融機関に開店資金の借入の申請を行った。父親はその詳細な書類やデータを見て、「商売は簡単ではないが、決めたからにはしっかりとおごらずにやりなさい」と賛同してくれた。

約250gというインパクトのある大きさの「おじいちゃんの肉団子」(1,730円、写真右)は、祖母が作っていた木綿豆腐入りのふんわりした肉団子のレシピを基に、祖父が現役時代に店で出していた大きな肉団子「獅子頭(シーズートウ)」のように、チンゲンサイを獅子のたてがみに見立てて添え、甘めのしょうゆ餡をかけたもの。いったん揚げてからタレで煮込み、さらに一晩置くことで、煮崩れせず、しっかりと中まで味をしみ込ませている。「大城家の焼き餃子」(5個700円、写真手前)は、キャベツ、豚挽き肉のほか、ニラ、ニンニク、ショウガを使っているが、キャベツが多いのであっさりした味わいが特徴。厚めの皮で包み、揚げ焼きのようにして焼くことで、表面はパリッと香ばしく、中はモチモチした食感に仕上げている。「口水鶏(よだれ鶏)」(1,830円、写真左奥) はジャスミンでの人気メニューを踏襲したもので、このタレで餃子を食べてもおいしい

コロナ禍の打開策として始めた弁当販売が奏功

 昌宏氏はまず、周辺の飲食店市場や客層を調べた。中国料理店が少ない住宅街にあることから、誰もが日常的に利用しやすい価格帯で、アットホームな店を目指すことにした。ホールは楓さんに任せ、子供は背負って働くことを前提にした。オープン後の2019年11月に長男、2022年11月に次男も生まれ、子育ても並行しながら真摯(しんし)に営業する夫妻の姿を、常連客が温かく見守り、支えてきたという一面もある。

 予想だにしなかったのは、開業後1年も経たずに世界中を巻き込んだコロナ禍だった。当初は飲食店での食事が敬遠されたことから、昌宏氏はジャスミン日本橋店での経験を生かし、弁当販売を開始した。この弁当が好評で、多い日は1日80食ほど売れるようになった。コロナ禍の長期化に伴い、アルバイトスタッフの雇用が難しくなり、2020年9月頃からは調理は昌宏氏がすべて1人でこなしていたため、2021年の年明けに体調を崩して1カ月ほど休業し、営業再開後は火曜日も定休日に加え、週5日営業とした。徐々に行動制限が緩和されると、弁当をきっかけにイートインの利用客が増えていった。さらに、「ミシュランガイド東京」で2021年、2022年と連続でコストパフォーマンスの高いビブグルマンとして紹介された効果もあり、次第に客数が安定するようになった。

 中華の定番料理に加え、予約があれば北京ダックも用意する。個性的な人気メューとしては、大城家で親戚が集まるときなどに作っていたレシピを基にした「おじいちゃんの肉団子」(1,730円)、父親が作ってくれた「大城家の焼き餃子」(5個700円)や「爸爸(パパ)炒飯(梅と大葉、しらすの炒飯)」(1,280円)、ジャスミンで学んだ「口水鶏(よだれ鶏)」(1,830円)などがある。また、紹興酒を15種ほどそろえるほか、八丈島から直送してもらう大型のレモンを使った「八丈島産 菊池レモンサワー」(780円)などでも特徴を出している。夜の客単価は6,000円で、1日平均30~40人が来店している。昼は麺類、ご飯類、定食などのランチメニュー10品目(1,000~1,380円)を用意し、客単価は1,300円。最近はコンスタントに1日50人ほどを集客し、ウエイティングが続くため、弁当販売は休止している。

 アットホームな中国料理店として、地元での定評を得てきた要因は、以下のようになるだろう。

  1. 中華の料理人の三代目という自身のルーツと、一流店での修業を基に創意工夫して営業している。
  2. 住宅立地にある手ごろな価格帯のアットホームな店として、地元の常連客をつかんでいる。
  3. コロナ禍での弁当販売で認知度を高め、イートイン利用につなげている。

 同店の隣のテナントが空いたため、点心のテイクアウト専門店を近々オープンする予定である。さらに、定休日を利用して若手の料理人に1日料理長として営業してもらい、独立体験をしてもらう育成事業も構想している。また、地元の顧客の支えを実感している昌宏氏は、都心部への移転などは考えず、今後もこの地でおいしい料理を提供し続けたいという。将来的には、まるよし横丁のテナントをすべて中華業態にし、点心専門店、中華バーなど、それぞれ利用動機の異なる店舗にしたらおもしろいのではないかと、大きな夢を描いている。

(Text and photo by Food Biz

胡同三㐂(フートンサンキ)
住所
東京都世田谷区祖師谷1-8-17まるよし横丁内
TEL  03-6882-5530
営業時間
12:00~14:30(LO.14:00)、18:00~23:00(LO.21:30)
定休日
月曜日、火曜日(祝日の場合は営業、別途休業日あり)
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