2023/06/06 繁盛の法則

手ごろな価格で新たな楽しみ方を訴求する大衆うなぎ店とは

東京・文京区、東大赤門前にある「清流うなぎ月島 東大赤門前店」は、食券式を採用した気軽に立ち寄れるスタイルから、うなぎ専門店としては珍しく女性が約4割と多く、すでにリピーターも3割近くになっている。

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清流うなぎ月島 東大赤門前店

Key Point

  1. 伝統的かつ多くのファンを持つうなぎに着目
  2. 最新のうなぎの流通システムを利用
  3. 「大衆うなぎ」として利用しやすい価格に設定

大きめのうなぎを活用し職人不要の稼働方法を確立

 うなぎといえば、特に盛夏のスタミナ源として愛されてきた日本の伝統の味の一つである。江戸時代には屋台料理として親しまれていたが、近年はうなぎの稚魚の漁獲量減少により価格が高騰し、高級料理となっている。それでも根強いうなぎファンは多く、手が届く価格であれば食べたいと思う層は少なくない。

 そのうなぎを、最新の技術を生かしてリーズナブルな価格で提供し、新感覚のアイテムも取り入れながら、新たなうなぎの楽しみ方を提案しているのが、「清流うなぎ月島 東大赤門前店」である。「清流うなぎ月島」の1号店は2022年4月オープンの福岡・久留米市の総本店(同12月にリニューアル)、2号店は同7月オープンの福岡市中央区の平尾山荘通り店で、都内初出店の東大赤門前店は同11月にオープンした。

 「月島」は福岡・天神を拠点とする株式会社リヴィジョンズの佐藤ジェイコ由社長が創業したブランドで、ニュージーランド生まれの日系人である佐藤氏の友人たちが参画して店舗展開を進めている。東大赤門前店は、東京・銀座に本社を置くIT企業の株式会社クラウドソリューションズの経営で、代表取締役の佐田清政氏が2022年4月に佐藤氏から「これからこういううなぎ業態を始めるので、一緒にやらないか」と誘われたのがきっかけだった。

 開業間近の1号店の様子や事業の詳細を見聞した佐田氏は、うなぎという伝統的かつ多くのファンを持つ食材としての魅力と、大衆的な価格で提供するビジネスの将来性に期待し、月島の事業展開に加わることを決意した。

 月島グループを支えているのは、高知市に本社を置く株式会社 u technologies (ユー テクノロジーズ)がフランチャイズ(FC)展開しているうなぎ事業である。水質が良い暖かな環境で養殖したニホンウナギをISO9001・22000認証工場で加工し、店内の専用機器で焼きたての味を再現するシステムを構築している。

 このうなぎ事業を始める契機となったのは、コロナ禍により養殖うなぎの販売先が減少し、特にやや大きく育ってしまったうなぎの価格が下がっているという状況だった。うなぎは大きくなると骨が太くなって扱いづらくなるため、専門店では1尾120gほどのうなぎを仕入れることが多い。1尾240gほどのうなぎを扱う本部では、指定の専用機器で調理方法を設定し、骨の存在も気にならないほど、ふっくらと柔らかい仕上がりを実現している。同時に、各店舗に熟練したうなぎ職人がいなくても稼働できるシステムとなっている。2020年8月の本部設立以来、すでに全国で100店舗以上が加盟し、特にコロナ禍では宅配専門のゴーストレストランでの導入が進んだ。

 また、このFC事業では、本部が調達する加工済みの蒲焼きを仕入れ、専用機器で指定の焼き方をするという条件以外は、各FC加盟店で店名、価格設定、商品構成、タレの味など、すべて自由に決められる。佐田社長は、都内の文京区、豊島区、新宿区の3区でのエリア展開権を得て、当面はこの3区内で月島の多店舗化を進めることにした。加えて、コロナ禍による社会・経済情勢の変化で大きな影響を受けた中小および中堅企業向けに、中小企業庁などが実施している「事業再構築補助金」を申請し、IT事業から新たに飲食事業に参入する事例として採択された。東大赤門前店の開業には総額2,400万円ほどかかったが、うち3分の2は補助金が出たため、同社としては800万円の投資で開店することができた。

大型うなぎ1尾の蒲焼き240gを乗せた、器からはみ出すほどの迫力の「極(きわみ)うな重定食」(3,300円)で、茶碗蒸し、吸い物、漬物付き。比較的あっさりしたタレを軽く塗って提供するため、添えているワサビがよく合い、さっぱりと食べられるのが特徴。卓上には追いダレや粉サンショウも用意しており、好みで調整することもできる。写真手前左は「こだわり温泉卵」(200円)で、大分から仕入れる濃厚な卵を使用し、蒲焼きをくぐらせたり、ご飯にかけてもおいしい。写真手前右は、伊勢神宮外宮前にある老舗、伊勢糀屋製の「糀ぷりん」(380円)で、隠し味にたまりしょう油と甘糀を加えた、深みのある味わいと糀の香りを持ち、2023年から提供を開始した。今後も、他社とのコラボレーションメニューや、季節や行事に合わせた新商品、限定商品を随時投入し、うなぎの新たな魅力を訴求していく

食券式で気軽な来店を促し地元のリピーターを獲得

 「大衆うなぎ」と大きく掲げる東大赤門前店は、1、2階の計21坪34席で、食券式を採用し、気軽に立ち寄れる雰囲気を出している。東京大学の赤門前という好立地で、周辺には中小企業も多く、古くからの住宅街も控えている。

 定番メニューは4種あり、蒲焼き60gの「うな丼」(1,000円)、120gの「上うな重」(1,700円)、180gの「特上うな重」(2,400円)、240gの「極(きわみ)うな重」(3,000円)である。それぞれに、「茶碗蒸し」(単品200円)、「お吸い物」(同200円)、「お漬物」(同100円)を300円増しでセットにできる定食を用意しており、来店客の95%が定食をオーダーしている。ご飯にもこだわり、京都の「京の米老舗 八代目儀兵衛」からうな重用のブレンド米を仕入れている。客単価は2,400円で、オープン早々にサラリーマンや地元に住んでいる高齢者などのうなぎ好きが訪れるようになり2022年12月には月商400万円(税別)を上げた。うなぎ専門店としては珍しく、女性が約4割と多いほか、すでにリピーターが3割近くになっている。

 同店が新しいタイプの大衆うなぎ店として、好スタートを切っている要因は、以下のようになるだろう。

  1. 伝統的かつ多くのファンを持つ食材であるうなぎに着目している。
  2. 最新の事情に対応して登場したうなぎの流通システムを利用している。
  3. 「大衆うなぎ」として利用しやすい価格に設定している。

 佐田社長は1964年東京生まれで、高級外車の営業マンとして活躍した後、IT関連業界に進み、その中でホームページ制作を手掛けるようになった。飲食企業のホームページも多数担当してきた経験から、飲食店の経営ノウハウにも通じるようになり、その知識を生かして月島の展開を推進する考えだ。2023年6月には同社として2店めの池袋店を、地下鉄東池袋駅直結の商業施設内にオープンする予定で、今後3年以内にまず5店舗体制に持っていきたいという目標を掲げている。


(Text and photo by Food Biz

清流うなぎ月島 東大赤門前店
住所
東京都文京区本郷5-25-18
TEL  03-3868-2761
営業時間
11:00~20:00(LO.19:30)
定休日
無休(夏期、年末年始、ゴールデンウィークなどに休業日あり)

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