目次
・サントリー時代に仕掛けた角ハイボールブーム
・コロナ禍で苦境にあえぐダイナックの社長に
・業態開発の柱は、立地とターゲット、利用動機の転換
・ハイペースで業態転換&新業態開発を敢行
・多様な働き方ができる魅力的な企業に。そして海外へ
・「リーダー×一問一答」&「COMPANY DATA」
「次世代ターゲット&省力化」と「人の要素が生きる高級店」という2本柱が、今後のチャレンジの方向です
焼き鳥居酒屋「鳥どり」や海鮮居酒屋「魚盛」、熟練の職人による和食が楽しめる「響」など、ダイニングバー、パブ&レストラン、居酒屋、テーマレストランを展開している株式会社ダイナック。オフィス街を主戦場としてきた同社は、コロナ禍で大打撃を受けた飲食企業の一つだ。そんな苦境にあえぐダイナックの新社長として2021年9月、秋山武史氏が就任した。
秋山氏はダイナックの親会社である株式会社サントリー出身で、何を隠そう角ハイボールブームの仕掛け人。サントリーのグルメ開発部で積んだ業態開発ノウハウと、年間400件もの視察で得た消費者目線のマーケティング力を生かし、新業態や既存業態のリニューアルをスピーディーに敢行した。そんな秋山氏に、これまでの歩みと社長就任後の取り組み、そしてダイナックの未来について話を聞いた。
――サントリー時代に「角ハイボール」ブームを起こし、ウイスキーの復権に貢献しました。
もともと、お酒を飲みながら語り合う場が好きで、学生時代は居酒屋やクラブに毎週のように通いました。そうした“場”を作る仕事がしたくて就職したのがサントリーでした。
営業などで8年ほど勤め、2001年、当初から行きたかったグルメ開発部に異動。ここで20年近くメニューや業態の企画・開発に携わったのですが、その一つが「角ハイボール」のプロモーションでした。
当時、ウイスキーの売上は20年間も下がりっぱなし。居酒屋からウイスキーが消え、ホームパーティーの手土産もワインが主流でした。また、ウイスキーは一樽一樽、丁寧に手作りされているのに、大手企業がオートメーションで大量生産していると勘違いされていると感じていました。そうしたウイスキーの価値を回復させることが、当時の私たちの使命でした。
2007年、「ウイスキー復権プロジェクト」のリーダーになって最初に着手したのが、角ハイボール専用のジョッキとレバー式のサーバーを作ることでした。サーバーをボタン式ではなくレバー式にしたのは、“手作り感”を演出したいと考えたからです。さらにビールのような飲みやすさを感じてもらうために割材として強炭酸を採用し、配合も従来の1対2から1対4へ変更。さわやかな風味をプラスするためにレモンも加えました。
こうして角ハイボールの世界観やイメージを一新して全国展開するのですが、取引先として注目したのは大手チェーンではなく、そのエリアで影響力のある個店の酒場でした。大手チェーンの居酒屋でプロモーションを行えば一時的には売れるかもしれませんが、一過性で長続きしません。むしろ、個店で導入してもらい、お客様が「角ハイボールがおいしかった」と、口コミで徐々に認知度や評判を広げた方が、時間はかかってもブームが長く続くと考えたんです。
こうした戦略に基づいて、全国を回って新しい角ハイの世界観を共有できる店を探し、くどき落としていきました。結果、この戦略が大成功。消費者にとって、サントリーや大手飲食チェーンがプロモーションするより、よく行く店にいるスタッフさんや常連客が「これ、おいしいですよ」と言ったほうが真実味を感じる。そんな時代になったのではないかと感じました。
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――2021年9月、コロナ禍に苦しむダイナックの社長に抜てきされました。
もともとダイナックはサントリーのグループ企業で、グルメ開発部が企画・開発した店舗をダイナックが運営することもありました。なので、グルメ開発部の部長だった私にとっては兄弟のような存在でした。コロナ禍で経営的な課題を抱えていたダイナックは、2021年6月に上場を廃止し、サントリーの子会社となって再出発します。立て直しが容易でないことはよくわかっていましたが、残りの仕事人生をダイナックの再建にかける覚悟で、社長に就任しました。
当時のダイナックは、高級和食業態「響」やカジュアルな居酒屋のほか、近畿大学とコラボレーションした「近畿大学水産研究所」、道の駅や文化施設内飲食店などを運営して、ジャンルを問わず多彩で豊富な料理人やさまざまなスタイルに対応できるサービスマンを擁していました。これは大きな強みです。一方で、コロナ禍のような社会の変化に合わせた新しい業態を開発する力はそれほど高くありませんでした。これは、オフィス立地で大型宴会を誘引するビジネスモデルを柱に成長してきたことも関係しているかもしれません。
ただ、私は2008年ごろから「オフィス立地での大型宴会を軸にしたビジネスモデルはいずれ成立しなくなるのではないか」と感じ、グルメ開発部でも大型宴会を狙った業態は開発せず、小型化・専門店化にシフトしていきました。当時、年間400店舗以上の飲食店を視察する中で、徐々に消費者のマインドが変化してきているのを感じていたからです。
結果的に、コロナ禍によってオフィス立地のニーズや大人数での宴会も激減しましたが、今振り返ると10年以上前から、消費者の価値観は徐々に変化し始めていたんだと思います。
社長に就任するにあたり、ダイナックを再建するには、この変化をしっかりと捉えた業態を開発し、それを担いうる人材を育成することが何よりも必要だと考えました。そこで、就任早々に事業開発本部を立ち上げ、私が本部長も兼任することにしたんです。
――社長と事業開発本部長の兼務は、2023年6月まで約2年間続きました。
この2年間で、新業態の開発や既存業態のテコ入れに全力を注ぎました。サントリーでは「悠々として急げ」とよく言われます。親会社であるサントリーが再建を悠長に待ってくれるわけではありません。焦ってしまうといいものはできませんが、改革にはスピード感が重要だったので兼任を続けました。
業態開発の柱は、立地とターゲット、利用動機の転換です。オフィス立地から繁華街・郊外立地へ、ビジネス層の法人利用からミレニアル&Z世代のプライベート利用へという方向です。
焼鳥居酒屋「鳥どり」、カジュアルイタリアン「パパミラノ」、海鮮居酒屋「魚盛」などは10~20年以上前に開発したブランドでしたから、お客様も店とともに年齢を重ね、50代以上が中心になっていました。今後を考えれば、次世代へのアプローチは必至です。しかも価値観の変化はコロナ禍をきっかけに加速していますから、大手町から渋谷へ、大箱の空中階店舗から20~30坪の路面店へと急いで舵を切りました。
当然、撤退も必要でした。160店舗のうち、立地・ターゲット・利用動機について今後の戦略に合わない50店舗は閉めました。GPSデータなどで消費者の動きを細かく分析し、消費の時間帯が曜日や年齢でどう動くのかをエリアごとに見極め、撤退と進出の判断を下していきました。
同時に新業態ではDX化を強く意識しました。省人化のメリットはもちろんですが、DX化によって得られるデータの活用をより重視しています。新業態は話題性などで新規集客はある程度望めますが、問題なのは再来店をどう喚起するかという点。特にミレニアル世代やZ世代はリピーターになりにくいとも言われます。再来店する理由・しない理由の分析こそ、DX化の最大のポイント。現在、その戦略を深化させているところです。
――2022年3月以降、ハイペースで新業態・新機軸を繰り出しています。
3月に「炭火串焼と濃厚鴨出汁せいろ 焼鳥 ハレツバメ」(横浜)、4月に「釣宿酒場 マヅメ」(東京・日本橋)、5月に「北国とミルク」(東京・多摩センター)を開店しました。それぞれ「鳥どり」「魚盛」「パパミラノ」の業態転換を想定したブランドです。その後も、7月にすし居酒屋「鮨ト酒 日々晴々」、8月にネオ大衆酒場「純けい焼鳥 ニドサンド」、9月にシュラスコの「&BEEF」、既存のパブ業態「THE ROSE & CROWN」を食事ニーズも取り込めるようにリニューアルした「THE R.C.ARMS」を10月にオープン。ほかにも「元祖海老出汁 もんじゃのえびせん」「Asian Night Market ニューハノイ」などを出店させました。
これらはいずれも、ミレニアル世代やZ世代にフォーカスしています。「ハレツバメ」は作り込んだメニュー構成で若い女性にも予約をいただいており、「マヅメ」は都会にいながら釣り魚が食べられる店として、遠いエリアからの目的来店が増えています。「北国とミルク」はミレニアル世代の女性スタッフに“自分が行きたい店、食べたいメニュー、着用したいユニフォーム”を考えてもらい、狙い通り20~30代の女性やファミリーを集客しています。
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また、「日々晴々」はすし酒場ながらミレニアル世代の女性が8割を占め、予約が取れない店と言われるまでに成長。「ニドサンド」や「えびせん」などリーズナブルでおしゃれな酒場も若者を中心に順調です。
もちろん、すべての店舗が順風満帆というわけではありません。「&BEEF」は牛肉高騰の影響を受け、原価コントロールの面で苦戦しています。また、「THE R.C.ARMS」「THE R.C.GATE」は21時までは好調ですが、21時以降は伸び悩んでいます。これは当社だけでなく、業界全体の課題でもあるでしょう。
――多くの種が撒かれました。今後の展開と展望を教えてください。
ちょうど今、業態開発が一段落したところです。今後は社長として営業状況を見ながら店舗ミーティングにも出席して、細かい課題を共有して成長路線に乗せます。同時に出店は続け、年間10~15店舗ベースを想定。50店舗閉めましたが社員は減らしていないので、売上を作ることも急務です。
これから主力ブランドとして考えているのは、「日々晴々」などミレニアル世代・Z世代をターゲットにした店舗ですが、一方で高級店レベルの料理人やサービスマンの技術が生きる店も出したいと考えています。「次世代ターゲット&省力化」と「人の要素が生きる高級店」という2本柱が、今後のチャレンジの方向です。
また、多様な働き方ができる魅力的な企業になるために、ライフスタイルに影響力を持つ企業に成長したいです。例えば、道の駅は、人々の食体験を通して地域の再生に貢献し、人生を豊かにできます。外食の領域を食だけでなくライフスタイル全体に広げること、それを通してSDGsを含めて地域や環境に良い影響を及ぼす企業になる。そんな未来を描いています。
さらに、海外出店もしたいです。まだ具体的な話は進んでいませんが、サントリーとのシナジーを大切にして、例えば日本のボタニカルを使ったジンやジャパニーズウイスキーを世界に発信することができるブランドを出店したら面白いかもしれないと考えています。こうした未来を描くことが、社員の希望やモチベーションにつながると考えています。
リーダー×一問一答
■経営者として一番大切にしていること
常に、消費者マインドを持ち続けること
■愛読の雑誌や書籍、Webサイト
・雑誌:『Meets』『danchu』などの飲食系、『湘南スタイル』『東京カレンダー』などのライフスタイル系、『サーフィンライフ』『サーフトリップジャーナル』『Goout』などのアウトドア系。
・Webサイト:「フードスタジアム」「フードリンク」「飲食店ドットコム」などの飲食系。
・Youtube:「Newspicks」「東洋経済オンライン」など
■日課、習慣
早起き(だいたい5時には起きます)、出社前に愛犬の散歩 or サーフィン or フィットネス(youtube観ながらバイク漕ぎ)、週末は釣り・サーフィン・ドライブ
■今一番興味があること
飲食業界の動き(若者が集まるお店、インバウンド、大手チェーンの動向)
■座右の銘
好きこそものの上手なれ
■尊敬している人
佐治信忠(サントリーホールディングス会長)
■最近、注目している店舗・業態
「RISE & WIN Brewing Co. BBQ & General Store」
(ゼロウェストに取り組む徳島県上勝町にあるブリュワリー&レストラン)
※循環型のビール醸造に取り組んでおり、SDGsに取り組む立場として興味があり、リスペクトしています。行きたいのですが、まだ行けていません。
■COMPANY DATA
株式会社ダイナック
東京都港区台場2-3-3 サントリーワールドヘッドクォーターズ内
https://www.dynac.co.jp/
設立:1958年
ブランド・店舗数:約50業態・105店舗
従業員数:約6,000人(社員853人)※株式会社ダイナックホールディングスの従業員数
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