2023/08/03 繁盛の法則

魅力的な街づくりにも貢献する新感覚のスリランカ料理店とは

東京・茅場町のランドマーク「KABUTO ONE」にある、モダンスリランカ料理の店「ホッパーズ」。ランチはライス&カレーのスリランカ定食のみだが1日40~60人を集客、平均客単価は1,800円で女性が7割を占めている。

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HOPPERS by SPiCE Cafe

Key Point

  1. モダンな感覚を加味したスリランカ料理を提供
  2. スリランカ人シェフにより本場の味を実現
  3. ワインとの組合せなど新たな楽しみ方を提案

独立開業から18年を経て2号店の出店を果たす

 東京・地下鉄茅場町駅直結のビル1階に2021年12月6日にオープンした「ホッパーズ」(16坪21席)は、モダンな感覚を採り入れたスリランカ料理店として、近隣のオフィス街の勤務者のみならず、遠来のスリランカファンからも注目されている。

 「以前からスリランカ料理はすごくおもしろいなと思っていまして、2号店を出すならスリランカ料理店をやってみたいと思ったのです」と、オーナーシェフの伊藤一城(かずしろ)氏は語る。伊藤氏は東京・押上に2003年10月にスパイス料理店「スパイスカフェ」をオープンし、多彩なスパイス料理を紹介しながら、繁盛店に育て上げてきた。

 伊藤氏は1970年東京生まれで、大学卒業後、4年間のサラリーマン生活を経て、「世界を見たい」という思いから3年半で48カ国を周った。旅の中で、「自分は何者なのか」と自問するようになり、次第に一生をかけられる仕事として料理人になりたいという思いが強くなっていった。

 帰国後、イタリア料理店で1年、インド料理店で2年、スリランカ料理店で1年修業した後、独立開業を果たした。さらに開業後も、「自分は料理人としてまだまだ未熟だ」と自認していた伊藤氏は、毎年2月は1カ月間休業し、インド各地やスリランカなどに料理修業に行くことを10年ほど続けた。単なる食べ歩きではなく、体当たりで現地のレストランと交渉して受入れ先を見つけ、料理を教えてもらうというスタイルで、修得した料理は逐次、スパイスカフェの商品に反映させてきた。ライスの上にさまざまなカレーや料理を少しずつ盛り付ける、スリランカスタイルのライス&カレーのプレートも、スパイスカフェで何度も登場していたという経緯がある。

 次第にスパイスカフェには、そうそうたる大型商業施設も含め、次々と出店依頼が舞い込むようになった。しかし、数年前までは多店舗化はおろか、メインの料理作りは伊藤氏が1人で担当し、伊藤氏の不在時は1分たりとも店を開けないというほど、ストイックな経営を続けていた。その一方、独立開業志望のスタッフが集まるようになり、料理技術のレベルが向上してきたことと、伊藤氏がすべての料理を作り続けるのは、今後は体力的にも厳しくなると考えるようになり、少しずつ営業体制を見直すようになった。

 そんな折、茅場町・兜町周辺で魅力的な街づくりを推進する一環で新築された「KABUTO ONE(カブトワン)」ビルへの出店依頼が持ち込まれた。ちょうどスパイスカフェにきちんと修業を積んだスリランカ人の料理人が在籍していたことも重なり、伊藤氏は2号店出店に向けて動き出した。さらなる後押しとなったのは、コロナ禍により外食業界全体が苦戦する中で、伊藤氏自身も久しぶりに飲食店での会食に招待された際、レストランで食事をする楽しさ、喜びを再認識したことだった。

 「単に空腹を満たすだけではなく、レストランで食事をし、その空間を体験することによって幸せになる、その意義を大事にしたいと思ったのです」と伊藤氏は述べる。さまざま要素が重なり合う中で生まれたのが、シンプルモダンな空間で、日本の旬の素材を採り入れながら、新感覚のスリランカ料理を提供するホッパーズであった。


ランチメニューの「スリランカ定食(ライス&カレー)」(1,650円)。ライスの上に9種のおかずが盛られ、3種のカレーから好みの1品を選ぶ。ライスはあきたこまちとインド産バスマティライスを半々にブレンドして炊き上げたもので、お替り可。おかずは、中央がイワシの丸干しのローストと、パパダン(豆粉の生地を揚げたもの)、手前右が冬瓜カレー、以降時計回りに、ゴーヤサラダ、豆カレー、揚げナスの和え物、ビーツカレー、ジャガイモのスパイス炒め、ココナッツサンボル。別容器に入ったカレーはポークを選んだもの。最初から全体を混ぜてしまうのではなく、カレーやおかずを2~3種ずつ混ぜながら、それぞれの味わいを楽しむ食べ方を推奨している

夜はスパイス料理とワインのペアリングを提案

 現在2人いるスリランカ人シェフによる本場の味を特徴とするが、日本人向けに塩味と辛味だけは抑えている。ランチは基本的に「スリランカ定食(ライス&カレー)」(1,650円)のみだが、カレーを3種から選ぶことができ、デザートやドリンクの追加も可能。ランチの客単価は1,800円で、1日40~60人ほどを集客し、女性が7割を占めている。

 夜も、「スリランカ定食」(1,800円)やアラカルトのオーダーも可能だが、ゆっくりと料理を堪能したいという人向けに、前菜、魚料理、肉料理、ライス&カレー、デザート、紅茶が付く「おまかせコース」(6,600円)を用意している。酒類ではワインに力を入れており、中でもスパイス料理と相性のいい、果実味やフレッシュ感のあるナチュールワインを中心にそろえている。それぞれの料理と合わせたグラスワイン5種をセットにした「ワインペアリング」(5,500円)も提供し、夜の客単価は8,000円。

 特に、新潟のワイナリーのドメーヌショオと懇意にしており、小林英雄社長を招き、同社製ワイン12種とスリランカ料理を合わせるイベントを毎年開催している。さらに毎年9月には、両店のスタッフ全員でドメーヌショオに赴き、ブドウの収穫やワインの仕込みを手伝っている。

 新感覚のスリランカ料理店として、着実に評価を高めている要因は、以下のようになるだろう。

  1. モダンな感覚を採り入れたスリランカ料理を打ち出している。
  2. スリランカ人シェフ2人を擁し、本場さながらの料理を提供している。
  3. ナチュールワインとのペアリングなど新たな楽しみ方を提案している。

 「一番おいしいスリランカ料理は、各家庭でお母さんが家族のために作る料理だと言われています。ホッパーズでも将来的に、在日スリランカ人の主婦の方に頼んで、今日はAさんが作る特製ランチ、明日はBさんの手作り菓子とセイロン紅茶のティータイム、といった営業ができたらおもしろいのではないかと考えています」と伊藤氏はユニークなアイデアを抱いている。

 さらに、伊藤氏が全国各地のイベントやポップアップストアに週単位、月単位で参加することも増え、そこから各地の料理人や生産者とのつながりが生まれ、両店にフィードバックされるという好循環も生まれている。
 
(Text and shop photo by Food Biz, )

HOPPERS by SPiCE Cafe
住所
東京都中央区日本橋兜町7-1 KABUTO ONE 1F
TEL  03-6890-1547
営業時間
11:30~15:00(LO.14:00)
18:00~22:00(LO.20:30)
定休日
水曜日

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