2023/09/06 繁盛の法則

「日本の食文化を海外へ発信」を目指す、ビストロ&カフェとは

東京・代々木上原にある、「UEHARA KITCHEN」は,フレンチに和のテイストをプラスしたビストロ&カフェ。地元密着を掲げ、時間帯ごとの利用動機に応えることで、週末には1日100人近くが来店する。

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UEHARA KITCHEN

Key Point

  1. 朝から夜まで時間帯ごとの利用動機に対応
  2. 厳選した素材を使ったオリジナル料理を提供
  3. フレンチをベースに和のテイストをプラス

国内あるいは地元の食材を使ったオリジナル料理を工夫

 東京・代々木上原の閑静な高級住宅街を控える交差点の角地に2020年11月18日にオープンした「UEHARA KITCHEN(ウエハラ キッチン)」は、地元密着型のビストロ&カフェである。

 フレンチをベースにしながら、日本の食材や調味料を加えた独自の料理と、シンプルで居心地のいい空間、さりげない心遣いのある接客などで、リピーターをつかんでいる。朝8時から夜10時まで通しで営業し、時間帯ごとの利用動機に応えるとともに、「Everyday, Extraordinary(日々、何か違うこと)」を標榜(ひょうぼう)し、毎日新たな発見を提供できるように工夫を重ねている。

 例えば、ランチで1番人気の「サバのサンドイッチ」(1,800円)は、茨城・神栖市の越田商店特製の無添加の一夜干し「サバの文化干し」をこんがりと焼いたものを挟んでいる。すべて手作業でおろしたサバを、50年近く継ぎ足したつけ汁に浸けて干しており、ふっくらと柔らかい身と、ほどよい塩加減がパンともよく合う。

 パン類は地元の人気ベーカリー「マンマーノ」から仕入れている。またすぐ近くの「太田屋豆腐店」の豆腐を使って白和えにしたり、ソースに加えたりと、地元の食品・食材を使いながら、独自のアイテムに仕上げている。

 コーヒーも、近くにある自家焙煎店「堀口珈琲 上原店」の豆を使い、ジャパンバリスタチャンピオンシップで2回優勝経験のある石谷貴之氏に依頼し、オリジナルブレンドを作ってもらっている。

 夜はワイン、クラフトビール、クラフトジン、国産ウイスキー、本格焼酎などのアルコール類を多彩にそろえている。中でも、食中酒としてさまざまな飲み方ができる、世界でも稀有な蒸留酒である焼酎に着目。2023年8月には鹿児島・大和桜酒造の当主を招き、焼酎の新たな飲み方や料理とのコラボレーションを提案し、参加者からも好評を博した。

 時間帯ごとの客単価は、朝が1,100円、ランチが2,300円、カフェタイムが1,300円、夜が8,000円ほどとなっている。15坪20席の店舗規模で、週末には1日100人近くが来店しており、ランチタイムなどにはウエイティングができることもある。

手前が「静岡県産富士の鶏アーモンドチキン/旬野菜グリル」(3,080円)で、高知・香美市のナッツ製品製造所のダダナッツバターから仕入れるアーモンドバターのほか、甘酒などを加えた調味液でマリネした鶏肉を焼き、上からマンマーノのパンで作ったパン粉とアーモンドバターを絡めたものをのせ、パン粉焼きにしたもの。無農薬野菜のグリルなどを添えている。奥左が「無添加 焼鯖のポテトサラダ」(1,100円)で、茨城の越田商店から仕入れる無添加のサバの一夜干しを焼き、ジャガイモのキタアカリを使い、柚子コショウを加えたポテトサラダを挟んでいる。奥右が「鮮魚のカルパッチョ」(1,980円)で、ここでは厚切りにしたブリと紫ダイコンのマリネ、近所の太田屋豆腐店の木綿豆腐で作った豆腐のソースを添えている。現在、シェフを務める小峠涼子氏の創意が光るとともに、ビジネスとしての持続可能性を考慮した価格設定にもこだわっている

海外から日本を見てきた中で、食文化の素晴らしさを再発見

 経営元の株式会社キッチンアンドカンパニーは2013年の設立で、衣食住すべての分野において、日本文化の可能性を世界に広めていこうという、大きな目標を掲げている。

 代表取締役の中道大輔氏は1975年東京生まれで、12歳で単身イギリスに渡り、13年間滞在した経験がある。両親が以前イギリス旅行をした際の感動をよく話してくれたことや、小学校のときに仲の良かった友人が、親の転勤のため家族でイギリスに赴任し、帰国時には英語も流ちょうになり、大きく成長した姿を見て刺激を受けたことなどがきっかけとなった。渡英当初は寮で生活し、日本人学校に入ったが、徐々に現地の生活や学校に慣れていき、ユーロピアンビジネス大学を卒業し、英国航空で1年半勤務した。マーケティング関連の仕事への転職を考え始め、また現地で出会った日本人女性との結婚というタイミングも重なり、2001年にいったん日本に帰国することにした。

 「実は帰国を決めた1番のきっかけは、自分の国のことを何も分かっていないなと思ったからです」と中道氏は振り返る。帰国後は、世界的なブランドのマーケティングに関わるようになり、計3社のクリエイティブ・エージェンシーに14年ほど勤務する中で、アディダス、ダイソン、フォルクスワーゲン、カルティエ、ナイキ、リーバイスなどのプロデュースを担当した。自身で設立したキッチンアンドカンパニーでも、テイジン、カルティエ、ゴールドウイン、バルミューダなど、国内外の企業やブランドの価値を伝えるためのビジネス・コミュニケーション業務が大きな柱となっている。

 「外から日本を見てきた私からすると、日本はもったいない部分がたくさんあります。日本の文化、歴史も含め、クオリティーの高い製品が多数あるのに、それらが日本の中でしか存在していない。私たちのミッションは、どうやって日本の可能性を世界と共有し、日本の文化を世界の文化にするか、ということなのです。基本的に衣食住全てで考えていますので、その中の食文化にフォーカスし、自分たちで実験しているのがUEHARA KITCHENなのです。今後、ロンドンやサンフランシスコなどにも出店していきますが、まずは日本のお客様に受け入れてもらえることが重要です。また私たちだけが店舗展開するのではなく、生産者や流通業者の方たちもいっしょに世界に出ていくことを基本に考えています」と中道氏は熱い思いを述べる。

 同店が日本の食文化を世界に発信するという目標を掲げながら、地元で基盤を築いてきている要因は、以下のようになるだろう。

  1. 朝から夜まで通し営業し、時間帯ごとの利用動機に応えている。
  2. 国内各地の高品質の素材を仕入れ、オリジナルの料理を提供している。
  3. フレンチをベースにしながら、海外への発信を念頭に、日本独自の調味料などを効果的に使っている。

 「飲食店の経営は、1店舗だけで全て効率よく運営するのは不可能だと分かってきました。3店舗くらいで回していけると、ビジネスとして成り立つのだろうと思います。海外に出ていくというのが大前提ですが、国内での展開も同時に考えています」と中道氏。

 同社では、2022年より日本茶の新ブランド「a | round tea(アラウンド ティー)」を立ち上げた。海外で人気が高まっている緑茶や抹茶を、主にユーロ圏や北米に向けてインターネット通販で販売しており、日本の食文化の海外への発信に向け、複数の柱を築いていく考えだ。

(Text and shop photo by Food Biz, )

UEHARA KITCHEN
住所
東京都渋谷区上原3-1-17
TEL  03-6804-9390
営業時間
8:00~22:00(朝食8:00~10:30、ランチ11:00~15:00、カフェタイム15:00~17:00、ディナー18:00~LO. 21:00)
定休日
火曜日、水曜日
https://r.gnavi.co.jp/2cr51jb00000/

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