元祖チンチロリンハイボール「鳥椿」店主・北野達巳氏インタビュー。さりげない進化を続ける大衆鳥酒場

大衆鳥酒場「鳥椿」（とりつばき）

チンチロリンハイボールの発祥と言われる「鳥椿」の創業は2011年、東京都板橋区に1号店をオープンして以来10年を超え、現在直営3店舗とFC2店舗を運営している。

独立前は飲食企業に勤め、不採算店舗に入り売上を2倍にするなどの経験を積み上げてきた北野氏。32歳の時に念願だった大衆酒場をオープンした。同年には2店舗目となる「鳥椿 鶯谷朝顔通り店」を出店。人気番組「孤独のグルメ」で取り上げられ、一躍大衆酒場好きを中心に、繁盛店の仲間入りを果たす。

テレビ効果は周知の通り、一過性のものではあるが、「鳥椿」には、客を飽きさせないコンテンツが満載。例えば前述のチンチロリンハイボールをはじめ、看板メニューである鳥料理にも一味違うアイデアが詰まっている。「孤独のグルメ」で主人公の五郎が頬張る「アボカド鶏メンチ」。運動会のお弁当に入っているような唐揚げ「チューリップ」は、どこか懐かしいスタイル。レバ焼き、ハツ焼き、砂肝焼きなどは、串に打たない焼鳥で、串を打たない分、手や空気に触れる時間を最小限にするなど、見た目やアイデアだけでなく、おいしさの追求にも余念がない。

しかも、どれも大衆酒場らしいうれしい価格。市場より毎朝届く新鮮な鳥を使い、リーズナブルというだけでなく、どれも程良いボリュームで適正価格。それでいてうまいものだから、大衆酒場マニアにとっても文句の付けようがないと言っても過言ではない。

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かしこいコロナ禍の過ごし方

飲食業界を襲った悪夢のコロナ禍、アフターコロナの原価高と飲食店経営の厳しさを痛感する経営者も多い中、北野氏にそれほどの危機感は見受けられない。

コロナ禍では、テイクアウトやデリバリーなど、大衆酒場には似つかわしくないことは行わず、ジタバタしても仕方がないとばかりに、客の見込めないコロナ禍の今がチャンスと店舗の改装を行った。新業態のチャレンジや退店した店を狙った多店舗展開などではなく、店舗改装。しかも予算と時間をかけた工事ではなく、店舗の規模と売上を考慮した身の丈に合った低予算での改装だ。日々の忙しい営業の中では考えられなかった店のリニューアルは、今となっては集客アップのプラスにつながっているようだ。

マイナーチェンジの魔術師

また、メニュー構成と価格が創業以来ほぼ変わってないのも、「鳥椿」らしさと強さ。大衆酒場の多くは創業以来、変わらぬメニューと価格帯というのが定義のひとつで、大衆酒場が好きで自ら名店巡りをしたという北野氏だけに、そこはぶれない。それがまた、酒場好きには突き刺さる安定感なのだろう。

「鳥椿」では定期的に、常連客でも気が付きにくい、控えめに主張してくる新メニューがいくつかラインナップされている。創業からスタイルの変わらないメニュー表では気付きづらく、それでいて店内POPで大々的に「推し」てはこないが、ジャブのように、じわじわと売上や集客につながっているように思えるこのマイナーチェンジ。派手さはないが、地味に進化を続ける「鳥椿」の強さはここにもあるのだろう。

大手チェーン店を目指すわけでもなく、新業態を目論むわけでもない北野氏。今後の夢や展開を伺ってはみたが、本心なのか語らないだけなのか、「趣味ならありますけどね、外食関連の展示会を巡って新商品と新製品の物色ですが」と、笑って誤魔化されてしまった。これも、堅実な店舗運営を続ける「北野マジック」なのであろう。静かに進化を遂げる「鳥椿」の今後は、AIをもってしても予測不能かもしれない。

■飲食業界誌「スマイラー」

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