2024/10/01 繁盛の法則

「あけの蕎」(東京・荏原中延)商店街のニーズに合わせ幅広い客層をつかむ、そば店とは

東急池上線・荏原中延駅から大井町線・中延駅までをつなぐアーケード「中延商店街」のほぼ中央に店を構える「あけの蕎(きょう)」。地域密着の営業スタイルで、20坪26席の店舗規模ながら平日は100~120人、週末は約150人を誘引する。そば店の基本や伝統を守りなからも、レストランでの修業経験を生かすなど独自のこだわりを加えることで、”新しいもの好き”の地元民に愛されている。

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繁盛の法則 3カ条

  1. 先に出店していた喫茶店で地域のニーズを把握
  2. 間口を広くとったメニュー構成、価格を設定
  3. 日本酒や一品料理を充実させ、夜の集客力を強化

米店の経営から飲食業に参入。まず喫茶店経営で地元とのつながりを築く

「なかのぶスキップロード」の愛称で知られる東京・品川区の中延商店街にある「あけの蕎」は、地元のニーズに合わせた営業スタイルを模索しながら、着実に支持層を増やしてきたそば店である。オープンは2006年で、20坪26席の店舗規模だが、平日は100~120人、週末は約150人を誘引し、客層も幅広いのが特徴である。

「せいろ」「かけ」(各750円)、「天ぷらせいろ」(1,800円)、「カレー南蛮」(1,200円)といったそばうどん店の定番の麺メニューや、「親子丼」(1,200円)、「かき揚げ天丼」(1,500円)などの丼ものに加え、適宜季節メニューも登場する。

昼は丼ものにそばまたはうどんが付くランチセット(7品目、1,100~1,400円)、夜は一品料理とともに、プレミアムビールや日本酒に力を入れ、酒類と酒肴を楽しんだ後に、そばで締めるという利用を徐々に増やしてきた。客単価は1日トータルで1,800円ほどになる。
  
オープン時から店長を務める横山 純二 氏は、1984年東京・四谷生まれで、実家は祖父が創業した米店を営んでいた。時代の流れで、米店が米の販売だけで生計を立てるのは難しくなっていったことから、横山氏の実家でも1980年代から喫茶業に参入し、1989年に中延商店街に「サンタフェ」をオープンした。コーヒー、紅茶、サンドイッチ、パスタ、デザートなどを幅広くそろえたフルサービスの喫茶店で、今も根強い人気を保っている。このサンタフェにより、中延商店街や付近の住民とのつながりが強まっていき、四谷の米店は1990年に閉店した。

サンタフェの斜め向かい辺りに位置する現在地が売りに出されるという情報を得た横山家では、本格的に生活および事業の拠点を中延に移すことにし、現在地を購入して1階を店舗、2~3階を自宅とする建物を新築した。

1階は貸店舗とする案もあったが、以前はこの商店街に2店あったそば店が閉店し、地元のそば好きは電車やタクシーを利用してそばを食べに行っているという状況もあり、この立地で今一番望まれているそば店を、自分たちでやってみることにした。

知己のそば店から学んだノウハウを基に、創業を果たす

夜のサービスセットの1品「ローストビーフ丼セット」(1,700円)。横山店長のレストランでの修業経験を生かした自家製ローストビーフは2017年から提供しており、「ローストビーフ丼」「ローストビーフ蕎麦」(ともに1,450円)、単品(1,000円)もそろえている。丼とセットの場合のせいろは生麺で100gを使用。ご飯は新潟・魚沼産コシヒカリを使い、京都・祇園の「原了郭(はらりょうかく)」の黒七味を添えているのも、差別化の一環である。なお、店名の「あけの」は、横山店長の曽祖父の出身地で、ソバの名産地である山梨県の旧明野村(あけのむら、現・北杜市)にちなんで名付けた

そば店の出店に向け白羽の矢が立ったのが、当時、レストランでアルバイトをしていた純二氏だった。そばに関してはまったくの素人だったが、四谷の米店の近くのそば店に相談したところ、快く受け入れてくれ、製麺からだしの取り方、かえしの作り方、代表的な種物の作り方まで、そば店の開業、営業のノウハウをすべて学ぶことができた。約1年かけて準備し、開業にこぎつけると、そば店へのニーズとともに、新しいもの好きが多い土地柄であることが幸いし、好調なスタートを切ることができた。

もともと気軽に立ち寄れる「街のそば店」を指向し、オープン当初はメニュー数も現在の半分程度だったが、せいろもかけも500円で提供していた。また、そば店の基本や伝統を守りつつ、随所に独自のこだわりを加えているのも魅力となっている。

内外装は木の温もりを生かした明るい色調にまとめ、手打ちと同様に水回し、こね、延し、切りを行なえる製麺機を導入し、北海道産のそば粉に小麦粉2割を加えた二八そばを提供している。だしも、カツオ本枯れ節をメインに、昆布、サバ節、宗田節を加えてとる。そばつゆの味の決め手となるかえしも自店で作っている。

そばは生麺で1人前150gを提供し、ボリューム感も重視している。さらに、商店街では昼は14時までで閉めてしまう飲食店が多いため、15時まで営業して利便性を高め、最近は昼呑み需要にも対応している。

庶民的な商店街で、そば店へのニーズをつかみ着実に定着してきた要因は、以下のようになるだろう。

  1. 先に出店していた喫茶店で地域のニーズや特性を把握していた。
  2. 間口を広くとったメニュー構成、価格設定で幅広い客層に訴求している。
  3. 日本酒や一品料理の強化で、夜の集客力を高めている。

今でこそ開店時間前からウエイティングができはじめ、オープンと同時に満席になるほどの人気店だが、このような状況になるまでに、実は10年以上の試行錯誤があった。

「ゼロから始めて何とか開業にこぎつけ、オープン直後こそ繁盛しましたが、その後数年間は客足が低迷し、かなり苦しみました。新業態の立ち上げは厳しいものだなと実感しながら、この店を継続させていくために必死で、営業しながら勉強していったところが多分にありました。ようやく利益も安定し、自信が持てるようになったのが2019年ごろだったのですが、その直後にコロナ禍が始まり、がく然としましたね」と、横山店長は振り返る。

何かしなくては店がつぶれてしまうという焦燥感も強く、休業を要請された期間以外は店を開け、まずは天ぷらとだし巻き玉子を作って店頭に並べて販売した。外出や外食を控えていた付近の住民から喜ばれ、テイクアウト販売は好調に推移した。

その後も、新型コロナ感染拡大防止のための営業時間や酒類提供の制限要請を守りながらの営業が続いた。ようやくコロナ禍前に戻ってきたのは、2023年5月に新型コロナウイルスが感染症法上の5類に移行してからである。その一方、テイクアウト販売を利用するお客は一定数定着しているため、現在も「全品お持ち帰り可能」という体制は継続している。

「ここでは創業以来、地域密着をモットーにやってきています。これからも近くに住んでいるお客様に、少しでも多くご利用いただけるように、新メニューや季節商品を入れるなどの工夫や努力を続けながら、1年、1年をなんとか切り抜け、10年、20年と続けていけたらと思っています」と横山店長は真摯(しんし)に述べている。


(Text and shop photo by Food Biz, )

あけの蕎(きょう)
住所
東京都品川区東中延2-6-18
TEL 03-3786-6080
営業時間
11:30~15:00(LO. 14:45)、17:00~22:00 (LO. 21:30)
定休日
水曜日
https://r.gnavi.co.jp/gadjh4w20000/map/

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