繁盛の法則 3カ条
- 小豆島出身のオーナーが故郷の食材を駆使
- 自然派ワインや地ビールなどドリンク類にも注力
- ランチはビジネス立地でのニーズに対応
オリーブ飼料を与えて、肉質などを向上させた牛肉に注目
国産オリーブの産地といえば、瀬戸内海に浮かぶ香川県・小豆島が代表格で、国内生産量の9割近くを占めている。その小豆島出身の高橋 永(ひさし)氏が、小豆島で育てられたオリーブ牛と、世界各国の自然派ワインをメインとするビストロ「oliver(オリバー)」を、2019年7月22日にオープンした。地下鉄神保町駅から徒歩3分ほど、白山通りからやや路地に入った場所にある14坪19席の店舗で、比較的視認性がよく、店前にはオリーブの木の鉢植えが2鉢置かれている。
オリーブの果肉を搾ってつくるオリーブ油は、オレイン酸、ポリフェノール類、ビタミンEなどを含み、爽やかな風味とともに人気が高い。搾油した後の搾りかすにもオレイン酸や抗酸化成分が含まれているが、以前は産業廃棄物として処分されていた。そこで小豆島の畜産農家が搾油後のオリーブ果実を乾燥させて飼料化し、牛に与えたところ、オレイン酸などの働きで肉質が向上し、うま味や柔らかさが増すことが分かった。
このオリーブ飼料を与えた牛が、2010年5月に生産者ブランド「小豆島オリーブ牛」として初出荷され、翌2011年3月から香川県ブランド「オリーブ牛」として生産が拡大されていった。香川県内で肥育される黒毛和牛「讃岐牛」のうち、出荷前の2カ月以上前から、オリーブ飼料を一定量与えて育てられた牛が、オリーブ牛として販売されている。さらに香川県では、オリーブ飼料を与えた「オリーブ夢豚」、オリーブの葉の粉末を加えた餌を与えた「オリーブハマチ」などもブランド化しており、oliverでも夜のメニューに加えている。
夜のメインメニューは「香川県産小豆島オリーブ牛のグリルA5」で、各100gでの価格設定で、もも肉の一部の「イチボ」(2,640円)や「ランプ」(2,640円)に加え、牛の後ろ足の付け根にある赤身の部位のシンタマを切り分け、サシが入って柔らかい「トモサンカク」(2,420円)、中央の赤身部分の「シンシン」(2,420円)、シンシンの外側の亀の甲羅のような形の「カメノコ」(2,090円)、シンシンの内側の大腿骨に接する部分の「マルカワ」(1,980円)を提供し、それぞれの味の違いを楽しめる。ほか、前菜、温菜、サラダ、デザートなど約40品目をそろえている。
ドリンクは、約50種をそろえた自然派ワイン、小豆島の地ビール、自家製瀬戸内レモンのリモンチェッロ、自家製サングリアなどを提供している。夜の客単価は6,500円で、2時間半ほどかけてゆっくりと楽しんでいく利用客が多く、そのうち6割ほどを女性が占めている。
ランチタイムは週1~3回来店するリピーターを獲得
ランチタイムは、昼休みの限られた時間内に来店する周辺のOLやビジネスマンが中心になるため、メニューは3品目(1,000~1,250円)に絞り、手ごろな価格で素早く提供できるように努めている。そのため、原価の高いオリーブ牛などは出していないが、定番メニューの「豚ロースのロティ(200g)」(1,200円)以外の2品目は、1品目ずつ隔週替わりとし、毎週来店しても1品目は新メニューが登場するようにしている。そのような工夫により週1~3回来店するリピーターが多く、連日45~50人が来店しており、うち女性が8~9割を占めている。客単価は1,100~1,200円で推移している。
小豆島産のオリーブ牛と自然派ワインをメインとするビストロとして、都心でファンを増やしている要因は以下のようになるだろう。
- 小豆島出身のオーナーが故郷の良質な食材で差別化している。
- 世界各国の自然派ワインや、小豆島の地ビールなどドリンク類にも特徴を持たせている。
- ランチはビジネス立地のニーズに合わせたメニューでリピーターを獲得している。
オーナーで株式会社oliver代表取締役の高橋氏は、1985年生まれで、横浜の大学への進学を機に18歳で小豆島から横浜に移り、卒業後は東京でラジオ番組の構成作家として8年間働いた。大学時代も、ダブルワークが許可されていた構成作家時代も、飲食店でのアルバイトを続け、飲食業の現場に関わってきた。構成作家としては深夜のラジオ番組を担当していたこともあり、20代のうちはいいが、長年この仕事を続けていくのは体力的に厳しいのではないかと判断した。
在職中に、放送局や無線局の技術的な操作を行うことができる「第二級陸上無線技術士」の資格を取得したことを機に、30歳を前に構成作家を辞めることにした。その後は東京・赤羽の飲食企業に入社し、ビストロやイタリアンで5年ほど働き、料理長、さらには総料理長を務めていた。独立開業に際しては、オリーブ牛など小豆島や香川県の食材を活かしたビストロという明確なコンセプトを打ち出した。オープン8カ月後からの3年間は、コロナ禍による厳しい日々が続いたが、2022年10月ごろからは、着実にコロナ禍前を上回る伸びを示すようになっている。
高橋氏はすでに2店目の出店に向けて動き出しており、物件探しも開始している。「手伝いたい」と言ってくれている後輩の期待に応えるためと、2店目を和の業態にすれば、oliverでは使うのが難しい小豆島のそうめん、しょう油といった名産品を活かしたメニューも提供できるからだ。
「ゆくゆくは小豆島に帰りたいという思いもあります。その時に、構成作家の頃に取得した第二級陸上無線技術士の資格を活かし、島内でコミュティFMなどのラジオ局を立ち上げられたら最高ですね」と、高橋氏は自身の大きな夢を語る。
東京での店舗を3店ほどに増やして経営基盤を固めれば、自社がラジオ局新設時のスポンサーになることも可能になる。オリーブ牛を始めとする食材をきっかけに、小豆島と都心を結ぶ架け橋となり、故郷の活性化を目指している。
(Text and shop photo by Food Biz, )
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