※スマイラー108号(2025年2月)より転載
それぞれの店に込められた思いは「地元に愛される店」
「自分たちが住む町にこんな店があったらいいなと思う店を作ってきました。それが積み重なっていつの間にか25店舗にまで増えていた感じです。いつまでに何店舗出すぞ!と目標を決めて多店舗展開を突き進んできたわけではなく、一店舗一店舗を、街の人たちに愛される店になるようにと、大切に育ててきただけなんです」と堀田さんは笑顔で語る。
株式会社ティーピーディーは、社長の兄と専務の弟の兄弟で作った会社だ。弟が先に飲食業で独立。家業の建設業をしていた兄もその後、飲食業に進出し、どうせなら一緒に会社を作って大きくしようと始まったという。
会社員時代に、営業マンとして株式会社ティーピーディーの担当をしていた堀田さんは、兄弟の飲食にかける熱に魅かれて入社。入社当時は、まだ数店舗だった会社を兄弟と一緒に大きくしていく。
「兄は、社長としてマネジメントを行い、弟は主に現場側ですね。全て異なる業態の開発を中心になって進めてきたのは弟です。彼は天才だと、私は思っています。もともと自分でお店をやってましたから、料理も接客もすごい。その上、図面も描けちゃう。マーケティング的なセンスもあるし、メニュー開発などの発想力も飛び抜けています。これほどなんでもできる人を、私は他に知りません。人柄もいいし、だから周りに人が集まって来る。私も店舗開発に関わらせてもらっていますが、そのノウハウや手法は、弟と仕事をさせてもらうことで学んだところもかなり多いです」。
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より良い店への進化のためのタスク管理
「うちは、店舗ごとに商品も違うし、オペレーションも違います。ですから店長の裁量で決まることがとても多い。料理長が店長を務めることが多いので、彼らは季節ごとのおすすめ料理を考え、数字の管理や人の管理もしなくてはなりません。大変だと思います。店長の権限が大きく、本部は、彼らのサポートをしていく感じです」と堀田氏。
人材は、多店舗展開のカギを握るとよくいわれる。新規出店のスピードが早いチェーン店などで、育成が間に合わず、商品やサービスの質を落としてしまい、失敗してしまったという事例はときどき聞く。各店舗の業態が違うので、統一のマニュアルなどは作れないし、店長の育成や店舗スタッフの教育などはどう行っているのだろうか。
「お店を回って、味やサービスのチェックは不定期ですが行っています。本部スタッフがそれぞれ見に行って、状況を報告しあって共有し、修正すべき点があればお店に伝えています。それと、タスクミーティングという会議を行っています。たとえば、店長にどんな店にしたいかと聞いて、雰囲気のいいお店にしたいです、という答えが返ってきたとします。では、そのためにどんなことをやればいいと思うかと質問していくと、笑顔で挨拶をしっかりするとか、お客様のお見送りを最後までやるというような具体的なことを考えて答えるわけです。それがタスクですね。じゃ、今月のタスクは、これとこれね、と決めて、あとはタスクが実行できているかをチェックすればいい。普通の企業で、営業ノルマなどを達成するために、よくやる手法だと思います」。
飲食店は、忙しい日々の業務に追われて、店を良くするための工夫改善にまで手が回らないというケースは多い。より良い店にしようという思いがあっても、何も行動できなければ、何も変わらない。行動ベースでタスクに落とし込むことで、店舗は少しずつ変化し、進歩していく。効果的な手法だと思う。
「タスクの内容はとてもシンプルです。本当に基本的なこと。冷蔵庫の整理をするとか、おすすめ料理をスタッフと共有するとか、魚の知識をちゃんとつけるとか、仕入れた日本酒のうんちく情報を共有するとか、そういう当たり前のところを一個ずつ潰していく。当たり前のことをやって、当たり前のレベルをあげていくことが重要だと思っています」。
堀田氏は、会社員時代にさまざまな飲食店を回っていたそうなのだが、当たり前のことがきちんとできている店は、驚くほど少なかったと語る。
「飲食店にとって大切なのは、まずはお客様が不快にならないようにすることです。たとえばお客様が少なくガラガラの店なのに、混んだ時のことを考えて、わざわざ狭い席に案内する人いますよね。これだと、お客様は、少し不快になります。店のことを考えてはいるかもしれませんが、お客様の気持ちは考えていませんよね。こういう気づきがあったら、それをタスクにしていく。ハッピーバースデーみたいなサプライズをしても、料理が出てくるのが遅かったら意味がないし、おいしくなかったら、お客様はサプライズに感動してくれません。お客様の満足度を上げるには、まずは負をつぶして、当たり前を積み重ねていって、当たり前のレベルを上げていくことが重要なんです。プラスアルファのサービスや個性を出したサービスなどは、それができるようになってから最後に考えることです」。
研修制度が充実しているのもティーピーディーの特徴だ。20代や新卒向けのTPDカレッジは3カ月間かけて、基礎研修を行う。座学もあって、飲食ビジネスに必要なこと、大切なことをしっかり学ぶという。
「なぜ挨拶が大事なのかとか、清潔で綺麗な格好をなぜしないといけないのかなど、メラビアンの法則などを例示しながら、理解してもらうようにしています。こうやれと押し付けるのではなく、頭で理解して自分から動けるようになってもらうことが大切なんです」。
スケールメリットと個店主義の良さの両方を活かす
それぞれ業態の違うティーピーディーの店舗で共通すること、それは料理のおいしさ。取材時にリピーターのお客様の声を聞くと、料理に感動したからという人が多かった。多店舗展開している企業が経営していると思っていなかったという人もいた。実際、料理は各店で手作りしている。ラーメン屋も5軒ほどあるが、それぞれ、麺もスープも違う。製麺機をそれぞれの店舗で導入し、麺から手作りしているという。
「全てをゼロから作るのは、弟の職人気質に由来するのかもしれませんね。とことんこだわる。ラーメンも1年くらい試行錯誤して、ようやく完成させていましたからね。同じブランドで同じ料理を横展開した方が楽だし、儲かるんじゃないか、と以前言ったことがあったんですが、そうだねーと笑いながら返事するだけで、そんな気はないような感じでした。でも、絶対しない、と強くこだわっている感じでもなく、分かっているけど、それじゃ面白くない、長く街に愛され続けるには希少であることが大切ということなのかなと思っています」。
個店主義を貫いてきているが、スケールメリットを放棄しているわけではないと、堀田さんは言う。食材の仕入れや、厨房機器や食器類などはまとめて購入することで、経費を減らしている。本部には大きな倉庫があり、そこに在庫を置いておき、必要な店舗にそれらを持っていく。ユニークなのは、家業が建設業だったということもあるのだろうか、ダクトの清掃や修理なども自前でできるよう、道具も人員もそろっているのだそうだ。
「ラーメン屋から居酒屋、焼肉屋などさまざまな業態があっても、食材などは共通で使えるものもたくさんあります。たとえば冬の季節メニューとして牡蠣料理を出そうとなったら、牡蠣はまとめて買い、それをどんなメニューにするかは各店舗で考えてもらう。それぞれ、うちは鍋にしよう、グラタンにしよう、和食だからポン酢で行こうなどと決めていく感じです。ミートソースなどをまとめて作って、各店舗に使ってもらうこともあるんですが、その場合も、味を完成させることはしません。一歩手前にしておいて、仕上げを各店舗で考えてもらう。スケールメリットと個店主義の良さの両方を活かせるように、工夫はしています」。
「愛される店を作りたい」が原点
「私が、自分でもこの会社は面白いなと思うのは、いい意味で緩いところです。何億円企業になるぞ、とか店舗数何店舗にするぞ、などということも言わない。私は、最初は各店舗の売上目標とかを決めて、ハッパをかけたりしていました。元会社員ですから、そうした数字の目標管理は当たり前と思っていたんです。ですが、思うようにいかなくて、悩んでいたら、兄に、そういうのはやらなくていいよ、お店がお客様に愛されていればそれでいいんだよと言われたんです。びっくりしましたが、数字管理の細かいチェックをやめたら、逆に上手く行き出したということがありました。兄が唯一言うのは、『街に愛される店になれ』ということ。それも街を活性化するとか、元気にするとかじゃなくて、『愛される』と受動的な表現をあえてする。自分たちが主役ではなく、あくまでもお客様が主役だということです」。
数字を追うのではなく、お客様に愛される店になることを目標に据える。ここにティーピーディーの強さの秘密があるのかもしれない。
「兄は、会社としての方針は示しますが、細かいことは何も言わずに、社員の好きなようにやらせてくれます。グイグイ引っ張っていくタイプの社長ではなく、後ろからしっかり支えてくれるタイプですね。コロナ禍や震災の時、会社は当然厳しかったですが、店がなくなることはあっても、会社は絶対潰さないと言って、社員を守ることを優先していました。懐が深く、義に厚い人だと思います。従業員に対してもお客様に対しても、取引業者に対してもそうです。絶対に信頼を裏切るようなことはせず、大切にしてくれます。だからこそ、みんなが社長について行こうと思うんです。私もそうです。この部分は、もしかすると会社の社風、あるいはイズムになっているかもしれません。だから一つ一つの店が、お客様に愛される店になれるのでしょう」。
ティーピーディーは、の街のお客様と真摯に向き合うからこそ、その街にあった飲食業態を開発し、その街にあったサービスを徹底できるのではないだろうか。これからの多店舗展開は、横並びの店舗を増やしていくのではなく、地域の特徴やニーズを汲んで喜ばれる業態を模索していく形の「個店主義」の方が時代にあっているのかもしれない。お客様を裏切らないという、ティーピーディーイズムが、お客様にとっての価値ある店をつくり、結果として繁盛店を生み出しているのだ。
住所:埼玉県戸田市美女木北1-2-25
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