Vol.180
長命チェーンに学ぶ! 定番の磨き込みと刺激メニューの仕掛け方
嫌な言葉ですが、外食業は昔から多産多死の業界と言われています。毎年毎月たくさんの店が生まれる一方で、消えていく店も少なくない。それが常態化している業界と言われていて、実際にその通りなのです。チェーングループでも例外ではありませんが、個人店、単独店の方がその傾向が強いです。では、なぜ短命に終わってしまうのか。逆に、長命の店やチェーンが何をやっているかを探れば、その理由が明らかになります。
長命の店は、まず専門店であるということです。売る商品がはっきりしていて、その商品力によってお客様を引きつけています。老舗のうなぎ店など、まさにその典型ですね。大体、うなぎ一本で勝負しています。天ぷらもあります、寿司もあります、といったメニュー幅の広い店の方が、むしろ短命です。単品の店は「その一品」で戦うしか生きる道がありませんから、絶えず看板商品の磨き込みを続けています。素材の吟味、タレの調合、焼き方、ご飯の質、炊き方、器、すべてにわたって、改良改善を続けているのです。何も変えていないようで、実は水面下では変えているのです。「味は変えない、質は変える」。これを実践し続けている店が、専門店として生き残り続けられています。メニュー数を増やさない、自分の店の守備範囲を守る。これが生き残るための大原則です。
一方、チェーングループは季節ごとに盛んにメニューの出し入れをしています。それでいて長生きしているチェーンも少なくありません。実は、メニューに限らずコロコロ変え続けることも長命の必須条件なのです。言っていることが逆じゃないか、と怒られそうですが、変化し続けてお客様の来店を絶えず刺激し続けないと、客数は必ず下降線に入ります。チェーングループは、変化してお客様を刺激することを、とても大事にします。
どこも年間の季節メニューカレンダーを持っています。その季節メニューの内容も、毎年少しずつ変えています。季節メニューのみならず、実験的なトレンドメニューも積極的に導入します。一見メニューをコロコロ変えているようですが、メニューの数そのものは増やしていません。ベーシックメニューと刺激メニューをはっきり分けて、ベーシックはより深掘りして改良を加え、専門性を高めます。軸足は動かしていないのです。一方、刺激メニューも領域を限定して、その範囲の中で思い切った実験メニューなどの試みを行っているのです。ですから、優良なチェーンからは、お客様への刺激を止めてはいけないということを学ぶべきです。
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「買ってもらえる店」を前提にした経営が、店と経営者を本当の繁盛に導く
チェーングループからもう一つ学ぶべきは、絶えざる店のリフレッシュでしょう。刺激メニューもその一つですが、店そのものの改装もあります。外食店は、開店した翌日から経時劣化が始まります。1年も経てば、かなり傷(いた)みが激しくなります。繁盛店であればあるほど、劣化度は大きくなります。
ところが個人店は総じてこの劣化に無頓着です。ちゃんとした商品さえ出していれば、お客様は来店してくださると思っているのです。それは大いなる勘違いで、飲食環境のリフレッシュは営業維持のための根幹であります。私は今、営業維持という言葉を使いましたが、チェーンの基本姿勢は、持続的営業強化です。つまり、客数と売上を伸ばし続けることに、強い意志を持っているのです。
強いチェーンは「売る力」を永遠に強めていこうとします。そして、客層の若返りに常に注意を払っています。そこそこ「売れていればいい」という考えで営業していては、「そこそこ」も売れなくなってしまいます。店は放っておくと客数は必ず減る、ということを頭に叩き込んでおかなければなりません。
さて、個人店の長寿を断つ最大の要因は店主の加齢です。外食店は “一代商売”とよく言われますが、店主が年を取るに従って、お客様も年を取り、若いお客様には見向きもされなくなって客数が減り、閉店への道を突き進むことになります。 別の言い方をすれば、「後継者問題」という壁にぶつかることになります。息子や娘が後を継がない、という店がほとんどです。また、自分が育てた弟子や社員に引き継ぐ意志がない、あるいは適当な後継者がいない、ということもあるでしょう。
チェーングループだって同じ問題はありますが、彼らには「売却する」という方法が残されています。上場していれば株価と株数が会社の価値評価の基準になりますし、上場していなくても一定の規模と利益があれば、それが評価を引き出すモノサシになります。個人店や単独店にはそれがないのです。つまり、正しい評価をして買ってくれる人が現れないのです。実体は、店はボロボロで、メニューは時代遅れで、ちっとも儲かっていない。だから、誰も見向きもしない、というのがほとんどです。これでは閉店以外の道は残されていません。
ここからが私の提案なのですが、店を開業して一応の軌道に乗ったあたりで、“店を売る”ことを前提に営業活動を行うというのはどうでしょうか?他人に売ることを前提に、「売れる店づくりをする」という言い方ができるかもしれません。
「売れる店」にするためには、商品が古くなく、店はピカピカで、働く人全員が生き生きとそしてきびきびと働いている。さらに若いお客様もどんどん増えている。そういう状況になっていなければなりません。そのためには前述のように、主力商品が磨き上げられ、新商品の開発にも意欲的で、店に追加投資が持続的に行われていなければなりません。特にキッチンの改良が加えられていて、生産性が上がっていなければなりません。
「それで本当に売れるのかい」と疑問を持たれる読者もいると思いますが、売れます。外食のチェーングループもファンドも、その他の投資会社も、次の時代に多店化できる外食業態を血眼(ちまなこ)になって探しています。彼らが目を付けるポイントは、
・オリジナルな商品を持っているか
・多店舗化できる市場性があるか
・利益が出やすい仕組みを持っているか
この3つです。
店が1店舗でも売れるのか、という疑問が湧くかもしれませんが、1店舗でもいいのです。多店化するのは買い手の仕事です。多店化できる可能性を秘めていればいいのです。逆に言うと、あまりに特殊な条件で繁盛が成り立っている店には買い手が現れません。ものすごく立地がいい。店主の人柄で人気になっている。ごくごく限られた食材と特殊な技能が必要。内装に途方もないお金がかけられている。こんな店には買い手がつきません。
「客単価は?」、それもいくらでもいいのです。マクドナルドが兄弟で始めた店のように、世界に44,000店になることもあれば、日本国内に10店舗のみということもあります。10店舗のみの店は、客単価2万円くらいになることもあるでしょう。「最初から売ることを目的に商売を始めるなんて、その根性がいかん」と思われるかもしれません。しかし、売ることを前提に商売をすると、店がまともな道を歩み始めて、本当に長寿の繁盛店の地位を得ることができるようになるのです。
つまり、“価値がある店”になるのです。そういう考えで、日々の営業を続けていってごらんなさい。ある日、気がついたら人材も育ち、皆が心から満たされて働き、後継者の心配もなくなり、店は数店舗に増え、「売る」などという気持ちがさらさらなくなっている自分を見出すことになっているかもしれません。
まっとうな道を歩み続けた結果、経営者としてひと皮むけたということです。こういう経営者が 1人でも多く育ってくれることを、私は心から願っています。
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