2018/06/26 特集

意欲を高めて、成長につなげる! 料理人が伸びる育て方の極意

腕のよい料理人の育成は、安定的な店舗経営において欠かせない要素。若手はもちろん、ベテランにも研鑽の場を与え、料理人の育成に成功している3店舗を取材。どのような取り組みで成果を上げているかを聞いた。

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人手不足が問題となっている飲食業界で、腕のよい料理人の育成は、安定的な店舗経営において欠かせない要素といえる。若手はもちろん、ベテランにも研鑽の場を与え、料理人の育成に成功している3店舗を取材。どのような取り組みで成果を上げているかを聞いた。

長期と短期の目標を立て、独立も前向きにサポート。料理長にも研鑽の場を用意

【大阪・箕面】一汁二菜うえの 箕面店

イベントへの同行によって調理以外の経験値もアップ

調理師専門学校の講師を10年間務めた上野法男氏が独立し、1998年に1号店「一汁二菜うえの 豊中店」を、その3年後に箕面店をオープン。現在、居酒屋やカフェなど5店舗を展開し、20名の料理人を抱えているが、創業当初は育成に力を注ぐ余裕もなく、数カ月で辞める料理人も少なくなかったという。そこで、料理人が意欲的に業務に臨めるよう取り組むようになった。

まず面接では、必ず独立の意思や将来の夢を聞いている。「長期的な目標を共有しつつ、短期的な目標も立てさせます」と上野氏。現在、総料理長の柚上満太郎氏は、22歳で入社し、上野氏の薫陶を受けてきた。「『あいさつをしっかりしよう』など、小さくても身近な目標を立てることで、自分の成長を実感することができました」と柚上氏は振り返る。また、「以前勤めていた寿司店は上下関係が強かったので、先輩が大将(上野氏)に料理についての意見や質問をしている姿に驚きました」と柚上氏は語る。この自由な雰囲気は、「聞かれれば教える」という上野氏のスタンスが生み出したものだ。「調理技術以外に飲食店の経営ノウハウなども教えます。教える内容は、その人が今どの段階にいるかによって変えています」と、上野氏は語る。

また、「それぞれの性格や個性を見極めることも育成においては重要」と上野氏。「一汁二菜うえの」では、料理人は経歴に関係なく、まず「追い回し」という雑用係から始まり、前菜の盛り付けなど徐々に調理も担当。ある程度のレベルになると、来店客と会話をしながら調理を行うカウンターか、店の奥で調理に専念する裏厨房に別れる。「社交的で気配り上手な人はカウンター、集中力が高く黙々と仕事に没頭できる人は裏方に向いています」と上野氏。上野氏は柚上氏の性格を、「何でも挑戦する意欲を持ち、人の懐に入り込むのが上手」と感じていたため、カウンターに入れることに。柚上氏は、「徐々に自分の調理以外のスタッフの動きやお客様の様子にも気を配れるようになり、お客様との会話を楽しむ余裕も出てきました」と振り返る。「環境を変えることがプラスに働く人もいるので、店が主催する「日本酒の会」「料理教室」などのイベントに、料理人を同行させることもあります」と上野氏。

さらに、各店の料理長が定期的に行う上野氏へのコース提案も研鑽の場の一つ。こうした取り組みで何人も独立する料理人を輩出してきたが、一方で、意欲を高める環境づくりによって途中で辞める人も少なく、経験を積んだ若手が後を継ぐ好循環が生まれている。

ポイント:経営ノウハウも教え、独立もサポート

成長するためであれば、幅広く教える」が上野氏の教育方針。食材についてのコスト感覚もその一つ。「魚一尾の原価がいくらで、そこから何切れの刺し身が作れて、それをいくらで販売しているかを教えます。すると、『魚をどれくらいの厚さに切るか』の重要性がわかり、調理時に気をつけるようになる。これは、将来、店を持つときにも役に立つ考え方ですね」と、柚上氏は語る。そのほか、調理技術や料理のレシピをはじめ、経営ノウハウなどもオープンにしており、独立を視野に入れる料理人には、食材の仕入れ業者を紹介したり、開業資金の借り入れなどについて相談にも乗るという。

伝票を見せて原価率を計算してもらうことも。「料理人にコスト感覚は必須」(柚上氏)

ポイント:料理人の個性や性格に合った活躍の場を与える

料理人の性格に合わせた適材適所を意識し、環境の変化が必要だと感じる人を店主催のイベントに同行させることも。箕面店では、蔵元と共催する「日本酒の会」などを定期的に実施しており、毎回何名かの料理人が上野氏のサポートを行う。通常業務とは異なる環境で、生産者や参加者と交流することが刺激となり、モチベーションアップにつながっている。また、ときには系列店への異動も成長を促すきっかけに。「『一汁二菜うえの』は割と高単価な店ですが、もっとカジュアルで賑やかな雰囲気の店が合う料理人もいる。彼らを活かす場として、居酒屋やカフェも経営しています」(上野氏)。

蔵元と共催した「日本酒の会」。イベントの準備や進行なども成長の糧となっている

ポイント:新コースの提案は、料理長の成長が試される場

「一汁二菜うえの」では、豊中店で月2回、箕面店で月1回、コースを刷新している。新しいコースは各店の料理長が考え、上野氏と女将が客目線で試食を行い、細かくチェックしていく。料理の味はもとより、選んだ食材や調理法、提供方法、盛り付け、器とのバランスなど、あらゆる面を評価。普段は若手を指導する立場の柚上氏だが、「もっとも緊張する場です。10品中、8品でダメ出しをもらったことも。そのおかげで、勉強することが山のようにあるとわかりますし、まだまだ成長できると感じます」と、柚上氏。一方、上野氏も、「若い人の発想には時々はっとさせられる。私もいい勉強の機会だと捉えています」と語る。

上野氏が調理法などを質問しながら試食。食材や器の使い方など、指摘は細部にわたる

柚上氏が“自分の成長を感じた一品”

『握り寿司』

「飲食業界に入ったのは、寿司が握りたかったから。19歳から寿司店に勤めたのですが、雑用が中心で寿司を握る機会はほとんどありませんでした。ここに転職してから握る機会をいただき、修業を重ねて、お客様に提供できるまでになりました。寿司店での下積みは大変でしたが、そこで学んだことも糧になっていると感じるので、若い子には『掃除や雑用の大切さ』も伝えたいです」

Ueno Norio 約10年間、調理師専門学校で和食の講師を務めた後、独立開業。40歳で「一汁二菜うえの 豊中店」をオープンし、現在5店舗を経営。
Yuzugami Michitaro 調理師専門学校から大阪市内の寿司店に就職。22歳で同社に入り、30歳で総料理長に就任。航空会社の機内食開発などにも従事する。
一汁二菜うえの 箕面店
大阪府箕面市箕面公園2-5
https://r.gnavi.co.jp/kb4y101/
阪急箕面線・箕面駅から徒歩7分。豊かな自然に囲まれた日本料理店。接待や記念日などでの利用が多く、外国人の来店も増えている。

株式会社うえの
創業/ 1998年
住所/大阪府豊中市上野東3-1-5
店舗数/ 5店舗
主な業態/日本料理、居酒屋、カフェ
従業員数(料理人数)/ 20人(16人)

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