2018/06/26 特集

意欲を高めて、成長につなげる! 料理人が伸びる育て方の極意(3ページ目)

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選抜制の調理技術道場を開き、次代を担う料理人の育成に注力

【兵庫・伊丹】海鮮活魚 音羽茶屋 新伊丹店

年に1回のコンテストも、モチベーション向上に貢献

大阪を中心に寿司店など27店舗を展開する株式会社音羽。創業者の田た舞まい德太郎氏と弟の喜八郎氏が、1970年、大阪・池田に1号店「音羽鮨本店」をオープンし、寿司のデリバリーなどにも力を入れて経営を強化。着実に店舗数を増やしていった。

德太郎氏と喜八郎氏は、中学校を卒業してから寿司店の厳しい徒弟制度の中で腕を磨いてきたこともあり、自分が育った環境と同じスタイルで強力なリーダーシップの下、料理人を育成。1982年に新卒採用1期生として18歳で入社した営業本部長の宮田浩氏は、「当時は、社長(德太郎氏)に直接やる気を訴え、自分の居場所を勝ち取る時代。『仕事は見て覚える』というのが、当たり前でした」と語る。宮田氏の4年後に入社し、現在は、技術指導室室長として料理人の育成を一任されている敷根政彦氏も、厳しい修業時代を経て調理技術を習得した一人。「社長のことは“親父”と呼んでおり、社長の家に行き、料理や売上のこと、今後の展望について話を聞くこともありました」と、当時を回顧する。

厳しさのなかに熱い人情を持つ社長に牽引されて強固な基盤を作ってきた同社が、料理人の育成にテコを入れたのが、4年前。德太郎氏の長男・登志徳(としのり)氏が3代目の社長に就任したタイミングだった。「私たちが入社したころは、早朝に来て自分の仕事を先に済ませ、先輩から教えてもらう時間を作ったりしていました。しかし、労働環境の見直しが求められるようになり、そうしたやり方が時代に合わなくなったため、若手のためにどのように育成の時間を作るかが会社として課題になってきたのです」と、敷根氏は語る。また、約20年前にセントラルキッチンが設立され、仕込みや煮炊きを店で行う必要がなくなったことで、若い料理人が基本的な仕込みを経験できなくなっていた。さらに、店舗ごとに料理人の腕に差があることや、職人の高齢化が進む中で、会社の将来を支える若手料理人をどのように育成するかも課題になっていたという。

こうした問題を解決するために、4年前に開設したのが「調理技術道場」だ。本社(大阪・豊中)に調理機器をそろえた一室を作り、敷根氏が講師を務めて全10回の講義を1年にわたって実施する。「希望者に参加動機などをまとめたレポートを提出してもらい、内容を確認して10名くらいのメンバーに絞っています」と敷根氏。講義の内容は、掃除や仕込みといった基本的なことから、調理技術の実技指導、原価率や利益率の計算などの座学のほか、食材の生産者や器の作り手のもとを訪れる体験授業など、幅広いテーマを取り上げている。現在、講師は敷根氏のみだが、将来的には、講師を増やして希望者全員が必ず参加できるようにするのが目標。勤務年数などによって階級を分け、上級者が初級者を指導するなどして、教える技術を身に付ける場にもしたいと考えている。

「道場を1年間経験した料理人は、精神的にも技術的にも目に見えて成長しているのがわかります」と、笑顔を見せる宮田氏。その成果がもっとも現れるのが、同社が年に1回行っている、料理人全員参加の「調理技術コンテスト」だ。上位入賞者には、賞金やトロフィーが授与されるほか、社外の調理コンテストへの出場資格も与えられる。近年は、「調理技術道場」の経験者がコンテストで優秀な成績を収めており、道場に参加した料理人が成長した姿を見せることで、ほかの料理人の刺激にもなり、相乗効果によるモチベーションアップにつながっている。

ポイント:実技指導や生産者見学など、「調理技術道場」でレベル向上

4年前から「調理技術道場」を開始。参加希望者は、目的などをレポートにまとめて提出し、この内容を審査して10名前後の受講生を決定。同じメンバーで1年間にわたり全10回の講義を行う。1回の講義は、およそ10時~15時で、店舗の営業時間内に実施。各店舗で工夫して参加者を送り出せる体制を作っているという。講師は敷根氏が務め、店内の掃除の重要性や仕込みの方法のほか、実技指導や座学を交えて幅広いテーマを扱う。また、鍛冶店で包丁の製造現場を見学したり、食材の生産者のもとを訪れて収穫体験をするなど、様々なアプローチで料理人が知見を高められるよう工夫している。さらに、講義の最後に、「旬とは何か?」など、敷根氏が「料理人として考えてほしいテーマ」を課題として与え、次の回で全員が発表する場を設けることも。敷根氏はもともと職人気質で、「技術は見て覚えるもの」と考えていた一人。「指導経験もなかったので、1年目は自分なりのやり方で進めました。すると、課題で提出させたレポートがどれも内容の薄いものになってしまったのです。技術や調理法をただ教えればよいというものではなく、その背景にある科学的な根拠や食文化の歴史まで伝えなければいけないと気がつきました」と語る。今後は、初級、中級、上級のクラス分けをして、「上級が初級に教える機会などを作って指導者を育て、将来的にもっと多くの料理人が道場で学べる体制を作りたいです」(敷根氏)。

仕込みの方法や寿司の調理などを敷根氏が実演。調理の順番や調理法にどんな意味があるかなどを、ていねいに伝授する
真剣に調理を行う受講者たち。道場には、水周りやコンロなど必要な設備や調理器具がそろっている

ポイント:技術のレベルアップを目的に、社内でコンテストを開催

毎年1回、2月に社内の「調理技術コンテスト」を開催。すべての料理人が、「若手」(新入社員)、「初級」(2~5年目)、「中級」(6~10年目)、「上級」(11年目以上)の4部門に分かれ、それぞれ別の課題と制限時間が与えられ、宮田氏や敷根氏ら審査員が評価していく。「若手」部門の課題は、鯛の三枚おろし。「新卒の料理人は、まだ調理技術がありませんので、順位は決めず、全員に参加賞を与えています」(敷根氏)。「初級」は、巻き寿司、箱寿司、細巻寿司の桶盛り。「中級」は、初級の内容に加え、握り寿司20貫と細工寿司、細工巻きが加わり、上級は、にぎり寿司の数が24貫に増え、求められる細工のレベルも上がる。コンテストは9~18時まで1日かけて行われ、各部門の上位入賞者を表彰。入賞者には賞金やトロフィーのほか、社外のコンテストに会社代表として出場する資格なども与えられる。このコンテストは何十年も前から続いているもので、それぞれの料理人が自身の成長を表現する場として調理技術もモチベーションも向上。また、当日は宮田氏や敷根氏ら熟練の調理師8名が料理を披露する「プロフェッショナル」部門の発表も。高い技術で作られた寿司や料理の数々が、若手社員の刺激にもなっている。

部門ごとに、課題の調理を行う。宮田氏ら審査員の厳しい目が光るなか、自分の技量を表現する大切な場となっている
各部門の上位者には、賞金とトロフィーのほか、社外のコンテストへの出場資格なども与えられる

敷根氏が“自分の成長を感じた一品”

『鯵のたたき』

「入社して、掃除や雑用などの仕事しかしていなかった16歳のとき、初めてお客様に出した料理です。そのとき、誰も手が空いておらず、先輩から『やってくれ』と頼まれました。『自分が調理したものをお客様が食べる』という緊張も多少あったと思いますが、練習で調理したこともありましたし、何より、不安になる余裕もないほど忙しく、頼まれるままに必死で作りました」

Shikine Masahiko 1986年入社。系列店の店長や出前センター部門マネージャーなどを経て、4年前から現職。人材育成の中心として後進の指導にあたる。
Miyata Hiroshi 1982年の新卒採用1期生。技術とやる気を買われ、28歳で割烹部門の部門長に。営業本部長となった現在も職人として腕を振るう。
海鮮活魚 音羽茶屋 新伊丹店
兵庫県伊丹市梅ノ木6-7-14
https://r.gnavi.co.jp/rx2m7s240000/
阪急伊丹線・新伊丹駅から徒歩6分の閑静な住宅街に立地。寿司や割烹を売りに、慶事・法事、記念日や接待などに利用されている。

株式会社 音羽
創業/ 1970年
住所/大阪府豊中市庄内宝町2丁目1番1号
店舗数/ 27店舗
主な業態/寿司店、割烹など
従業員数(料理人数)/ 170人(100人)

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