新メニューの試作会で調理技術や考える力を育成。創業店で原点を見直す施策も
【東京・代官山】メゾン ポール・ボキューズ
新人の料理人は半年間、ホールを経験
日本国内やフランス・パリで、レストラン、カフェを37店舗運営し、近年はホテル事業にも参入して成長を続ける株式会社ひらまつ。展開するブランドの1つが、都内などに7店舗を構えるフランス料理の「ポール・ボキューズ」だ。なかでも東京・代官山の「メゾン ポール・ボキューズ」は日本における本店の位置付けで、リヨン本店の伝統の味わいを忠実に継承している。
同社で、新人の料理人は、まずホール業務を半年間経験する。「フランス料理のシェフは、基本的にお客様と接する機会はありません。ホールを担当するのは、自分が作る料理がどのように提供され、どのように食べられているのかを知ってもらうため」と語るのは、「ポール・ボキューズ」全店舗のマネジメントを担う、ブランド統括シェフの中谷一則氏。その後、前菜の調理補助からスタートし、前菜の責任者を経て、魚料理、肉料理、ソースとステップアップしていく。入社3年目の戸丸勝哉氏は、「1年目から実践的な調理も教えてもらえるので、やりがいを持って臨めています」と話す。各ステップに要する期間は人によって異なり、入社2年目で魚料理を任される人もいれば、5年かかる人もいる。そのどちらも「よし」とするのが同社の考え方だ。「他人と競争するなと伝えています。大切なのは、昨日の自分より成長を遂げることです」(中谷氏)。
「ポール・ボキューズ」各店では、季節ごとに新しいコースの試作会が行われており、料理人の成長を促す機会になっている。中谷氏が各店舗を回り、料理人にメニューの調理法を手ほどきするもので、「担当に関係なく全員に調理を見てもらいます。1年目の人が理解しやすいようにわかりやすい言葉を選んだり、中堅の人には説明の途中で質問を入れて考えさせるなど、成長段階に合わせた教え方を心がけています」と中谷氏は語る。戸丸氏は、「調理を見るだけでなく、自分で調理もさせてもらえるので、コツがつかみやすいです。完成品は盛り付けの見本として必ず撮影しておきます」と語る。
また、各店の料理長は、定期的に料理人たちの課題などを確認する個別面談を実施。その内容は各料理長から中谷氏にも伝えられ、伸び悩んでいる人などには中谷氏が面談することもある。戸丸氏は、「今、肉料理担当なので、課題は“火入れ”の技術を磨くこと。面談では、余裕ができたら後輩のフォローなど、全体も見られるようになるようにと言われています」と語る。
また、中谷氏は各店舗でのミーティングや面談などを通し、哲学も含めた「ポール・ボキューズ」の伝統を現場に浸透させることにも注力。同社の料理人は、調理技術を磨くだけでなく、企業理念や店舗ブランド、「レストランとは何か」という原点を突き詰めて考えることが重要とされるからだ。中堅以上の料理人がこれらを学び研鑽する場として、同社の創業店でもある「レストランひらまつ」に一定期間勤めて、腕を磨く取り組みも行われている。
ポイント:新作メニューの試作会が育成の場に料理人が能動的に考えるように工夫
「ポール・ボキューズ」では、季節ごとにコースメニューを更新しており、各店舗で中谷氏が数時間かけて調理のポイントを料理人たちに直接指導する試作会を実施。「手本を見せて、実際に調理してもらいながら、最後に全員で試食します。ただ作り方を教えるだけでなく、盛り付けをあえて2種類作り、どちらの盛り付け方がよいかを考えさせるなど、自分で考える習慣をつけるように工夫しています」と、中谷氏。また、中谷氏がそれぞれの料理人の成長の度合いを把握する機会でもある。一方、戸丸氏ら指導を受ける料理人にとっては、「言葉だけでは理解しにくい感覚的なコツを実際に見て学べる貴重な時間」(戸丸氏)となっている。
ポイント:日常的なコミュニケーションを重視し、マンツーマンの面談で課題や目標を共有
各店の料理長は日頃から料理人一人ひとりに目を配り、コミュニケーションを大切にしている。全体ミーティングのほかに1対1の面談の機会も定期的に設け、個々の現状の課題や目標を確認したり、悩みの相談に乗ったりする。面談の内容は、各店の料理長から中谷氏に報告され、必要に応じて中谷氏が店を訪れた際に料理長や料理人と面談を行うことも。「各店の料理人全員の性格や目標、技術レベルなどを料理長と共有し、指導方法や面談の際の話題など、コミュニケーションの取り方も変えています」(中谷氏)。
ポイント:中堅以上の料理人が創業店で働き、原点を見つめ直す取り組みを実施
各店の料理長や支配人、その候補者など中堅以上の料理人が、同社の創業店である東京・広尾の「レストランひらまつ」で数カ月にわたって働きながら、料理人としての原点を見つめ直し、さらなるレベルアップを図る取り組みを行っている。「何か特別なことをするというわけではなく、会長(平松博利氏)の指導のもとで、いち料理人、いちサービスマンとして働き、『料理人とは』『レストランとは』などを考えることが刺激となり、あらためて、ひらまつの理念や哲学を学び直すよい機会にもなっています」(中谷氏)
戸丸氏が“自分の成長を感じた一品”
「通称『VGE(ヴェ・ジェ・ウ)』という黒トリュフのスープで、ポール・ボキューズ氏が1975年に当時のフランス大統領に晩餐会で出した料理です。初めてこのスープの仕込みに関わったとき、完成まで4日間もかかることを知って驚き、『これだけ手がかかっているから、あの味ができあがるのか』と納得しました。店の代名詞的な一品だけに、伝統を継承する重みを感じ、背筋が伸びる思いがします」
東京都渋谷区猿楽町17-16 代官山フォーラムB1
https://r.gnavi.co.jp/gvv7m36b0000/
株式会社ひらまつ
創業/ 1982年
住所/東京都渋谷区恵比寿 4-17-3
店舗数/ 37店舗
主な業態/仏・伊料理店、料亭、ホテルなど
従業員数(料理人数)/ 659人(約300人)