※スマイラー106号(2024年11月)より転載
酒屋に居続けて飲むから居酒屋
居酒屋の発祥は、江戸時代に店頭で酒を飲ませる酒屋が登場し、簡単なつまみを出すようになったこと。酒屋に居続けて飲むから「居酒」と呼ばれるようになったことが居酒屋の語源なのだそうだ。
「豊島屋」は、江戸時代に居酒のできる酒屋として繁盛した店の一つ。酒が進むように塩辛く味付けした味噌を大きな豆腐に塗って焼いた「味噌田楽」は人気のつまみだった。そんな店が、今も存在していることに驚く。
関ケ原の戦いが慶長5年(1600年)だから、「豊島屋」の創業はその4年前ということになる。吉村 俊之社長は16代目だそうだ。元々は、半導体の研究者だった。若いときには酒屋を継ぐ気はなかったという。しかし、「豊島屋」の長い歴史をつなげていくことの重要性に気付き、40歳を過ぎてから入社したそう。客観的に家業を見ることができたから、歴史的価値を大切にしながら、新商品開発や新事業展開を行ってきた。「豊島屋酒店」の開業もその一つといえる。
「『豊島屋酒店』は私たちの商いの原点に返るという意味もありますが、若い人に日本酒のおいしさをアピールするための場所でもあります。もっとたくさんの人に日本酒に興味を持ってほしいという思いを込めてお店作りをしました。だから立ち飲み屋にしては、店内は明るくおしゃれ。“江戸東京モダン”というコンセプトで、少し現代風にしています」(吉村氏)。
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酒蔵のコンセプトショップ
「豊島屋」は、日本酒の醸造もしている。東京の東村山市にある酒蔵(豊島屋酒造株式会社)で造った日本酒は、国内外の各種品評会などでの評価も高い。代表銘柄の「金婚」は、神田明神と明治神宮に御神酒として奉納されている唯一の日本酒としても知られている。
「『豊島屋酒店』は、豊島屋酒造で造ったお酒を飲んで、そのおいしさを体験していただくことも目的の一つです。東京に酒蔵があることを知らなかったとおっしゃるお客様も多く、しかもこんなにおいしいお酒ができるんだと驚いてくださる。吟醸酒や純米酒、にごり酒からみりんまで、さまざまな種類のお酒を造ってますから、皆さま、いろいろ飲み比べて楽しんでいただいているようです。あ、みりんも飲めるんですよ。料理に使うイメージが強いのですが、ちゃんと造ったみりんは、お酒と同様に、飲んでもおいしい。江戸時代は飲んでいたそうです。焼酎と割って飲んだりしてたとか。レモン果汁やおろし生姜などを加えて、カクテルにして楽しむのもおすすめです」。
江戸時代、雛まつりの時期に「豊島屋」が造って発売した「白酒」は、当時江戸の町で一大ブームになったそうだ。江戸時代の絵師、長谷川 雪旦(せったん)は代表作の「江戸名所図会」に、「豊島屋」に白酒を求めて殺到する人々の様子を描いている。「山なれば富士、白酒なれば豊島屋」と詠われるほど、江戸の名物になったそうだ。今も、「豊島屋」では昔ながらの製法で白酒を造っている。
日本酒とつまみのペアリング
「豊島屋酒店」は、立ち飲みだがメニューも豊富だ。江戸時代に人気を呼んだ「豆腐田楽」も食べられる。当時は、大きな木綿豆腐に塩辛い濃い味の味噌を塗って焼いたものを食べたそうだが、「豊島屋酒店」では、現代風にアレンジ。食べやすい大きさにした木綿豆腐に、さっぱり薄味の味噌。少し炙ってある表面は歯応えがあって、中はふんわり。大豆の風味もしっかり感じる。
「食材なども江戸のもの、東京のものにこだわろうということで、豆腐は、明治時代から続く神田の豆腐屋「越後屋」さんのものです。味噌は、江戸時代創業の老舗、深川の「ちくま味噌」さんから仕入れています。最初は、江戸時代の味付けを再現したのですが、スタッフと一緒に試食したら、かなりしょっぱい。このままでは今の人の口には合わないだろうということで変えました」。
豆腐田楽のほか、「本マグロ刺身」や「焼き白子の九条葱ポン酢」など、手の込んだメニューもある。さらに「甘納豆マスカルポーネ」など「モダン」なメニューも並ぶ。一方、面白いと思ったメニューがある。「豊島屋バター」と名付けられた、バターに酒粕、くるみ、ココナッツ、ドライフルーツなどを混ぜた自家製つまみだ。レーズンバターやドライフルーツバターは、ワインや洋酒に合わせることが多い。しかし酒粕を使ったことで、驚くほど日本酒に合うようになるから驚きだ。
フレンチでは、合わせるワインと同じ蔵や同じぶどう品種のワインを料理酒として使って、ペアリングの相性を良くすることがある。理屈としては、それとおそらく同じ。「豊島屋酒造」の酒粕を使って、「豊島屋酒造」のお酒との相性を良くしているのだ。フレンチレストランで楽しむような酒と料理のペアリングを、立ち飲み屋で、日本酒でするなんて、なんと粋なのだろうと思った。
居酒屋の源流体験
創業以来、「豊島屋」には3度の大きな危機があったそうだ。1度目は明治維新。武士社会が崩壊し、武士から売掛金の回収ができなくなったとき。2度目は関東大震災で店が倒壊したとき。そして3度目は東京大空襲。店が焼失してしまった。
「その度に、お客様に支えられました。『豊島屋』の家訓は、“お客様第一、信用第一“。代々この教えを守ってきました。お客様に喜んでいただくことを第一に考え、決して信頼を裏切ってはいけないという教えです。長期的な利益を見て、短い期間で一気に儲けるようなことはするな、ということでもあります。長く誠実な商売をしてきたおかげで、お客様が、あの『豊島屋』が困っているなら助けてあげようと、支えてくれた。商売をつないでこられたのは、この家訓とお客様のおかげだと思っています」。
飲食などのサービス業の基本は、人間関係だ。お客様との関係、従業員との関係、そこにどれだけの関係を築けるかで、商売の成否が決まると言っても過言ではない。
「前職は研究開発の仕事で、半導体が相手でしたので、ロジカルに進めれば良いものができました。でも、今は、相手が酒に変わって、ロジックで通用することばかりではなくなりました。お客様との関係も同じです。理屈や損得だけではいい信頼関係は築けません。コロナ禍を経た今、改めて『豊島屋』の家訓の意味の深さを実感しています。これからも信用と信頼を大事に、商いをしていこうと思います」。
江戸時代、酒屋で始まった「居酒」は、量り売りの酒を飲みながら、酒屋の店員や他のお客様と話し込んで、なかなか帰らない人が増えて始まった。そんなお客様のために、「豊島屋」のように簡単なつまみを出す酒屋が誕生し、さらにはちょっと座れる長椅子などを置く店も出てきて、居酒屋に発展していく。酒屋から居酒屋に業態転換をした店も多くあったそうだ。明治時代から続く名居酒屋、神田の「みますや」や鶯谷の「鍵屋」なども、元は酒屋だった。
「豊島屋酒店」は、まさにその居酒屋の源流を再現している。店を覗くと、お客様は店員や他のお客様と楽しそうに話している。外国人のお客様もいて、カタコトの会話と身振り手振りで大笑いしている。豊島屋』伝統の白酒に氷を入れて飲んでいる若者に、隣の年配者が「牛乳で割ったりしてもおいしいよ、サングリア風にしてもいいかもね」などと話している。江戸時代の人が、そこに居続けてしまう気持ちがよくわかる。
よし、もう一杯飲んでから帰ろう。
住所:東京都千代田区神田錦町2-2-1 KANDA SQUARE1階
TEL:03-3293-9111
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