2019/03/15 特集

飲食店×生産者 食のプロ クロスインタビュー 後編(2ページ目)

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個性の強さが生む相乗効果。日本酒×料理のペアリング

──「GEM by moto」では、日本酒と料理とのペアリングも提案しています。日本酒と料理の組み合わせについてお二人の考えは?

千葉 日本酒と料理のぺアリングは、ワインの場合とは少し異なります。例えばチーズと合わせるケースが如実ですが、ワインは基本的にチーズの後味をすっきりと切るのに対し、日本酒はチーズの旨味を増強する。ワインよりアミノ酸が多いからです。うちではこうした日本酒ならではの良さを活かせる組み合わせを大事にしています。

 ペアリングを研究するなかで、この蔵のお酒にはこの食材が合うといったフックになるものも発見できました。私の中で新政のお酒は、“キラキラとしたクリアな酸”のイメージ。こうした味わいにはフルーツが合いますね。

想いを共有する飲食店は大切な存在。互いの力で付加価値が増す(佐藤氏)

佐藤 僕自身は料理に合わせて酒造りをしているつもりはなく、伝統文化の継承という面を一番大事に考えています。江戸時代の製法である生酛造り(※1)や、木桶仕込みを導入したのもそのためです。

 とはいえ味については、豊かな酸味と軽快さという現代的なテイストを追い求めていますので、できあがる酒が繊細になり、食べ物を選ぶ傾向があります。特に、うちの酒は生臭い食材とは、相性が良くないときがありますね。

千葉 そうですね。でも、例えば生魚でも、カルパッチョにすると合うと思います。新政のお酒はアミノ酸がそれほど多くないので、オイリーな食材を合わせてもしつこくなく、なじみやすいんです。

佐藤 ペアリングがきちんと成立すれば、酒の個性が強いぶん、相乗効果でよりおいしくなるという現象が起きますよね。新政の特徴をよく理解して、最高の組み合わせを考えていただけることは、すごくありがたい。飲食店との交流から、学ぶことは多いですね。

※1 江戸時代に確立した醸造法。自然界の微生物から生成した乳酸で有害菌を抑え、酵母を育てる技術。近年は醸造用乳酸を添加する「速醸」が一般的だが、新政ではあえて全銘柄に古来の製法を取り入れている。



佐藤氏が蔵を継いでから取り組んだ改革の一つが「木桶仕込み」の導入。2013年度より仕込み用のホーロータンクを、伝統的な木桶に毎年数本ずつ切り替え、現在は計21本の木桶が並ぶ。木桶は内部に乳酸菌などの多様な微生物が住み着きやすいため、天然の乳酸菌を活用する生酛造りと親和性が高く、菌の働きによって複雑な旨みやニュアンスが生まれる。完成した酒に木の香りはほとんど残らない

──酒造りの知識や提供方法のアイデアのほかに、蔵元との交流を通して千葉さんが学んだことは?

千葉 造り手の方と直接会って、どんな想いで造っているかを知ったことでしょうか。初めて酒蔵を見学させてもらったとき、蔵の人たちの酒造りへの真摯な姿勢、蔵に満ちる張り詰めた空気感に圧倒されたことは、今でも忘れられません。

 以前は、お客様に日本酒の味を紹介するとき、「去年に比べると今年は辛めで…」など、マイナスな表現をしてしまうこともあったんです。それこそ、まるで評論家のように。でも、命をかけて日本酒を造る蔵元の方たちと出会い、酒造りを知らずに表面的な批判をしていた自分はなんて浅はかだったんだと猛省しました。

 お酒は生き物であり、味に毎年微妙な違いがあるのは当然。そこがおもしろさであり魅力でもあります。造り手が魂を込めた“作品”だからこそ、それに合う料理や提供方法で楽しんでもらうことが私の仕事だと気付きました。

──そうした造り手の想いを、どのようにお客様に伝えていますか?

千葉 気をつけているのは、最初から「この造り手はこういう人で…」と情報を押し付けないこと。一口目は、先入観のないまっさらな状態で味わっていただきたいと考えています。それが蔵元への敬意でもある気がして。

 造り手の話は、お客様のリアクションを見たうえで、二口目をさらにおいしくさせる気持ちで伝えています。そうした伝え方がお客様に響くと、関心が深まって、その蔵のファンになってくれることが多いです。

佐藤 1500年も続く伝統飲料である日本酒へのニーズは、突き詰めれば職人が手間暇かけて造り上げたものを味わうところにあると思います。飲むことで何か特別な感覚を得たいから、人は日本酒を飲む。造り手側にも、そうしたニーズを汲んだ酒造りが必要ですね。

新政の日本酒の裏ラベルには、その銘柄に込めた想いや特徴が佐藤氏の言葉で綴られている。また、限定銘柄の中には、音楽CDのライナーノーツを思わせる解説冊子が付くものも。2017年醸造「異端教祖株式会社」の解説冊子には、千葉氏が文章を寄せている

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