「自家製ツナマヨおにぎり」
Arbre(アルブル)(東京・渋谷)
「週に一度、月に一度は気軽に足を運んでもらえる“行きつけの店”にしたい」…そう願う店は多いですが、難しいのが現実です。しかし “隠れ家飲食店”激戦区の奥渋谷にオープンし、たった半年で、頻度高く訪れる常連客を着実につかんでいる人気店があるといいます。
今回は、奥渋谷にある「Arbre(アルブル)」の「自家製ツナマヨおにぎり」を、週末の酒場巡りが趣味というフードライター・桑原恵美子氏が紹介。シメにはもちろん、酒の肴にもなる逸品「自家製ツナマヨおにぎり」誕生のきっかけや、足しげく通う常連客を作る秘訣(ひけつ)を聞きました。
訪れた飲食店を紹介している個人ブログ:
https://ameblo.jp/amaguri0111/theme-10066247104.html
・駅近でも繁華街でもない、住宅街の路地裏にひっそり佇む店
・「ツナマヨ」の概念がひっくり返る、驚きのコク深さとなめらかさ
・家庭料理に、ほんの少しの驚きを加える
・家庭で作れそうで作れない料理
・メニューは季節で一気に変えない
駅近でも繁華街でもない、住宅街の路地裏にひっそり佇む店
渋谷の喧騒(けんそう)から離れた神山町・富ヶ谷付近は通称「奥渋(オクシブ)」と呼ばれ、大人の食通が通う上質な“隠れ家レストラン”が集まるエリア。そんな奥渋に2023年4月にオープンしたのが「Arbre(アルブル)」。佇まいは一見洋風ですが、和食ベースの小さな小料理屋です。
「ツナマヨ」の概念がひっくり返る、驚きのコク深さとなめらかさ
今回紹介する「自家製ツナマヨおにぎり」は、メニュー名だけを見たら素通りしかねないそっけなさですが、この店を訪れたらぜひ食べてほしい逸品です。
目の前に運ばれてきた瞬間から、マグロを炙った香ばしい香りにノックアウトされ、ひと口食べればその絹のようななめらかさ、和食の珍味にも通じる不思議なコクとうま味に仰天するはず。シメで頼んだつもりが、これを肴にまた酒が進んでしまうのが唯一の難点です。
オーナーシェフの佐藤幹樹さんは、フレンチレストラン「Au gout du jour merveille(日本橋・現在は閉店)を皮切りにさまざまなフレンチの名店で働く傍ら、和食にも興味を持ち、休日には懐石料理店で勉強させてもらって腕を磨いたといいます。「いつか店を持つなら、友達にも気軽に通ってもらえるようなカジュアルな店がいい」と考えて、居酒屋「LANTERNE(ランタン)」(代々木上原・池尻大橋)でさらに経験を積み、独立。満を持して2023年4月に「Arbre(アルブル)」をオープンしました。
「自家製ツナマヨおにぎり」を考案したのは、定番の冷菜「生本鮪 3種」に使用している生本マグロにロスが出そうになったとき。ある程度の量がたまったときに、ローズマリーなどのハーブとともにコンフィ(低温の油でじっくり煮るように揚げる調理法)し、アンチョビやニンニクを加えて大人の味に仕上げた自家製マヨネーズをたっぷり加えて”自家製ツナマヨ”を作ったそうです。
一般的なツナマヨよりも圧倒的になめらかさを感じるのは、本マグロを時間をかけてコンフィしていることと、一般的なツナマヨよりも自家製マヨネーズをたっぷり使っているからとのこと。
おにぎりの上に自家製ツナマヨを、こぼれそうなほどたっぷりのせて、全体に焦げ目がつくまで炙ります。
炭火で炙りパリッとさせたのりの上に、シソの葉をひいておにぎりをのせ、たっぷりの青ネギをのせたら完成。この一品を食べただけでも、常連客が多い理由がわかるほどです。
家庭料理に、ほんの少しの驚きを加える
高度なフレンチを作る技術を持っていながら、ベースは食べ疲れない家庭料理で、ほんの少しの”驚き”をアクセントに加えています。とはいえ、全ての料理に”驚き”をしのばせているわけではありません。最初に出すおつまみは、何も考えずに頼めて、それをつまみながら楽しんでメニューを選べるよう、シンプルに徹しています。「野球の試合で4番バッターが出ると盛り上がるように、メニューにも抑揚が必要だと思っています」と佐藤さん。
家庭で作れそうで作れない料理
自分の色を出すための意外性は重要ですが、「すごくおいしいけれど、ちょっと頑張れば家で作れそう」と思わせる程度にとどめるのが肝だといいます。実際に家庭で作ってみると、当たり前ですが同じにはなりません。もう一度自分の舌で確かめようと、また店に足を運んでしまうというわけです。
メニューは季節で一気に変えない
季節ごとにメニューを変えるのは料理店の常識ですが、佐藤さんは季節が変わったからと言って、メニューを一新せずに、2週間に一品程度のペースで、少しずつ入れ替えています。これは、頻繁に通ってくれる常連客ほど、気に入っているメニューが急に複数無くなるとがっかりするし、逆に食べ慣れたメニューの小さな変化を発見することには喜びを感じるから。
「お客に出す全ての料理を自分で作りたい」と願っていた佐藤さんにとって、この店の大きさはまさに理想。「店を増やしたいとか大きくしたいという気持ちは全くないです。最低でもここで10年間はやって、この店としての完成度を高めていきたいです」と語ります。
「Arbre(アルブル)」という店名は「木」を意味するフランス語で、佐藤さんの名前である「幹樹」からとったそうですが、奥渋にしっかり根を張り、大きく枝を伸ばし豊かな実をつけていく、そんな予感がします。
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