2024/06/18 特別企画

おにぎりは、今こそ客単価アップに有効!おにぎり協会・中村祐介氏が分析する「飲食店ならではのアプローチ」

6月18日「おにぎりの日」にちなみ、おにぎりについて考察する。「飲食店で客単価アップを目指すなら、今こそおにぎりです」と飲食店へエールを送るのは、一般社団法人おにぎり協会代表理事の中村祐介氏。おにぎりというメニューをどのように落とし込めば注文アップにつながるか、という視点から話を伺った。

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「おにぎり」を改良し、客単価アップを目指すべし

6月18日は「おにぎりの日」。2023年の「今年の一皿®」に「ご馳走おにぎり」が選ばれるなど、我らがソウルフードの「おにぎり」は今、スタンダードからご馳走系、そして進化系まで幅広く支持を深め、SNSやテレビ放送、雑誌とあらゆるメディアで取り上げられるほど盛り上がっている。

さて、〆のメニューとして、あなたの店ではどのようなおにぎりを提供しているだろうか。注文率はどうだろう、多くのテーブルからおにぎりの注文が入っているだろうか。

今回は一般社団法人おにぎり協会代表理事の中村祐介氏に、おにぎりがここまでブームとなった背景と現状から、飲食店にとって客単価アップの一つになり得るおにぎりについて語っていただいた。

一般社団法人おにぎり協会 代表理事 中村祐介氏 
2014年に一般社団法人おにぎり協会を設立。「おにぎり」を日本が誇る「ファストフード」であり「スローフード」であり「ソウルフード」であると定義し、おにぎりを通じて和食文化の普及活動を国内外で行う。「マツコの知らない世界」をはじめメディア出演多数。2023年、ぐるなび「今年の一皿®」で「ご馳走おにぎり」受賞。2024年、自治体や企業などと共に「おにぎりサミット」を主催として初めて開催した。

目次
飲食店ならではの、おにぎりのススメ
1.飲んだあとの、〆おにぎり
 ・焼貝 うぐいす(東京・鶯谷)
 ・鳥しげ(横浜市・野毛)
2.夜業態の、おにぎり専門店
 ・おにぎり竜(大阪・北新地)
3.観光地向きのテイクアウト
 ・島むすび(兵庫・淡路)
おにぎりの可能性は、無限大

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飲食店ならではの、おにぎりのススメ

ーーここまでおにぎりがトレンドとなったのには、どんな背景がありますか?

食生活の変化で主食である米離れが進む一方で、コロナ禍に陥り、私たちは自由に外出することができない期間を経験しました。この夜の外食が難しかったタイミングに、コンビニエンスストアやスーパーマーケットがこぞって「ご馳走系」のおにぎりを販売したことが背景にあります。

それまでおにぎりは、家で握ったりコンビニエンスストア等で買うものでしたが、ぜいたくに具をのせた特別なおにぎりが誕生し、人を惹きつけました。おにぎりの相場を100円台だと思っていた人が、そのおいしさから「200円でも、300円でもいい」という声が出始めます。そして「専門店があるなら行ってみたい」と、握りたてで温かく、具材も充実したおにぎりを提供する専門店への興味が非常に増えたのです(※ぐるなび調べ。2023年6月おにぎりに関するアンケート調査)。

おにぎり専門店の新規出店数(2022年1月~2023年10月)は前年の約1.5倍に急増しています(※ぐるなび総研調べ)。出店が増加した理由として、おにぎりは、私たち日本人にとって大変身近なソウルフードであり、一過性のブームに終わらず安定性や継続性があることと、特別な厨房機材が不要なうえに狭いスペースでもできるため、開業しやすいという点が挙げられます。

居酒屋など〆におにぎりをラインナップしていると思いますが、定番のおにぎりのまま、改良を加えていない店も多いのでは。お客のお腹と心を満たし、もう一品分の単価アップも期待できるポテンシャル高い商材として、今「おにぎりメニュー」に注力しないのはもったいないです。


ーーなるほど。おにぎりに注力しない手はないですね。好例として「ここはひと味違う!」というおにぎりを提供する飲食店を教えてください。

では、私が今まで訪ねた中から、その店の看板の一つになるほどの〆おにぎりを持つ店や、夜業態を確立した店、そして観光地の飲食店ならではのテイクアウトを展開する店を、それぞれご紹介していきます。

【おにぎりに関する他記事はこちら】
2023年「今年の一皿®」は「ご馳走おにぎり」に決定!
オーストラリア発 本格派「おにぎり」で勝負する日本食ファストフードが地元住民に大人気

1.飲んだあとの、〆おにぎり

・焼貝 うぐいす(東京・鶯谷)

その日仕入れたおすすめの新鮮な貝を味わえる、本格貝料理「焼貝 うぐいす」には、〆のおにぎりに「肝味噌おにぎり」があります。主に白ミル貝や平貝の肝を使用し、味噌と混ぜ合わせた自家製の肝味噌をおにぎりの表面に塗り、香ばしく焼き上げます。

「肝味噌おにぎり」(450円)

店のメイン食材から取れる「肝」を活用してもう一品生んでいること、焼き場を活用し焼きおにぎりにしていることが特徴で、貝料理専門店という業態に合わせて、おにぎりにも貝を紐づけた商品に落とし込んでいます。〆るはずのメニューなのに、つい日本酒をもう一杯おかわりしたくなる逸品です。

焼貝 うぐいす(東京・鶯谷)
東京都台東区根岸1-3-21
https://r.gnavi.co.jp/nabk15h80000/
JR鶯谷駅から徒歩2分にある、貝料理の大衆酒場。毎日市場より仕入れる新鮮で多彩な貝を「焼・蒸・活」と素材を活かした調理で楽しめると、ファンからの信頼もあつい。おすすめは、自慢の「うぐいすおまかせコース」7,500円から。

・鳥しげ(神奈川・横浜)

地元客に愛される老舗の焼き鳥居酒屋「鳥しげ」には、ご飯を平たく成形し表面をカリっ、中はもちりと焼き上げた「焼きおにぎり煎餅」があります。おいしさと食べやすさを突き詰めたらこの形になったのだとか。珍しい見た目からSNSで紹介されることも多く、サイドメニューを名物料理の一つへと昇華させた好例です。

「焼きおにぎり煎餅」(大1,100円、中880円、小660円)

事前にカットされているので、一つ注文すればシェアできる点や、その時の満腹度に合わせて大きさが選べる点、気軽に手でつまめる点や、さらに漬物が付いているのでこちらもまたもう一杯お酒が進む点など、客の心をつかむポイントが沢山詰まっています。

鳥しげ(神奈川・横浜)
神奈川県横浜市中区野毛町1-25
https://r.gnavi.co.jp/1d1x09kf0000/
創業50年を超えた今も、激戦区野毛の中でいつも人でにぎわっている人気の大衆居酒屋。炭火串焼きをメインに、海鮮、揚げ物、旬食材の料理など多種がそろう。

ーー他にも、〆のおにぎりが光るお店はありますか?

もつ焼きの老舗名店である新宿「鳥茂」で提供する「キャビアおにぎり」(高級食材のキャビアを一口大のごはんにのせている)や、ミシュラン一つ星獲得歴のある居酒屋「萬屋おかげさん」の「塩むすび」は具無し塩のみで、シンプルだからこそ究極で絶品だという評価を獲得されている店があります。

【おにぎりに関する他記事はこちら】
飲食店関係者必見!ぐるなび営業が語るヒットメニュー|おにぎり編
※ぐるなびnoteへジャンプします。

2.夜業態の、おにぎり専門店

・夜山太郎(東京・雑司が谷)

次に、お酒が飲める夜業態の店を紹介します。まずは池袋近くにある「山太郎」は2022年10月にオープンした昼営業のおにぎり店ですが、2023年5月から夜営業もスタートし、「夜山太郎」と名を変えて営業しています。具材は濃いめに味付けしているため、「これを肴にお酒が飲めたら楽しそう」という構想から生まれたといいます。

手巻握りは全品330円(すじこ/うなぎ入りは580円)で、具材を2種盛り、3種盛りしても同額というシンプルな設定。左から当店オリジナル「スパイシィアヒポキ×梅昆布」、売れ筋「すじこ×さけ」、一番人気の「肉そぼろ卵黄」。奥は、ごはん無しのつまみ用小鉢で、左から「うなぎ&クリームチーズ」「イカの塩辛&クリームチーズ」「生たらこ&唐揚げマヨ」。組み合わせは自由自在だ

特徴は、昼営業時の大きなおにぎりとは異なり、具材多め・ご飯少なめの”手巻きスタイル”であることと、おにぎりの具材のみを小鉢でいただけること。具材は2~3種を組み合わせてもらうことも可能なため、客の自由度が高く、お酒とともに複数の具材を楽しむことができます。具材は仕込み済のため提供時間が短く、飲食店にとっては回転率もあげられるという利点があります。

【夜山太郎の、詳しい記事はこちら】
おにぎり「山太郎」が「夜山太郎」も大好調!酒に合う”2種盛り具材”や”手巻握り”で夜業態を実現

夜山太郎
東京都豊島区雑司が谷2丁目10−7
https://r.gnavi.co.jp/s834vsf80000/
地下鉄副都心線の雑司ヶ谷駅から徒歩2分、東京さくらトラム(都電荒川線)の鬼子母神前駅から徒歩1分。2023年5月からお酒とともに楽しめるおにぎりの夜業態を開始。やさしく包まれた手巻き握りを、お酒とともにまったりと楽しむことができる。

ーーおにぎりの具材が、別メニューにもなり得る点がいいですね。

はい。他に、普段使っている在庫の食材を無駄なくおにぎりの具にしている業態として、例えば「ラーメン×おにぎりセット」という展開があります。「Rahmen&Onigiri Eddie」のネギチャーシューがその好例ですね。チャーシューを具材にすれば、おにぎり専用の食材を仕入れずとも新メニューを生むこともできるわけです。今ではこの贅沢おにぎりも店のウリとなり、ラーメンとおにぎりが両方楽しめる店として注目を集めています。

【ある食材を活用しおにぎりを提供する小料理屋の記事はこちら】
ツナマヨの概念がひっくり返る!超なめらか「自家製ツナマヨおにぎり」Arbre(アルブル)@奥渋谷

・おにぎり竜(大阪・北新地)

米は山形産のつや姫、海苔は有明産、塩は沖縄の塩専門店・塩屋まーすやーの塩と、素材一つ一つのこだわりがウリの「おにぎり竜」は、握りたてのアツアツ絶品おにぎりをアテに飲めると、大阪で大人気の店です。開店当初から夜営業の想定であったため、おにぎりにおでんを組み合わせ、豊富なお酒のバリエーションがそろいます。気温が上がり暑い日でも、つまみとしておでん需要は高いそうです。

人気のおにぎりから2種。自家製のツナマヨに刻みワサビをプラスした「北新地ツナマヨ」(写真左/350円)、おかかの具材がたっぷり入り、さらに糸かつおを身にまとった「にゃんこ三昧」(同右/300円)。奥左はおでん3種(大根/250円、つくね・絹厚揚げ/各350円)、同右は甲類焼酎・キンミヤで割る「煎茶ハイ」(550円)

おにぎりはふわっと軽く押さえる程度でほぼ握らないため、一見大きそうですが1個80~90gほど。一般のおにぎりよりちょっと小ぶりの量です。特に女性の常連からは、さらにご飯の量を減らした”小にぎり”(同額)が人気。小にぎりを複数注文してもらうことで、色々な具材を楽しみたいという需要に上手に応えつつ、客単価アップにつなげています。

おにぎり竜(大阪・北新地)
大阪府大阪市北区曽根崎新地1-1-16 クリスタルコート103
https://r.gnavi.co.jp/6b3bup7n0000/
JR東西線北新地駅から徒歩5分。元プロボクサーの山中竜也氏(元WBO世界ミニマム級チャンピオン)が怪我のために引退後、セカンドキャリアとして2019年4月にオープンしたおにぎり専門店。歓楽街のエリアであることから夜のみ営業。リーズナブルな価格で、絶品おにぎりとおでんをお酒とともに楽しめると人気を集めている。

ーー夜利用の需要に合わせて、工夫があるわけですね。

岩手・盛岡の人気店「握り飯 銀香」は11時30分~17時は握り飯、17時以降は日本酒BARとそれぞれに提供内容を設定している店で、ランチタイムにはリーズナブルな「握り飯セット」(700円)やテイクアウト、夜には鍋×お酒×おにぎりと、時間帯別の需要を獲得しています。

また、九州・長崎には1965年創業の老舗「かにや」がありますが、18時から翌3時まで営業しているため、”飲んだ後のおにぎり屋”として愛されており、深夜遅い時間帯まで活気であふれています。もちろん焼き鳥、おでんなどの料理を目的に、開店早々からの利用客も多いそうです。

3.観光地向きのテイクアウト

・島むすび(兵庫・淡路)

最後に、観光地の利点を生かした淡路「島むすび」の「島むすびパフェ」を紹介します。利用者の9割以上が観光客。大阪・神戸⇔淡路島間を移動する車でかなり渋滞する道沿いにあるため、気軽に立ち寄ったり、テイクアウトをして車中に持ち込めるものを念頭に考案したそうです。魅せるパフェ形式にすることで、ウリであるご当地食材一つ一つをアピールできている点が優れています。

左から「島むすびパフェ(淡路島しらす)」(1,500円)、「島むすびパフェ(淡路島ローストビーフ)」(1,500円)
「淡路島しらす」のおにぎりには梅じそ(南あわじ産の梅干しと大葉)を使用し、おいしさをプラス。おにぎりはほんのり温かく、スプーンですくえるサイズ。この大きさでもちゃんと海苔が巻かれている

魚派に淡路島しらす、肉派に淡路島ローストビーフと2種類あります。食材の大きさや配置も食べやすさを考えて構想されています。一番下にはダイス状にカットした野菜のピクルス。その上にガス釜でふっくらと炊き上げた米で作るミニ塩おにぎりを5個ほどのせ、周りに淡路島産の野菜やメイン食材を配しています。

容器を透明カップにした狙いは、便利なワンハンドスタイルなうえに車に持ち込んでもドリンクホルダーに立てることができること、見た目の美しさがアップし、写真が撮りたくなるビジュアルであることなど、観光客のニーズにピタリとハマっています。特に20代女性の購入が多いそうです。

【詳しい記事はこちら】
おにぎり探訪:淡路島「島むすび」
※おにぎりJapanサイトへジャンプします。

島むすび(兵庫・淡路)
兵庫県淡路市斗ノ内 乙崎422
https://www.instagram.com/shimamusubi_awajishima/
神戸淡路鳴門自動車道北淡ICから車で約3分、淡路島の西海岸沿いの景勝地に2023年8月オープン。テラスで海を眺めながら淡路島産の食材をたっぷり盛り込んだ料理がいただける。各種テイクアウトも可能で、観光客が気軽に立ち寄れるスポットとして人気。

【こちらもチェック!】
【2024年】「おにぎり屋」がブーム?!人気の理由や必要な設備、おすすめの具材も解説!
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おにぎりの可能性は、無限大

ーーおにぎりは、工夫しやすいメニューなのですね。

おにぎりは少ない材料で構成でき、特別な技術も機材も不要な料理なので、工夫次第で如何様にも設定できる、ポテンシャルの高い商材だと思います。高級食材を使って贅沢おにぎりにすれば販売価格を上げられますし、材料費を抑えた内容でリーズナブルな設定も可能。飲食店は、自身の店の特徴に合わせたり、客層の懐事情も考慮したりして、カスタマイズすることができると思います。

小麦をはじめ野菜の不作など、食材高騰で値上げを余儀なくされているお店も多いことでしょう。対して米は比較的原料の供給が安定しているので価格も安定しやすく、計算しやすいというメリットもあります。今年は2023年の不作と需要増でお米の価格も高騰していますが、2024年の主食用米の作付けを増やす意向があるのは11道県となっており、来年は落ち着く可能性があります。

なんと言ってもおにぎりは、私たち日本人が誇る「ファストフード」であり「スローフード」であり「ソウルフード」。人のために握られる、温かさという不思議なパワーも備えています。

「日本の飲食店はおもしろい。どこへ行ってもその店らしいおにぎりがある」、そう言いながら〆におにぎりをオーダーする。そんな未来が訪れたなら、私にとってこのうえない喜びです。

取材協力:一般社団法人おにぎり協会 代表理事・中村祐介氏
公式サイト
https://www.onigiri.or.jp/
中村祐介氏作 偏愛コミュニティ『おにぎりの世界』
https://www.henaitokyo.jp/community/28/

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