ドイツ発 “日本のスナック”おにぎりが人気 前編

ドイツの大都市を中心に、数年前から“おにぎり”を扱う店が誕生している。米を使った新しい料理はドイツ人にどう映っているのか。前編では「街のおにぎり屋さん」として話題の店を紹介する。

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Vol.59

最近のドイツで、いくら日本に疎くても寿司を知らない人はまずいない。高級日本料理店、庶民的な回転寿司、日本人以外のアジア人が経営している和食店などが、ドイツにはたくさん存在する。そんななか、数年前からデュッセルドルフ(ドイツ西部の工業都市)やベルリン(ドイツ東部にある首都)などの大都市を中心に、“日本のスナック”ともいえるおにぎりを扱う店が誕生している。米を使った新しい料理はドイツ人にどう映っているのか。前編では「街のおにぎり屋さん」として話題の店を2店舗紹介する。

ドイツのおにぎりは、日本のコンビニのおにぎりと同じ様な形で販売されている。上から下へ引く仕組みのフィルムは日本から仕入れる
デュッセルドルフでは「日本デー」という祭りが毎年開催されるほど、日本人が多い。日本人街もあることから、ドイツ人は日本文化に親しみを持っている
© Düsseldorf Marketing & Tourismus GmbH
ベルリンに登場した、地下鉄のプラットホームを利用するおにぎり店。雰囲気は日本のキオスクにそっくり

ドイツ初のおにぎり専門店が、予想を超える人気!

「デュッセルドルフで日本や和食に詳しい人は、当店のことも知っています」。こう断言するのは2010年に和食店「ワラク」(Waraku)をオープンしたドイツ人オーナー、ファビアン・ボーンケ氏だ。日本人の妻を持つボーンケ氏は日本滞在中におにぎりと出合い、ドイツ最大の日本人街、デュッセルドルフのインメルマン通りに、おにぎり専門店を出店。毎日平均250個、土曜日には500~600個ものおにぎりを販売している。

「ワラク」のおにぎりは1個2.50ユーロ(約360円)。ドイツではサンドイッチなどのテイクアウト食品は2~3ユーロ代が相場。おにぎり2個&味噌汁セットは6ユーロ(約860円)。お弁当やお茶もある

ドイツ西部に位置するデュッセルドルフの人口は約59万人。市内と周辺には日系企業が約500社集まり、約8,400人の日本人が在住している(2012年外務省調べ)。街を歩けば日本人に遭遇することが日常だ。デュッセルドルフ中央駅と中心部をつなぐインメルマン通りには日本の食料品店や日系ホテルが並び、「ワラク」にとっても最適な立地である。

当初、「ワラク」は日本人をターゲットにスタートした。ボーンケ氏は日本米について学び、日本の品種であっても外国産の米は使用せず、日本産の米と海苔にこだわっている。東日本大震災後は、日本産の食材に不安を抱く風潮もあったが、日本産の米を使い続けるために、同店では日本から届いた材料の放射能測定を入念に行って、不安を払拭。日本の味・質を追求している。

日本人客に人気の商品は、日本でお馴染みの味「ツナマヨ」「鮭」「明太子」など。「ワラク」のおにぎりを「日本のコンビニのものよりもおいしい」と評価する人もいる。それもそのはず。同店のおにぎりは梅干しや納豆など日本から購入した材料を除いて、すべて合成保存料、化学調味料、乳糖などを使っておらず、そしてグルテンフリーなのだ。さらに、調理は日本人のスタッフのみに任せている。

日本人に受けるのはもちろんだが、「ワラク」の顧客は日本人だけではなく、いまや来店客の6割以上がドイツ人や国境を接するオランダ人だ。彼らには肉系のおにぎりが好評で、特に「照り焼きチキン」が人気。照り焼きソースを使った料理(照り焼きチキン丼など)は多くの和食レストランのメニューにあるため、和食を知っているドイツ人にとってなじみがあり、好みの味なのだ。そのほか、「ツナマヨ」「鮭」などの魚系も売れ筋で、野菜系では「きんぴら人参」が人気。いわゆる“普通”の具材が受けており、日本特有でドイツ人にとって未知の食材「納豆」や「明太子」はあまり好まれない。

ドイツ人で寿司を知っていても、まだおにぎりは知らない人も多く、広めるためにはおにぎりと寿司の違いなど、根本的な説明は欠かせない。そのため、「おにぎり=健康スナック」と考えてもらえるように宣伝している。作りたてであることや、栄養価、1個200カロリー以下であることをアピールするとともに、特殊なフィルムによって海苔がご飯にくっつかずパリパリなことも紹介する。「食において冒険心が少ないドイツ人におにぎりのよさを知ってもらうことは、簡単ではありません。同じ値段でサイズが大きいという理由で、サンドイッチやケバブを選ぶ人もいます。それでも私は、おにぎりは最高のテイクアウト食品だと思っています」とボーンケ氏。この思いがドイツ人にも伝わり、「ワラク」は人気店となっているのだろう。

「ワラク」は、日本人向けにスタートしたものの、今ではドイツ人顧客の数が上回る。近隣エリアで“日本デー”やコスプレのイベントがある際はさらに混み合う
SHOP DATA
ワラク(Waraku)
Immermannstraße 27
40210 Düsseldorf
http://www.waraku.de/

ベルリンの地下で出会う、変わりおにぎり

340万人の人口に対し、在住邦人が約2,300人しかいないドイツの首都ベルリンでは、日本人ではなくドイツ人をメインに親しまれているおにぎり店がある。店名は和風ではなく、英語で「ライス・アップ」(RiCE UP)という。米を使った料理だと連想できるように、名前に「ライス」を付け、そしておにぎりはフィルムを“アウフライセン”(aufreißen。ドイツ語で「(包みを)破いて開ける」の意。aufは英語のupに当たる)することから、掛け言葉にして「ライス・アップ」と名付けた。経営者はもともとジャーナリスト・カメラマンだったトーステン・ロイター氏とアレフ・カルバート氏。仕事で何回か訪日するうちに、ベルリンでもおにぎりの需要があるのではないかと考え、2011年にそのアイデアを実現させた。

「ライス・アップ」の人気商品のひとつ、「鮭&わさび」。米はヨーロッパ産、海苔は日本産。価格は直営店では1個2.80ユーロ(約400円)、卸販売先では2.99ユーロ(約430円)

「ライス・アップ」のおにぎりの特徴は、ドイツ人好みの具材と、使用する食品すべてが無添加であることだ。ベストセラーは「アボカド&ライム&コリアンダー」と「鮭&わさび」。前者はアボカドのまろやかな味とライムのフレッシュな香りがうまく調和している。後者はひと口目からわさびの辛さを感じる大人向けのおにぎりで、マヨネーズを加わったことで、鮭とわさびの一体感が楽しめる。日本人からすると意外とも感じられる一風変わったおにぎりは、オンラインアンケートや試食を重ねて生まれたという。日本で知られているオーソドックスな味はほとんどない。

さらにロイター氏とカルバート氏は、ドイツ国内で話題を呼んでいるベジタリズム(菜食主義)とヴィーガニズム(バターやチーズなどの動物製品も食べない菜食主義)の波に乗って、「干ししいたけ&蒸した北海道かぼちゃ」「キムチ」などのおにぎりも開発した。食品の原産地と品質がEUの有機農産物の規定に準拠していることを証明する認証マーク(パッケージにある葉っぱのマークが認証マーク)も取得し、健康食品であることをアピールする。

このユニークで体に優しいおにぎりは、特に20~40代の女性に人気で、Facebookのページでもファンの7割は女性が占める。日常的にヨガを行ったり、健康食料品店で買い物をしたりする、心身に気を遣う人が「ライス・アップ」のファンになっているのだ。

また、「ライス・アップ」のもうひとつの成功の要因は、若者を惹きつけるカルチャー地区、クロイツベルグの地下鉄のプラットホームにあることだろう。クロイツベルグを通る地下鉄8番線は中心街へ行くのに便利な路線で、毎日約200個が売れる。また、オーガニックのコーヒーやチャイも販売しており、「会社や学校で健康的な昼食をとるために購入する人が多いです」とロイター氏は話す。

駅地下の小売販売のほかに、ロイター氏とカルバート氏はベルリン市内と隣町ポツダムの健康食料品店などにも、おにぎりを卸している。卸先は39カ所。ベルリンの有名健康食品スーパー「ビオ・カンパニー」などが得意先だ。そのほか、ゴールデンタイムにドイツ全国で放送される若者向けニュース番組「ガリレオ」」でも紹介されるなど、ベルリンに初めて登場した変わりおにぎりは、ドイツ人の心をしっかりと捉えている。

「ライス・アップ」のオーナーを務めるアレフ・カルバート氏(左)とトーステン・ロイター氏(右)
“ベルリン初のおにぎり専門店”の記念に作ったステッカー。FacebookなどでのPRにも活用されている、かわいいマークだ
SHOP DATA
ライス・アップ(RiCE UP)
地下鉄8番線Schönleinstraße駅プラットホーム、Berlin
http://www.rice-up.de/

取材・文/町田文

※通貨レート 1ユーロ=約143円

※価格、営業時間は取材時のものです。予告なく変更される場合がありますのでご注意ください。