ドイツ発 “日本のスナック”おにぎりが人気 後編

ドイツでは2~3年前からおにぎりがトレンドのひとつ。後編では、卸販売やイベントでの屋台販売を行う企業をピックアップ。ベルリンとミュンヘンで展開する、新しいおにぎりブランドを紹介。

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Vol.60

「日本のスナック」「ご飯でできたテイクアウト食品」「健康的な昼の軽食」などのキャッチフレーズを用いて、ドイツでは2~3年前からおにぎりが和食のレパートリーに加わっている。後編では、固定店舗は持たず、卸販売やイベントでの屋台販売を行っている企業をピックアップ。ベルリンとミュンヘンで立ち上げられた、新しいおにぎりブランドを紹介する。

ドイツの男性向けライフスタイルマガジン「ビジネス・パンク」で、海苔の製造方法と、おにぎりの人気店としてベルリンの「ニギ・ベルリン」が紹介された
ドイツ人が作ったおにぎりも、日本のおにぎりに味で負けていない。形づくりとパッケージは自動成形機に頼るが、米と具で勝負する
実店舗での販売のほか、おにぎりの卸売りビジネスも展開されている。できたてを時間厳守で配達する

ドイツ人と日本人の舌、両方に合うおにぎりで成功

「ニギ・ベルリン」(Nigi Berlin)は、前編で取り上げたおにぎりスタンド「ライス・アップ」とは異なり、卸販売と個別注文への対応をメインに行っている。2012年半ばにベルリンでスタートしたばかりの新ブランドだ。日本語学科を卒業し、日本に長期滞在した経験があるトーマス・ドンダ氏が、妻と日本人スタッフの3人で営んでいる。

販売先では看板を設置して宣伝。健康食品であることをアピールする

販売は、ベルリン市内の健康飲料専門店「ココペリス・スムーティー」(Kokopellis Smootea)や、日本の雑貨や漫画を販売している「ネオ・トーキョー」(Neo Tokyo)など、合計7店への卸売り。そのほかに、企業や内務省の食堂で複数のケータリング会社と提携している。

製造するおにぎりの種類は8種類に留まるが、和とドイツの味がうまく調和している。ドイツ人に人気があるのは「チキンのしょうが風味」と「焼肉ビーフ味」。どちらも肉がたくさん入っており、特に「焼肉ビーフ味」は焼肉の味付けのほか、ネギのうま味も効いている。海苔は韓国産だが、日本のものにとても似ている。ベジタリアンやヴィーガン(バターやチーズなどの動物製品も食べない菜食主義者)に好まれるのは「くるみ&味噌味」。一見不思議なコンビネーションだが、絶品だ。2013年12月にはドイツのクリスマス料理にちなんで、「照り焼きダック&紫キャベツ」にも挑戦した。「ダック(アヒル)が苦手な人もいますが、このスペシャルおにぎりはとても好評でした」とドンダ氏は微笑む。

前編でも書いたとおり、ドイツ人にとって未知のおにぎりを食べてもらうためにはプロモーションが欠かせない。社員食堂で初めて売る際は、おにぎりを切って中身を見せ、ていねいに説明する。「全体的に女性の方が興味を示してくれます。顧客の数としては大きな男女差はなくても、男性のほうが受け入れてもらうのに比較的時間がかかりますね」とドンダ氏。さらに、価格設定にも気をつけている。「ニギ・ベルリン」のおにぎりは大抵2ユーロ(約290円)で販売される。ベルリン市民はケバブなどの安いテイクアウト食品に慣れているため、健康的だからという理由だけでは3ユーロ以上支払うことをためらってしまう。庶民に購入してもらうためには2ユーロ代前半がベスト価格というわけだ。この「庶民性」を意識している点も、同じ市内にある無添加おにぎり店「ライス・アップ」のコンセプトとは異なる点だ。

また、「ニギ・ベルリン」はドイツ人だけでなく、日本人にも好まれるおにぎり作りを目指し、日本人に定評のある塩鮭や梅干しなどの具材もそろえている。その成果として、日本大使館からもよく注文を受けるという。そして、日本人が経営している和風カフェ「マメチャ」(Mamecha)にも卸を開始した。両国の好みの味を取り入れたおにぎり作りはこれからも続く。

日本のカルチャーを発信するショップ「ネオ・トーキョー」に置かれたおにぎり。ここでの価格は2ユーロ(約290円)
「ニギ・ベルリン」の代表、トーマス・ドンダ氏。日本語の通訳などに携わっているうちに、日本に関連した事業を起こすことに興味を持つ。「おにぎり販売は日本人の友人と考えつきました」と話す
SHOP DATA
ニギ・ベルリン(Nigi Berlin)
http://www.nigi-berlin.de/

ドイツ人向けにアレンジしたおにぎりで人気

2013年の夏には、南ドイツのミュンヘンにも新たなおにぎりブランド「モニギリ」(Monigiri)が誕生した。「モニギリ」とは、おにぎりにミュンヘンの「M」をくっつけた造語で、ミュンヘン産のおにぎりであることをアピールしている。経営者は、日本人の木村美智氏。1999年からドイツに在住し、ドイツ人と結婚。本業は日本の子供服の輸入卸・オンラインショップの運営だが、他の都市のようにミュンヘンにもおにぎりのニーズがあると思い、「モニギリ」(Monigiri)を立ち上げた。

「モニギリ」では、パッケージにフィルムと折り紙を使用。折り方の説明も載せ、日本文化を伝える。ロゴのおにぎりマークも日本文化のかわいらしさを表現

「モニギリ」の最大の特徴は、ミュンヘンおよびバイエルン州の料理を活かした具材があることだ。例えば、「オバツダ」(カマンベールチーズ、パプリカパウダー、タマネギなどを用いたチーズディップ)や「ザワークラウト」(ドイツにおけるキャベツの漬け物)を使用している。また、ドイツにはもともと牛乳と米で作る「ミルヒライス」というライスプディングが親しまれているため、ドイツ人は甘いご飯を食べることにも慣れていると考え、なんと「あずき味」や「イチゴ&マンゴージャム」のおにぎりにも挑戦。このような珍しい具材のおにぎりは、日本の雑貨などが売られるマーケット「ヤーパン・ドゥルト」(Japan Dult)で販売され、ドイツ人たちの興味を引いた。今後はイベントだけでなく、カフェなどに卸すことも計画している。

日本人にとって昔からある当たり前の食べ物が、今、ドイツでさらなる進化を遂げている。特にくるみやジャムを用いたおにぎりなどは、日本人にとっては違和感があるかもしれない。だが、ドイツ人から見れば、柔らかい風味を持った白飯は本来、ありとあらゆる食材と合うもののようだ。ドイツのおにぎりビジネスのオーナーたちは、好奇心からいろいろな材料を混ぜ合わせ、一風変わったおにぎりを創造する。それでもドイツのおにぎりから日本の要素が消えることはない。前職で何度も日本を訪れた「ライス・アップ」の経営者トーステン・ロイター氏は言う。「ドイツでおにぎりを作りたいなら、日本の文化的知識がないといけない」。おにぎりは、日本の食文化を尊重することから生まれるということなのだろう。

日本の雑貨やファッションアイテムが発表されるマーケット「ヤーパン・ドゥルト」では1個2.7ユーロ(約390円)でおにぎりを販売し、行列ができるほどの大盛況だった
ドイツ在住の経歴を活かして「モニギリ」を始めた木村美智氏。ほかにはないミュンヘン独特の味と日本の伝統的な味、両方のおにぎりを提供することがコンセプト
SHOP DATA
モニギリ(Monigiri)
http://www.monigiri.com/

取材・文/町田文

※通貨レート 1ユーロ=約143円

※価格、営業時間は取材時のものです。予告なく変更される場合がありますのでご注意ください。