スペイン発 世界的注目レストラン

スペインが世界に誇るレストラン「エル・ブリ」が閉店!「エル・ブリ」の流れを汲む、次世代スペイン・レストランとは!?庶民的なバルで楽しむスペインの伝統料理も魅力だが、実はスペインの料理を世界的に有名にしているのは高級料理の分野である。

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Vol.5

スペインが世界に誇るレストラン「エル・ブリ」が閉店!「エル・ブリ」の流れを汲む、次世代スペイン・レストランとは!?

庶民的なバルで楽しむスペインの伝統料理も魅力だが、実はスペインの料理を世界的に有名にしているのは高級料理の分野である。なかでも、前回もふれたが、45席ほどの小さな店にも関わらず、年間200万件もの予約があるレストラン「エル・ブリ」は、革新的な料理で世界のトレンドを変え、スペインを料理大国に押し上げた。この人気店の舞台裏は、映画「エル・ブリの秘密 世界一予約のとれないレストラン」(2011年12月10日より公開)になる程、世界的にも関心が高い。そんな有名レストランが2011年の7月で突然閉店した。そこで、前回に引き続き、次なる「エル・ブリ」になり得るであろう、スペインの有力レストランをいくつか紹介したい。

映画「エル・ブリの秘密 世界一予約のとれないレストラン」。12月10日より、シネスイッチ銀座ほか全国で順次ロードショー開始。©2010 if...Productions / BR / WDR
フェラン・アドリア氏。1962年生まれ。「エル・ブリ」の料理長として革新的な料理を次々に発表し、世界の料理のトレンドを変えた。「エル・ブリ」を閉めた後は、財団を興して料理を研究するという
「エル・ブリ」の厨房。40品ほどあるコース料理を手がける同店のスタッフの数は、客席数より多い

世界最強のレストラン「エル・ブリ」の影響力とは?

右写真の料理は「エル・ブリ」の革新性を最もよく表したものだろう。松の実とオイルをオブラートに包んだ「消えるラビオリ」と名付けられたこの一品は、ボウルの水でしゃぶしゃぶしながら食べるものだ。こうした、人を驚かせる料理を生み出したのが、「エル・ブリ」オーナーシェフのフェラン・アドリア氏である。食材をムース状にするエスプーマという料理手法の発明や、液体窒素を使った特異な調理法を生み出したことで知られる料理界の革命児だ。

Photo©Francesc Guillamet

また、イギリスの雑誌「レストラン・マガジン」(以下、RM誌)が毎年発表し、世界的に話題を呼んでいる「世界のベスト・レストラン50」というランキングがある。若い世代のシェフ達から、「ミシュランの星をもらうより、RM誌の『世界のベスト・レストラン50』にランクインしたい」とまで言われており、非常に影響力のあるRM誌であるが、「エル・ブリ」は過去10年間で5回も世界1位に輝いている。

しかもこのベスト50にランクインしているレストランのシェフや関係者の8割近くがフェラン・アドリア氏の下で働いたり、彼のワークショップに参加した経験があるというのだから、その影響力に驚くばかりだ。もっとも、フェラン・アドリア氏が「エル・ブリ」を閉めてもRM誌のベスト50にはまだ5軒もスペインのレストランが名を連ねている(ちなみに日本は2軒)。そこで、「エル・ブリ」なき後、今後さらに世界的に注目されるであろうスペイン・レストランとそのシェフを、彼らが共通して使用する食材、食べられる花「エディブルフラワー」に焦点を当てながら紹介したい。

食べられる花「エディブルフラワー」をこぞって使う、次世代スペイン・レストラン

花を料理に用いる習慣は最近に始まったものではない。そもそもスペインには、サフランでパエリアを黄色く染める食文化があるし、近年では、食べられる花で料理を飾り、香りを楽しむ傾向が顕著だ。また、「エル・ブリ」でも早くから花を食材として使用していたこともあり、料理界に影響を与えた側面もある。一方で、科学的な調理法で多用される、窒素やアルギン酸などの添加物を大量に使う事への批判があるのもまた事実。そのため、自然素材を積極的に使うのは、世界的傾向だろう。

さて、野生の花や香草を創造的に用いることで知られているのがアンドーニ・ルイス・アドゥリス氏である。スペインに6軒しかないミシュラン3ツ星に一番近いと言われる、2ツ星のレストラン「ムガリツ」のシェフだ。「私は複雑になりすぎた料理を単純化しているだけ」と語る彼の料理は、花が添えられることでより詩的な雰囲気を醸し出している。そうした表現を裏で支えているのは、科学的に素材を捉える発想と繊細な調理方法だという。

ムガリツがRM誌の第3位なのに対し、惜しくも51位でトップ50入りを逃したのが、自身の名前をレストランに冠した「キケ・ダコスタ」だ。"食べられる紙"を開発したことで知られるキケ・ダコスタ氏の料理は極めてアーティステイック。地元の風景を皿の上に表現した料理に、森や木々を表す花や香草は欠くことができない。

そしてミシュランでは3ツ星を獲得し、RM誌で2位にノミネートされているのが、3人の兄弟が運営する「エル・セジェ・ド・カン・ロカ」だ。真空調理法でスペイン料理に大きな影響を与えた主任シェフの長男・ジョアン氏とホール支配人の次男・ジョセフ氏のもと、三男のジョルディ・ロカ氏がパティシエを務めている。この若手パティシエが作り上げるフルーツと花の香りが響きあうデザートにも、食べられる花の存在は必要不可欠だ。

紹介した3店は、料理やサービス、店内の雰囲気や環境を含め、どれも国内外から評価が高く、魅力的だ。こうした世界から注目を集めるレストランからの要求を満たすため、スペイン国内では食べられる花「エディブルフラワー」を開発する企業が続々と生まれているという。そうした産業の発展や後方支援もあいまって、世界一の称号が与えられるレストランがスペインからまた登場する日もそう遠くないのではなかろうか。

mugaritz(ムガリツ)
コース料理価格:約11,770円~(飲み物を除く)
営業時間:13:00~18:30 20:30~22:00
営業期間:4月13日~12月11日(2011年の場合)
休日:日曜の夜、月・火。但し5~9月は火曜日の夜も営業。
http://www.mugaritz.com/
アンドーニ・ルイス・アドゥリス氏。1971年生まれ。詩的な料理で知られる「ムガリツ」の料理長。花や香草の使い方に長けた、次世代のスペイン料理界を牽引するシェフ
何種類もの花が使われた、コース料理の一品。火を使わない料理はアドゥリス氏のテーマのひとつ
Quique Dacosta Restaurant(キケ・ダコスタ・レストラン)
コース料理価格:約12,947円~(飲み物を除く)
営業時間:13:00-15:00 20:00-22:30
営業期間:3月1日~11月1日(2011年の場合)
休日:月・火曜。但し7~8月は営業する日もあり
http://www.quiquedacosta.es/
キケ・ダコスタ氏。1972年生まれ。17歳から働き始めたシーフードレストラン「エル・ポブロ」を世界的な有名店に押し上げた。2009年、自身の名を冠した現在の店名に変更
地中海で採れたエビに地元の花を合わせた一皿。近海で獲れるエビは甘いうえに種類が多く、様々なバリエーションのエビ料理は同店を代表する料理のひとつ
el celler de can roca(エル・セジェ・ド・カン・ロカ)
コース料理価格:約13,375円~(飲み物を除く)
営業期間:13:00-16:00 20:30-23:00
休日:日・月曜日 クリスマスシーズン、祝日、8月23~31日
http://www.cellercanroca.com/
ジョルディ・ロカ氏。1978年生まれ。「エル・セジェ・ド・カン・ロカ」でパティシエを務める。長兄のジョアン(1964年生まれ)らと力を合わせ、さらなる高みを目指す
花のゼリーとパッションフルーツの二層になった上のメニューは同店の名物デザート。食べられる花として、スミレ、オレンジ、バラ、ジャスミンなどを使用

原稿/ジョー・スズキ
取材協力/スペイン大使館 経済商務部

※以上すべて1ユーロ=約107円で計算(2011年11月7日現在)