老舗の価値と現場の声に依拠し、新しい時代を築く
マネージファイブは、私鉄沿線の主要駅ではない駅前を中心に、炭火の焼き鳥をメインにした大衆居酒屋を展開する飲食企業だ。「樽屋」「炭屋五兵衛」「やきとり倶楽部」といったメインブランドは、昭和50年代の創業以来、大きく変わることなく、昭和レトロな木造の温かい空間もそのままで、地元のビジネス層や住民に長く愛され続けている。
初代社長の息子である池田 大祐 氏は、大学卒業後にIT企業で働いていたが、父の後を継ぐためにマネージファイブに転職。直営全店舗の現場を経験してマネジメントスキルや経営感覚を磨き、2019年に部長職に就き、コロナ禍からの出口が見え始めた2022年10月、社長に就任した。
「自分の経営の原点は現場にある」と語る池田氏は、先代が築いた現場の価値に依拠しつつ、DX化や社員エンゲージメントの向上に取り組み、経営の刷新を進めている。
目次
・約40年前に父が作った会社を継ぐ
・焼き鳥の大衆居酒屋を3ブランド展開
・現場の裁量にまかせることで成果につなげる
・社員が生き生きと働ける環境を目指して
・現場の視点を忘れずに時代に合った経営を
・「リーダー×一問一答」&「COMPANY DATA」
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約40年前に父が作った会社を継ぐ
――お父様は脱サラして会社を作ったそうですね。
始まりは40年ほど前に遡ります。サラリーマンだった父が、経営難に陥った飲食店5軒を知人から引き継いだんです。東京・大森駅前にある大衆居酒屋「樽屋 大森店」が創業店の1つ。父は「樽屋」と同じ焼き鳥居酒屋を東京や神奈川に精力的に出店し、独立支援やのれん分けを含めると80店以上は作ったそうです。
父の出店戦略は「裏道をゆく」こと。乗降客が多い駅では個店が大手チェーンに勝つのは難しいことから、私鉄沿線の家賃の安い物件にフォーカス。当時はインターネットなどありませんから、自ら足を運んで「ここぞ!」と思う立地を見つけていたそうです。こうして少しずつ事業規模を拡大し、1997年にマネージファイブを設立しました。
――会社を継いだ経緯を教えてください。
学生時代まで、父から「後を継いでほしい」と言われたことはなく、私にもそのつもりはなかったので、大学卒業後はIT企業に勤めていました。しかし、経営者としての父を間近に見るうち、「力になりたい」「父が築いたものを受け継ぎたい」という気持ちが芽生えてきました。そこで、2014年にマネージファイブに入社し、直営店すべてで経験を積みました。このときの現場での学びと従業員の方々との関係構築が、私の原点になりました。
8年間、現場に立ちましたが、転機になったのは2020年のコロナ禍です。誰もが未経験の事態の中で会社と社員を守ることだけを考え、現場だけでなく経営にも参画するように。ようやく出口が見え始めたタイミングで父の後を継ぐことになりました。
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焼き鳥の大衆居酒屋を3ブランド展開
――主力ブランドの特徴を教えてください。
「樽屋」「炭屋五兵衛」「やきとり倶楽部」の3つで、最も古い「樽屋」は100席超の大箱で1店舗のみ。月商は1,000万~1,500万円です。「炭屋五兵衛」と「やきとり倶楽部」はそれぞれ6店舗で30~50席、月商は500万~600万円です。これら3つのブランドにはメニューを含めて大きな違いはなく、どれも「備長炭の焼き鳥」「使い勝手の良さ」「温かい接客」にこだわり、平均客単価を3,500円以下に設定。ビジネス層からファミリーまで誰もが安心して日常使いができ、それぞれの地に住む人々にご利用いただいています。
なぜ、同じコンセプトのブランドなのに名前を3つに分けたのかというと、万が一、食中毒などのトラブルが起きた場合にリスクヘッジができると父は考えたようです。ただ、長い年月を経て徐々にブランドごとに客層や利用シーンに特徴が出ており、「炭屋五兵衛」はシニア層、「やきとり倶楽部」は若い世代から人気で、「樽屋」は企業の大人数の利用が多いです。
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東京と神奈川の私鉄沿線に6店舗を展開。「樽屋」や「やきとり倶楽部」に比して年配客が多くリピート率も高い -
東京と神奈川の私鉄沿線に5店舗、神奈川のJR駅近くに1店舗を展開。「樽屋」「炭屋五兵衛」に比して、若者層を多く獲得している
現場の裁量にまかせることで成果につなげる
――一方で店ごとにサービスは全く異なるそうですね。
店長に与えられている裁量権が大きいからだと思います。各店長が、周辺立地の特徴や客層、ニーズなどをとらえて、メニューやイベントなどを自店に合った内容に変えています。もちろん、本部として店舗ごとの取り組みはチェックしていますが、基本的には店長にまかせています。
例えばメニューの7~8割は全店舗共通ですが、残りは店ごとに異なります。締めに無料の「おにぎりサービス」を始めた店舗の売上が大きく伸びたこともあります。営業時間も17~25時が基本ですが、ある店長は「うちは26時までやればもっと売上が取れる」と申し出て、実際に売上アップを達成。こうした現場の感覚は本当に重要で、店長のアイデアによって売上が2倍近くになった店もあります。
社員が生き生きと働ける環境を目指して
――社長就任後、何に力を入れたのでしょうか。
社長として最も大切にしているのは、社員が幸せに生き生きと働ける環境を作ることです。父の時代は独立志向が強い社員が多かったため、新店を作って軌道に乗せ、それを譲る形で独立を支援してきました。しかし、現在は以前ほど独立を目指す社員は多くはありません。安心して長く働ける環境を作りつつ、いかに仕事に対するモチベーションを上げたり、努力に報いるか、という点に注力してきました。
その最たる例が、成果に応じた給与アップです。コロナ禍からの業績回復に合わせて社員全員の給与のベースアップを行うとともに、店長は数カ月ごとに業績を評価して給与に反映させるようにしました。これにより昇給が年に1回ではなく、場合によっては何度も昇給するので、これまで以上に店長が売上アップの施策を申し出てくれるようになりました。また、店長が開発した新メニューの試食会を2カ月に1回行い、皆の支持を最も集めたメニューを全店舗で展開すると同時に、年間選出回数1位の店長を表彰し、インセンティブを付与しています。
同時にDXも推進しました。それまでは、手描きの伝票からPOSレジに切り替え、オペレーションの負荷を下げつつデータ分析もできるように。さらに、グルメサイトやSNS、Googleビジネスプロフィールでの発信を強めるなど、SMO対策を進めてきました。
これらによって業績の推移が一目でわかるようになり、経営の透明性も向上。評価連動型の昇給もデータがあってこそできること。それまで年5~6人だった退職者が、現在はほぼゼロになり、成果を感じています。
現場の視点を忘れずに時代に合った経営を
――今後の課題と目標を教えてください。
どんどん出店していきたいですが、そのためには店舗ごとの利益率をもっと上げないといけません。ですが、食材原価や人件費が上昇する中、社員のモチベーションを維持・向上させつつ、コストダウンも実現するには、本当に難しい舵取りが必要になります。
2025年4月にモバイルオーダーを直営全店舗に導入し、10%の人件費抑制に成功しました。ただし、例えば4人体制を3~3.5人にするので、社員への負荷は逆に増す可能性もあるのです。これをトップダウンで断行すると、人件費率は下がるけれど、社員のモチベーションも下げてしまうことになりかねません。
そこで、全社的に目標を設定。モバイルオーダーによって人件費率28%を達成できたら、給与に反映すると約束しました。結果、全社員に1万円以上のベースアップを実現。何かを要請するときは、その意味をしっかり伝えて目標を決め、利益をきちんと還元して努力に報いることが大切だと考えています。
まだまだやりたいことはたくさんあり、中長期的には直営30店舗・年商30億円が目標です。父が築いた老舗の価値を守りながら、現場の視点を忘れずに、新しい時代の顧客や従業員のニーズに応えていきたいと思っています。
リーダー×一問一答
■経営者として大切にしている事
社員が高いモチベーションで働ける待遇、環境作り
社内外のステークホルダーとの円滑な意思疎通、信頼関係を築く事
■愛読の雑誌やWebサイト
ニュースサイト、漫画はキングダム
■日課、習慣
毎日必ず1L以上の水を飲む。入浴後のストレッチ
■今一番興味があること
政治経済、政局(特に国民の生活や景気、経営に関わってくる部分)
■座右の銘
泰然自若
有言実行
■尊敬している人
両親、榛葉 賀津也(国民民主党幹事長)、釈迦
■最近、注目している店舗名、もしくは業態
おでん
■COMPANY DATA
株式会社マネージファイブ
東京都大田区山王2-8-26 東辰ビル3階
https://manage5.jp/
設立:1997年
ブランド数・店舗数:3ブランド、直営13店舗、FC8店舗、独立支援姉妹店17店舗
従業員数:社員26人、アルバイト約100人
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