※スマイラー120号(2026年3月)より転載
2019年、ひまわりが、ネオ大衆酒場と“呼ばれた”年
「大衆酒場 ひまわり」が現在の業態になるまで、苦節8年の試行錯誤があったという。2011年初めは、ヨーロッパのマルシェを再現したような、ワイン主体の“マルシェ酒場”だったそうだ。「うちは居酒屋のカルチャーなので、たぶん、プロデュース的に、構想した社員の思いと現場とのギャップがあったのかな。大失敗に終わりました」(久保木氏)。
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そこからは、久保木氏が引き継いだ。「ワインダイニングなど、なし崩し的に軽い業態変更は試みたんですけど、外から見たら同じ店でしたね」 。一方で、同店の斜め前に出店した、小皿和食主体の、同社にとってネオ居酒屋1号店ともいえる業態が成功。その体験をもとに、2019年に大がかりなリニューアルを行った。「櫓(やぐら)を入れたら面白いんじゃないかと、イッキに変えました」と久保木氏。
さらに元来、SNS戦略は頑張っていない店だったが、当時インフルエンサーの走りのような人々の影響で、人気に火が付く。同時に、インスタ映えするサワードリンクに力を入れ始め、それが受けた。「渋谷のネオ大衆酒場といえば、“ひまわり”だよねと言ってもらえるようになりました」。
久保木氏は現在、ネオ居酒屋という意識はあまり持っていないと話す。「もうだいぶ経ってますし。僕が学生時代から通っていた渋谷にある赤提灯の店が、ネオだってネットで言われているのを見て、もう何がネオ居酒屋かわからないんですよ」。
“ネオ”かどうかではなく、居酒屋としてどうか
「居心地が良くて、元気がよく、おいしいものが食べられ、店を出るときに少し元気になって帰っていく、というのが居酒屋の原点」だと久保木氏は語る。そこに昭和生まれの人間が、懐かしくて当時おしゃれと思った感覚と、新しくて楽しいものを合わせた。「当時の子たちが上手に表現してくれて、今も良いところ“ひまわりらしさ”を受け継いでいる」そうだ。
初期は、開店前に若い女性の行列ができ、彼女たちはインスタで上がっているものだけを注文し、写真を撮って帰っていく。その後は、普通の居酒屋を求める人たちが来店する流れだった。現在は男性も増え、客層は男女半々になったと話す。「特に終電間際の時間帯は男性客が多いですね。男性の社会人が増えて、“居酒屋化”しています」(久保木氏)。料理も社内の職人によって改良した。
今でもインスタを見た、“ひまわり目的”の来店客は一定数いる。「それはそれでトレンドとしていい。でも渋谷であってもやっぱり、常連を作ることが大事。店を長く続けるコツは渋谷に愛されて、お店に常連がいっぱいつくこと。そして常連がお客様を作ってくれること」だと久保木氏は語る。
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世に続く人材と、カルチャーを育てる居酒屋
久保木氏は、同社にとって「大衆酒場 ひまわり」は、大黒柱の一つだと話す。基本、店舗運営は中間層の社員や店長、アルバイトに全部任せている。店を自分の店と捉えることで、常連や新規客への向き合い方が変わるからだ。
「“店長が経営者の始まり”という風に話しています。間違った方向にそれていれば話をするし、真剣にやらないならいつでも辞めていいからね!とは常に言ってあります。飲食店って、やっぱめちゃくちゃ楽しくて、クリエイティブ。考えて、一生懸命働くもの。ここには“責任ある自由”がある。そんな環境なんだから楽しまなかったらつまんなくね?と」 (久保木氏)。
さらに久保木氏は同店を大黒柱と言いながら、「いつぶっ壊れてもいい」というスタンスを取る。「店は生き物。ネオ大衆酒場として売れてると言われたときと、今の“ひまわり”はだいぶ違う。ただ守り続けるという考えはありません」と話す。
同店が、将来同社に影響をもたらすような人材を育てるカルチャー醸成の場になることを願っている。「“ひまわりって特別なんだよね”と一人一人に思ってもらえる店になってほしい。各店舗もそうなっていけばいいなと思います」(久保木氏)。
挑戦と失敗を続けながら、渋谷をつくる覚悟
多店舗展開を進めていくなかで、仲間内で調子に乗り、失敗することも多々あるという。渋谷を面白くしたいという思いが先行し、経営合理性だけでは割り切れない面も少なくないと久保木氏は苦笑いする。
「飲食ってとてもクリエイティブなので、会社単位でやれたらいいとは考えています。でも、見込み違いのキャスティングで、頑張りきれずに売れなかったり、それ以前に、例えば駅から遠くてエレベーターもないビルの4階の大箱の物件など、物件の見立てを誤ったりするという弊害もある。“俺たちならできるだろう”みたいな。人間なので挑戦したくなるんです」(久保木氏)。
ではその経験は今生かされているのかという問いに久保木氏は「生かされていない」と苦笑いする。
「でも挑戦しないと組織も成長していかないので、挑戦し続けたいと思う。その反面、基本的には勝たないと意味のない業界なので、やはり挑戦と撤退の線引きはしっかりしないといけないなと常日頃思っています」(久保木氏)。
渋谷は、若者が自分で考え、生み出すことによって、若者が集まる街だという。「そういう意味ではうちとしては、“ひまわり”は若い子たちでつくってもらいたい。と言っても、呑兵衛(のんべえ)たちも来るので、まさに大衆酒場。渋谷の大衆酒場の王道のようなものがやれたらいいかな」(久保木氏)。
ちょっと危なっかしくて、クリエイティブ。同社のその姿勢が渋谷という街と重なって見える。
住所:東京都渋谷区道玄坂2-8-1 大和田ビルB1
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