2019/07/29 特集

(PART:2)考察「魚と外食」大切な食文化を守るためにできること(4ページ目)

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【事例店リポート】UB1 TABLE(東京・渋谷)

前ページまでの座談会では、日本の漁業の現状や問題点などについて意見が交わされた。では、実際に飲食店でエコラベル食材や未利用魚はどう活用されているのか。座談会にも参加していただいた森枝幹氏がプロデュースした、社員食堂の取り組みを取材した。

押し付けがましくせず、“海の今”を伝える店に

 東京・渋谷のオフィスビル地下1階にある「UB1 TABLE」は、IT企業・ユナイテッド株式会社が自社運営する社員食堂。社員に健康的な食事を取ってもらうことを目的に今年1月オープンし、3月から一般の人の来店も受け入れている。店のプロデュースを任されたのは森枝幹氏。数年前に世界的な漁獲量の減少を知り、シェフを務めたレストラン「『サーモン&トラウト」で、ブラックバスやブルーギルなどの未利用魚を使ってきた気鋭のシェフだ。社員食堂のプロデュースについて森枝氏は、「『UB1 TABLE』のお客様は『サーモン&トラウト』より若い世代の方が中心。どんな食事を提供し、“海の今”についてどう伝えるか、おもしろい挑戦だと感じました」と語る。ただ、「UB1 TABLE」でエコラベルの食材を使おうとしても、原価が高く、客単価1000円以内の社員食堂では難しい。さらに、認証を受けた食材を使っていることを店で謳うには、飲食店自体も認証機関による有料の審査を受ける必要がある。しかし、こうした費用の一部をユナイテッドに支援してもらうことで、認証の食材を使いつつ、リーズナブルな価格での提供を実現した。

滋賀・琵琶湖のブラックバス。「魚としてはスズキに近く、淡白であっさりした味です」(森枝氏)

 食材は、“健康的な食事”というコンセプトの下、契約農家から有機野菜などを仕入れる。また魚介類は、水産業のエコラベルであるMSCやASCの認証を受けたものを専門業者から仕入れるほか、滋賀・琵琶湖などで獲れる未利用魚のブラックバスも使っている。

ASC(養殖水産物のエコラベル)認証を受けたエビや、外来の淡水魚として問題となっているブラックバスをフライにし、有機野菜を中心に旬の素材を盛り合わせた一皿。味噌汁に使うアサリもASC認証のもの

 営業は平日のランチのみ。料理は日替わりで、肉、魚、野菜がメインの3種類の定食(社員は各500円、一般客は各1000円)を用意する。魚の料理では、ブラックバスなどを使った天丼や、MSC認証のサバの味噌煮などを提供しており、「ブラックバスはアナゴのような土臭さが多少ありますが、食感や味はスズキに似ていて淡白。調理もしやすく、煮ても焼いても、揚げてもおいしいです」と、森枝氏は語る。

MSC(天然水産物のエコラベル)認証のサバの味噌煮、サラダ、雑穀米、味噌汁のセット

 また、食材の情報などについて、「押し付けがましく伝えたくない」と考え、ブラックバスやエコラベルの食材について、あえてメニュー表には記載しておらず、「知らずに食べている人も多いはず」と森枝氏。一方で、店内にはMSC・ASCなどのエコラベルの説明を掲示しており、「会話の流れでスタッフからお客様に、店で使っている食材についてお伝えすることもあります。そういうさりげないやり取りから、一般に出回らない魚でもおいしいことや、エコラベルについて知ってもらえたらうれしい」(森枝氏)と考えている。

レジの近くに、MSCやASCなどのエコラベルの説明を置いて、海産資源保全活動をさりげなく紹介

 一方、社員食堂を始めたことで、魚のニーズが低いことも実感した。「唐揚げ定食など、肉料理の人気が高く、魚料理の注文数と比べると2倍くらいの差がつくこともあります」(森枝氏)。こうした現状を変えるには、子どものころからの教育も大切だと考え、土・日曜日には、近隣の子どもを店に招いて太巻き寿司の作り方を教える食育イベントなどを実施。魚の魅力を次世代に伝える取り組みにも注力する。今後も、様々な方法でサステナブルシーフードの認知や消費の拡大につなげたいと考えている。

UB1 TABLE [東京・渋谷]
東京都渋谷区渋谷1-2-5 MFPR 渋谷ビルB1
https://ub1table.jp/
IT企業・ユナイテッド株式会社の社員食堂で、一般の人も入店可能。営業はランチのみで、日替わりの定食を3種類用意し、20~30代の女性を中心に集客。1日あたりの来店数は平均180名ほどで、社員と一般客の割合は2対1。
シェフ 森枝幹氏
魚の減少を知り、未利用魚やエコラベル食材の活用に注力。同店のプロデュースのほか、未利用魚を使った加工品のレシピ監修も行う。

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