2020/07/28 特集

こんな時だからこそ、できることを。生産者は、いま―。(2ページ目)

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頑張る!生産者/有限会社 松園水産

有限会社 松園水産
長崎の五島列島・新上五島町の西端に位置する日島は、リアス式海岸に育まれた好漁場。1980年代中頃まではブリの養殖業が盛んで、松園水産も戦後、先代がブリの養殖業を手掛けたことから始まった。現在は定置網漁と水産加工を行い、売上の割合は市場や飲食店への鮮魚の出荷が8 割、加工品販売が2 割を占める。

松園 文策(ぶんさく)氏/大学卒業後、営業職を経て父親が創業した松園水産を引き継ぐ。定置網漁に加え、約15年前より加工品の製造・販売を開始。会社員時代の経験を活かし、自ら対面販売も行う。
松園水産のある新上五島町は日本屈指の景勝地としても知られている

こだわりの製造方法で干物の価値を高めて販売

 長崎・佐世保港から高速船で約1時間25分。五島列島の北部に位置する新上五島町(しんかみごとうちょう)は、7つの有人島と60の無人島から構成されている。その中の面積1.39㎢ほどの日ひのしま島で漁業と水産加工業を営んでいるのが松園水産だ。代表取締役・松園文策氏の父が手掛けたブリの養殖業からスタートし、現在は定置網漁と干物をメインとした加工品の製造・販売を行っている。

 「水産加工を始めたのは15年ほど前から。年々、魚の市場価格は下落傾向にある一方、船などの燃料費は上昇し、利益が減少する状況が続いていました。そこで、自分で価格を付けられる加工品を作ることにしたんです」と松園氏。“漁獲から食卓まで”を合言葉に、朝に獲れた魚をその日のうちにさばき、五島列島産の天然塩のみを使った無添加で安心・安全な干物を製造。安価な大量生産の干物と差別化を図ることで、価値を高めている。また、夏であればイサキやヒラマサ、カワハギなど、定置網漁の特性上、日によってさまざまな魚が獲れるが、市場の相場を見て加工するか鮮魚のまま出荷するかを決め、利益が最大になるよう努めている。

夏期は7時に出港し、定置網を引き上げる。タイ、イサキ、ブリ、ヒラメ、イカなど魚種は豊富だ

 加工品の主な販路は、通販や道の駅などの直売所のほかイベントや催事があり、月2回ほどの頻度で松園氏自ら出向いている。鮮魚は、県漁連を通じて長崎や福岡、関西の市場に出荷するほか、飲食店とも直接取引し、関西を中心に30以上の店舗へ、魚種はお任せで旬の魚を箱詰めして送っている。

 しかし、コロナ禍で付き合いのあった飲食店は休業となり、配送は全てストップ。外出自粛の影響で直売所の売上は増えたものの、全体的な取引量の低下により魚の市場相場は下落し、全体の売上は3割減となってしまった。「みんなの気持ちが沈んでいる中、自分たちにできることは何か、元気づけることはできないか」と考えた松園氏は、朝市を開催することを思いつく。早速、4月の第3土曜日より、作業場のある日島の海岸で月に2回、鮮魚や干物の販売を開始。購入者にはその場で刺身食べ放題という特典を付け、新上五島町全域からたくさんの人たちが集まった。「これまで町内には鮮魚や加工品を卸していなかったので、朝市をきっかけに当社を知ってくれる人が増えました。『日島に初めて来た』『楽しかった』という声もいただき、朝市を始めてよかったと実感しています」と松園氏は笑顔を見せる。さらに、新しい試みとしてInstagramのアカウントを開設。その日に獲れた魚などの情報を発信し、「投稿を見た寿司店から魚を購入したいという連絡もありました」(松園氏)と効果を感じている。

毎月第1・3土曜日の9~11時に朝市を開催。鮮魚や干物、海鮮丼などを販売し、購入者には刺身食べ放題となる特典を付けている。「自分たちの負担にならない範囲でみんなに喜んでもらえることを、と考えました」(松園氏)

 現在の従業員は7名で、「厳しい状況でも雇用は維持していく」と松園氏。「養殖をやめて加工を始めた当初、作業が煩雑になるという反発もありました。しかし、厳しい水産業の状況から社員も当事者意識を持つようになり、今では新たな試みにも前向きに取り組んでくれています。コロナ禍では加工品を製造していたことが強みになりましたし、県の補償制度なども上手く活用して乗り越えていきたいです」と話す。飲食店との取引や催事販売も徐々に再開し、今後も朝市やSNSでの情報発信を継続していく考えだ。

  • 福岡市内のショッピングモールでの販売の様子。コロナ禍でイベント販売は中止となっていたが、少しずつ再開している
  • 獲ったその日に魚をさばき、干物に加工。イベントに参加する際は1週間前ほどから多めに加工し、準備している

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