飲食店と支えあう飲食店/株式会社PLEIN
株式会社PLEIN
2017年設立。外食産業を人々が憧れる仕事にすることをビジョンに掲げ、現在10名いるスタッフは全員が正社員。都内に2店舗構えるフレンチビストロは、ランチなし・週2日定休の営業体制で働きやすさを追求する。今年7月には、3店舗目となる新業態の「cafe & shop michiru」を渋谷区代々木上原にオープンした。
東京都港区南青山6-3-13 サーラ南青山B1
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対等な立場で支え合い、信頼関係がより強固に
7月オープンの新店を含め、都内でフレンチビストロなど3店舗を運営する株式会社PLEIN。代表取締役の中尾太一氏は2017年に25歳で起業し、「Bistro plein」を表参道に出店。料理やサービスの確かな品質が評判を呼び、幅広い層のリピーターを獲得してきた。今年2月に麻布十番に出店した2店舗目も満席が続く好調ぶりだったが、その矢先に新型コロナウイルスの問題に直面。3月に入ると予約のキャンセルが続出した。
スタッフや来店客の安全を最優先に、中尾氏は緊急事態宣言が出る前の段階で、4~5月の完全休業を決断。代わりに、店の味を自宅でも楽しんでもらえるよう、オンラインショップの開設を急ピッチで進めた。「海外でコロナがニュースになり始めた当初から、日本にも影響が及び、店が営業できなくなるかもしれないと危惧していました。そこで、2月上旬には取引先の食肉メーカーさんと共同で商品開発を始めました」と明かす。冷凍設備や衛生環境の整ったメーカーに製造を委託する形で、シャルキュトリー(食肉加工品)など店の料理を冷凍・個包装で商品化。さらに、スタッフ全員に3カ月分の給与を前払いし、金銭的な不安を抱くことなく働き続けられる状況を整えた。その上で、4月以降はオンラインショップに専念する体制に移行した。
早めの準備が功を奏し、オンラインでの売上は開始早々から順調に推移。ここで中尾氏はもう1つの決断をする。複数ある契約農家の中でも取引量が最も多い神奈川県秦野市の生産者から、休業期間中に使用予定だった野菜を全て平時の価格で買い取り、キッシュに使用して販売することにしたのだ。「野菜だけでなく、バターや牛乳、卵など、ほかの取引業者さんが扱う材料も大量に使えることがキッシュを選んだ理由の1つです。また、シンプルでいて手間と技術を要する料理であり、フレンチビストロの強みを生かして差別化できると考えました」(中尾氏)。
冷凍しても品質を保てるよう、総料理長の金子裕樹氏と試作を重ねながら、店内で製造から冷凍、包装までを行う設備とオペレーションも整えた。そして、SNSで告知し、4月下旬からオンラインで販売したところ、全国から注文が入り、10日間で1500個を売り上げた。購入者の9割は、このキッシュで初めて店を知った人たちだったという。また、5月には1個2000円のキッシュを2個3400円の特別価格で販売。1つは購入者に、もう1つは医療従事者に送るプロジェクトを実施した。結果、1日で244個分の支援が集まり、現在も週1回、医療現場にキッシュを届けている。7月上旬の時点でキッシュの累計販売数は4500個に上る。
契約農家からも、旬の野菜を大量に廃棄する事態を免れ、平時の売上を維持できたことに感謝の声が寄せられた。「生産者を支援するという意識はなく、生産者と飲食店はビジネスパートナーであり、対等な関係であることを再認識しました。こうした状況でも、安定して野菜を供給してくださったからこそ、お客様にキッシュをお届けでき、当社もコロナ禍における新たな売上の柱を得ることができました」。
新店のカフェでも有機野菜を主役にしたメニューを展開し、コロナ以前よりも提携農家からの仕入れ量は増え、信頼関係も深まっている。「業種を超えて連携することで、可能性が大きく広がると今回の取り組みを通して実感しました。今後も積極的に他社と協業を図り、自分たちだけでは難しいチャレンジを一緒に実現したいと考えています」と、中尾氏は力強く語った。