新業態に挑む外食チェーン① ワタミ株式会社
1984年創業。1992年に「居食屋和民」1号店を出店し、2000年、東証1部上場。現在、「和民」「ミライザカ」「三代目鳥メロ」など居酒屋業態をはじめ国内はもちろん、アジアを中心に海外でも飲食店を展開。「地球上で一番たくさんの“ありがとう”を集めるグループになろう」というスローガンを掲げ、外食のほか、宅食、農業、環境事業も手掛けている。
幅広い客層や用途に応える焼肉業態で“未来の顧客”を戦略的、挑戦的に開拓
好調の「かみむら牧場」を駅前型にした「焼肉の和民」
外食チェーン大手のワタミ株式会社は現在、主力の居酒屋業態の転換を速いスピードで進めている。和牛焼肉食べ放題「かみむら牧場」の新規出店を国内外で展開するほか、既存の居酒屋業態の3割に相当する店舗を「焼肉の和民」に順次転換していくと、2020年10月に発表した。また、テイクアウトを主体とする「から揚げの天才」の出店・拡大にも注力し、2020年12月末時点で店舗数は77店に届く予定だ。
コロナ禍を機に加速した今回の業態転換だが、同社が焼肉の業態開発に着手したのは2019年夏までさかのぼる。焼肉業態の統括責任者を務める新町洋忠氏は、「世代を問わず幅広い集客を見込める焼肉には、もともと大きな可能性を感じていました。一方で、お客様にとって焼肉で気がかりなのは価格。そこで、上質な和牛の食べ放題を、手頃な価格で提供することを念頭に設計を進めました」と語る。
約10カ月にわたる準備期間を経て、2020年5月に1号店の「かみむら牧場」を東京・蒲田にオープン。鹿児島県の畜産大手、カミチクグループとタッグを組むことで国産和牛を安定的に仕入れるとともに、A4ランクの黒毛和牛の食べ放題を3980円(税抜)で実現した。
予約をして訪れる目的型の来店が大半を占め、食べ放題の利用は9割。週末は予約が取れない盛況ぶりで、10月は全126席で月商3200万円を超えるなど、ワタミグループでも過去に例のないほどの繁盛店となっている。「定額食べ放題へのニーズは想像以上に高く、また、焼肉業態の客層の圧倒的な幅広さを改めて実感しました。『かみむら牧場』は郊外のロードサイドの立地を基本としていますが、同様のニーズは駅前でも見込めると考え、そこから生まれたのが『焼肉の和民』です」と新町氏は明かす。
2020年10月に1号店を出店した「焼肉の和民」は、「かみむら牧場」で培ったノウハウやオペレーションを生かす一方、コンセプトにおいて明確なすみ分けがされている。駅前型の「焼肉の和民」は、メインターゲットをビジネス層として日常使いを想定。気軽に立ち寄れる価格帯を実現するため、新たに構築した仕入れルートを活用し、リーズナブルで高品質な牛肉を確保した。看板メニューの「ワタミカルビ」(Sサイズ)が429円、食べ放題コースが3168円からという手頃感のある価格も多くのリピーター獲得につながっている。
メニュー数もサイドメニューを含めて140種類以上と充実。また、飲み放題は1100円から提供し、コースだけでなくアラカルトにも付けることができる。さらに、飲み放題はグループの全員がオーダーしなければいけない店が多いが、「焼肉の和民」では、グループの中でアルコールを飲まない人は、ドリンクバー(528円)を選べるようにしている。「焼肉業態ですが、目指しているのは、お客様が『今日はロースターに火を付けなくてもいいな』と、焼肉以外の料理やお酒で居酒屋的にも楽しんでいただける店です」と新町氏。二次会利用や食事目的のニーズまで広くカバーするメニュー構成に、ワタミが長年の居酒屋運営で得たノウハウが反映されている。
こうした工夫が功を奏し、駅前立地の「焼肉の和民」は、狙い通り会社帰りのビジネス層を多数獲得。加えて、週末は家族連れがファミリーレストラン感覚で利用するなど、客層・利用シーンとも極めて多様だ。コースとアラカルトの比率は4対6で、平均客単価は3500円。特徴的なのは、売上におけるアルコール比率が約25%と焼肉業態としては高いこと。これは「かみむら牧場」の2.5倍となっている。
【Store Brand】かみむら牧場
2020年5月、1号店を東京・蒲田に出店。「薩摩牛」を中心とした焼肉を食べ放題で提供。現在、東京、大阪のほか、台湾にも出店。畜産大手カミチクグループとの合弁会社、ワタミカミチク株式会社が運営する。
【Store Brand】から揚げの天才
居酒屋運営で培ったから揚げのノウハウを生かした専門店。実家が玉子焼き店を営むテリー伊藤氏とタッグを組む。2018年11月、東京・梅屋敷に1号店を出店。初期費用を抑えたモデルも開発し、FC展開を進めている。
効率的なオペレーションで人手不足の課題解消も図る
「かみむら牧場」同様、「焼肉の和民」でもタッチパネル式のオーダーシステムや、独自に開発した特急レーンを採用。配膳ロボットも補助的に用いている。これらの技術を活用した効率的・省人的なオペレーションにより、これまでの居酒屋業態と比較して、ホールの必要人員はピーク時でも従来の約半分に。人件費を削減できる分、食材原価にかけることが可能となった。新町氏は「飲食店の仕事は重労働と言われますが、『かみむら牧場』や『焼肉の和民』では料理を運ぶ必要がなく、ホールスタッフの負荷が大幅に軽減されています。人手不足や働き方改革が課題となる外食業界において、『いかに従業員の負担を減らすオペレーションを確立できるか』は、時代の流れとして真剣に向き合わなければいけない命題。こうしたテクノロジーの活用は、今後の業界の標準になっていくと思います」と語る。来店客とスタッフの直接的な接触の機会を減らせる点も、ウィズコロナ時代における消費者の安心感に結びついている。
ワタミが手掛ける業態であることを前面に押し出した「焼肉の和民」という店名にも、明確な意図がある。同社が展開する「ミライザカ」や「三代目鳥メロ」のように、まったく新しいブランド名を付ける選択肢もある中、あえて店名に「和民」を残したことで、消費者に「ワタミがやっている焼肉屋ならアルコール類も充実し、居酒屋としても使えるはず」というイメージを直感的に持ってもらいやすくなる。新町氏は付け加えて「『焼肉 和民』ではなく『焼肉の和民』としたのは、“ワタミはこれから焼肉を主力の業態に据えていく”という意思表示でもあります。そして同時に、お客様の中に根付く『居酒屋の和民』のイメージを変えていきたいという思いも込めています」と説明する。
さらに、「焼肉の和民」では新たに毎月2、9、29日に限り、「ワタミカルビ」も食べ放題となる特別コースを提供する「ニクの日」イベントもスタート予定。また、深夜1時まで営業する「焼肉の和民 横浜店」をはじめ、駅前の一等立地店舗は深夜営業を行い、夜遅くに仕事を終えた人の夜食需要も取り込む。あわせて、昼のニーズが見込める店ではランチセットやランチの食べ放題も順次投入する予定で、来店客のニーズを汲み取った新たな仕掛けも柔軟に打ち出していく。
「カウンター席で焼肉デートを楽しむ若いカップルや、“ニクの日”に友人同士で訪れる学生のグループ、小さなお子様連れの家族など、これまでの居酒屋の和民とは異なる新たな層のお客様にも多数ご利用いただいています。その光景が見られることがとてもうれしく、働くスタッフのモチベーションにもつながっています」と手応えを語る新町氏。こうした10~20代の若い層には、親世代とは違い、「和民といえば焼肉」というイメージで認識されることになる。業界でも話題を集める思い切った業態転換は、未来を見据えて新たな顧客を開拓し、ファンを増やしていくための戦略的かつ、挑戦的な取り組みと言える。
【Store Brand】焼肉の和民
2020年10月5日、1号店として大鳥居駅前店(東京都大田区)と横浜店を同時オープン。看板メニューの「ワタミカルビ」がSサイズ429円と、普段使いしやすい価格設定が売りで、サイドメニューも充実。居酒屋的な利用から食事目的まで多様なニーズに応え、客層は10代からシニアまで幅広い。
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