2020/12/15 特集

【PART1】新業態に挑む、外食チェーンのこれから 外食業界、それぞれの挑戦 ~激動の2020年から2021年へ~

厳しい状況が続いた2020年。2021年に向けて、変化する消費者ニーズに外食はどう対応していくのか。新春1号特別企画のPART1では、業界をけん引する外食チェーンの現在と、これからに迫る。

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Special Inaterview ワタミ株式会社 代表取締役会長 兼 グループCEO 渡邉美樹氏

Miki Watanabe
1959年、神奈川県生まれ。1984年に創業し、1992年に「居食屋和民」1号店を東京・笹塚に出店。2000年東証一部上場。その後、農業や介護、宅食、環境など幅広い事業に参入し、独自の「6次産業モデル」を構築する。2013年より参議院議員として活動し、任期満了で退任後の2019年10月にワタミ株式会社の代表取締役会長兼グループCEOとして経営に復帰した。実践経営塾「渡美塾」を通じた経営・起業支援にも力を入れる一方、最新刊「コロナの明日へ~逆境の経営論 全国の社長に50のエール」(アチーブメント出版)など、著書多数。

将来を見据えた業態転換がコロナ禍でのニーズに合致

 居酒屋を中心に国内外でチェーン展開するワタミ株式会社。最近では「から揚げの天才」「かみむら牧場」などの新業態を次々に打ち出し、注目を集めている。さらに、既存の居酒屋業態360店舗のうち120店舗を2年以内に「焼肉の和民」に転換すると発表。大きな話題となった。これら新業態開発の狙いや、外食業界の展望について、同社代表取締役会長兼グループCEOの渡邉美樹氏に話を聞いた。

――テイクアウトがメインの「から揚げの天才」や、ファミリーをターゲットにした焼肉食べ放題の「かみむら牧場」など、コロナ禍で高まったニーズを取り込む新業態が話題です。業態開発の経緯を教えてください。

 どちらも、開発したのは新型コロナウイルス感染拡大が始まる前。「から揚げの天才」1号店出店は2018年秋にさかのぼりますし、「かみむら牧場」も2020年5月オープンの約10カ月前から準備をしていました。ですので、よく「コロナ禍を予測して備えていたのですか」と聞かれるのですが、まったくそうではありません。背景にあったのは、6年にわたり国会議員を務める中で感じた日本の財政への不安です。このまま行くと、日本は景気停滞とインフレに同時に直面する可能性が高く、少子高齢化や若者のアルコール離れですでに居酒屋の市場は縮小しており、より厳しい状況になることが予想されました。つまり、来たる不景気への対策として進めてきた業態転換が、結果的にコロナ禍でのニーズに合致したというのが実状です。

 焼肉に目を向けたのも、国会議員時代の経験からです。「クールジャパン戦略」に携わる過程で、世界各国の万博で最も人気を集める日本食は、寿司ではなく和牛だと知りました。加えて、日本が誇るロボット技術も外食産業の生産性向上に役立てられるはずと考え、これらの日本の強みをつなぎ合わせる発想で設計したのが、和牛食べ放題で、オペレーションにテクノロジーを活用した「かみむら牧場」です。

 食材については、鹿児島県の和牛生産者・カミチクグループと合弁会社を立ち上げ、質の高い和牛を安定的に仕入れています。A4ランクの薩摩牛とオリジナルブランド「南国黒牛」の食べ放題はおかげさまで非常に好評で、想定していた通りファミリーのお客様が多く、手応えを感じています。

「かみむら牧場」の店内を走る特急レーン。人件費を抑えることで、良質な和牛を食べ放題で提供することが可能に

――既存の居酒屋業態の3割にあたる120店舗を「焼肉の和民」に順次転換していくと発表し、話題になりました。この決断の背景とは?

 この先、コロナが収束しても居酒屋の市場が元に戻る可能性は低く、コロナ前の7割に縮小すると見ています。この状況に対処する上で、仮に3割の店を閉めるとすると、多くの社員が職を失うことになり、これは選択肢としてあり得ません。雇用を守るためには、速やかに新しい業態へ転換を進める必要がありました。そこで、「かみむら牧場」で培った肉の仕入れ力や、生産性の高いオペレーションを生かそうと、新たに開発したのが「焼肉の和民」でした。

ITやロボットの活用で効率化と非接触を実現

――「焼肉の和民」の特色や強み、同じ焼肉業態の「かみむら牧場」とのすみ分けについて教えてください。

 「かみむら牧場」が郊外型で、ファミリー需要の獲得を狙っているのに対し、「焼肉の和民」は駅前立地で、ビジネス層中心の普段使いを想定しています。そのため「焼肉の和民」では、良い肉をいかに安く提供できるかが重要です。開発の過程では世界の牛肉生産者をリサーチし、1頭から少量しか取れない「プレートフィンガー」という部位を潤沢に確保できる見通しが立ったところで、出店のゴーサインを出しました。この部位を現在、「ワタミカルビ」として提供しています。

 「焼肉の和民」では「かみむら牧場」同様、オペレーションにテクノロジーを活用しています。オーダーはタッチパネルで行い、料理やドリンクは特急レーンを使って提供。配膳ロボットも導入していますので、ホールは従来の約半分の人員で回すことができ、人件費を抑えた分、食材に原価をかけることが可能になります。加えて、従業員の作業負荷の軽減にもつながります。

――ITやロボットを活用した配膳は、スタッフと来店客との接触機会が減り、感染症対策にもなりますね。

 その点もお客様から好評で、店内の空気が3分で入れ替わる空調設備も含め、「安心して利用できる」という声をいただいています。実は、特急レーンや配膳ロボットの導入を決めたのは、コロナ感染拡大の影響が大きくなる前で、「非接触」を意識しての導入ではありません。今後の企業としての競争力強化や、日本の労働人口の減少を考えたとき、テクノロジーを活用した効率化・省人化の取り組みは必要不可欠でした。業態転換の話とも重なりますが、この先に待ち受ける課題を見据えて進めてきた施策が、感染症対策にもつながったかたちです。

「焼肉の和民」では自立走行型の配膳ロボットを導入。業務効率化だけでなく、ウィズコロナの時代に求められるスタッフと来店客の直接的な接触機会の減少にもつながっている

――焼肉業態の今後の展開は?

 すでに発表したとおり、「焼肉の和民」は2021年度末までに計120店舗、既存の居酒屋業態からの転換・出店を行います。その後はFC展開に注力し、最終的に600店舗まで増やしたいと考えています。「かみむら牧場」は、国内外で出店を進め、国内は5年で200店、10年で400店を目指します。自社競合を避けるため、今後も「焼肉の和民」は駅前、「かみむら牧場」は郊外、と出店立地を分けます。焼肉は競争の激しいレッドオーシャンですが、市場規模が大きく、挑む価値がある領域と捉えています。

 また、当社では牛を1頭買いしているため、この先、焼肉業態を拡大していく中で、焼肉に向かない部位が余ることになります。現在は居酒屋業態で活用するオペレーションを組んでいますが、今後は、余剰部位を有効に使うための新しい業態も必要になるでしょう。すでに構想を練っているので、楽しみにしていてください。

――「から揚げの天才」も速いスピードで出店が続いています。から揚げ専門店が増えている中、その強みとは?

 差別化の最大の要素は「価格」であり、それを支える独自のマーチャンダイジングの力だと考えています。タイの大手養鶏企業と組み、当社の仕様で調味と冷凍をして現地からコンテナで運ぶことで、1個60gの大きなから揚げを99円(税抜)で提供できます。これまでも居酒屋業態で鶏肉を大量に用いてきましたが、スケールメリットを十分に生かせていませんでした。鶏の品種や使用する部位が多岐にわたり、仕入れの総量は大きいものの個々のロットは小さく、どうしても割高になっていたのです。そこで今回は私自身が指揮をとり、スケールメリットを出すことを念頭に、仕入れルートを新たに構築し、業態開発を行いました。

 また、実家が玉子焼き専門店であるテリー伊藤さん監修の玉子焼きも、差別化につながっています。弁当のおかずの人気ランキング1位はから揚げ、2位が玉子焼きという調査データもあり、最強の組み合わせと言えます。

――「から揚げの天才」では、初期費用を抑えた「999万円出店モデル」も発表しましたが、この狙いは?

 「から揚げの天才」は当初からFC展開を想定し、メニュー数を絞ることで2人でも運営可能なオペレーションを構築しました。2020年6月からFC展開を本格化させましたが、約2000万円の出店資金は、個人で起業を目指す人にとっては高いハードルでした。出店資金を抑え、より多くの人にチャンスを広げたいと考え、コンテナ型の「999万円出店モデル」も投入しました。このFC展開を通して、国会議員時代から力を入れてきた中小企業支援に加え、脱サラや定年退職した人など、個人の起業支援も加速していきたいと考えています。

999万円で出店できるモデルも新たに開発し、好調の「から揚げの天才」。FC出店希望者の問い合わせも多いという

原点にある思いは変えずに手段を柔軟に変えていく

――新業態の開発において大切にしていることは何ですか。

 業態をつくり上げて、それで満足しないことです。どの業態も、オープンした後にお客様の反応を見ながら絶えず改善を続けています。そのためにも、新店には高い頻度で足を運び、お客様が実際に利用されている様子を見て、強化・改善すべきメニューなどについて指示を出すこともあります。

 例えば「焼肉の和民」では、新たに毎月2、9、29日を「ニクの日」として、その日限定で「ワタミカルビ」も食べ放題になる特別コースを1980円(税抜)で提供する予定です。これは、想像していた以上にお客様の中に根強くある「和民といえば居酒屋」というイメージを、「和民といえば焼肉」に変えていくための赤字覚悟の仕掛けです。また「から揚げの天才」では、脂質の吸収を抑える効果が期待できる「キクイモ」のお茶をメニューに加えました。これもお客様のニーズを踏まえた結果、生まれたものです。

――外食業界の現状、そして、この先をどう見ていますか。

 人々にとっての外食の位置付け、特にハレの日需要に変化が起きていると感じます。当たり前のものとなっていた外食が、コロナによって控えられたことで、改めて「記念日には外食に行こう」「普段行けない分、ぜいたくしよう」といったニーズが高まっています。「かみむら牧場」は、ファミリーのそうした特別な日に使っていただく前提で価格を設定しています。

 業態による好不調の濃淡が明確になったことも実感します。コロナ禍で大きくなったテイクアウトやデリバリー、ファストフードの市場は、これからも追い風が続くと見ています。一方で、先にも触れたように、居酒屋業態はコロナ収束後も客足の戻りは7割程度にとどまるでしょう。生き残るためには次の手を打つことが必須であり、ワタミにとってはそれが業態転換でした。今後を見据え、今後もファミリー向け業態、テイクアウト、デリバリーを強化していきます。

――先が見通しにくい時代に、どうしてこれほどスピーディーな経営判断が可能なのでしょうか。

 選択や決断が必要な場面では、3秒以内に決めることにしています。それができるのは、何かが起きてから対処法を考えるのではなく、常に問題を想定してシミュレーションを繰り返しているからです。人は往々にして「もう少し待てば状況が好転するかもしれない」と考えがちですが、これは現実逃避に過ぎません。決断は早ければ早いほど良く、もし間違えたのなら、そこで新たな決断をすればいいのです。

 軸にあるのは、「現状を否定することでしか明日はつくれない」という思いです。過去の蓄積や栄光にしがみついても、未来には何の役にも立ちません。一方、経営者には変えるべきではないこともあり、それは「自分は何のために会社をつくったのか」「外食業を通して何をしたかったのか」という原点の部分だと思います。私が創業時に目指したのは、家族のだんらんをつくることであり、目的は今もまったく変わりません。手段が、居酒屋から焼肉へと移っただけなのです。

 コロナをくぐり抜けた先にも、少子高齢化や労働人口減少など難しい課題が立ちはだかっています。だからこそ、ワタミグループとしての成長を追求するだけでなく、外食業界全体を活気づけられるような、引いては人々に広く元気や笑顔を届けられるような、そんな新しい業態をどんどん世に出していきたいと思っています。

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