畑 博貴(有限会社龍ノ巣 代表取締役)
社員教育でクオリティー向上に注力。20周年に向け、体制を強化します
●創業:2001年●所在地:大阪市北区堂山町1-5 三共梅田ビル9階●出店エリア:大阪(梅田など)、東京(新宿など)、福岡(中洲など)●かすうどんを売りにした「かすうどん 龍ノ巣 心斎橋三ツ寺本店」をオープンした翌年の2002年に設立。2020年12月、東京4号店「龍の巣 銀座7丁目」オープンし、現在大阪・東京・福岡に12店舗を展開する。
東京都新宿区新宿3-9-3 1F
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ECはあえて強化せず、さまざまな勉強会を実施
2002年に創業して、現在は焼肉やホルモン、かすうどんを売りにする飲食店「龍の巣」を東京、大阪、福岡の3都市で計12店舗展開しています。多くの店舗を歓楽街に出店し、明け方まで営業しているため、ビジネス層のほか、同業者様など夜のお仕事が中心の方のご来店も多いです。
コロナの感染拡大が騒がれ始めた2~3月は、どの店も昨対比で15%くらいは売上が落ちました。その後、4月に東京などで時短要請が出たこともあり、新宿の1店舗だけを休業して、ほかの店舗は時短で営業を継続。この期間、アルバイトさんには過去3カ月の平均給与の70%を支払って雇用は継続しつつ出勤は停止にして、社員だけで営業しました。
会社としては、全店舗を休業して補助金を受け取るほうが赤字を抑えられたかもしれません。しかし、当時は、外出自粛を受けてスーパーマーケットさんに人が殺到するような状況でしたから、食事の選択肢の一つとして飲食店が営業を続けていることに意味があるのではないか、という思いもあり、営業を継続しました。もともと食材ロスが出ないように在庫を管理する仕組みが構築できていたので、日々状況が変わり、客数の読めない中での営業にも柔軟に対応できたと思います。
一方、以前からホルモンなどの通販事業を行っていましたが、コロナ禍を機にEC向けの商品を強化しようという考えはありませんでした。慌てて新しい商品を打ち出しても肝心のクオリティーが伴わない恐れがありましたし、何よりお店に来て作りたてを食べてほしいという思いの方が強かったからです。それよりも、時短営業や休業などによって生まれた時間を人材育成に使い、会社の“インナーマッスル”を鍛え、戦力を強化することにしました。
少しさかのぼって、2018年7月、私は車の事故で重傷を負いました。肺などを損傷して死ぬかもしれないという状況から生還し、「人間、いつ死んでもおかしくない」と思うと同時に、スタッフに伝えておきたいノウハウや思いがたくさんあることに気づきました。そこで、「龍の巣大学」という人材育成の場を作り、定期的に社員やアルバイトさんに理念や接遇、マナーなどを幅広く教えてきました。
こうした下地があったので、時間に余裕ができた4月以降、「龍の巣大学」の講義内容をベースに、「NOと言わない接客」「八方よしの思想」など、当社の理念や理想とするサービスがどういうものかを、改めて社員に伝える場を設けました。さらに、元航空会社のキャビンアテンダントさんや元有名料理店の総料理長さんなど、外部からゲスト講師を招いての講義も実施。このほか、社員一人一人を講師に指名し、好きなテーマでみんなの前で話をしてもらう取り組みも行いました。接客が上手、料理が得意、数値管理に長けているといった自身の得意分野についてアウトプットすることで、聞き手はもちろん、講師を務めた本人にも多くの学びがあったはずです。
以前から「いつかまとまった時間を作って人材育成をしたい」という思いがありましたが、図らずもコロナ禍によってその時間を確保することができました。通常営業を再開した後、その効果はスタッフの接客やちょっとした言葉・態度に現れており、一言でいうと「“水質”がよくなった」という感触を得ました。
ロングセラーを目指して、時流に踊らされない経営を
6月以降、通常営業ができるようになってからは徐々に客足が戻り始め、秋からのGo Toキャンペーンで弾みがつき、売上も右肩上がりになってきました。昨対比を超える売上の店舗も出てきましたが、福岡の中洲など、“夜の街”の店舗は、まだまだ復調とは程遠い状況です。
一方、夏以降にいい物件が空き始めたため、新規出店にも動きました。秋ごろに確保した銀座の物件で、「龍の巣銀座七丁目」を12月中旬にオープンする予定です。この店は、焼肉やホルモンといった龍の巣の既存メニューとワインを楽しんでもらうのがコンセプト。フルカウンターのカジュアルな雰囲気で、初めて会うお客様同士が仲良くなれるような空間を目指しています。同じく、既存の「中洲カドミセ」も、お隣の物件をお借りさせてもらい、フロアを約5倍に拡張し、銀座七丁目と同じコンセプトで12月にリニューアルオープンする予定です。
2021年は、1月にテストキッチンやセミナー会場を兼ねた東京事務所兼ラボを新設。ここをメニュー開発や研修などに活用して、人材育成の拠点にしていこうと考えています。また、4月には当社初の新卒社員が4名入社するので、それまでに育成カリキュラムを構築し、受け入れ態勢を整えます。そのほか、時期は未定ですが、東京・港区と大阪・北新地にも新規出店をする予定。港区には、若い社員たちが「ここで働きたい」とモチベーションを高められるようなおしゃれな店を出したいと考えています。加えて、コロナ禍でできなかった社員旅行などの行事も復活させたいですね。
そして、2022年に当社は設立20周年を迎えます。それまでに、その先30年、40年と走り続ける仕組みを作っておきたい。その一つとして、社員が投資し合い、低リスクで共同店舗を出店する社内ファンドの設立なども検討しています。
これまでBSE(牛海綿状脳症)問題やリーマンショックなどの荒波を経験してきました。その上で感じるのは、お客様からの信頼を勝ち取っている企業や店舗ほど、苦境を乗り越えたときに売上を伸ばしているということです。今回のコロナも同じことが言えると思います。一時のブームやニーズを受けて、時流に乗っただけの商売をしても長くは続きません。ベストセラーよりロングセラーを目指して、飲食店の根幹を成す店内営業のクオリティーを上げながら、地道に営業を続けることが、一番大切だと考えています。