2020/12/29 特集

【PART2後編】前進し続けるリーダーたちの覚悟と戦略 外食業界、それぞれの挑戦 ~激動の2020年から2021年へ~(3ページ目)

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福本 浩幸(株式会社てりとりー 代表取締役)

いま大事なのは、ファンを生む“人づくり”。人材育成に力を入れ未来への準備を進めます

1981年生まれ。神戸大学を卒業後、宝酒造株式会社に就職し、業務用酒販店の営業を担当する。同社を退職した後、居酒屋などで1年半修業を積み、2010年に独立。1号店として、大阪・梅田に沖縄の郷土料理を売りにした居酒屋をオープン。2013年には株式会社てりとりーを設立。その後、シンガポールに合弁会社を設立して海外での店舗運営なども経験。2019年には沖縄への出店も果たし、将来的には沖縄移住も計画している。
株式会社てりとりー
●創業:2010年●所在地:大阪府大阪市北区中崎西1-4-22 梅田東ビル301号●出店エリア:大阪(梅田など)、沖縄(那覇)●創業以来、大阪市内で沖縄料理居酒屋のほか、日本酒バル、チューハイ専門店などを展開。「レモンサワーフェスティバル in 2019」で自社開発の塩レモンサワーが優勝し、2020年に商品化。EC事業にも参入し、販路を拡大中。2020年12月現在、大阪と沖縄で計11店舗を運営している。
沖縄キッチン てりとりー 大阪駅前店
大阪府大阪市北区梅田1-3-1 大阪駅前第1ビル1F
https://r.gnavi.co.jp/kbx2600/
JR大阪駅から徒歩3分のビル1階に、2013年4月オープンした3号店。沖縄の定番メニューや泡盛などのアルコールを売りに、ビジネス層を中心に幅広く支持を集めている。

4月の休業期間を活用し、企業理念の浸透に注力

 2010年の創業時から、沖縄料理を売りにした業態での店舗展開を進めています。当時、大阪市内の繁華街には沖縄料理の店が少なかったことも追い風になり、創業から約半年で軌道に乗り、その後も梅田、難波、天王寺などに店舗を展開。2019年には念願だった沖縄への出店も果たし、現在は大阪と沖縄で計11店舗を運営しています。

 2020年は、2月の時点ではコロナの影響はほぼなく、むしろ前年より好調でした。会社として初の試みとなる、アルバイトの表彰と卒業式を兼ねたイベントを行ったのもこのころ。アルバイトをしっかり評価して正社員への道筋を作るのが狙いで、モチベーションアップにも手ごたえを感じました。そんな中、3月になると売上が昨対65%まで急落。新メニューを投入して、施策を講じたのですが、新規客の比率が高い商業施設内の店舗を筆頭に苦戦が続きました。4月には緊急事態宣言を受け、全店の休業を決断。売上は昨対で4.9%と非常に厳しい状態に。ただ、下を向いていても仕方がないので、休業期間中には、社員に集まってもらい、改めて私から企業理念を共有し、理解を深める機会を設けました。店舗数の増加とともに、私が現場に入る機会が少なくなり、社員とのコミュニケーションが不足していると感じていたのも理由の一つです。また、幹部社員を講師にして、調理技術やロジカルシンキング、財務などに関する勉強会も開催。スタッフがレベルアップした状態で営業再開の日を迎えられるように準備しました。

 その後、5月には全店舗で営業を再開し、沖縄・那覇に2店舗目となる新店もオープン。コロナによる逆風の中での出店だったこともあり、業績的には伸び悩みましたが、収束後に客数が戻ってくることを見据えて地道に日々の営業を続け、着実にリピーターも増えてきています。

 こうした状況で、会社の売上に貢献してくれたのが、2019年2月から始めていた沖縄食材のEC事業でした。大手ECサイトを通じて海ぶどうなどを販売していたところ、5月以降、急激に売上が伸び、以前の10倍に跳ね上がりました。もともと店内営業とは違う売上の柱を作りたいと始めたのですが、今回のコロナ禍で、その重要性が一気に高まったのを感じました。

 また、営業を再開した各店舗で新たに始めたのが物販です。ゴールデンウイークを含めて、多くの人が旅行できない状況が続いていたので、「沖縄に行った気分になれる、おつまみとお酒のお土産セットを店頭で販売しよう」と考えました。この取り組みには、実はもう一つ、別の背景もあります。当社が運営する居酒屋「梅田レモンサワー35」で提供している「沖縄塩レモンチューハイ」が、2019年の「レモンサワーフェスティバル」で優勝し、酒造メーカーとのコラボで2020年6月に「とことん沖縄!塩レモンサワー」として商品化されたのです。この商品の認知度を上げるためにも、物販はうってつけでした。「オリオンビアナッツ」2袋と「とことん沖縄!塩レモンサワー」を「チューハイお土産セット」(500円)として夏前から各店舗で販売したところ、予想以上に好評で、100万円を売り上げました。

2020年夏から「チューハイお土産セット」を販売。自社開発のレモンサワーの認知度もアップ

 大阪市内の店舗では、夏以降、徐々に客数が戻り、10月の売上は昨対95%まで回復。客層は大きくは変わりませんが、コロナ前より年齢層が若くなり、複数の店舗をハシゴする人が少なくなったためか、滞在時間が長くなり、客単価が上がりました。一方、沖縄の店では、9月の4連休を機に集客力が回復する兆しを見せていましたが、11月から感染の再拡大の影響で、また売売上が落ちてきている状況です。好調を維持しているEC事業では、新たに酒類を販売できる免許を取得。泡盛や島らっきょうなど、商品ラインナップの拡充に力を入れているところです。

今後は動画配信にも注力。人を育てて競争力を高める

 2021年は、YouTubeチャンネルのプロデュース会社と合弁会社を設立し、ネットとリアルをつなげた新たなビジネスを展開していく計画です。「コロナ禍で何か新しいことをしないといけない」という危機感の中、大学の先輩でもある方からタイミングよくお声掛けをいただいたのがきっかけです。まずは共同出資で東京・新橋に沖縄業態の飲食店を出店し、夏以降にYouTubeチャンネルを開設予定。新店舗を動画の撮影場所などに活用しながら、集客や認知度アップにつながるような動画を配信していきたいと考えています。目標は数万人単位での登録者数の獲得。もし実現できれば、ライブコマース(生配信による販促)を展開するなど、さまざまな可能性を秘めていると考えています。そのほか、大阪・天王寺エリアでも沖縄業態の新店をオープンする予定です。

 現在の売上規模は4~5億円程度。これを3年後には、外食・ECを合わせて10億円にしたいです。以前から考えていた私の沖縄移住は少し先延ばしになりそうですが、現地の魅力をより一層広く発信していくためにも、早く実現させたいですね。

 今回、コロナ禍によって、ファンから応援される店づくりがいかに大事か、改めて痛感しました。以前は「多店舗展開=ブランディング」だと考えていましたが、数を増やして認知度を上げるより、苦しい時に支えてくれるファンを作ることが大切だと考えるようになりました。そのためには、現場でのお客様とのコミュニケーションを強化することが重要。ですから、今後は現場で活躍する「人づくり」がより一層重要になると思います。以前から、私を含め社員それぞれが他業種からも学びを得ようと、他社への外部研修などに積極的に参加しており、お客様により支持される店、企業になるため何が足りないかを模索し続けています。コロナを機に、外食とは無縁だった企業がM&Aなどで参入してきており、総合的にレベルの高い経営ノウハウを持つ大手企業が本格参入してくれば、既存の中小規模の飲食店は太刀打ちできないかもしれません。今後、新たな競争に打ち勝つための人材教育により一層力を注ぎ、反転攻勢に向けて、準備をしていきたいです。

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