2020/12/29 特集

【PART2後編】前進し続けるリーダーたちの覚悟と戦略 外食業界、それぞれの挑戦 ~激動の2020年から2021年へ~(4ページ目)

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松村 宗孝(株式会社COMATSU 代表取締役)

本質と“色気”を失わず自信をもって前に進みたい。飲食店の新たなスタイルと成功モデルも追求します

1975年生まれ。福岡県久留米市出身。バーテンダーの父の背中を見て育ち、高校卒業後、アパレル、酒販業、渡英を経て、福岡の外食企業・小野グループ(有限会社ディー・ディー・カンパニー)に就職。36歳で独立。2019年に東京に進出し、2020年10月には株式会社ジェイ・イシカワBIGOLI事業部と業務提携し、新たな飲食ビジネスを探求。
株式会社COMATSU
●創業:2011年●所在地:福岡県中央区薬院1-8-20 KYOYA薬院ビル6F●出店エリア:福岡(天神など)、東京(神田・日本橋)●1号店「COMATSU 大名店」を2011年オープン。「人が輝けば店が輝く、店が輝けば街が輝く」を理念に掲げ、2014年以降、「COMATSU」ブランドを博多・天神エリアで展開。2020年10月、最新店舗「ナチュラルボロネーゼスタンド」を天神にオープン。現在、福岡8店舗、東京2店舗の計10店舗を展開。
ナチュラルボロネーゼスタンド
福岡県福岡市中央区天神2-2-43 SOLARIA PLAZA B2F
2020年10月20日、福岡・天神の商業施設「ソラリアプラザ」にオープンしたボロネーゼとナチュラルワインの店。高品質の極太パスタブランド「BIGOLI」の福岡での旗艦店として、2021年3月までの期間限定(延長あり)で営業中。

今だからこそトライできる企画に、前向きに取り組む

 36歳で独立し、主に福岡の繁華街・博多や天神で、居酒屋、バル、中華、カフェなどを出店してきました。スタッフに恵まれ、出店依頼もいただいて、概ね順調。2019年には東京へ進出し、5月に神田、9月に日本橋「コレド室町テラス」へ出店し、元気な接客と博多カラーの料理を提供してきました。東京でもようやく形ができたと思った矢先に様相が変わってしまいました。秋以降、天神エリアの店は昨年を上回る売上の日もありましたが、2020年の春、最初にコロナの影響が出た博多の人の戻りは遅いと感じます。

 当初、福岡では2店舗のみ営業させて、まずはテイクアウトに取り組みました。応援の意味を込めて買ってくださる人が多く、数は出たのですが、満足度を上げるために原価率を高めたため、利益率は低い。改めて、街のお弁当屋さんのすごさを体感しました。それでも、以前から考えていた餃子とチーズケーキの開発に成功し、今では主力メニューの一つになっている店舗もあります。それらを通販で売ることも検討していますが、冷凍設備の導入も含めてどうかたちにするかが、今後の課題です。

 コロナの影響を感じ始めてからの1カ月は多くの店を休業し、数字は本当に厳しかったものの、多くのスタッフが前を向いてくれました。僕は、飲食店で最も大切なのはスタッフだと思ってきましたし、ここまで来られたのも彼らのおかげ。接客業は感染のリスクが小さくないので、それぞれが今後の自分の職業をどう選択するのかを考えてほしいと、正直に呼びかけました。多くのスタッフから届いたのは「早く店を開けたい!」という声。うれしかったですね。

 2020年はメニュー開発以外にもさまざまな取り組みができました。夏には博多のベイエリアで、期間限定のビアガーデンを開催。福岡のメキシコ料理店や中国料理店とコラボし、自社の利益だけでなく、他店を巻き込んで実現できたことが成果の一つです。福岡の飲食店は横のつながりが強く、自然に経営者のSNSグループができ、助成金や融資の情報なども共有しました。こうした絆は心強いし、これからも大切にしたいですね。僕らもコロナ対策ポスターをデザインし、データをWeb上で無料公開したり、チャリティーTシャツを作ったりしました。

 また、生産者とコラボした新商品にもチャレンジ。福岡県八やめ女市のシャインマスカットで作るクラフトビール、八女茶や県産桃のかき氷などです。誰もが厳しい状況ですが、一緒に乗り越えたい。そのためのトライアルです。

コロナで苦しむ飲食店へ新たな店舗モデルを提案

 2020年10月1日、極太生パスタのボロネーゼ専業ブランドであり、店舗展開もする「BIGOLI」と業務提携しました。これこそ、コロナで苦しむ飲食店へ、新たな店舗の在り方の一例を示すとともに、直接的な支援にもなるのではないかと考えています。

 「BIGOLI」のボロネーゼは、非常に高品質で、ボリュームも十分。経験ゼロ・仕込みゼロ・廃棄ゼロの、三つのゼロを実現し、効率的なオペレーションで高い収益性があり、集客と売上が見込める優れた商材です。これをメニューライセンス化して、当社が飲食店との契約と販売、導入支援を担当することが、今回の提携の中身です。

「BIGOLI」のボロネーゼ。チーズの量を選ぶことができ、特にチーズ最大量の「かまくら」は、麺が隠れるインパクトあるヴィジュアルも話題

 通常、ランチで収益を上げるのは簡単ではありません。ディナーでは財布のひもがゆるむこともありますが、ランチはなかなかそうはいきません。ところが、今はディナーの集客が厳しく、しかもアルコールのニーズが低い。そうなると、ランチとディナーの食事ニーズにフォーカスしたメニューが重要なポイントになります。ランチは客数が安定しやすいので、例えば「BIGOLI」のボロネーゼのような商品で経費を最小化したランチ営業を行えば、売上の見通しがたち、継続的な収益が計算できます。もちろん、ディナーの看板メニューにする選択肢もあります。

 僕らも、東京・神田のバル「コマツ神田西口商店街」で、10月5日から「BIGOLI」のランチを始め、ボロネーゼ専門店としてアピールし、“二毛作”を実現。昼の売上がプラスされています。福岡では「BIGOLI」を看板メニューとする「ナチュラルボロネーゼスタンド」をオープン。味もさることながら、仕上げのチーズの量を選べることも話題で、順調です。

 今後の飲食業界は、小規模な専門店が好まれると思います。外食をする頻度が大きく増えることはないので、お客様の店を選ぶ目が鋭くなるからです。高価格でも商品力が高く、数少ない外食の機会を満足させてくれる店。僕らも「コマツのあの料理が食べたい」と思ってもらえるようにブラッシュアップをするつもりです。

 今、大切だと思うのは、右往左往せずに、これまでやってきたことに自信を持ち、長い目で時代を見つめることではないでしょうか。直近の売上も大事ですが、飲食店の本質や“色気”を見失わないことも必要。その点を外さずに、進化やチャレンジをしたい。2021年は大きな投資はできませんが、東京・福岡以外への出店も考えています。小さくてもその街に必要とされる店を、社内独立も含めて作っていきたい。多くの街に明かりを灯せる企業として、成長したいと思っています。

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