2024/02/02 特別企画

和僑ホールディングス・髙取会長インタビュー「これからの飲食店の価値は、愛と深化」

コロナ禍は、多くの飲食店を閉店に追い込んだ。現在は、通常営業ができるようになり、客足も戻ってきてはいるが、外食産業に携わる人たちの意識や考え方、価値観は大きく変わった。国内外に100店舗以上の飲食店をプロデュース・開業し、「日本橋不二楼」「ヒノマル食堂」などを展開する和僑ホールディングスを率いる髙取宗茂氏に話を聞いた。

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これからの飲食店の価値は「愛と深化」から生まれる

飲食店の厳しい環境

コロナ禍で、うどんすきで知られる大阪の老舗「美々卯」さんの東京撤退がニュースになったことがありました。関東に6店舗を展開していましたが、全店閉店を発表したのです。有名な老舗の閉店は、これが最初だったと思います。驚いたのと同時に、少し腹立たしくも思いました。コロナ禍憎し、ということもそうなんですが、インタビューに答えていた人たちが「以前よく行ってました。おいしかったのに、なんで潰れちゃったの?」などと他人事のように話しているのにがっかりしたからです。テレビに向かって思わず「お前らが行かんけん、そげんなったんやないか!」と叫んでいました。好きな飲食店が厳しい環境にあることをわかっているのに、他人事でしか捉えられないお客様って、寂しすぎます。

飲食業は、差し出すものがすごく多いビジネスです。コツコツ貯めたお金を使って店をつくり、お客様に喜んでもらおうとできるだけ安く定価設定したりもします。でもうまくいく保証はありません。リスクもたくさんあります。実際、3年で70%が廃業するという統計もあります。

閉店を決意した飲食店側の気持ちが私にはわかるから、「なんで?」という言葉の軽さに過剰反応してしまったのかもしれませんが、飲食店をやってる人なら、希望と絶望を味わったことがある人なら、私の気持ち、わかってもらえると思います。

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飲食店の愛に対するリターンがない

たとえば、40年間1円も値上げせずにボリュームも減らさずにがんばっていますというような大衆食堂、大学のそばなどによくありますよね。お腹いっぱい食べて満足した学生たちの笑顔が見たいから、そんなに儲からなくてもいいんだよ、と言ってがんばっちゃうお店。お客様への愛に満ちあふれてますよね。

でもその愛を受けていた学生が卒業して、サラリーマンになってから恩を返しに来たなどという話はあまり聞きません。愛は一方通行で終わってしまっているわけです。これでいいのかなという思いが、コロナをきっかけに強くなりました。そろそろ差し出すばかりでなく、その分返していただくようなことを考えてもいいんじゃないかと。

こういう店の店主は、若いころに食べ物で苦労した世代がほとんどだと思います。自分が貧乏な時代を体験しているからこそ、子どもたちにお腹いっぱいご飯を食べさせたい。苦学生であっても、ひもじい思いはさせたくない、そんな心からの思いが、安くてボリュームたっぷりの大衆食堂という形で表現されたわけです。

和僑ホールディングス 会長の髙取宗茂氏

コロナ禍では、こういったがんばり続けてきたお店がたくさん潰れてしまいました。ここまで身を削ってがんばっても、お客様はそれを理解していないし、それほど感謝してもいないというのが現実なんです。大衆食堂の店主は、なんのためにがんばったんだろうと考えると、少しむなしくなっちゃいますよね。

そう思うと、これはお客様を教育しないといけないんじゃないかと。食材がどう、食べ方がどう、というようなことを、これまで飲食店はお客様に対して教えてきました。見たことのない食材、知られていなかった料理を、お店で提供し、こういう食べ方をするとおいしいですよと教えることで、お客様は食の奥深さや面白さを知ったのです。

それと同じように、店主の愛情の深さを教えて、この店はその愛の表現なんだと知ってもらうことも大切なのかなと。さらには、その差し出した愛に対する正当なリターンも考えてほしいということも。

自分を愛せ、自分を信じろ

同時に飲食店側の意識改革も必要です。誇りを持って安売りしない、安くしなくてもお客様は来るということ、そうできる商売をしないといけないということです。私は「ぼったくりの美学」と言ってるんですが、多少高くても、お客様が来たくなる魅力は店主が作らないといけないんです。

まずは、自分を愛せ、自分を信じろと、私はよく言うのですが、自分を愛することができないから、安売りすることでしか他人から愛されないと思ってしまうのです。安くしないと、コスパが良くないと、お客様に愛されない、認めてもらえないなどということを、頭で考えてはダメです。自分の内側にある思いをきちんと表現していけば、お客様は値段をつけてくれます。料理の手間暇と付加価値にもっと愛情と自信を持ってください。お客様は、その愛情を、心を、食べに来るのです。

靖國神社外苑休憩所である「靖國八千代食堂」(写真右)

仕事って、自分の内側にある愛情や誠実さ、優しさ、思いといったものを、その業務を通じて世の中に表明していくものだと僕は思っています。飲食業をやろうと思う人たちも、もともと自分が表現したい世界があって、それをお客様に届けたいと考えた原点が必ずあります。前述の大衆食堂の店主のようにね。

その原点に戻れば、あなたしかできない、あなただからできる店が見えてきます。それはお客様にとっての魅力になるはずです。店主の熱い想いが表現された料理やサービスは、必ずお客様に響きます。

繁盛店を作るのは、マーケティングだの、プロモーションだのというテクニックではなく、店主の原点、思いの表現です。お客様の方ばかり見ていてはだめで、自分の内面を見ることが大切なのです。

そして、それは従業員にも響きます。いま業界が悩んでいる人材不足も、原点にある思いを表現し続ける魅力的な店主になれれば、きっと解消できます。あなたの下で働きたい、この店で働きたいという人が必ず出てきますから。

夜の「靖國八千代食堂」

愛は鍛えることができる

飲食店が面を広げていく時代は終わったと思います。これからはどれだけ深掘りできるかが重要です。つまり、「愛と深化」が、これからの繁盛店のキーワードになると思います。

今回のインタビュー場所を私が経営する「靖國八千代食堂」にしたのは、靖國神社が愛の神社だからです。ここに祭られている英霊は、一人一人の思いは違いますが、みな愛する者のために命を捧げた人たちですから。

愛とは何か、と最近よく考えるのですが、私は人間にとって必要な能力なのだと思うんですよ。能力ですから、鍛えることで愛は深化します。愛と言う概念の根底にあるのは、「できることならたくさんの人と仲良く、信じ合って生きていきたい」という思いではないでしょうか。これって誰に教わったわけでもないのに、子供のころからみんな思っていますよね。命の内側から湧いてくる思いなのです。

世界に80億人の人間がいて、その全員が私と同じ考え方で、同じ価値観の持ち主だったら、愛は必要ありません。でも実際は、文化の違いや宗教の違いなども含めて、一人一人価値観は違います。その違いを乗り越えていく力こそが愛です。お互いに、相まみえないことをいかに乗り越えていくか、そこから愛は生まれ、育っていくのです。

恋をしているときは、あばたもえくぼに見えて、嫌なところは全く気付きません。ところが結婚すると、あばたはあばたに見えますし、嫌なところにも気づいちゃいます。お互いの価値観の違いを改めて知る訳ですが、そこからが愛の本領発揮です。自分の中で、この人とは合わないなと思ったり、こういうところ嫌だなと思ったりしても、我慢し、受け入れ、許していくという過程にこそ、愛という能力が活躍するわけです。

言ってみれば、結婚して始めて愛は始まるわけで、相手を受け入れ、許していくことで愛と言う能力が鍛えられ、深まっていくのです。だから、性格の不一致だとかって、本当はあり得ないんですよ。価値観が合わないから別れるなんていうのは、愛の鍛え方が足りないだけ。未熟なだけです。愛というのは、実は苦しいものなんです。向き合うのは相手ではなく、自分なのですから。

靖國八千代食堂の看板メニュー「特攻の母 鳥濱トメの玉子丼」。一杯の玉子丼に想いを懸ける

飲食店の「愛と深化」というテーマも同じ。自分の内側と向き合うことから始めなければいけません。だから苦しいことも多いと思います。でも、ぜひとも自分の原点に立ち返って、お店をその表現の場としてください。

私が、はじめて自分の店を出した時、最初のお客様から料金をいただいたときの感動は今も覚えています。ごちそうさまという言葉とともに、1万円札をいただいたのですが、その重さに思わずよろけてしまいましたから(笑)。その重みは、お金の重さではなく、お店のオープンまでに、自分が差し出したもの、目指したもの、積み重ねてきたこと、さまざまなことに思いが及んだからです。そこに原点があるからです。

これからの飲食店は、店主もお客様も、愛という力を鍛え、深化していくことが必要だと考えています。愛のない料理は単なるエサです。これからの飲食人には、エサを出す店主にだけはならないでほしい。自分に自信を持って、安売りしない、愛ある飲食店が増えること、期待しています。

取材協力:和僑ホールディングス 会長 髙取宗茂氏
撮影場所:靖國八千代食堂
東京都千代田区九段北2-1-4 靖國神社外苑休憩所内
https://www.yasukuni.or.jp/special/shops-restaurants/yachiyo.html
ウェブサイト
https://wakyo-japan.com/company

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