「鰻の成瀬」急成長を支える綿密&合理的なブランド設計とは
2022年9月、横浜に1号店をオープンしてから、約2年で全国に300店舗を出店し、急成長を続けている「鰻の成瀬」。職人がいなくてもおいしいうなぎを焼き上げる仕組みを構築することで人件費を削減しており、本格的なうな重をリーズナブルに提供することで人気を集めている。
経営母体のフランチャイズビジネスインキュベーション株式会社の代表取締役社長・山本 昌弘 氏は、イタリアへの語学留学を経て、英会話スクールやハウスクリーニング事業に携わる中でフランチャイズ(以下、FC)のビジネスモデルに魅力を感じ、FCコンサルティング事業で独立した。FC事業で重要なことは「オーナーの意欲・モチベーションとしっかり向き合うこと」と断言する山本氏は、いかにしてヒットブランド「鰻の成瀬」を生み出し、なぜここまで急拡大することができたのか。ブランド誕生までのストーリーと、業態としての強み、今後の事業プランなどを伺った。
目次
・仕組み次第で一気に展開できるのがFCの面白さ
・加盟オーナーを幸せにできるFCブランドを目指して
・職人いらずで物件の選択肢も広いブランドを構築
・“働きやすさ”から逆算した業態開発が強み
・本社を滋賀に移して地域創生事業に注力
・「リーダー×一問一答」&「COMPANY DATA」
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仕組み次第で一気に展開できるのがFCの面白さ
――FCビジネスに興味を持ったきっかけを教えてください。
高校は進学校でしたが、入学した大学で比べられる人生は嫌だなあと思いイタリア留学を選択。英語では差別化できないこと、オペラ歌手の母がよく渡伊していたことからイタリアを選びました。3年後に帰国して就職した英会話スクールでFCビジネスに出合いました。
その英会話スクールは「駅前留学」というスローガンと、実際に駅前にある大看板で抜群の知名度を誇りますが、事業のもう一つの柱がFCで展開する子供向けの英会話スクールでした。ここで感じたのが、FCは仕組みを上手に作れば一気に横展開できて急成長が可能だということ。加盟店も本部も利益を出せる面白いシステムだと思いました。そこで、5年後に転職したのが、さまざまなFC事業を持つ企業でした。
配属されたのがハウスクリーニング事業で、FC加盟店の支援、加盟店開発などコンサルティングや営業などに従事。担当した加盟店の解約率を1割以下に抑えて、トップの成績を収めることができました。当時意識していたのは、加盟店オーナーのモチベーションを大切にすることです。オーナーの加盟動機は、「多く稼ぎたい」「自分のペースで働きたい」「仕事にやりがいを感じたい」など千差満別。だからこそ、一人一人の目的に合わせた提案と支援が大切なのですが、FC本部は自社の方針やマニュアルを押しつけがちです。FCとは「加盟店あっての本部」であり、オーナーが「自分の事業」として主体的に取り組み続けられる後押しが何より重要。このスタンスを貫いたから解約率を抑えることができたのだと思います。
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加盟オーナーを幸せにできるFCブランドを目指して
――2020年に起業しますが、「鰻の成瀬」誕生までの流れを教えてください。
最初に事業の軸に据えたのがFC本部のコンサルティング。つまり、FC事業戦略の策定やブランドパッケージの構築、加盟店獲得などのサポートです。この業界では、こうした業務をコンサル会社がまとめてサポートし、クライアントのFC本部は毎月のフィーを支払う契約形態が一般的です。でも、それはやりたくなかった。FC事業はコンサルまかせではなく、あくまで本部が主導すべきだと考えているからです。
そこで、成果報酬型の契約にし、クライアントが必要とするサポートだけを行うことにしました。例えば、加盟店1件の成約料、契約書1通の作成料、パッケージの構築料…といった具合に個別に料金を設定したんです。これが好評で、初月から数百万円を売り上げ、順調に軌道に乗っていきました。
しかし2年ほど経ったころ、クライアントに紹介した加盟店のオーナーたちが必ずしも幸せになっていないと感じるように。サポート体制が不十分だったり、本部がオーナーたちとちゃんと向き合っていないことが原因でした。それなら、自社で多くのオーナーを幸せにできるFCブランドを作ろうと思って開発したのが「鰻の成瀬」でした。
職人いらずで物件の選択肢も広いブランドを構築
――飲食店で、かつ「うなぎの店」にしたのはなぜでしょうか。
特に飲食業に興味があったわけではなく、FCの商材を探していたときに「職人不要のうなぎ店」のノウハウを持つ飲食企業と出合ったのがきっかけ。うなぎの仕入れや加工はその会社が、業態開発や店舗運営は当社が担当することで業務提携しました。
主力食材のうなぎは養鰻場で育て、一般的に流通しているものより1.5倍大きい上質なうなぎを半値で確保。それを現地で加工して仕入れています。店では仕上げの調理をするだけなので職人いらずで、専用の焼き機を導入しているため調理時に煙も出ません。
これにより、スタッフ教育は最小限で済み、煙を気にしなくていいので物件の選択肢も広いです。加えて、うなぎは江戸時代から親しまれている国民食ですが、手頃な価格で本格的なうなぎを食べられるミドルゾーンの業態がありませんでした。マーケットとしてもブルーオーシャンなので、出店前から「絶対にヒットする」という自信がありました。
1店舗目は、実績作りのために直営で出店。横浜駅徒歩10分ほどの住宅地にあった東日本大震災後の「復興応援居酒屋」をスタッフさんとともに引き継ぎ、「鰻の成瀬」1号店として2022年9月にオープンしました。当初は無名で人通りも少なかったため苦戦しましたが、メディアで取り上げられるなどして11月頃から軌道に乗りました。その後、FC展開もスタートすると知名度が上昇し、半年後には直営2店舗目の千葉店が月商1,000万円を突破。着実にFC展開を進めて、現在(2025年2月末)、国内約340店舗、海外3店舗にまで拡大しています。
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“働きやすさ”から逆算した業態開発が強み
――ここまで急成長できた要因は何だと思いますか?
「安価で良質なうなぎ」「職人が不要」「物件の選択肢」のほかに、慢性的な人手不足を念頭においた業態開発もあると思います。
飲食店の人手不足の理由は主に「労働時間」と「業務の複雑さ」。そこで、お子さんがいる主婦や学生のほかスポットワーカーでも無理なく働けるように、営業時間を11時~14時と17時~20時に設定しました。さらに、業務をシンプルにするためメインメニューを「うな重」3種に絞ることで、オーダーミスもなく、誰でも即戦力になれます。日本の飲食店は究極の接客サービスを追求するあまり、現場に負担がかかりがち。「鰻の成瀬」は“働きやすさ”から逆算して業態を構築しているので、人手不足に悩むことがほとんどないのも成長の要因だと思います。
もちろん、加盟オーナーとの関係はハウスクリーニング事業のときと同じで、オーナーのモチベーションややりたいことと向き合うスタンス。独自メニューや企画の自由度も比較的高いです。ただ、順調に成長している店がリスクを負う危険がある場合や、資金・実績から見て無理だと判断した場合はストップをかけます。オーナーには幸せになってほしいですから。
2024年8月には原価高騰の影響から価格を改定し、うな重の種類も並・上・特上と種類を増やしました。この新しい取り組みもお客様に受け入れて頂いています。
この改定には物価高への対応だけでなく、リスク分散という側面もあります。仕入先の養鰻場はHACCP(ハサップ)に乗っ取った安全で優秀な設備を整えていますが、ここだけに頼っていると国際為替相場などの影響で、供給が不安定になる可能性がゼロではありません。従業員やオーナーを守るために、FC本部として必要な決断だったと考えています。
本社を滋賀に移して地域創生事業にも注力
――今後の展望を教えてください。
うなぎのようにいい商材があれば、他の飲食業態を始めるかもしれませんが、現在、その予定はありません。
「鰻の成瀬」は400店舗くらいが1つの目処だと考えていますが、大切なのはそれぞれの店が“長く続けられる”こと。そういう意味では、うなぎは江戸時代から一度も「ブームになったことがない」ことが強みだと考えています。ブームになると廃れるのも速いからです。飲食店もブームを起こさず、「いつの間にか社会のインフラになる」ことが、長続きするポイントのように思います。
一方、300店舗もあると、当然ながら店ごとに業績の差が出てきます。閉店は本部にとってもオーナーにとってもリスクが大きいので、別のオーナーへの事業継承なども視野に入れ、店が長く存続する道を探りたいと考えています。
また、2024年7月には本社を私の故郷である滋賀・高島市に移しました。人口45,000人で高齢化率は県内トップ、消滅可能性都市にも指定された都市です。ここに拠点を移したらどんな変化を起こせるか、地域創生にどう貢献できるか、と考えたからです。まず、「鰻の成瀬」に続く2つ目の自社FCブランドとして「本格よもぎ蒸しサロンaUN」を高島でオープンしました。美容業界への新規参入となりますが、顧客ニーズや業界トレンド、人手不足などを踏まえたブランドです。
フランチャイズ事業は、地方の活性化にも有効だと思います。新たな事業をゼロから立ち上げるのは大変ですが、FCならすぐに出店し、雇用を生み出せます。高島市は京都や大阪まで通勤圏内なので、ポテンシャルはあるはず。ここで地域創生に成功すれば、日本中の同じような地域にも応用し、地域創生事業をFCとしてパッケージ化できるかもしれません。今後もFCビジネスが持つ面白さや可能性を追及して、業界にこだわらず挑戦を続けていきたいです。
リーダー×一問一答
■愛読の雑誌やWebサイト
フランチャイズ専門誌「ビジネスチャンス」を定期購読
■日課、習慣
サウナ
■今一番興味があること
地方創生
■座右の銘
勝つまでやめない
■尊敬している人
特になし
■最近、注目している店舗名、もしくは業態
特になし
■COMPANY DATA
フランチャイズビジネスインキュベーション株式会社
高島市今津町桜町2丁目1-3
https://fbi-consulting.jp/
設立:2020年
ブランド数・店舗数:2ブランド、343店舗
従業員数:100人(アルバイト含む)
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