塊肉ポークステーキの成功を生んだ巧みな広報戦略
「ステーキといえば牛肉」というイメージを覆し、豚肉のステーキを軸に急成長しているのが「マロリーポークステーキ」。2020年11月の1号店以来、着々と増店して首都圏を中心に直営10店、FC20店舗(2026年6月末現在)を展開。全国に波及する勢いを見せている。何よりの特徴が圧倒的な存在感を放つ豚の塊肉だ。「富士山」「マッターホルン」など、名山の名前を冠したステーキは、映えるビジュアルと低温長時間の火入れ、超リーズナブルな価格帯で耳目を集めている。
率いるのは、株式会社57(ごじゅうなな)の代表取締役社長・今野 健二 氏。両親や兄が経営者という家庭環境の中で、自身もまた「経営者になること」を目指した今野氏の最初の起業は、意外にもフリーマガジンの編集と発行だったという。取材活動を通じて、広報パーソンとしての感性を磨いた今野氏は、広告出稿元の飲食店との交流から飲食事業への興味と関心を深め、2016年の「いくら丼専門店」で飲食業界に参入。以降、次々に専門店や居酒屋を出店し、コロナ禍を経て冒頭の「マロリーポークステーキ」で一気にブレイクを果たした。
「20年後も変わらず人気店であり続ける」ことを目標に、さらなるチャレンジを続ける今野氏に話を聞いた。
目次
・フリーマガジン事業での学びが飲食業参入のきっかけに
・「マロリーポークステーキ」のヒットを生んだ商品力
・業態開発の起点はSNSでの情報収集
・人材育成を強化し、FC含めて店舗展開を加速
・「リーダー×一問一答」&「COMPANY DATA」
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フリーマガジン事業での学びが飲食業参入のきっかけに
――最初はフリーマガジンの事業をされていたそうですね。
父母と兄がそれぞれ理髪店、エステ、居酒屋を経営していて、自分も飲食の経営者になろうと株式会社レインズインターナショナルで飲食業を学びました。退職後、兄の居酒屋の厨房で日替わり弁当の宅配事業を始めたり、母のエステサロンの広報を手伝っているうちに、広告媒体であるフリーマガジンに着目しました。当時、「ホットペッパー」横浜版がありましたが、周辺地域の情報をエリアごとに細かく発信すれば勝てるかも、と考えたんです。これが成功して、最盛期には横浜周辺の30以上のエリアで各15,000〜20,000部を発行。単なるクーポンマガジンではなく、記事広告をメインにしたことで、けっこうファンもついていました。
――なぜ飲食業を始めたのでしょうか。
フリーマガジンの仕事を通じて、飲食店の繁盛の理由や、トレンド、失敗の要因などが見えてきました。そこで、改めて自分で飲食業をやりたいと考えるようになり、最初は国民食ともいえるカレーを研究しました。でも、「おいしいカレー」の基準は人によって全く異なるので、絶対的な正解を出しにくいメニューだという結論に至りました。
そんな中、インターネットで話題のいくら丼専門店が大阪にあると知って、行ってみたんです。そこで感じたのは、いくら丼はみんなが想像する「おいしさの基準」にブレがほとんどなく、ビジュアルも美しくて拡散されやすいということ。これなら、繁盛する可能性が高いと感じて、2016年12月に「いくら丼専門店 波の」(東京・自由が丘)をオープン。開業にあたって、「専門店」「リーズナブルな価格」「ビジュアル」といったメディア向けの要素を盛り込んでプレスリリースを発信しました。フリーマガジンで培った広報スキルの一つですが、すぐにテレビやネットニュースが反応し、インフルエンサーも来てくれて認知が拡大。連日行列ができる人気となり、スタートダッシュに成功しました。
「マロリーポークステーキ」のヒットを生んだ商品力
――「マロリーポークステーキ」誕生までの経緯を教えてください。
「波の」は9坪で月商300万〜400万円。繁盛しましたが、粗利は大きくない店でした。そこで、翌2017年に原宿にサーモン丼専門店「熊だ」を出店し、客単価アップを狙いました。ただ、「波の」「熊だ」ともにランチはいいのですがディナーが弱かったため、夜はせんべろ居酒屋にして集客しました。
その後、2018年に「デイリーマサヨシ」(東戸塚・閉業)、2019年に「呑りすけ」(横浜)というせんべろ業態を出店しましたが、直後にコロナ禍になって大苦戦。そこで、「デイリーマサヨシ」で人気の肉料理にフォーカスして出店したのが「マロリーポークステーキ 自由が丘店」でした。
――「マロリーポークステーキ」の成功の要因をどう分析していますか。
「マロリーポークステーキ」のコンセプトを固める過程で力を入れたのは、国内外の情報収集です。ニューヨーク発「ウルフギャング・ステーキハウス」に行き、塊肉のステーキを複数人でシェアする体験に付加価値があると感じました。ただ、牛ステーキは単価が高くなるので、リーズナブルな業態にするために豚肉の塊肉を使ったステーキを主力商品に据えることにしました。仕込みで塊肉のまま低温で火を通しておき、提供直前に表面をカリッと焼き上げる調理法で、味わいと効率的なオペレーションを両立。150~1,000g以上という塊肉の圧倒的なビジュアルが売りになると考えました。豚肉は、カナダ産の三元豚と国産ブランド豚「林SPF」を使っており、味も抜群です。
「マロリーポークステーキ」は「波の」と同じくプレスリリースによる広報戦略が功を奏して着実に増店。最高月商は大手町店(40坪)の1,800万円で、横浜店は7坪で月商750万円を売り上げています。コアな客層は20~40代の男性ですが、女性やシニア、子ども連れも少なくありません。平均客単価は約2,500円。アルコール需要を伸ばすために作った飲み放題付コース(3,280円と3,848円)も好評です。繁盛の秘けつはまずはおいしいことが一番ですが、立地、物件、客層が幅広いことも強みです。
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業態開発の起点はSNSでの情報収集
――「マロリーポークステーキ」の派生業態「豚屋鳥山」についても教えてください。
もともとは新橋で「マロリーポークステーキ」の定食版といった位置付けで開発した業態でした。塊ではなくカットした豚肉を追加して積み上げ、タレを3種類から選べる定食スタイルで、より気軽により安価に豚肉を楽しんでもらおうと考えました。新橋店は駅前の好立地で、客単価1,000円ほど。ランチには行列ができています。
ただ、食材原価が上がる中で安さを売りにし続けていると、行き詰まる未来しかないと思い、現在リブランディングを試みています。3種類のタレはそのままに、塊肉を使った定食に変更して「マロリーポークステーキ」に近い客単価を狙う戦略に切り替えました。ともに塊肉を軸にしつつ、「マロリーはステーキ、鳥山は定食」という住み分けでブランドを再構築中です。うまくいけば、「マロリー」と「豚屋鳥山」を同じエリアに出店し、相乗効果を狙うこともできると考えています。
――今野さんの業態開発の考え方を教えてください。
新しい業態を作るときは、さまざまなところからの情報収集が起点になることが多いです。今後バズるのはどんな料理か、どんな提供方法か、どんなビジュアルか、と考えながら、SNSなどで情報を集めています。プレスリリースをしたときのメディアへの訴求力やSNSでの拡散力も常に念頭にあります。これはフリーマガジン時代に培った広報的な発想が強いからかもしれません。
例えば、神奈川・鎌倉に出店した「クレープ&カフェ」では、たまたまSNSで見つけた「イスラエルのクレープ」を軸に、それが一番生きるエリアとして観光地の鎌倉を選びました。また、「マロリーポークステーキ」を通じて、国産ブランド豚でも一部の部位は低価格での仕入れが可能なことがわかったので、そういう安価な部位をしっかり研究し活用し、味も価格も納得のいく新たな中華業態を作りたいと構想中です。まだまだ面白い商品、やってみたい業態はたくさんあるので、人材が育てばどんどん新業態にチャレンジしたいです。
人材育成を強化し、FC含めて店舗展開を加速
――創業店「波の」の出店から約10年。今後の目標や課題、展望は?
いつまでに何店舗とか、年商の目標などはあえて設定していません。店舗数などの数字に縛られると、出店に合わせて無理に人材を採用することになり、失敗するリスクが高まると考えているからです。当社は給与水準を高く設定しており、社員採用のほとんどがリファラルかアルバイトからのインナー採用ということもあり、定着率は高いです。
目標として数字よりも大事なのは「この先、10年、20年と人気店であり続けること」だと考えています。商売としてしっかり継続すること、そのためにはスタッフが長く働き続けられる環境が不可欠ですから、組織づくりを強化しています。
販促については、グルメサイトの役割に以前より注目するようになっています。今まではメディアやSNSをより強く意識してきたのですが、今後、空中階などでの出店を考えたときに、グルメサイトによるネット予約の活用は不可欠ですから、いかにネット媒体で予約を取っていくかも課題の1つです。
2025年には「マロリーポークステーキ」のFC展開も始めました。国内はもちろん、フィリピンなど海外出店の話もあるので、ブランドの認知拡大に努めながら、店舗拡大していきたいと考えています。
リーダー×一問一答
■経営者として大切にしている事
適者生存 変化できないものは滅びる。変化に対応するものが生き残る。
■愛読の雑誌やWebサイト
ハリーポッター
■日課、習慣
散歩・ウォーキング
■今一番興味があること
ダイエット
■座右の銘
人間万事塞翁が馬
■尊敬している人
西山 知義 氏(レインズインターナショナル、ダイニングイノベーション創業者)
■最近、注目している店舗名、もしくは業態
小麦を使った業態全般・パスタやラーメン・うどんなど
■COMPANY DATA
株式会社57
神奈川県横浜市戸塚区前田町505-8
設立:2019年
ブランド数・店舗数:6ブランド・29店舗(2026年6月現在)
従業員数:社員35人、アルバイト35人
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